問題児たちが異世界から来るそうですよ?―振り回される問題児―   作:gjb

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第八十二話

碓氷はあの気まずい空気に取り残されたすぐ後に女性店員に紫龍を探すのに手伝えと言われ連れ去られた

 

「碓氷!あのバカを見つけましたか!!」

 

「い、いえ」

 

(バカ呼ばわりされるなんて何したんだ?)

 

女性店員の途轍もない殺気を感じながらそう思う

 

「あんな恥ずかしい水着・・・」

 

女性店員が呟いた一言で碓氷は事の経緯を察した

 

「おっちゃん、ビールおかわり」

 

すると、探している男の気の抜けた声が聞こえてきた

 

「あっちですか。行きますよ、碓氷!」

 

「あっ、はい」

 

碓氷は返事をするが、頭では別の事を考えていた

 

(あんな空気で途中で抜け出してしまったからな。完全に嫌われたよな)

 

碓氷はそう思うと、大きくため息をついた

 

――――――――――――――――

 

飛鳥は碓氷と別れた後、自室にこもっていた

 

(焦り過ぎたのかしら。これから顔を合わせるのが気まずすぎる)

 

いくら待っても気づいてくれない碓氷なので自分から言おうとしたのに、黒ウサギの所為で途中でになってしまった

 

そんな風に思っていると、目から涙があふれてきた

 

「あすか?」

 

「なんでもないわ、メルン。なんでもない」

 

メルンが心配そうに声をかけると、飛鳥は涙を拭う

 

「ほんと?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

そういって飛鳥は笑顔に戻る

 

「それじゃあ、夕食まで寝ましょうか」

 

「うん!」

 

飛鳥はあの気まずい空気を忘れるかのように眠りについた

 

――――――――――――――――――

 

クリスとアーシャは二人きりで祭りを楽しんでいた

 

「いやー、お前と二人でいるってなんか久々な気がするわ」

 

「そ、そうだな、クリス」

 

クリスはいつもと変わらないが、アーシャは少しだけ舞い上がっていた

 

いつもは二人の他に、同じくらいの年のコミュニティの仲間やジャックがいる

 

なので、二人でこの距離なのは本当に久々なのである

 

「まずどこから回りたい?」

 

「え!?私が決めていいのか!?」

 

クリスの言葉にアーシャが驚く

 

いつもの自分に対する態度ならクリスが自分の行きたいところに行くか、別々に行動するものだと思っていたからだ

 

「何驚いてんだよ。『女性に優しい』が俺の信条だぜ?」

 

「で、でも、いっつも私の事を妹扱いしてたじゃないか」

 

「妹も女だろ?」

 

クリスが何を当たり前のことを、と言った表情を見せると、アーシャはがっかりとした表情になる

 

「まあ、今日はお前しかいないからレディとして扱ってやろうか?」

 

クリスがふざけた口調でそう言うと、アーシャは顔を赤くする

 

「そ、それじゃあ、頼む」

 

アーシャが恥ずかしそうに言うと、クリスは目を丸くする

 

「お、おう。じゃあ、エスコートをしたほうが良いか?」

 

「う、うん」

 

クリスがそう言うと、アーシャが頷いた

 

(今更冗談だった、って言い出せる雰囲気じゃねえ)

 

クリスはそう思いながらアーシャをエスコートした

 

―――――――――――――――――――

 

紫炎と耀は三毛猫と別れた後、その辺をぶらついていた

 

「なあ、耀。三毛猫ともうちょい一緒にいても良かったんだぜ?」

 

「うん、大丈夫。それに三毛猫も『未来の旦那と一緒におりや』って言ってた」

 

すると、紫炎が耀を抱き寄せた

 

「耀、大好き」

 

「えへへ、私も」

 

そうして、バカップルは廊下でキスを交わす

 

「な、な、な、何をしてるんですか、お二人とも!!」

 

すると、黒ウサギがそれを目撃して、顔を赤くして二人に向かって叫ぶ

 

「何って、なあ?」

 

「うん。キスだよね」

 

当たり前と言った表情で二人が言うと、黒ウサギは大分テンパっている

 

「な、何でそんな真顔でいえるんですか!?そ、そのキ、キ、キスって」

 

「まあ、人目のつくとこでやるなら抵抗はあるが、二人っきりなら普通だろ?」

 

「うん。私は人目が合っても紫炎となら別にいいけど・・・」

 

耀が紫炎に抱きつきながら言うと、黒ウサギはさらに慌てだす

 

「よ、耀さん!女の子がそ、そんな事を軽々しく言っちゃいけません!!」

 

「そんな事って言うほど過激なことは言ってないけど?」

 

