タイトル未定 ISの転生モノ   作:S字フック

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戦闘シーンだけ書いていたい


29 ペア

 学園の放課後に景斗は、数人の女子と共に保健室へ向けて歩いていた。専用機持ちらがごたごたを引き起こし何人かが負傷したらしい。

 

 さほど急ぐような事態でもなかったのと、例のトーナメントの急遽変更が入ったペアの話を凌ぎながらだったので、移動速度は遅かった。

 

 大して面識の無い女子とペアを組むことは、「行けたら行く」みたいな約束を取り付けて遠まわしに断った。その子が景斗と組む確立は極端に低い。

 

 他愛も無い話をしているうちに保健室に着く。保健室は既に大量の女子でにぎわっていた。しかし、どこか空気が張り詰めていた。

 

「おーっす」

「景斗。来てくれたのか」

 

 一目見たところ重傷なのはセシリアのみだ。鈴は思ったよりも軽症でベットに腰掛けていた。どうやらダメージレベルがCを超えているのはセシリアのみで、鈴はトーナメントへの出場が可能らしい。

 

 ラウラとの戦闘では一夏が奮闘し、戦闘の被害をかなり抑えたと聞いた。それだけではなく、セシリアと鈴も景斗の情報よりも強くなっている。

 

 セシリアが重症なのはただ単に戦闘の流れでそうなっただけであり、セシリアと鈴の実力差はほぼゼロに等しい。今のラウラの技量では同時に2人を手玉に取ることは相当難しいだろう。

 

 彼が現状を確認しているうちに、集まっている女子から声をかけられる。

 

「景斗君っ、トーナメントのペアはもう決まってる!?」

「まだだけど……」

「なら私とお願いします!」

 

 抜け駆けに近い形で用紙を突きつけられる。専用機持ちと組めばトーナメントで上位に登れる確立は高くなり、学園で2人しかいない男子となれば一石二鳥、メリットしかない。

 

 もちろん彼もほぼ同じことを考えていた、彼も専用機持ちと組みたい。しかも多くの時間を一緒に過ごした顔見知りで、気もいくらか楽だ。むしろそこを重点的に考えていた。

 

 無論彼は断るつもりでいた。なので「組みたい相手がいるから」といってやんわりと断った。きっぱりと断れないあたり彼も優柔不断だ。

 

「一夏ー。ペアは?」

「ごめん、もうシャルルと組んじゃった」

「うん、少し前に流れでね……」

 

 最も気が楽な相手を女子に取られてしまっていた。対立関係など二の次である。男子であること今の彼にとっては一番大事である。

 

「箒は?」

「つい先ほど鈴と組んだ。私も優勝を狙っているのでな」

「あんたが遅いのが悪いのよ」

「そんなっ」

 

 今日はテストした新製品についてのレポートを書かなければならなかったので、放課後の訓練には参加できなかったのだ。終わりも近かったので久し振りに訓練に参加しようと思ったらこのザマである。ISを使ってレポートを製作しているのでドアの向こう側ではやれない事情があった。

 

 セシリアは出場できず、ここに集まった専用機持ちは全てペアが決まっていた。つまり周囲にいる女子は景斗にペアを申し込もうしているのだろう。部屋に入ってきた時の空気はこれが原因である。

 

「誰をペアにしたいとか考えてるのか?」

「うーん、ペアっつてもなぁ……」

 

 彼はトーナメントの順位などに興味は無かった。勝っても負けても直接的な損も得もなし、なによりISバトルへの熱意が無かった。見知らぬ女子を打ち倒しても嬉しくないしむしろ気が引ける。

 

 唯一のこだわりといえば一夏との対戦程度だろう。男対男ならば気兼ね無しに戦え、他の誰よりも戦いに熱が入る。何よりも今までの練習は彼を倒すために行われてきたのに、一夏と組んでは本末転倒であろう。

 

 トーナメントで一夏と決着を。

 

 そう考えると彼にやる気が湧き出てきた。つい先ほどまで抱いていた考えを投げ捨て、個人的な闘争を念頭に置くことにした。彼の二転三転する思考回路ほど厄介なものは無い。

 

「一夏は優勝を狙ってる?」

「もちろん、出るからには優勝を目指さないと」

 

 今の一夏なら訓練も大してしていない生徒など軽く蹴散らせるだろう。問題は他の代表候補生たちだが、ペアにはシャルロットがついているのだから負ける可能性はさらに低くなる。番狂わせが起きない限りかなりの確立で勝ち進むペアであった。

 

 景斗も専用機持ち、訓練時間は他の生徒と比べ物にならない。代表候補生以外に負ける自身は無かった。

 

 彼にはトーナメントのマッチがどのようになるのかは予想がつかない。だが完全にランダムでないことは確かだろう。なにがどう動くかなんて考え、誘導するつもりは無いし、もとよりトーナメントとはそのようなものでもない。

 

