タイトル未定 ISの転生モノ   作:S字フック

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22 就寝前

「景斗、勉強しなくていいのかよ」

「いや、今してるって」

 

 夜、一夏は授業で出された宿題などの勉強に取り組んでいた。

 

「何の?」

「ISのメンテナンス」

 

 机に向かって教科書を広げ勉強中の一夏を尻目に、景斗は机に設置された端末を操作している。

 

 オーバーヘッドタイプのヘッドホンを装着し、音楽も聴いてているようだ。一夏の声は景斗の耳に届いているようなので本格的な音楽鑑賞ではないことは伺えたが、お世辞にも勉強中の姿とは言えない。

 

「いやいやいや。学校の授業の勉強は?」

「お前がトイレ行っている間に終わらせたー」

 

 そしてこの言動。傍から見ればとてもIS学園に所属する者の態度ではない。

 

「どうせならもっと面白いことを言えよ」

「そう言うお前は勉強をしなくていいのか?」

 

 このような時の景斗は一夏との会話を続けずに、話の流れを真っ向から切りに行くことを心がけていた。

 

「お前も勉強しなくていいのかよ」

「終わらせたからいいの。分からない所があったら俺に聞いていいよ」

 

 このように血も涙もない行為を景斗が続ける理由は、それ程大したことではない。

 

 一夏が勉強に対して真面目に取り組む時間が少ないこと。すぐに雑談を始めたがるので景斗はそれに応じず、勉強を続けさせた。

 

 客観的に見てみると、彼は隣で遊んでいるだけの迷惑極まりない存在なのだが、日々の授業で比較的頭が良いことは、たびたび一夏は見てきている。

 

 元々負けず嫌いな性分である一夏は何とか差を付けられまいと、追いついてやると、努力を続けている最中であった。

 

 そして、これ以上会話が続けようがない所まで景斗は一気に返答をしてしまうので、会話が続けようがないのだ。

 

 先ほどの会話で景斗が一夏に対して返した妄言としか思えない返答も事実であった。

 

  相部屋となった現在。一夏の目の前で魔法を使ったり、ドアを出したりはできないので、何とか一夏が部屋から離れているうちにドアを出し、時間が止まった異世界の中でのんびりと勉強する生活スタイルにシフトしている。

 

 この様子も客観的な視点で見てみると、ドアに入ったと思ったら次の瞬間にはもうドアから出てくるといった所。実際の時間は10秒でもあればいいのである。

 

 そして出てきて寝るまでの時間は趣味や興味のあることで時間を潰すのだ。

 

 その流れを一連して見てみると、一夏が隙を見せるまで時間を潰す。そして僅かな隙のうちにドアを出し、勉強。そして帰ってきたのなら寝るまで時間を潰す。

 

 一夏から見てみると、勉強せずに怠けているだけの存在であった。まさか、自分がトイレに行っている間に勉強を済ませているとは思うまい。

 

 そして現在はメンテナンスについての勉強中だ。別段やることもなく、これも授業の必修科目ではないので、率先的に勉強する気は無かった。所詮は暇つぶしである。

 

(なんなのだこれは)

 

 そしてその蓋を開けてみれば専門用語のオンパレードと高いスキルを要求される内容であった。

 

(……とりあえず、読み進めてから考えよう)

 

 始めに書かれてある内容はとりあえず分からなかったので飛ばし、その次の内容を確認してみる。

 

(うん、なんか聞いたことがある)

 

 見覚えのある単語や聞き覚えのある単語を多少発見。そしてそのまま速読に近いペースで次へ次へと進んだ。

 

 こうして半分まで読んで行く内に体感で分かったことだが、自分がなんとなく分かる内容と、全く分からない内容が1対9程度の割合で織り交ぜられている。

 

 そして、今読んでいる部分に関しては、全く意味が分からなかった。

 

(まだ英語の方が分かりやすい)

 

 そのページをとりあえず眺めていると、所々に始めに飛ばした内容が関連していることに彼は気がついた。

 