「確かにそうだが、人前じゃあ俺はやるつもりはないぞ」

 

紫炎の言葉を聞いて耀は不満そうな顔を浮かべる

 

「そんな顔するな。黒ウサギがいなくなったらもう一回してやるから」

 

「黒ウサギ。後で話を聞くから、今は空気をよんでね」

 

紫炎の言葉を聞いた耀はすぐに黒ウサギに辛辣な言葉を浴びせる

 

「耀さん、酷いです!それと、お二人とも!少しは自重してください!!」

 

黒ウサギが泣きながら言うと、紫炎がため息をつく

 

「あのな、俺らは恋人同士だぞ?キスぐらい普通だと思うが?」

 

「うん。それ以上の事は紫炎がへたれだからまだしてない」

 

紫炎と耀が喋っていると、キス以上の事と聞いた黒ウサギはその場に倒れてしまった

 

「何するか言ってないのに倒れたぞ」

 

「むっつりで純真だね」

 

耀がそう言うと、唇に指を当てた

 

紫炎はとりあえず軽くする

 

「さっき、へたれって言ったからとりあえずここまでな」

 

「本当の事じゃん」

 

紫炎の言葉に耀が頬を膨らませて拗ねる

 

紫炎はそれを見て頬を掻きながら耀に囁いた

 

「まあ、続きをするにしても黒ウサギを別の場所に移して部屋戻った後な」

 

紫炎が耀の頭に手を乗せて言うと、耀は顔を赤くして首を縦に振る

 

「それじゃあ、黒ウサギはどこに捨てるかだな」

 

「年長組のところでいいんじゃない?通り道だし」

 

「そうだな」

 

そんな風に話し合って、紫炎が黒ウサギを担ぎ上げようとすると、耀が止める

 

「私が運ぶ」

 

「・・・わかった」

 

一瞬呆気にとられた紫炎だったが、理由を察して素直に引いた

 

「それじゃあ、黒ウサギを放り投げに行こうか」

 

「だな」

 

そうして二人はその場を後にした

 

―――――――――――――――――――――――――

 

碓氷は女性店員と共に紫龍を捕まえた後、一通り紫龍を説教して一緒に行動していた

 

「ったく、あんなに怒らなくてもいいだろ?」

 

「そう思うなら自重してください」

 

紫龍の言葉に碓氷は大きなため息をつく

 

「そう言えば、お前今日は飛鳥ちゃんと一緒にいたんじゃないのか?流石に進展したんだろ?」

 

「進展なんてするわけないじゃないですか」

 

碓氷が暗い表情で紫龍の言葉を返す

 

「・・・何があったんだ?碓氷」

 

「何にもないです、何にも」

 

紫龍が少し真面目に聞くが、碓氷は何も喋ろうとしない

 

「まあ、飛鳥ちゃんとの仲が少しこじれてるのは分かったが・・・」

 

「言ってないのに何でわかるんですか!?」

 

碓氷が叫ぶと、紫龍はため息をつく

 

「分かりやすいんだよ、お前。特に飛鳥ちゃんの事となるとな」

 

「そうですか。でも、もう関係ないですよ」

 

碓氷が最初のような表情を浮かべると、紫龍はつまらなさそうな表情をする

 

「まあ、飛鳥ちゃんとはさっさと蟠りは無くしとけよ。収穫祭が終わったらサウザンドアイズを出るんだからよ」

 

紫龍の言葉を聞いた碓氷は驚く

 

「明後日じゃないですか!そんなの初めて聞きましたよ!?」

 

「初めて言ったんだから当たり前じゃないか」

 

紫龍がいつもの調子で言うと、碓氷はいつも通り殴ろうと拳を握るが、すぐに力を抜く

 

「そうでしたね、紫龍さんはそういう人でしたね」

 

「あら?いつもならそこで殴るとこだろ?」

 

紫龍の言葉を無視して碓氷は立ち去ろうとする

 

「待て待て。話は最後まで聞けって」

 

「東から出るんでしょ?ちゃんといつものようについて行きますよ」

 

「いや?今回はお前が残りたいなら残っても良いんだぜ?」

 

紫龍の言葉を聞いた瞬間、碓氷は少しだけ反応する

 

「・・・大丈夫ですよ。いつものようについて行きますよ。それが命を救ってくれたお礼ですから」

 

「まあ、それならいいけど。だけど、飛鳥ちゃんとの蟠りだけは絶っっっっ対、無くしとけよ」

 

「おやすみなさい」

 

紫龍の言葉を無視して碓氷は自分の部屋へと走って行った

 

「このままだと絶対に後悔するのに。しょうがない、十六夜君に許可を貰いに行くか」

 

紫龍は不穏当な言葉を言ってその場を後にした


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