 それと、大きな懸念材料としてラウラの存在があった。箒とペアにはなってないが、一夏と当たったあげく全ての試合が一回戦のみなんてことになったらどうしようもない。

 

 いくつか対処法を考えたが不確定要素が多すぎるので断念するしかなかった。そしてなによりも自分の行動が制限され過ぎる。そこまでして彼はストッパーになる気は無い。

 

 ともあれ、状況は変わっている。実力も変わり組み合わせも変わった以上どこかにズレが生じてくるに違いない。そう彼は考えている、決して楽観視ではなかった。

 

「俺もそろそろペアを申し込んでくる」

「誰?」

「決まったら言うよ」

 

 一方通行な関係が1つだけそこにはあった。

 

 クラスも別、大した関係も持たず、一緒につるんだり放課後訓練したりなんてしなくて、廊下ですれちがう時に一言二言挨拶を交わし、食堂でたまに会話をする程度の関係性。一夏らとはまた違った雰囲気の友人。

 

 名前は更識簪。彼が学園で共闘関係を結んだ唯一の人間であり、代表候補生でもある実力者だ。

 

____

 

 

 セシリアらに見舞いの言葉を告げ部屋を出た。更識簪の居場所を特定してるわけでもないが、単に今いた場所は心地良くは無かったので口実として使ったまで。

 

 通りかかる女子から「暇?」「用事とかある?」などどそれなりの回数聞かれたが、「人を探している」と答えれば察して諦めていった。彼は彼女らの積極性の高さに呆れるばかりであった。

 

 寮の部屋の場所は知らない。彼女が部屋に帰っているのならば探しても無意味だったが、なんとなく意味も無しに歩き続けた。人に聞くのは無意識のうちに選択肢から外していた。今日は彼の引っ込み思案な一面が強く浮き出ているようだ。

 

 ほぼ人のいない学園をうろついて、行ける限りのアリーナを梯子し、日もそろそろ暮れるかなといった時間に整備室にて彼女を発見した。

 

「更識さん。やっと見つけたぁ」

「あれ……? どうして」

 

 いつからここに篭っていたのだろうか。その困惑した表情は、いまだにペアに関しての情報が伝わっていないことを彼に知らせた。

 

 あたりには様々な工具が散乱しにぎやかな様子であったが周囲に人は十にも満ちておらず、耳に入る作業音も僅か。多くの人は既に帰った後だった。

 

「今時間貰って平気?」

「うん……ちょっと待ってね。今日はもうちょっとしたら終わるから」

 

 いじっているのはブースターであろうか、と彼は一目見て思う。粗方の部品は纏まっており、組み立ては大方終了しているようであった。

 

 それほどの大きさは無く、補助ブースターの類であると彼は予測する。手伝えることはなさそうだ。

 

「えーっと、ながらでいいので聞いてください。次のトーナメントのことで――」

 

 大体の概要を横からざっくりと話す。

 

「――というわけなので、僕とペアになってくれますか」

 

 彼女は一旦停止する。確実に困惑しているなぁ。と彼は脅える。自分が断ってきた女の子たちもこんな気分だったのだろうか。想像すると、少々気分が悪くなった。

 

 景斗し簪は、いつぞやのバトル以降全く縁がなかったわけではない。食堂でたびたび席を共にしているのだ。

 

 簪と彼女の友達二人に混じりこみ、4人で漫画やアニメなどについて話ながら食事をする風景がたびたび目撃されていた。一夏と少しでも行動がずれると一人飯になるので、そのたびに誘われ、一緒の席についた。

 

 あの空間は、気が楽だった。自分の心の底にたまっているモノを少しは吐き出せる。

 

「それ……全部本当の話?」

「うん。ちょっと待って、プリントを……」

 

 見せるから。と言いかけた。

 

「あ」

 

 視線が左下に落ちる。どこにしまったか、とポケットを探りそうになる。彼が持っているはずが無いのに。

 

「申し込み用の紙貰ってなかった」

 

 それどころかどこで貰えるかすら知らなかった。

 

 彼と彼女の差は大して無い。どちらも知らされる前まで己の作業にふけっていたのだから。自分から動くことをほぼしていない。

 

「……はぁ……」

「そんな露骨に呆れないで」

 

 ため息には呆れにも、いろいろな気持ちが混じっていた。しかし気が付く人は誰もいなかった。わりと呆れの成分が強い。

 

「まだ完成してないから……私の機体」

「……ダメなの?」

 

 コクンとゆっくり首を縦に振った。

 

 断りたくて断るわけではない。その申し出を受け入れたい、はいと言えるなら言っている。彼女の事情が、それをさせてくれない。

 

「……もしかして、一人で」

 

 声の余韻がやたらと響いた。気が付けば、もう誰もいない。

 

「そろそろご飯にしようか」

 

 作業は少しは前から止まっていたのだろうか、数分前と部品が変わっていなかった。

 

 いそいそと片付けほ簪は始める。データの保存にISの収納作業、ちょっとやそっとで終わるものではない。

 

 ただのお節介か。善意か。あるいは同情かもしれない。彼も片付けを手伝い始める。

 

「……ありがと」

「どーも」

 

 知らないうちに傷口に触れた気がした。痛みの声は聞こえない。このまま、いつもどおりに接して、見なかったことにしようか。彼の頭に真っ先に浮かんでくる思考の優先的選択。

 

(近づかない、触れない、気にしない、これを守っていればとりあえずダメージはそこで止まる)

 

――本当に?