(……初歩の初歩を飛ばしたら、分かるものも分からないか……)

 

 そして渋々ながら自分が飛ばしたページに引き返し、そこの内容の把握に努めることにした。深く読み込んですらないのだから分るはずが無い。そう彼は考えていたのだ。

 

(……分からない内容だったのだから読み飛ばしたんだよねー)

 

 始めに出てくる単語の意味すら分からず、意味を知っても何処か頭に入ってこない。そしてそのような単語を結構な頻度で目撃するのだ。

 

 おそらくはそれを知っていることは前提条件で、それすら知らない人間は読むべきものではないのだろう。そしてそれを理解したことを前提条件として話が進んでいくのでなおさら分からない。

 

 入門用と書かれているが、分かる人間にはハードルは低く設定されているのだろうが、素人の彼にはとても難しいものであった。

 

 ハードルはとても低いのだろうが、彼はそのハードルの飛び方を知らない。何度も挑戦すれば理解は可能であろうが、暇つぶしにそこまで熱意を出せる程彼は人間ができてはいない。

 

(魔法でいいんじゃね)

 

 修復の魔法を使えば確実に直せるだろう。鉄くずに成り果てようが、只の金属片だけになろうが、存在そのものが消え去ろうが、魔法を使えば確実に修復はできるだろう。

 

 一体どのような原理でそうなるのかを考察してみたが、人間の理を超えたものが魔法と呼ばれる力なので、あまり深くは考えておらず、根拠もない。だが、信頼している力であった。

 

(というか進学校に通っていた人間が読む物じゃ無ぇ)

 

 この世界でも前の世界でも、彼が選んで入った高校は進学校である。目的が大学進学の進学校では、専門的な技術を磨くような場面はほぼ無い。

 

 故に、そこで磨かれる才能は座学の才能。そして2度もその過程を経験した景斗は、テストの点の取り方や覚えやすい暗記方法など、色々なスキルを持ち合わせている。それこそ進学校に通う学生の暮らし方についてのマニュアルを作れる程度には。

 

 だが、その知識と経験はIS学園ではほとんど通用しない。趣味の延長やインターネットで仕入れた情報などの知識は持ち合わせているけれども、それがISに役立つものは無い。むしろ先入観を持って取り組むことにより、害悪にもなりうるだろう。

 

(……あれ? IS学園って進学できるの?)

 

 学年別個人トーナメントなどでの活躍で、3年生は企業や国に顔を売るのが目的だと何処かで聞いた覚えがあった。そして、オープンキャンパスやセンター試験などの、彼が思う最も高校生らしい単語はここ最近は一切聞いていない。単語帳や参考書を肌身離さず持ち歩いている人間も一切見ていない。

 

(あ、あれ? 俺のキャンパスライフは? 俺の高校生活はどうしたらいいの?)

 

 突然の転校・女子ばかりのIS学園・専用機・無人機の襲撃。さまざまな出来事が立て続けに起こり、慌しい日々からようやく彼は抜け出せた。

 

 ようやく纏まった時間を手にいれ、学園生活にも若干慣れたことにより考えることが出来たこの疑問。答えを考えていけばいくほど、それは彼を不安にさせる。

 

 高校卒業までの一定期間限定だが、彼は2週目の人生であり、彼はそれを生かして、これから新しく経験する人生の難易度を出来るだけ下げていくつもりであった。魔法を必要としないほどに生温くなるまで。

 

 そして、その過程には当然ながら大学に入学する必要がある。地元の男子校に入学し、生前入ることを諦めた偏差値の高い大学を目指していたのだが、ISによってそのプランは叩き壊されてしまっていた。

 

(絶対に金には困らない。就職にも困らない……だろう)

 

 すでにミグラントという企業に所属し、IS学園卒業までには稼いだ給料は4000万は下らない算段だ。そしてISのパイロットとしてならこの先も引く手数多な状態だろう。確信は出来ない只の予想だが、革新的な出来事が起こらない限りは未来はそれなりに明るい。

 

 そして、手元にはある程度の纏まった金。これだけあれば一生金には困らない算段はついている。

 

