タイトル未定 ISの転生モノ   作:S字フック

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いつぞやの書き溜めを解き放つ


26 外

あちらの攻撃を防ぎかわし凌ぎきっても、訪れるチャンスは容易に項を成すことはない。1度命中させるのにこちらは10は被弾をし、無駄弾の数はこちらが圧倒的に上。己が自負する高軌道時の精密射撃も、あちらからすればばら撒きに等しい結果だ。

 

 アラートは鳴り響く。被弾に被弾を重ね、機体のシールドエネルギーはあと僅か。動かなければ即座に弾丸がぞの空間に飛来し、停止する素振りでも見せれば狙い打たれる。集中力が途切れる片鱗すら筒抜けであり、何を取っても彼が勝てる要素は存在しない。もはや、どのくらいの時間耐えられるかが勝負になりつつあった。

 

「ああくそ当たれって」

「まだまだ。全然なってない」

 

 戦いのシステムは非情だ。負けている側がより不利になり、負のスパイラルからたやすく抜け出すことはできない。降って沸いてくるご都合主義など存在せず、今までの積み上げが全てを決める。現在、彼は主導権は完全に握られ相性もなにも関係なしに、実力差のみで押し潰されている真っ最中であった。

 

 火薬の炸裂音と鳴り止まないアラートが、彼を高揚させる。ほどよい緊張感と張り詰めた意識は、集中力が向上するための一因を担い、つつけばエネルギー切れになりそうなほど絶体絶命な状況の中で、彼は銃弾を避け続ける。

 

「火事場の馬鹿力ってやつっすか?」

「知るか!」

 

 ハイパーセンサーが真横に過ぎ去る弾丸を捉え、描く橙色の残光を確認するたびに安堵しそうになる。一瞬でも気を緩めることはもうできない。

 

「返すぜ」

 

 弾道予測に従いカラサワのフルチャージを放ち、共にランポードのトリガーを引く。

 

「機械に頼りっぱなしじゃオレにはまだ届かない」

 

 彗星の如く飛来する光は容易く回避され、続くランポードのための牽制という意味にしかならない。事前に察知し、その驚異的な弾速すら避けて見せた彼女は伊達ではない。余裕綽々といった表情だ。

 

「ほーら、お返しっす」

 

 弾丸を避けるために動かされ、動けばそこにも弾丸が飛んでくる。

 

 機体のシールドエネルギーは残りあと僅か。彼の避けるために残された選択肢はイグニッションブーストしか残されていない。それほど完璧なタイミング。

 

 何も確証のない自信だが、受けてもギリギリ一桁で耐えられるだろう、彼の感覚はそう告げている。だが、それだけである。イグニッションブーストで消費されるエネルギーのほうが遥かに少ない。決断は即座に決まった。

 

 ブーストを一瞬吹かし、反転した後にイグニッションブーストを起動。正反対の方向性を持つ推力で無理矢理に後退。一瞬の体中を押さえつけるようなGを歯を食いしばって彼は耐える。

 

「あ、ヤベッ」

 

 体に掛かる負荷が抜け、彼女の方向に意識を向けた刹那。その方向より飛来している弾にピントが合ってしまった。イグニッションブーストの慣性は保たれ、方向転換は不可能。……既に回避という選択肢は消え失せた距離だ。

 

(近っ――ってこれ走馬灯じゃ)

 

 命中。

 

 シールドエネルギーが潰え、何時も通りに景斗の負けが決定した。

 

 

 選択は悪いものではないが決してよい物でもない。前に進んだから次は真後ろなんて選択など、彼女には通じない。反射と直感で選んだ回避は読みやすさで言えば最も読みやすい。学園の模擬戦とは文字通り次元が違う。

 

「まあ、それなりに動けるようになってきたんじゃないですかねぇ」

「それって本音ですか?」

「社交辞令っす」

 

 それはPICのマニュアル制御。マニュアル制御よりも制御項目が格段に増えるが、それによってできる動きも格段に増える。景斗は既に戦闘に使用できるレベルにまで仕上げていた。その技術を体得するために行ったことは集中状態での反復練習のみ、蓄積する疲労は考えずにあきれるほど長時間繰り返し続ける。起きているほとんどの時間を費やして、ようやくこの段階だ。

 

 最も、PICのマニュアル制御程度なら候補生や先輩の中でも行っている人間は多い。候補生でもない彼にとっては別次元のものだったが、次元が違うという言葉には役不足だ。

 

 真に別次元の戦闘と至らしめ、学園と一線を画する要素とは――軍用ISのリミッター解除による極度の高速機動戦。

 

