双方ISを展開し、一夏は雪片弐型を装備。景斗は左手にオックスアイ、右手には例の近接武装を装備していた。
一夏はインセプターのようなショートブレードを無意識の内に想像していた。だが景斗が握っているのは柄ではなく銃のグリップに近いパーツ。その横から前腕に沿うような形で伸長する杭が繋がれていて、ドリルドライバーを連想させるような形状をしている。杭の先端部分から拳の横にあたる部分の下に、銃にしてはやや大きなマガジンが取り付けられているが、銃口はどこにも見当たらず、杭を固定する部分に繋がっていた。
「なにその棒」
「ヒートパイルって言うらしい」
「パイル? パイルバンカーってやつ?」
投映されるディスプレイで武器の詳細を確認する景斗。20秒ほどで確認し終わり一夏に言った。
「いや、ちょっと機構が違うって書いてある」
デュノア社製品のパイルバンカーであるグレースケールは単純に伸長する金属の杭を炸薬などで接触している対象に直接打ち込み、ダメージを与える機構を持つ物だ。
それと違いヒートパイルは杭の先端に大口径成形炸薬弾頭が取り付けられており、それを対象に直接叩きつけて起爆させ、モンロー/ノイマン効果によってできる3000度以上の熱とマッハ20以上の速度を持つ大量のメタルジェットで対象の装甲を貫き、内部から破壊する。その威力は対戦車ミサイルの比ではなくISに対しても効果的に運用できるほど。
実用段階直前まで迫っていた試作品は軍用ISに対して1撃で致命傷に近いほどの大ダメージを与えかねない威力を出せるように設計されていたが、ISバトルでは搭乗している女性の身を守るために威力を若干セーフした物を使用するように制限されてしまった。そのため景斗が使用しているものは小型弾頭を使用した軽量型で、カタスムし大型の弾倉を備える事ができるようにされている。
「なんかこの先に付いてる爆弾で殴る武器だってよ」
「殴る?」
「うん、殴る」
「なんだそれ、強そう」
「使い勝手は悪そうだけどな」
「それ使って訓練か? 当たったら痛そうだな」
「安心しろ。弾頭はダミーだから殴られるだけだ」
「俺が痛そうなのは変わらん」
「白式は痛くないぞ」
「そういうことじゃない」
「お前の雪片の方が威力が高いんだから我慢しろって」
「でもこれ零落白夜を使うことを前提にして作ってあるから、そのままだとあまり威力が出ないぞ」
「それでも訓練用の威力じゃないけどな」
お互いに軽口を叩きながら空に浮かんでいく。
「いくぞー せーっのっ!」
「ん?」
突然景斗がイグニッション・ブーストを使用。ヒートパイルを振りかぶりながら、何も前触れ無く一夏の目の前に迫る。明らかに気が抜けていた声を出し、防ぐ動作をする暇も無く
「おらよ!」
「うわっ!」
呆気なくヒートパイルで殴りつけられた一夏。金属と金属がぶつかり合う高い音が2人の訓練開始の合図を告げていた。
一夏は反射的に体勢を戻し雪片弐型を構える。
「お前いきなりかよ!」
「ああそうだ」
「あんまり痛くないけと衝撃は凄かったんだからな」
「痛いのにしてやろうか?」
「いらん! というかイグニッション・ブースト使えたのか」
「今始めて使った、やるイメージ知ってれば案外楽だな」
その会話を区切りに一夏は接近戦を仕掛ける。
彼の戦闘スタイルは主に一撃離脱である。射撃機に対しては一気に近づき零落白夜をお見舞いし、接近戦では零落白夜の火力が物を言う、しかし零落白夜の発動中に接近戦をしかれることが出来る上級者は学園には中々いない。
箒との訓練では正面から打ち合うことを結構な頻度で行っていた、零落白夜が発動する前の近接戦闘の訓練だろうか。それに対して今の訓練では零落白夜が発動したときの場合を想定していると考えるのが妥当だろう。大胆にブースターでも使わない限り近接攻撃を仕掛けることが出来ない距離。頃合を図って接近し、一撃を放って離脱するのが好ましい。
景斗はこの状況をあまり好ましく思っていなかった。グングニルでは過度の近接戦闘に対処できない、多量の手数を持ってして一気にシールドエネルギーを奪い去られると早い話が詰んでしまうのだ。この訓練に慣れて一撃離脱の戦法を迎え撃つことに慣れたら早々にショートレンジでの訓練に励むつもりであった。
