一夏と別れ、景斗はグラインドブレードを置かせてもらっていた格納庫に向かう。外から見た感じではつい先ほどまで居たアーリナと同じく昨日とほとんど変わってい所は無い。
第2アリーナは一夏が使っていた第1アリーナと比べて現場の保存のレベルが著しく高い。無人機の残骸の回収がまだ終わっていないからだ。それに彼がこれから入る例の格納庫にある破損した隔壁も調査がまだ終わってない。あの隔壁はグラインドブレード程の威力を持っていれば破壊は可能だが、破壊のためにはグラインドブレードが必要、しかしグラインドブレードを装備するために破壊したという関係が下っ端教員の調査にブレーキをかけていた。
俺はグングニルを待機状態のドッグタグに戻し格納庫をしばらくうろつく。展開したままのコンテナ、穴の開いた隔壁、ヒートパイルの薬莢、散らかりっぱなしで無機質なこの空間、なぜか寒気がし、鳥肌が立った。
正直俺が魔法を使った痕跡である隔壁が今の今まで気が気でなかった。じかに目で見て、手で触る。使った魔法は"全てのものを溶かす魔法"そのため床にはドロドロに解けて、そのまま固まってしまった金属がへばりついている。
ヒートパイルを叩き付けた時も、規模はこれの数%にも満たないがこのような溶け方をしていたはず、現代の科学で再現することは容易であろう。
それから5分ほどでチーフがミグラントの職員数人を引き連れやってきた。大きさの違うコンテナ二つをオマケにして。
「やあ、久しぶりだね」
「お久しぶりです、チーフ」
と、挨拶をした。中々親しみやすく、彼の態度も若干柔らかくなっていた。
「今回は色々あるからね長くなることを先に言っておくよ」
「承知の上ですって」
「ならいい。先ずは小さい用事から。メインは最後にとっておこう」
「小さい用事? 検討が付きませんね」
グラインドブレードが間違いなくメインだろう。あまりその他の事は考えていなかった。
「ほら、パルスキャノンのテストを頼んでおいたじゃないか。それを引き取りに」
「そうでしたね、グングニルを展開しますか?」
「ああ、頼むよ」
グングニルとパルスキャノンを展開し、しゃがんでから装着を解除する。この状態のISはなんとなく不気味で違和感があった。
「はい、パルスキャノンです」
「今後のために聞いておくが、使い勝手はどうだったかね?」
「そうですね……弾数が少なくて戦闘継続力が無いのと、ISの戦闘では射程が短すぎる点ですね。威力はかなりの物、面での攻撃なので当てやすい。こんなところですね」
「なるほど。これを頼む」
はいと言って一番近くの人が受け取る。他全員はグングニルをいじっている、見る限りメンテナンスだろう。
「じゃあ次だ。新装備と新開発の武器テストを同時にやってしまおう」
「まだ装備が増えるのですか?」
「肩のミサイルユニットも変える、今からの変更で合計90%ほどになると思うよ」
「そうですか」
「まずはミサイルユニットだ、低負荷で重量の小さいユニットに変更する、バススロットも広がるし、なによりも負荷が小さくなるから機体の性能に若干の上昇が見られる。調整は今のうちにやらせておくよ」
ちらりと確認すると、全員がグングニルに掛かりきりだ。タイピングや金属同士がぶつかる音が格納庫内のBGMと化す。
「近接信管は変更ですか」
「入門用だと思ってくれ、優秀だがそれなりに問題点も多いんだ、コストとか」
「中々反応しづらいコメントですね」
「まあ、それはいい。弾頭は成形炸薬弾頭。ヒートパイルほどの威力は無いが一度に多数撃つことが可能だ」
「なるほど。弾幕を厚くできそうですね」
「次は新装備だ、3つ用意した。ディスプレイを展開するからその中で見せよう。まずは既存の装備の2種類を、ショットガンとパルスマシンガンだ」
