厨二病おねえちゃんず   作:頃宮ころり

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一度も完結させていないので初投稿です。


フランドール・スカーレットの場合

 幻想郷には、逆らってはならない者が在る。

 

 

 例えば、幻想郷の管理者たる八雲。

 逆らえば、その深き深淵に絡め取られ、想像しうる最悪を上回る目に合うだろうと言われている。

 

 

 例えば、花の妖怪である風見幽香。

 彼女本人もだが、彼女の世話する花に手を出してはならない。その圧倒的な暴力を以って、破壊され、蹂躙され尽くし、それでも飽き足らず攻め抜かれることだろう。

 

 

 例えば、妖怪の山の神々。

 例えば、迷いの竹林の蓬莱人。

 例えば、地獄の閻魔。

 例えばーーー私の眼の前にいる、紅魔館の主の妹。総てを破壊する吸血鬼、フランドール・スカーレット。

 

 

 最悪だ、と口には出さず感想を心中で述べるに留める。やはりあのメイドに図書館まで案内を受けるべきだった。後悔しても既に遅いことはわかっているが、悔やまずにはいられない。

 今考えるべきは、いかにしてこの危機から脱するかである。普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は、足りぬと自覚している頭で打開策を考え始めた。

 

 

「…………白黒」

「白黒は酷いぜ。私には、霧雨さん家の魔理沙ちゃんという名前がちゃんとあるんだからな」

「そう、なんだ。私、人の名前覚えるの苦手だから」

 

 

 いちいち潰した虫のことなんて気にしていられない、そういうことなのか。ごくりと生唾を飲み込む音が、妙に耳に響いた。

 しかし意外にも会話のきっかけは向こうからであった。存外、話せば分かる相手なのではないか? 差し込んだ希望にすがるように、普段以上に舌を振るおうと試みる。

 

 

「ははは、これから覚えてくれればいいさ。そういうお前はフランドール・スカーレットで間違いなかったか? レミリアの妹の」

 

 

 以前の異変の時にも会ったな、などと世間話を続けようとしたが、言葉が喉から出てくることはなかった。何故なら、目の前のこの意外にも好意的に見えた吸血鬼は、目に見えて不機嫌さを増しているからだ。

 両腕でもって抱きしめていた、つぎはぎの見られるクマのぬいぐるみ。それが綿をはみ出させるほどに力強く抱きしめられていた。それと同時、大きな威圧感が、襲いかかってきた。

 

 

「…………アイツの話を、私の前でしないで。二度と、絶対に」

「……りょう、かい。悪い悪い。そういや魔理沙さんは寺子屋でも『もっと人の気持ちになって考えましょう』って言われてたことを思い出したぜ」

 

 

 冗談じゃない、二度とコイツの前で姉の話なんかするものか。冷や汗をかきながら、バクバクと喧しい心臓を何でもないかのように返す。

 この恐れを知られてしまえば、眼前の吸血鬼はおそらくだが私を脅かしにかかる。それだけは避けねばならなかった。

 もはや修繕が必要なほどに傷口の開いたクマのぬいぐるみが、哀れな自らの末路に思え、強く握り締めた手のひらが痛んだ。

 

 

「ありがと。……それで、紅魔館に何か用がある、の?」

「……ああ。ちょいとパチュリーのところに本を借りに、な。あそこは知識の宝庫、魔法使いには垂涎ものだからな。ついでにお茶でも飲んで帰るつもりだ」

「そう。私は、お部屋で遊んでるから。魔理沙も、来たかったら来てもいいよ」

「考えておくぜ」

 

 

 冗談じゃない、と都合二度目の叫びを内心押し殺して、ひらひらと仕草だけは可愛らしく手を振りながら、悪夢はくるりと踵を返していく。やがてその姿が見えなくなったところで、力んでいた全身から力が抜け、地面にぺたりと尻餅をついた。

 思い切り息を吐き、思い切り息を吸った。忘れていた呼吸の分を取り返すように。

 ……私は、どうにか生き延びた。「生きている」という現状に、命があることに、強く強く感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランドール・スカーレット。

 姉のレミリア曰く、500年を超える時を生きた己より5つほど年若い妹。制御は甘いものの、身体能力に限れば己をも上回りかねないものがあり、また魔法に関しても光るものがあるのだとか。

 それだけならば、幻想郷には似たような奴が探せばいることだろう。だが、アイツの恐ろしいところは別にある。

 

 

 まず一つに、「すべてを破壊することができる」という能力を持っているらしいこと。

 定義は本人にしかわからないらしいが、おそらく物質であろうと概念であろうと破壊することが可能で、一度使い方を誤れば幻想郷ですら容易く崩壊しかねない能力だとか。

 しかしそれも、律することが出来れば強力な抑止力であり、恐れはしても危険ではない。……そう。2つめの、最も大きいコレさえなければ。

 

