問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児― 作:gjb
それからガルドが得意げに喋ったコミュニティの現状は散々と言っていいものだった。
「なるほどね。コミュニティの象徴でもある名も旗もないと。さらに魔王の存在ね。」
「そうです。だからこそコミュニティは名無しになることを恥とし、避けるのです。一方で、コミュニティを大きくするのなら、旗印を掲げるコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティも実際にそうやって大きくなりましたから」
「両者合意、ね」
ガルドは俺の視線に気づかず話を続ける
「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?商売ですか?主催者ですかしかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。では、ゲームに勝ち抜ける優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか」
「普通は無理だな」
「そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」
「なるほど・・・・・・。しかし、なら黒ウサギは何なんだ?彼女は“箱庭の貴族”という貴種、と聞いているが、なんで“ノーネーム”に?」
「さあ、そこまでは。ただ私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」
「・・・・・・そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
飛鳥は含みのある声で問う。
その含みを察してガルドは笑いを浮かべていった。
「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」
「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」
「黙れや、ジン=ラッセル」
怒りのあまりテーブルを叩いたジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。
「そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」
「そ・・・・・・それは」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら・・・・・・こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
ジンが僅かに怯んだ。
その様子にガルドは鼻を鳴らすと、
「・・・・・・で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
「「は?」」
断られたガルド、俯いていたジンは思わず声を上げてしまった。
誘いをばっさりと切り捨てられ、ガルドもジンも飛鳥の顔をうかがう。
飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。
「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」
「にゃ、にゃー《よかったな、お嬢・・・・・・お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ》」
「俺も友達に立候補していいか?」
「う~ん。紫炎も違うしいいかな?」
「疑問形なのが気になるが…飛鳥は?」
「えっ?私も?…別にいいけど」
「それじゃあ改めてよろしく。」
ガルドとジンを放って話を進める
「理由をお聞かせていただいても…」
ガルドが口を開く
「そりゃあ可愛い女の子とは友達になりたいだろ」
「そっちじゃねぇ」
紫炎が的はずれな答えを返すとガルドが怒る
「なぜ私たちのコミュニティではなくノーネームに?」
「私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。」
「俺もだ。組織の末端で縛られるより自由気ままなノーネームの方がいいからな。耀も似たようなもんだろ?」
「私は友達を作りに来ただけだから。それにしても耀って・・・」
「友達には下の名前で呼ぶようにしてるんだ。だめだったか?」
「……別にいい。」
「ということだ。誰もお前のコミュニティには入らない。」
「お・・・・・・お言葉ですが、みなさま
「黙りなさい」
言葉を続けようとしたガルドの口はガチン! と音を立てて閉じられた。
本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。
「貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私たちの質問に答え続けなさい」
飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子に罅を入れる勢いで座る。
「ガルド=ガスパー・・・・・・?」
ジンは突然のことに口を挟めずにいた。
ガルドは完全にパニックに陥っていた。
どういう手段かわからないが、手足の自由が完全に奪われていて抵抗さえできない。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」
ガルドの様子に驚いた猫耳の店員が急いで彼らに駆け寄る。
「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」
店員は首を傾げる。
「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」
「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですからかなりのレアケースです」
「そうだよね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのかしら?」
「ほ、方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「なるほど。だが、そんな方法じゃ、組織への忠誠なんて望めないよな。どうやって従順に働かせている?」
「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」
ピクリと飛鳥の片眉が動き、コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。
「ほーう。大した仁義の持ち主だ。さすが紳士の皮をかぶった虎だ」
紫炎が軽口をたたいていると飛鳥が続ける
「それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」
「もう殺した」
場の空気が凍りつく。
「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食
「黙れ」
ガチン!と先ほど以上の勢いでガルドの口が閉じられた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら・・・・・・ねえジン君?」
飛鳥に冷ややかな視線と凄みを増した声を向けられ、ジンは慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだが、この件は裁けるのかしら?」
「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが・・・・・・裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
「そう。なら仕方がないわ」
パチンと指を鳴らす。それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力は霧散し、自由が戻ったガルドはテーブルを砕き、
「こ・・・・・・この小娘ガァァァァァ!!」
雄叫びとともに虎の姿へ変わった。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・・・俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が
「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」
また勢いよく黙る。だが、ガルドは丸太のように太くなった腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かった。
「てめぇこそどういうつもりか知らないが俺の仲間に手を挙げたな。その意味がわかってんのか?」
紫炎が間に入りガルドの攻撃を受け止め言い放つ
殺気に満ちた目にガルドは動かなくなった
「それに魔王がどうとか言ったな。それなら願ったり叶ったりだ。」
「それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」
飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、目標を飛鳥に問われて我に返る。
「・・・・・・はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」
「く・・・・・・くそ・・・・・・!」
ガルドは悔しそうに拳を引く
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」
「えげつねー」
「そこで皆に提案なのだけれど」
飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。
飛鳥はガルドに視線を向け、
「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」
宣戦を布告した。