アリーナには男子二人と女子二人。この春先、すでに空は薄暗くまだまだ冷え込む。
「お前達、何時までそこに居る気だ。私達はもう戻っているぞ」
見下ろされるは疲労困憊の男子二人。片や両手を広げ仰向けになり地面に転がっている。息も絶え絶えだ。もう片方は大きく足を伸ばし、腕に体重を預け座っていた。少しばかり余裕が見える。
「先に行ってて構わないよ、俺は少し休んでから行くから」
「俺も少し休みたい。先にシャワー浴びといてくれ」
了解したとの意思を告げ、アリーナを後にする女の子二人。息を整えながらその姿を眺める。思考することを放棄しながら。
「おい景斗、あの戦法卑怯すぎ」
「ハンドガン2丁か、あれはそんなに使う機会は無い」
「どうしてだよ、タイマンじゃ無敵だろ」
「ぶっちゃけそんな気がしなくもないけどタッグだと長期戦になりかねんよ、ダメージ稼ぎづらいし」
「クラス対抗戦で使うのか?」
「いや、使わない。当ててる時のお前の声聞いてたら女の子にやるのは罪悪感がヤバイ」
「なんだそりゃ、使うのは俺だけかよ」
「まぁ…… そうなるな」
「鬼畜め」
「織斑先生とかなら使うかも」
「フォローになってないよ。千冬姉なら全部かわせそうだからな」
「ダヨネー」
ゆったりと立ち上がる、一夏と目が合った。
「さて、俺はもう帰るけど」
「なら俺も戻るか」
「大丈夫か? 相当疲れてたろ、主に俺のせいで」
「分かってんなら手貸してくれ」
「しゃーない」
差し出されたのは右手。汗まみれの手をとり一夏を立ち上がらせる。疲れ果てていたのか握力は弱く、汗で滑り一夏の手を離しそうになった。
「うぉっ、危なっ」
「ははっ、もう手に力が入らねー」
「俺もトリガーの引きすぎで人差し指が痛い」
「お互い張り切りすぎだな」
アリーナを後にする二人。人っ子一人いないアリーナを後ろ歩きしながら眺める景斗。
「あっ」
カタパルトを見て思い出す。レッドパレットを返していなかった。
「どうした?」
「レッドパレットをグングニルにしまったまま忘れてた、返してくるよ」
「先行ってるぞ」
「おう、のんびり歩いていたら追いつくからな」
そう言いグングニルを展開、時間はもう1秒と掛かっていない。
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再び格納庫に入ってきた景斗。中は真っ暗だがハイパーセンサーの前ではそんなものは関係ない。
あの先生もいないようだ。開きっぱなしのガンロッカーにレッドパレットを収納する。きっちり全部埋まったガンロッカーを見てちょっとした満足感を味わい扉を閉める。
カラサワの設定も元に戻す。今の基準は競技用だ。思うことはこれといって無かった。
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カタパルトを出ると未だにアリーナを歩いている一夏を発見。相当のんびり歩いているようだ。
ブーストを思い切り吹かし、一夏の5メートルほど隣に向けて移動。慣性をコントロールし一夏の隣で急停止、それと同時にISを解除する。高さもギリギリの所まで降下していたので生身で着地したときの衝撃は無い。
「おかえり」
「ただいまー」
「なんかさっきからISの熟練者みたいな動きしてるな」
「ん? そうか?」
「そうだよ。展開もかなり速かったし今した着地凄かったぞ」
うーん、と景斗は唸る。疲労していた今はほとんど無意識のうちに行動していた。
彼はIS学園に入るまで良く魔法で空を飛んでいた。たまに行っていたランニング後の気分転換にはぴったりだった。急降下や急上昇も頻繁に行っていたし、速度は遅いがアクロバット飛行の様に縦横無尽に故郷の空を飛び回っていた。あの着地も既に経験済みである。