 競技で行われるISバトルでも、他の兵器を凌駕するほどの速度であるが、それすらスローモーションに感じるほどのスピード。底をつくことを知らない膨大なエネルギー量。

 

 ISが世界最強の兵器と認識されているが、見ることが容易な競技用のISではいささか力不足だ。現行の軍隊での撃墜は決して不可能ではない。リミッター解除後の機体を使用した彼には、競技用ISがいかに機能を制限しているかがよく分かった。

 

 あの性能こそ世界最強の称号にふさわしい。誰があれに勝てるというのか。

 

「仮想のエネルギーはなくなったけど、まだ本当のエネルギーはあるっすよね。戦いのレベルが低すぎてつまんないけど成長していくのを見るのは面白い。はやく強くなーれ」

 

 今の景斗は毎日ISを動かし戦う生活を続けている。阿修羅の住まう修羅道の如く、一日たりとも隙間はなく、また終着点も定められてはいない。

 

 訓練の相手を勤める彼女、名はレイラと聞かされている。体格はちょっぴり小柄、上のほうで束ねている金糸のようなポーニーテールはうなじに届くかといった長さ、コーヒー色の瞳は柔らかい印象を与える。

 

 ボーイッシュと形容できる活発な女性で、運動部の後輩のような立ち位置が非常にマッチしそうな外見を持ち、生身なら世の中の男性のほとんどはは嗜虐心をくすぐられるだろう小動物のような雰囲気だ。

 

 実物はそんなイメージとはかけ離れており、荒い口調に強気な姿勢が今までに抱いていた勝手な幻想を木っ端微塵に砕いていく。

 

 その性格の根源にはとても臆病な一面が存在している。第二回モンドグロッソへの出場も噂されていたが、その性格ゆえに参加はしていない。織斑千冬との戦闘は危険すぎると彼女は判断したためにだ。

 

 その臆病な一面が生み出すギャップに虜になる身近な男性は多く、守ってやりたいという願望を目覚めさせてきたが、彼女は戦闘の天才とも称され、危機感知能力も高い。彼女を守ってやれるような人間は非常に少ないだろう。

 

____

 

 

 時刻は土曜の昼過ぎまで遡る。土曜のISの基礎学習を終え、一夏らが午後の特訓に向かおうとしていたところ、事情を知らぬシャルルによって呼びとめられた。

 

「なんで景斗は一緒に来ないの?」

「土日はウチの企業で訓練することになってるから……」

「そうなんだよこいつ。何時のまにか勝手にそーゆー話になってて」

「お兄ちゃんは黙ってな」

「誰がお兄ちゃんだ」

 

 余談も甚だしいが、耳に入ってきた話で、学園の誰かが作る薄い本では一夏の弟という設定らしい。

 

 体格の良さと、自分は落ち着いた性格から当初は一夏の兄という設定だったのだが、後にギャップ萌え男子というレッテルを見出され、どんどん発見される属性という名の一面により、一夏の弟という設定になった。ドはまりである。

 

 そして新たに転校してきたシャルルは末っ子。異論を挟む余地は無かった。

 

「お前が俺のお兄ちゃんか……おめー妹とかいねーの?」

「いねーよバカ。変なこと考えるな」

 

 もちろん織斑マドカと名乗る少女のことなど、彼は知らない。恐ろしいものだ。

 

「だな、お前の妹ってことはああいうことだもんな」

「千冬姉を悪く言うなよ、少しは怒るぞ」

「おや、そんな話をしてるつもりはないんですけどねぇ。なんで千冬姉が出てくるんですかねぇ。ニヤニヤ」

 

 わざとらしく擬音を口にした。一夏も少しは千冬のことをそのような目で見ているらしい。すると――

 

「うおっ!」

 

 急に彼の背筋に冷たいものが走る。周囲を見渡し、警戒した。

 

「どうした」

「わからん、急に悪寒が走って。この話題はアウトかもな」

 

 遠くに織斑先生が見えたような気がした。どこからか出席簿が飛来しかねないと本能で感じ取った彼は、即座に話題を切り替える。

 

「とにかく、俺はさっさと行かなきゃならんのだ。これ以上は人を待たせかねない」

 

____

 

 

 IS学園を抜けると、彼を向かえに来た1台の軽自動車が目に留まる。ターコイズブルーの外見は、これから訪れる夏の青空を連想させた。

 

 窓の奥の運転手は20代後半の女性で、以前に聞いた紹介によると中途採用で数ヶ月前に入ってきた人らしい。ソフトショートの赤毛に健康的な体、モデルにも負けず劣らずの美女である。

 

「藤咲さーん」

「やっと来た。ちょっとコンビニ寄っていい? 駐車違反は中に君がいれば切られないでしょ」

 