 

 いつだかの、ヒーローみたいと呼ばれた記憶が彼の脳裏に浮かぶ。そんな気は無いし、実力もないので否定した。英雄願望なんて、自分から最も遠い感情。頼られたいとか、お礼を求めているわけではない。

 

 一夏のように純粋な善意ではないことは、彼自身自覚している。偽善とか利己心とか同情とかで濁っている上に、引っ込み事案な一面が拍車をかけ、中々素直になれないでいた。

 

(あそこで片付けを手伝ったのはどうしてだろうか。何故、俺は責任なんて感じているのか)

 

 彼と彼女の初会合の場であった戦い、あれで全てがおかしくなったと彼は悟る。

 

 責任。こうして彼女を目の前にしないと湧き出てこないちっぽけな責任感。だが彼が持つしがらみの中では特に重く、暗く光っていた。

 

 これ以上は、耐えられない。

 

 だから、ほんのちょっとの勇気を振り絞ってみようか。

 

「……明日もここにいる?」

「うん。そうだけど……」

 

 もう、ここまできたら引けない。

 

「明日から俺、手伝うよ」

「…………」

 

 答えは沈黙。首肯ではない。

 

「嬉しいけど、そういう雑用とか……手伝ってもらえることは無いよ」

「あの頃の俺とは違うのよ」

 

 確かに、何も考えない力仕事はすぐに終わってしまった。やはり男、筋力の差は大きく全部纏めて運べる力を持っている。これは確かに速いな。と簪は思うが、やるべきは肉体労働より頭脳労働。

 

 機体の開発はかなり専門的な分野だ。一年のこんな初めの時期にする勉強ではない。だから誰にも頼めないし、なによりも彼女自身が頼ろうとしていない。優秀な姉の存在が、彼女をそうさせていた。

 

 このまま一人で進めるのなら、完成するころには年を越しているかもしれない。もちろん夏休みも返上して、事故もなにもなかった場合の話だ。終わりは見えそうに無い。

 

 そしてなによりも、行事に参加できないのが悔しい。今、悔しい。

 

「なにが?」

「もうただのモルモットじゃないってこと。今ではすっかりただのテストパイロット扱い」

「モルモット扱いだったんだ……」

 

 治験の類だと思えば気が楽だったと彼は回想する。

 

「ひどいぞウチ。研修もなし、投げっぱなしが基本。今思えば初めの武器テストが研修扱いだったのかもしれないけど、それはそれであんまりだと思う」

 

 世の中、特例には常識は適応されないということに彼は気が付いた。

 

「案外激務で困るって、プライベートにまでしれっと侵入してくるのやめてくれませんかね。期限が近すぎんだよ」

 

 おかげで最近は疲れ気味であった。

 

「ウチの営業がバカみたいに仕事とってくるから。そんでもって俺が速めに終わらせようと張り切ると、見透かされて次の仕事を押付けられる悪循環」

「……ブラックなの?」

「うん」

 

 といっても、自由時間がゼロな訳ではない。給料も必要以上に貰っているし、一介の高校生には見合わないが仕事量だが、総合的に見ればいいかな、と彼は最近思い始めている。

 

「だからいろいろ手伝えると思う。ほんと教科書とか読んどいてよかった」

 

 やはり経験を積むのが一番だったと彼は思う。

 

 何だかんだ愚痴っているうちに片付けが全て終了していた、なので彼女は帰る素振りを見せていた。表情は軽くなっている、愚痴で気が少しでも別の方向に向いたのなら、よかったと彼は安堵する。

 

 そして、彼女は後ろを振り向いて景斗が歩み出すのを待っていた。

 

「なら、嘘ついてないか確かめてあげる」

 

 そういって、彼女は微笑んだ。

 

「ご飯食べながらクイズします」

「クイズ?」

「テストって言い換えてもいいよ」

「ISのだよね?」

「もちろん」

 

 こんなにも近くに手を差し伸べられたことは無かった。向けられる感情は決まって小さく哀れみを含み、次の日には消える程度のもの。所詮は他人事だと彼女は分かっていた。だから一人で全てをこなした。

 

 そんな簪が、差し伸べられた景斗の手を掴んだ。なぜだろう、彼女自身も理由は分かっていない。

 

 二人は整備室を後にする。いつからか自分が変わっていた。彼女はその原因となった男と共に、道を歩き始める。ペアになれない悔しさはすっかり吹き飛んでいた。

 

「本気で勝ちにこないでね?」

「……かっこ悪いよ、いまの一言」




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