展開の速度も魔法のおかげで、ドアの向こうの空間で自分の体に魔法をかけたことがある。大きくなったり小さくなったり伸びたり縮んだり、物を変えたり自分が変わったり、手だけを変えてみたり。そんな摩訶不思議なお遊びをしていたおかげで自分の体のイメージがあやふやだ。だからISを展開するイメージなんてものも楽に出来る、解除についてはもっと楽に行える。
「そんなの覚えてないよ、見間違えじゃない?」
「いや、はっきり見てた。あんな流れる様な動きは見たことが無い」
「そんなにか? 俺が出来るならセシリアも出来るだろうに、多分そんなに凄くないって」
「褒めてんだからもっと誇ってよ、できない俺が惨めになる」
「なんでだよ、お前にも長所があるだろ。俺にはできないやつが」
「人それぞれってことかよ、綺麗に纏めてくれちゃって」
「ありがとさん」
話しながら更衣室に入る。中には手にスポーツドリンクとタオルを握っている小柄な少女が座って待っていた。中国代表候補生の凰鈴音である。
「あ、一夏待ってた…… げ、なんでもう1人いるのよー」
「げ、とはなんだ。いきなり」
「それで男子更衣室に何のようだよ、鈴」
「何の用って……」
「一夏はそういう奴だって前々から分かってただろうに」
「ちょっと、なんであんたが知ったようなこと言ってんのよ」
「一夏から聞いた。ほら一夏、ボーっとすんな、早くもらって来い」
「えっ? 何をだよ」
酷い鈍感は結構だがトラブルに巻き込まれるのはゴメンだ。
ため息をつき俺はこう言った。
「俺が邪魔だな。先に帰っているよ」
汗もあんまり出てないし、そのまま制服を着ても問題ないだろう。
「おい、ちょっと待てよ。どうしたんだいきなり」
「どうしたもクソもあるか、全く羨ましい……」
なんで幼馴染より俺を優先しようとする一夏の精神が分からない。今まで待っていた凰鈴音さんの立場になって考えてみると悲しすぎる。俺なんか想像しただけで泣いてしまいそうだ。
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上着のボタンを留めながら寮に帰るまでの道を歩く、空は薄っすら青白いが十分に星が見えるほどの暗さ、欠けた月が美しい。学園内では想像も付かないほど静かだ、まるで世界に俺一人しかいないような感覚がする。こんな日は自由に空を飛んでいたが今はできない。
空で町を見下ろしながら月に手を伸ばしたことを思い出す。今は地面に足を付けながら遠い空を見上げている。どちらも月はあまりにも遠くて、この胸にあるISでなら月でも自由に動けるだろうか。
「お~い、けいちゃ~ん」
「あれ、布仏さん」
のほほんさんに出会った。空を見ていた所為か気づけなかった。
「今まで~、何してたの~?」
「アリーナで訓練だよ、やっぱり勝ちたいからね。布仏さんは何してたの?」
「えへへ~、こう見えても生徒会に入ってるのだ!」
「そうか、お疲れ様。」
「じゃあ~、途中までだけど一緒に戻りましょ~」
それからのほほんさんとたわい無い会話をしつつ部屋に戻る道を歩く。同学年の女子からも話し掛けられたのはのほほんさん効果だろうか、俺が馴染めてきたからだろうか。とにかく最近は以前ほどストレスは感じていない。
「じゃあ、私はここの部屋だから~、また明日~」
「はい、御休みなさい。また明日」
やはり1組の人は俺と部屋が近くて助かる、と言ってもその中でも俺は端っこだけど。別の階層とか別の組に混じっている部屋じゃなくて良かった。
自室に入る。ここが今現在、俺の唯一の聖域である。
修学旅行で泊まったホテルのような綺麗な部屋で、キッチンなど一通りの設備も整っていてなおかつ完全防音、監視もされてない。
先ほど"以前ほどストレスは感じていない"言ったが入学当初に感じていた視線にはもう慣れてしまった。問題は新しく増えた視線である。
