問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児―   作:gjb

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第七十八話

耀が目を覚ますと、三毛猫を抱えたリリが覗き込んでいた

 

「良かった、耀様」

 

目を覚ました耀を見てリリがホッと胸を撫で下ろす

 

「ここどこ?」

 

「ここは救護所です。あの時に仲裁に入った人が耀様を殴って気絶させたんです」

 

それを聞いて耀はあらかたの状況を把握した

 

すると、黒ウサギがやってきた

 

「黒ウ・・・」

 

しかし、黒ウサギは耀にも目をくれずにリリに近づくと、頬をはたいた

 

「リリ!何危ないことをしてるんですか!!」

 

「ご、ごめんな・・・」

 

いつもと違う感じの黒ウサギに、はたかれたのも相まってリリは目に涙をためる

 

「黒ウサギ。怒らないであげて」

 

「そうはいきません!もしかしたら怪我を負ってたかもしれないんですよ!」

 

耀の言葉に黒ウサギは少しだけ強く返す

 

「でも、怪我がなくてよかった」

 

黒ウサギはそういってリリを優しく抱きしめる

 

「う、う、うわああああん」

 

そしてリリは黒ウサギの胸で大声を出して泣く

 

「・・・ところで紫炎は?」

 

一瞬聞くかどうか迷った耀だったが、どうしても気になったので空気を読まずに聞く

 

「確か、後始末をしに行くと言って十六夜さんを連れて行きましたけど」

 

「そうなんだ」

 

耀はそれを聞いて少し肩を落とした

 

――――――――――――――――――――――

 

アンダーウッド収穫祭本陣営に二翼のグリフィス、一本角のサラ、ノーネームからは紫炎と十六夜が来ていた

 

そして片目に眼帯をつけている男性が少し離れている場所で立っていた

 

「今回の一件だが、両者不問という事でいいな?」

 

サラの言葉に一番反応したのはグリフィスだった

 

「納得いかん!こいつは私のコミュニティを侮辱したばかりか、同士に火傷を負わせたのだぞ!それにあの小娘も身の程を知らずに私に・・・」

 

「ノーネームの女の子に大人げなくプレッシャーをかける奴に身の程をがどうとか言える立場じゃないだろ?」

 

「貴様!!」

 

紫炎の言葉にグリフィスが怒り、席から立つ

 

「はいはい、そこまでや。グリフィス君も落ち着いて」

 

「うるさい!それよりも貴様は一体何者だ?」

 

グリフィスが間に入ってきた隻眼の男性に向かって質問を投げかける

 

「それは俺も聞きたいな。これはノーネームと二翼の話し合いだ。龍角を持つ鷲獅子連盟の“議長”のサラがいるのは分かるが、こいつは関係ないんじゃないか?」

 

紫炎はわざわざ議長という言葉を強調してサラに問いかける

 

「この方は亡きドラゴ・グライフのご友人で、連盟のご意見番でもある方なんだ」

 

「サラちゃん、僕はそんな大層なもんじゃあらへんよ。昔、ちょっとドラゴ君たちの世話をしとった恩を一時の寄り木として返してもらっとるだけや」

 

隻眼の男性は苦笑しながらそう言うと、グリフィスは先ほど以上に鋭い目で見る

 

「貴様が何故ここにいるかは分かった。しかし、結局貴様は何者なのだ?」

 

「僕はこういうもんや」

 

隻眼の男性の出した蒼海のギフトカードには覆海大聖という文字が記されていた

 

「ふ、覆海大聖、蛟魔王だと!」

 

グリフィスの言葉を聞いた瞬間、十六夜の眉が少しだけ動く

 

「まあ、一応ご意見番って呼ばれとるからグリフィス君を殺させるわけにはあかんからな」

 

「ふん、あんな小娘如きにやられるわけなかろう」

 

「ちゃうちゃう。僕は人より耳が良いから聞こえてきたけど、君、グリー君の事悪く言ってたやろ?」

 

蛟魔王の言葉を聞いた十六夜が先ほどのように眉を動かす

 

「それがどうした?」

 

「僕が言いたいのは白夜叉の同士である彼の悪口を言ってるってのを万が一彼女の耳に入ったらどうなるか考えてみい、ってことや」

 

それを聞いたグリフィスは顔を青ざめる

 

「・・・ま、僕が止めたんはそう言う理由や。落日なんて若いうちから経験するもんやないで」

 

そういった蛟魔王はどこか暗い表情になる

 

グリフィスも何か反論しようとするが、蛟魔王の言ってることは正論なので言い返せず、しょうがなく扉から出ようとする

 