 

 ーーーフランドール・スカーレットは狂っている。

 生まれ落ちたその時より、母の乳房を噛み潰し血を啜った。正真正銘のバケモノ。理屈も道理もなく、ただ狂った頭で強大な力を振るう。そこには打算も思惑もなく、ただ常人には理解できぬ思いで災厄を振りまく。姉のレミリアは、神妙な顔でそんなことを私に教えてくれた。

 アレに初めて出会った、紅魔異変と呼ばれる事件で既にその片鱗は見えていた。

 姉のレミリアを友人である相棒が下し、これにて一件落着と気が緩んだその時、圧倒的な力を持って横合いから殴りつけてきた、狂気の笑みを浮かべた鬼。今思い返しても身震いする。

 

 

「……よく霊夢はアレに勝てたよなぁ」

 

 

 ほぅ、と息を一つ。

 視界の奥に見えてきた図書館と思しき扉へと近づいて、呟いた。

 頭を切り替えよう。先程のことは忘れよう。魔導の探求のために本でも読んで気を晴らそう。

 

 

「……よしっ。たのもぅ、パチュリーいるか?」

 

 

 重厚な木製の扉を開く。

 ただ、今日くらいは本を借りていくのはやめようと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恥ずかしかった。それも、すっごく。

 顔は赤くなってないだろうか。粗相はしなかっただろうか。失礼に思われなかったろうか。

 強く目を瞑って先程の会話を思い出し、恥ずかしさを誤魔化すように抱きしめたぬいぐるみに顔を埋めた。

 

 

「うぅ〜……『白黒』なんて、変なあだ名で呼んじゃって、魔理沙怒ったかな? 怒ったよね? 怒ってないといいな……」

 

 

 少し変ではあったけれど、明るい口調で流してくれた魔法使いのことを考える。

 今日は数少ない友達が遊びに来るからと、自分でお茶とお菓子を用意しようとキッチンへ向かった折、曲がり角から現れた金髪の少女。明るく快活で、自分とは正反対だと、僅かな劣等感を抱く。

 

 

「……えへへ。でも、さりげに『魔理沙』って、名前で呼んじゃった。魔理沙も、私のことフランって呼んでくれたり、しないかな……」

 

 

 先程とは違った感情で顔を赤らめ、ぬいぐるみへと再び顔を埋める。

 ひとしきりその行動を終えた頃には、すっかりぬいぐるみはボロボロになってしまっていた。またメイドに修繕をお願いしないといけない。

 

 

「でも、魔理沙も魔理沙だよね。私の前でアイツの……お姉様の話をするんだもん。『でりかしー』が足りてないわ」

 

 

 打って変わって、その細く美しい眉を歪めながら、苦々しげに口にした自らの姉。レミリア・スカーレット。自分よりも5つほど離れた、苦手な姉。

 力強く、カリスマ溢れる。「運命を操ることのできる力」を持ち、ここ幻想郷において紅魔館という一大勢力の長を務める吸血鬼。

 それだけならばきっと、尊敬できる家族であった。しかし姉は、彼女はあまりにもーーー痛々しすぎた。

 

 

 数少ない友人であり、外の世界からやってきたという巫女によれば、「ちゅうに病」などという心の病を患っているらしく、なんの能力もない(・・・・・・・・)腕力だけが取り柄の妹である自分に、よくわからない「設定」を盛ってくるのだ。

 

 

 ーーーすべてを破壊することが可能な力を持っている。

 うん。腕力で破壊できるものならきっと、大抵のものは壊せるのではないだろうか?

 

 

 ーーー狂気に侵された、理性の鎖より解き放たれし怪物。

 ずっとお屋敷から出てなくて、人との接し方がわからない。だから、受け答えが何処かズレているだけだ。誰かと遊ぶ時なんか、嬉しくて牙を剥き出して笑ってしまう。

 

 

「……ばか。お姉様のばか。ばーかっ」

 

 

 アイツがこんなことを周りにも吹聴するせいで、初めて会う相手にまで警戒されて、恐れられてしまう。友達なんて片手の指ほどもいない。

 本音を言えば寂しいけど、それでもアイツに表立って意見するなんて怖くて出来ない。だから、こんな状態に甘んじている。

 胸の中で燻る気持ちの行き場をなくしたまま、不恰好ながらもお茶と菓子を用意した。カチャカチャと鳴る金属音を耳に捉えながら、部屋へと帰る。

 

 

 今日も、お姉様が厨二病で大変です。




不定期更新です。
続きはゴールデンウイークまでに手直しを終わらせる予定でいます。
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