片やブレード、片や拳に付いた杭。お互いがどちらも一撃必殺に近い威力を出せ、当たってしまえば後は好きなようにいたぶれるほどの威力を持っている。普段なら多少のダメージを気にせずに突っ込み、攻撃を当てるという選択もあるのだがそれは今の状況では使えない。自分の攻撃は当て、相手の攻撃を避けるということをしなければならないからだ。捨て身の覚悟で食らいつつも自分の攻撃を当てることになっても、結局最後には自分が残らないといけない。食らってからでは遅い。
景斗は射撃が主な攻撃方法でヒートパイルは副兵装、あのような形状では雪片弐型と切り結ぶことも出来ないし、ブレードを杭で受け止めたら変形して使えなくなる可能性もある。先端の弾頭が衝撃で暴発する危険性も捨てきれない。だから避けるかカウンターを狙う道を選んだ。
お互いにジリジリと近づき、一夏がヒートパイルを持っていない景斗の左手側に仕掛け、至近距離からのオックスアイの迎撃を受けた。オックスアイを恐れヒートパイルを使わせようと右手側から攻めるもカウンターを食らったり逃げられたり、回数を重ねたがうまく言ったのは半分ほどであった。
一夏は雪片弐型で接近戦を仕掛けることしかできず、それゆえ景斗は受けに回ってしまえば比較的楽に対処ができる。今のような一撃離脱の戦法ではミサイルを使ってしまえば状況を動かすことができるし、下がって射撃という道も使える。保険にオックスアイかヒートパイルを持っていれば迎撃することも可能だ。
ただし、オックスアイやヒートパイルは連発できず、1回しか迎撃行動をとることが出来ないのでやはり一夏がとる手はやはりショートレンジでの戦闘が有効的な手だといえる。
それに加えてこのような訓練が役に立つ場面など早々出てこない、第一こんな一撃一撃が大火力での近接戦闘なんて聞いたことも無い。
「一夏、別の訓練しよーぜー」
「なんでだよ」
「こんな訓練お前と織斑先生が戦う時ぐらいしか役に立たないよ」
「千冬姉と戦う時に役立つのか?」
「白式と同じような機体同士じゃないと役に立たないってこと」
「・・・・・・それもそうか」
「お前は自衛能力が高い機体に受けに回られるとヤバイぞ」
「今みたいに一撃離脱がうまく使えないから?」
「そう、だから別の訓練」
「例えば?」
「至近距離での戦闘」
「それは箒ともうやった」
「あれは打ち合いだろ? それとはちょっぴり毛色が違うやつ」
「どう違うんだよ」
「うまく言えん、やれば分かる」
そう言い後ろに下がる景斗、少し踏み込めばすぐにでも剣が届いてしまいそうだ。
「このぐらいの距離だったらどう攻める?」
「そりゃ、そのまま斬りかかるだろ」
「ですよねー。俺はここからどう動こうかな」
「俺に聞くなよ、初めていいか?」
「いいぞ、このままやってみるからな」
一夏が雪片弐型を持ち景斗に斬りかかる。その行動に対して景斗がとった迎撃方法はオックスアイでの銃撃。突っ込んでくる一夏に強い衝撃を浴びせ動きを止める。
攻防が一瞬停止、追撃は起こらない。
「さあ、もう1回来いって」
「言われなくても!」
加速のために一旦距離を取りブースターで勢いを付け、再度斬りかかる。銃弾との相対速度は上がるが射線やタイミングをずらすことができるはずだ。
オックスアイの迎撃をかわし景斗に連激を浴びせる。弾を見ることは出来なかった、景斗が外したのだろうか。かわしたという実感は薄い。
「いってえ、やってくれるな」
「今までこんなに隙だらけな景斗は見たこと無かったからな、反撃開始ってとこだ」
「させるかっつーの!」
先ほどと同じように助走を付けて近づく一夏、脇構えのまま飛び込み、自信に満ちた目をしている。
その目はまるで"ここを狙っています"と景斗に言っている様で、斬りこむ場所に待ち構えていた黒い穴、オックスアイの名の通りその銃口と目が合ったような感覚が一夏の頭の中が満たし、すぐに消え失せた。
頭の中に警告が鳴り響いた直後には自分の慣性は失われ、体のコントロールが効かないまま硬直。右手のヒートパイルを振りかぶる景斗を見たまま何も出来ずに胸の装甲を殴られた。
「よし、成功!」
「読み読みってわけかよ」
「ああ、来るって分かってないと出来た物じゃない」
――ならば、イグニッション・ブーストに程近い推力で接近、動きを読ませる時間など与えない。読まれることの無いように、読んでも対処が難しいほどの速度で景斗を翻弄し、攻撃を仕掛ける。パイルの正面でしかカウンターは狙えず、防ぐこともままならない。オックスアイの連射速度では対処できず、一夏は景斗がイグニッション・ブーストで無理やり離脱するまで一方的に攻撃を続けていた。
「それにはあれじゃないと対処できないか」