空中にディスプレイが投影。そこに表示されているのは2つの銃。名称はUSG―11/HとARACHIDE EG 13。どちらも外見は通常の兵器らしく、ゴツゴツしている。
「ショットガンは知っての通り接近しての使用が好ましい、1発でもかすればオックスアイ程度の衝撃を相手に与えることができる。ただし威力の減衰が激しいため有効距離以外での使用は避けた方がいい」
「大方分りました、次のパルスマシンガンは?」
「低威力で低出力の電磁弾を発射するマシンガンの様な物だ、正面から打ち合えばまず撃ち負けることはない。射程が短かいことと、弾道が安定してないから弾がバラけるので留意してくれ」
「えーっと、射程はパルスキャノン以下ですか?」
「そうだね、しかし取り回しはパルスキャノンよりしやすいから至近距離で問題の無い運用が可能だ。ちなみに開発スタッフはアラキデと呼んでいた、覚えておくといいかもしれない」
本社の中ではそう呼ばれているらしいので、覚えていても損は無い。
「アラキデ、ですか。そのまんまですね」
「4文字で覚えやすいからな、次は新開発の武器、バトルライフルを紹介しよう」
ディスプレイのウィンドウが切り替わってバトルライフルが映った。名称はKO-2H6/STREKOZA、ランポードよりも短く、本体に厚みを持っている。
「バトルライフル? ライフルがどう変わったのですか?」
「一般的なIS用ライフルよりも大口径で、さまざまな弾薬を使用できる点だ。今回のテストでは成形炸薬弾頭を使用している」
「期間は何時ごろまでですか?」
「無期限で。先の2つと同じく新装備に採用する、無論データは収集するがね」
ふと気になったので
「ちなみに開発スタッフの方々はなんと呼び名を?」
と、チーフに質問。完全に興味本位の質問であった。
「ストレコと。折角ちゃんとした名前を考えてあるのに何でも略称してしまう、どうしたものか」
「しっかりと4文字に略されてますね」
呆れたのか大きなため息をつき、しかし次の瞬間からは少しだがチーフは真剣な雰囲気を纏っていた。
「まったくだ。さて、本題に移ろう」
「グラインドブレードですか?」
「そうだ」
「何故、あんなものを俺に持たせたのですか?」
「ある海外の支局からの強い要望があり、無視することはできなかった。グラインドブレードの製造もそこが大きく関わっている。ミグラントも一枚岩ではないからな」
「ではIS学園や国際IS委員会からなにか干渉されても――」
矢継ぎ早に心の中の懸念材料を吐き出す、しかしそれは次のチーフが言った言葉によって遮られた。
「それに関しては君も我々も、咎められることはない」
「……ならいいです。これもテストになんですか?」
「いや、特に要望は聞いていない。使わなくてもいいし、問題点がいくらなんでも多過ぎる」
気になる部分は少なくないが、厄介ごとはほぼ無いだろう。それにチーフも巻き込まれた側らしい。
「すみません。話をずらしてしまいました。本題とは?」
「グラインドブレードを引き取りに来た。まさか使用する事態になるとは想像も付かなかったよ、無事で良かった」
「複雑な気持ちですが……グラインドブレードがあったおかげです」
「それで、どこに保管してある? コンテナは開きっぱなしだし、検討が付かない」
「では出しますのでグングニルを少し使用します」
周りに目を向けると作業の音がいつの間にか止んでいた事に気づく。メンテナンスが終了したグングニルに搭乗し、地面に接触しないように立ってからグラインドブレードを展開する。チーフはその過程を不思議そうに眺め、眉間に皺を作りながら数秒悩み、沈黙。その後こう言った。
「……なるほど。では取り外してしまおう」
「今日の用件は以上で?」
「もう一つのコンテナもあったが、今の限りでは何も問題は無いだろう」
「? あれですか」
「学園側には追加の大出力ブースターといって、引き取りに行くまで置かせてもらう予定だったのだったが、今の様子を見た限りその心配はなさそうだ」