2.3年生の人から多く感じる視線、1年の人からはかなり少ないがそれでも存在している視線。女尊男卑を心情としてこの学園には男は必要ないと考えているような奴らが発生源だ。幸い教職員からは感じない、自由にISを使える立場にあるのだから審査があったのだろうか。
のほほんさんと一緒にいるときには嫌そうな雰囲気を出すわけにはいけない気がする。あの子の雰囲気は壊してはいけないものだ。
いっそのことセシリアのように一夏に惚れてしまえば直るだろうか。いや、きっと直るだろう。これが一番手っ取り早い解決方法だ。箒たちにはとても申し訳ないし気の毒だが、一夏だからと言う理由で納得できるだろう。
この話は結構な確立で存在する可能性の話では無いだろうか、原作は知らないが是非とも学園の生徒全員を落として欲しいものだ。
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クラス対抗戦当日。一夏と共にトーナメント表を確認する。
「お、お前はあの子と対決じゃんか」
「俺さ、この勝負にちょっとした約束があるんだよ」
「なんだ、いってみ」
「勝った方が負けた方に何でも命令できる」
「……お前の場合はどっちでも損はしないだろ」
「なんでだよ、絶対無茶振りだろ」
もう驚かないことにしたよ。俺は。
「まあいいや、俺は第二アリーナのほうだな」
「相手は?」
「更識簪って人」
俺の相手は何時ぞやの会話で聞いた4組の専用機持ちで日本代表候補生の更識簪だ、初対面の人との戦闘は初なので気分が優れない。女の子との戦いはどこか気が引ける。
「知ってるか一夏、この人も専用機持ちだぜ」
「それマジ?」
「大マジ。一回戦目の両方が専用機持ち同士の戦いだぜ? 絶対仕組まれている」
ここまであからさまだと怒る気が失せる。
「それじゃ、景斗も頑張れよ。勝ってくる」
「おう、事実上の準決勝みたいなもんだからな」
「後は余裕ってことかよ」
「特訓したろ? 他のヤツには勝たなきゃダメでしょ」
____
第二アリーナ格納庫。グングニルを展開してカタパルトの前に立っている。
開始直前になり相手の機体のデータが表示されるが、外見だけで他のデータは見ることが出来ない。
『相手の機体は機動性を重視した打鉄弐式、打鉄の後継機にあたる機体なのですが未完成の機体です。今回はリブァイブの一部武装と稼働データを流用して動かしています』
先生からの通信が入り大まかな説明を聞かされる。
「かんちゃんは~、とっても強いよ~」
隣ののほほんさんに話しかけられる。ちなみにクラスの皆は俺と一夏の応援で分かれてしまった、一夏の方が多かったのは分かっていてもショック。
「え? 知り合いなの?」
「うん、幼なじみなのです~」
「それならこっちじゃなくて、あっちに行かないとダメじゃないか」
「う~ん、いまちょっとね~」
「おーけー、大体分かった」
多分トラブってるんだろう。踏み込んじゃいけない雰囲気。
『それでは両者ー、規定の位置まで移動してくださーい』
間の抜けたアナウンスが聞こえる。この声はレッドパレット貸してくれた先生の声だ。
「じゃあ、行ってくる!」
カタパルトに足を乗せ、アリーナに飛び出す。
現れたのは眼鏡を掛けた癖毛の少女。
「更識簪さんか、よろしくたのむよ」
「……よろしく……」
「日本の代表候補生なんだって?」
「うん……そうだけど……機体が未完成……だから……今回は休もうとしてたのに……」
「俺もそんな感じ、急に出ろって言われた」
おっと、愚痴になってしまった。織斑先生に聞かれて無いだろうか。
『両者、試合開始!』
試合開始が告げられた。湧き上がる観客席の女子。
「まあ、機体が未完成だが代表候補生に勝てるとは思ってない。でも応援されてるんでね、精々見苦しく足掻かせて貰う!」
その言葉が両者にとっての開戦を告げる合図になる。
ぶっちゃけ簪さんはここのssでしか知らないから出したくなかった。