「まだ何か隠しているのかよ」
「いや、もう1つ同じ物だって」
ヒートパイルを量子変換し、出したものはもう一丁のオックスアイ。旧ソ連のNKVDで実際に行われていたマケドニアシューティングの様だが実際の運用方法は全く異なる。マケドニアシューティングは両手に持ったリボルバーを同時に発砲し、瞬間火力を底上げするものだがサブマシンガンの登場により意味をなさなくなり廃れていった。
なぜ、両手にオックスアイを持つ必要があるのか、同じ口径、同じ質量、同じ衝撃を連射できるキャノンなどで再現すればいいのではないのか。それが出来ない理由は単純にそれを運用する機体が無いからである。連続した反動で姿勢制御が追いつかず、腕などもイカレてしまう。仮にそれを運用することができる機体があったとしても重量によりほぼ役立たず、地面に打ち付けた砲台の方がよっぽど使いやすいだろう。
それに比べての2丁持ちは元々が片手で制御できる程度の反動、セミオートなので弾をばら撒くような真似はできない、既存の物かつ非常に安価。ISのシールドエネルギーを0にするほどの火力は得ることは出来ないが相手を硬直させ、チャンスを作ることが出来れば十分な性能だろう。
「さあ、仕切りなおしといこうぜ!」
左のオックスアイで一夏のいる場所に攻撃する。弾速も射程もそれなりの性能なので想定されていない距離でも使えないことは無い。勿論牽制の1撃、一夏は避け斬りかかろうと距離をつめてくる。
さらに右のオックスアイで迎撃、命中。一夏の動きが止まる。
そうなったらもうおしまい、オックスアイ交互に撃つ景斗。連続の衝撃により一夏は一切の身動きが取れなくなり、鈍い声を上げる一夏にブースターで加速された左足のシールドを叩きつけた。噛み殺しきれない声が口から漏れ、なんとか空中で踏ん張る。
「おい景斗! 卑怯だぞ!」
「アホ、まだまだこんなの序の口だ!」
「まだ上があるのかよ」
「俺は持ってないけどこれより理不尽な性能のやつがあるんだよ」
「それならまだ安心できる」
大きな弧を描くように動き、イグニッション・ブーストで人間の肉体の構造上、オックスアイがすぐ自分に向けることが出来ない死角に回り込む一夏。ハイパーセンサーによって全方位を目視できるのでお互いに動きは丸見えだ。だが景斗は追撃が出来ない、そのスピードじゃこちら側に銃口を向けたとしても遅すぎる。
圧倒的なチャンス、雪片弐型を振り下ろす。右手に持ってるオックスアイが目の前に現れる。ブースターを使い裏拳を振るようにして間に合わせたようだが如何せん銃口が一夏の正面を向いてない。このまま追撃を狙ってもそのまま一夏に斬られるか、精々食らいながらも1発当てるのが関の山だろう。零落白夜とオックスアイの1撃では差がありすぎる、
そこで景斗がとった選択はどちらでもなかった。振り下ろされる雪片弐型をオックスアイで受け止める。ヒートパイルを装備していたときでは自信の無さからその手は使わず、場合によってはファンブルを出しかねない危険な選択肢。
ミグラントで製造されているIS用のハンドガンは単純な構造ゆえに非常に安価でメンテナンス性も高く、剛性も高い。ちょっとやそっとの衝撃ではゆがむことは無く、ゆがんでしまった場合も1日ほどでISが自己修復を完了。よってあまり推奨されない使い方だが攻撃も受け止められることもできる。
「取った!」
「させるかっての!」
ぶつかり合う金属の音。そうそうできる芸当ではないが雪片弐型を防ぐことに成功する。この成功はビギナーズラックに近い。
オックスアイの真上のパーツであるマウントレールに刃が突っかかり、一夏は咄嗟に剣道の鍔迫り合いのように握っている雪片弐型に力を込める。ソードブレイカーの峰のようにレールの凹凸で雪片弐型をへし折ることは出来ないが、接触している状態から刀を動かすことに不自由が生じる。
両手と片手の力の対決で片手の景斗が勝てる道理もない。
――故に戦わず即座に軸を横にずらし、いなす。雪片弐型を引っ掛けたまま一夏の側面に回りこみ、脇腹に左手に持つオックスアイを突きつけ、発砲。
銃声と共に一夏の間の抜けた声が聞こえるが気にせず離脱。
「どうだ! 一泡吹かせてやったぜ!」
「畜生め、そんな使い方アリかよ!」
「次はこっちから攻めさせてもらおうか!」
景斗から初めて攻撃を仕掛ける。
空は赤の色素を失いかけていた。最早夕日は沈む直前だ。
決してガン=カタでは無い
4/13 追記 使用しているとっつきはUHP-07/Aです