どういう意味か今度は自分が検討が付かない。何故かチーフの声は何処か嬉しそうだった。そうしている内にグラインドブレードは取り外され、
「では、コンテナの中身は人が来ないうちに量子変換することを勧める、今日はこれまで。最後に言っておきたいことはあるか?」
「……もしものとき、一撃必殺になりうる護身用のための武装はありますか? グラインドブレードの様な物ではなく、ちゃんとしたIS規格のもので」
「あるにはあるが、使用は控えてくれ。すでに国際IS委員会から釘を刺されている、なんとかグラインドブレードはどうにかなったが」
グラインドブレードが公式戦で使えるようなことをほのめかすチーフ。どうなっているんだ……
「あくまで護身用ですよ、あまり楽観視はできそうに無いので」
「後日、輸送させてもらう。できるだけ人目は避けてくれよ」
「了解です」
「では、今日はこれで終りょ……そうだアレを忘れていた」
「アレ?」
「給料だ、コンテナの中に入ってる。とりあえず2ヶ月分が入っているらしい」
俺は今にも口角が吊りあがりそうで、口元の筋肉がぴくぴく動いている。抑えるので手一杯だ。
「次はまた何かあったり、武器のテストを頼むときに来るよ」
「はい、今日はありがとうございましたー」
「じゃあ、さようなら」
「さようなら」
____
チーフたちが帰ったことを確認し、片方のコンテナを開ける。中には3つの銃が入っているだけで特に人を避ける必要性があるものとは思えない。
グングニルを装着し、ショットガンを手に取る。国内のゲームのおかげでポンプアクションのイメージが頭の中にあったのだがしっかりとオートマチックで片手で使用することを前提とした大きさである。
パルスマシンガンのアラキデとバトルライフルのストレコーザを両手に構える、どちらも今までの武装と違って横の厚みを持っていた。ストレコーザにいたっては5つのうち、両端のコンデンサが銃身よりも横に飛び出していて形が歪である。
3つ全てを量子変換する。するとコンテナの中に茶色い物が転がっているのを確認、ISのガントレットでは大きすぎるので両腕の装甲を解除し、手で掴んだ。
よくよく見てみるとそれは封筒、厚さは人差し指ほど。中には1万円札が入っている。
……たしか100万円で丁度1センチだったはず……つまり、学生でありながら親と同等かそれ以上の収入になる計算だ、中々に複雑な気分。後で銀行口座を作っておこう。
初めのコンテナはもう空っぽだ。追加の大型ブースターが入っているだろう、3メートルほどのコンテナの蓋を開ける。
中には『柱』が入っていた。
____
無言でコンテナの蓋を閉じ、今目撃したものを頭の中で思い出す。
……紛うこと無き見事な鉄筋コンクリート性の柱だった。ところどころ鉄骨が飛び出したコンクリート製の柱だった。
もう一度コンテナの蓋を開けて見よう。
「」
絶句である。
柱にブースターが取り付けてあって、先端にはトゲが付いている。もう1つの端にはグラインドブレードに付いているものに良く似た機構の機械が伸びている。
申し訳程度に入っていた説明が書かれている紙を手に取る。名前はマスブレード、やはりオーバードウェポン。
英語ではMASS BLADE。MASSは塊、質量、集まりなどの意味を持っている、それはいいのだがBLADEに関しては異議を唱えたい。どこが刃だ、と。
「……二枚舌め」
学園には追加の大型ブースターといって誤魔化したらしい、大胆って言うレベルの話ではない。
そもそも何故作った。設計者を小一時間ほど問い詰めたい気分だ。
そこからしばらく俺は眉間に皺を作りながら量子変換の終了を待ってるのであった。
28日のアクセス数が異常、なにがあった。
平行してちゃんと考えたSSを新しく始めるかも。