 だが、彼が望むものはこんなものではない。普通に勉強し、普通に遊び、普通に働く。恋愛に関しては分からないが、それもある程度の予防線は張ってある。

 

 しかし、このまま時間がたてば、訪れる未来は確実に軍事関連の未来。それか、堕落した生活の2つに分類できる。もちろん、未来のことなので確信は出来ず、例外もあるだろう。

 

(……まあ、分岐点はまだ先か)

 

 彼はこの先の未来にはそれ程大きな不安は抱いていない。人間が作り出す不確定で膨大な未来の選択肢。自分の未来すら不確定で予想できないのにも関わらず。

 

(幸せなのか? 俺の未来は)

 

 現状の生活はそれほど悪いものではないし、手を出せずにいた恋愛も考える時期なのかもしれない。あの時、何も起こらなかったのならば。そう彼は思考に耽った。

 

(そうなった俺は行動を起こすか? 現に俺は動かないし、もう動けない。いや、もうすでに――)

 

 確定しない事項を考慮しながら、確定しない未来を考えるのは彼の頭にとても大きな負担を押付け、パンクする一歩手前の状況にまで追い込んだ。

 

 思考する事象を次々と変え、果てには決して答えのない問題すら考える。漫画やアニメの世界でも疎らな結論に至るため、人に聞いても必ず答えはバラバラになる。故に、その問題は誰にも吐き出せず、その答えを出すことはほとんど不可能に近い。

 

「あークソめ。一夏、もう寝る」

「おう」

「電気は消さなくていいや。お前が寝るとき消しといて」

 

 メンテナンス入門の項目を映す端末の電源を落とし、ヘッドホンを収納する。私物がほとんど無い景斗の机はかなり殺風景だ。

 

 歯を磨き、用を足し、コップ1杯の水を飲み、そのままベットに倒れこむ。彼の体重をも押し返す適度な反発と滑らかな生地の限りなく最良に近い代物だ。しかし既に当たり前のものと化している。

 

 考えることを放棄させるまで考え抜いた彼は限界に近かった。ただ、どうしてか照明の明かりがやけに目に付いた。普段ならこの程度の明るさでも眠ることは可能だが、今日に限って睡魔はやってこない。

 

(明日も鈴、箒、セシリアの誰がが部屋にやってくるよなぁ)

 

 目を閉じ、彼は明日のことを考える。

 

(教室ではあまり長い時間は過ごしたくないのに……)

 

 彼女らが一夏を迎えにやってくるのはそれほど大きな問題ではない。だが一夏はその輪に彼を巻き込むのだ。一夏とは精確の面で、どうにも相容れない。

 

(……辛い)

 

 思考があやふやになり、うまく形を成すことが出来ない。目蓋は次第に重くなり、睡魔は刻一刻と近づいてくる。

 

「景斗。まだ起きてるだろ?」

「……なんだ。一夏」

 

 一夏に話しかけられ、定かでない思考回路での会話に発展する。現実と夢は境界線はもうあやふやで、夢と勘違いしてもおかしくは無かった。

 

「ISでさ、みんなに追いつけるのかな。俺」

「……」

「全然勝てる気がしない。自信無くすって」

「……そんなの、お前次第だろ」

 

 おぼろげながら会話は成立した。

 

「なんでそう思えるんだ?」

「……姉ちゃんはそれで世界取ったんだろ。それで十分……」

「それは千冬姉が凄いんだ」

「そんなんなら、皆もまだまだ……誰だって未だに手探りだよ……」

 

 その言葉は本音でもあり、彼が感じていることを率直に表していた。

 

「もちろん俺も。いつお前に負けるか不安だよ……」

「……そうか」

「もう……寝させて。明日また話してくれ……」

 

 彼は正しく限界であった。

 

「わかったって。お休み景斗」

 

 返答は無い。聞こえてくるは彼の立てる寝息のみ。

 

「――寝ちゃったか」




ラウラにフラグが立ちそうに無い件について
どうにかしないと
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