「待てよ、馬肉」

 

すると、今まで黙っていた十六夜が口を開く

 

馬肉呼ばわりされたグリフィスは足を止めた

 

「白夜叉の一件なんてそっちの都合じゃねえか。何で俺らが譲歩しなくちゃならねえんだ」

 

「いやいや、少年。気持ちは分からんでもないが君らの方もちょっとばかしやり過ぎやと思うで」

 

蛟魔王が十六夜の肩を抑えながら言うが、十六夜は止まらない

 

「はっ!先に口と手を出したのは向こうだぜ。行動するってことは大なり小なり責任がついてくる。それがコミュニティ全体の侮辱ってなるならコミュニティ同士の戦争になってもおかしくないぜ」

 

「・・・なるほど、一理あるな」

 

「なっ・・・」

 

十六夜の言葉に蛟魔王が納得すると、グリフィスが驚愕の表情を浮かべる

 

いくら彼がノーネームをバカにしている態度をとっていても、十六夜達が巨龍を倒したことを知っているので、十六夜達の戦闘能力が高いことを知っている

 

そんなノーネームの面々と戦争という事になれば、甚大な被害を受けることになるのは必須だろう

 

「だが、そんなことになったら折角サラが命がけで守ったアンダーウッドにも被害が及んでしまうからな。ここは箱庭らしくギフトゲームで決着をつけるのはどうだ?」

 

様子を見ていた紫炎が口を開くと、蛟魔王は頷き、十六夜も少し不満があるようだがむやみに血を流すようなことにはしたくないのだろう、グリフィスを睨みながら賛同する

 

「確か、二日後のヒッポカンプの騎手がこの収穫祭で一番大きなゲームだったよな。それで決着をつけるってのはどうだ?」

 

「負けた方が今回の謝罪を壇上で行うってのはどうだ?」

 

「・・・ふん、今から恥をかく準備でもしてるがよい」

 

グリフィスはそういって逃げるようにその場から去っていった

 

「すまんな君ら。よう我慢してくれたな」

 

グリフィスが出て行った後、蛟魔王がそういってくる

 

「別にあんたの為じゃない。・・・けど、悪いと思ってるなら少し話に付き合ってもらっていいか?」

 

紫炎がそう言うと、十六夜もにやりと笑いながら話しかける

 

「ああ、西遊記の蛟魔王って言えば、俺の世界じゃあ全然記述がなかったからな」

 

「まあ、別にええけど、何かつまみながら喋れるとこに行こうか」

 

蛟魔王がそう言った瞬間、扉が開いた

 

「紫炎!」

 

すると、耀が紫炎に抱きついてきた

 

そして後から黒ウサギ、飛鳥、リリが入ってきた

 

「・・・皆、食堂で蛟魔王“さん”の話を聞きにいくんだが、どうだ?」

 

十六夜がわざと“さん”を強調して言うと、飛鳥と黒ウサギが反応した

 

「え!蛟魔王さんってことは、あの西遊記の?」

 

「へえ。それはぜひ興味深いわね」

 

「それじゃあ、俺らは先に行ってるぜ、紫炎、春日部」

 

十六夜がそう言うと、二人が出て行く

 

すると、最後に出て行く蛟魔王が二人に声をかけた

 

「それじゃあ、待っとるで。春日部ちゃんに、赤羽君」

 

「あ、はい」

 

蛟魔王の言葉に紫炎は耀に押し倒されたまま返す

 

「紫炎。あの人にフルネーム教えたの?」

 

「いや。なんでそんなこと聞くんだ?」

 

耀は何か勘付いたのか、紫炎に聞くが何もわからないといった表情で紫炎は返す

 

「だって紫炎って、黒ウサギ以外の皆から紫炎って呼ばれてるのにさっきの人、赤羽君って」

 

紫炎はそれを聞いて少し驚く

 

「確かにそうだな。黒ウサギが俺のいない時に言っていたとしても、俺が赤羽だってのは分からないはずだしな」

 

紫炎が悩んでいると、耀が紫炎の袖を引っ張る

 

「お腹減った」

 

「・・・立食会、あんだけ食ったのに?」

 

耀の言葉に紫炎が呆れながら言うと、耀は真顔で言い返してきた

 

「あれは昼食。今回は夕食」

 

耀がそういうと、紫炎が前から思ってたことを聞いた

 

「そう言えばお前結構食べるけど、何処に消えてるんだ?全然変わらないよな、腹もむね・・・」

 

そう言った直後、紫炎の意識は途切れた


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