 そういって会うないなや出て行ってしまった彼女の名前は藤崎羽衣(ふじさき ゆい)。週に会うのは土日のみだが、お互い波長が合ったのか次から次へと話題が広がる。

 

 後部座席に深く腰掛けた。首からぶら下がるドッグタグを意味もなく弄る。彼はこれから負けるためにミグラントへと足を運ぶのだ。

 

 彼は自分の送り迎えをやらされている状況に、彼女の身を案じることしかできなかった。本人曰く、会社にいても書類整理しかやることないし、渡される仕事もすぐ終わらせちゃうから暇なんだよねー。とのこと。

 

「はい差し入れのスポーツドリンク。これからがんばりなよ」

「ありがとうございます。僕の分まですみませんね」

 

 レジ袋より500ミリペットポトルを渡される。袋が透け、中にスイーツが見えた。彼女もやはり年頃の女性なのだと改めて実感する。

 

 車が発進する。しばらくはどうでもいい雑談で盛り上がるのが、彼らのルーチンと化している。

 

 

 

 今日の話題は『なにが怖いか』。先日の一夏と同じホラーゲームの話題を振ったところ、それに火がついた。

 

「あーー。ムリムリ見たくない見たくない」

「全然怖くないじゃん」

「アンタがおかしいの、その感覚は」

 

 というわけで、携帯端末でその手の画像を検索し盛り上がる。景斗が見せられているのは、流血・内蔵系のスプラッタな画像。それを彼女は平気で見れる。

 

 彼らは絶対に検束してはいけないワードを片っ端から検束しているのだ。

 

「返しますよ。ここに置きますからね」

 

 助手席にバウンドしない程度の高さから落とす。次に触れるのは赤信号で止まったときだ、その入力速度の速さに彼は唖然とした。

 

「じゃあ、連コラとかどうですか。俺は無理」

「あれ無理。鳥肌でちゃう」

「虫。俺は無理」

「私も」

「お化け」

「余裕」

「マジ? 怪談も?」

「どう考えても作り話でしょ」

 

 バックミラー越しに目が合う。口元の吊り上がりがありありと見え、薄笑いを浮かべていることが彼に伝わった。馬鹿にされている。

 

「じゃあなにが怖いんすか」

「高い所がダメ。軽い高所恐怖症」

 

 自ら怖いものをカミングアウト。すでにお互い心を開きあっていた。ほとんど接点のない彼女との損得勘定のない付き合い方は、時に身近にいる人よりも親しいものになる。

 

「えー。面白くな」

「これが中々厄介なの」

 

 特に高いところが苦手なわけでもない景斗にとって、なにが厄介なのか良くわからなかった。高い場所が苦手な友人を思い出せば怖い場面は想像できるのだが。

 

「実はISのランク、結構いいんだよね」

「ん?」

「装着しても足がすくんでまともに歩けない。残念」

 

 彼女のIS適性はAランクを叩きだしている。だが、本人の意向によりパイロットにはついていない。適正は十分すぎる数値なのにも関わらず機体には乗れず、今はISの開発部門が職業という皮肉な状況に陥っていた。

 

「ジェットコースターとか何が面白くて乗ってるのさ」

「その手の施設に魅力を見出せないとは……」

「平気な女のほうが多いってのが世間の常識だけど、私みたいのもいるの」

 

 ふと彼は窓の景色を確認する。楽しい時間が早く過ぎる法則を、これほどまでに忌々しく思ったことはなかった、到着まであと30分もない。大きなため息をついた。

 

「ため息をつくと不幸になるよ」

「月曜日の朝みたいな気分だわ。土日なのに」

 

 これから行われる訓練と比較してしまうと、学園の訓練はどうしてもくすんで見えてしまう。それこそ安心感を覚えるほどに。自信は否が応にもついてしまう。

 

「自分で言い出したんでしょ。辛いだけだよ」

「あいつに負け続けるのはもっとやだね」

「男の子だねぇ」

「IS動かせるのにねぇ」

 

 時間は止まることなく進み続ける。彼は今までに感じたことのない複雑な気分になっていた。

 

 強くなる嬉しさ、学園から一時的に解き放たれた開放感、彼女との会話による純粋な楽しさ。休日を無碍にしている悲しみ、訓練を直後に控えた緊張感に、ほんのちょっぴりとした後悔。全てを投げて逃げ出せたらどんなに楽だっただろう。




vdのストーリーは一通りクリア。今はパーツ集めを。

名前変わってんじゃねえか色々増えてるじゃねえかコノヤロウ。
vdに適応するまでがんばりたいと思います。
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