タイトル未定 ISの転生モノ   作:S字フック

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眠れないので


31  孤独の

 大会当日、誰もが注目を集めるペアがそこにあった。

 

 佐藤景斗、ラウラ・ボーデヴィッヒ。この二人がペアとなり、大会に参加する。

 

 運営する教師陣もこの事態は想定してなかったらしく、調整が入り準決勝まで専用機持ちとは当たらない。なんでよりにもよって、と愚痴をこぼす教師が職員室にはいた。

 

 同じブロックにいる専用機は一夏・シャルルペアだ。どういうブロック分けがされていたかは知らないが、二人にとっては好都合といえた。

 

 皆景斗を探すが、見当たらない。かなりの早い時間に現れ、トーナメント表を見ていくと早々に立ち去っていた姿が目撃されていたが、それ以降目撃は無かった。

 

 それではどこにいるかというと、2人はガレージにて2機間のサポートを設定している。

 

 具体的な内容は、シュヴァルツェア・レーゲンの演算代理。ミサイルを撤去し、新たに積んだサブコンピュータで随伴機の設定、通信、処理能力の強化を行う。

 

 ラウラが景斗とペアを組んだ理由の一つであり、いるだけで役に立つのであればペアを組んでも構わないらしい。余計な連携で、総合的な戦闘力を上げるよりも、彼女自身の底上げを図ったほうがトゲが立たない。

 

 彼女は表には出さないが、一般生徒よりかはまともに動けることも評価していた。幾分かマシである、といった程度であるが評価していることには変わりは無い。

 

 二人の距離は縮むことも狭まることもしていない。教室では会話も特に無く、接点も無い。お互いただそこにいるだけの関係であった。ラウラが彼を見る目も、男とはいえ有象無象の一人。と、なにも無い。

 

 刃を交えたことも無く、戦う姿を見せたことも無い。連携の確認もせず、二人でいるだけ。だが勝ち進むだろう。確実に。

 

____

 

 

 佐藤景斗、ラウラ・ボーデヴィッヒペア、一回戦目。会場は満員で、立ち見する生徒も見られた。

 

 しばらく見ていない景斗の試合と、単機でも優勝候補のラウラの顔見せである。必然と言えた。そんな会場を尻目に、二人は落ち着いている。

 

「お前は逃げ回ってればいい。私が全て打ち倒す」

「護身はするさ」

 

 正直、この試合は動作テストのようなもの。サブコンピュータの連携の効力を確認するための試合。あまりにも相手に対し無礼であった。

 

「必要になったら盾構えて逃げてるから」

「どこまで処理能力が強化されてるか、この試合で確かめる」

 

 ラウラも多少は不安な気持ちを抱いていた。今までと感覚が変わってしまっては困るし、強化ではあるのに、先を思い描けない事態が心を波立たせる。たとえ一般生徒でも、試合に気は抜かない。

 

「それじゃ、そろそろ出ますか」

 

 言いながら、彼は壁に持たれかけてあるスレッジハンマーを手に取る。長い時間埃を被っていたのか、赤色をしていた頭部塗装は所々くすんだ色に変色している。

 

「それで戦うのか?」

「2、3回振ったら捨てるさ」

 

 初期装備の意外さで揺さぶりをかけ、相手を動揺させる意味合いが最も強い。そのほかは興味本位な感情が占める。鈍器を振るうのは初体験だった。

 

「あまり失望させてきくるなよ」

「了解」

 

 そうして出撃する。無機質な部屋から、開放感溢れるアリーナへと飛び出した。

 

 

 観客が一気に沸きあがる。そして、ざわめきに変わった。

 

(いいぞ、利いているな)

 

 すでに戦いは始まっていた。戦う姿を隠すことのできないこのバトルで、情報戦は仕掛けられていた。ブラフ、ハッタリ、隠し玉を匂わせ、相手を内側から崩す。

 

 疑いを持ったら彼の勝ち、一瞬思考に惑わせるためだけにこれを行う。

 

「ちょっと、どういうことよ。違うじゃない」

「知らないわよ。だって最近景斗君戦わないんだもん」

「せっかく気づいたクセ使えないじゃん」

「いやいや、あっちから仕掛けてくるとは限らないよっ」

 

 ひそひそ相談する相手ペア。どちらもウチガネだが、装備は見えない。片方は防御を犠牲に速度を重視しているということが、されている簡易なカスタマイズで判明した。

 

「どうする? 先に景斗君は落とすって決めたよね」

「もうどうしたらいいかわかんないよ。そもそもラウラさんがいるから絶対勝てないじゃん」

「そうだけど……」

「とりあえず、剣で一泡吹かせてみよう」

「逃がさないでね、お願い」

 

 雑談終了。

 

 それとほぼ同タイミングで試合開始のカウントが始まる。

 

 3・2・1と。誰もが3秒の密度を味わう中、景斗とラウラだけが涼しく流していた。

 

 そしてスタートの音が響き渡る。戦闘開始だ。

 

 

(逃げられたら、追うのは、キツイ。一気に攻める!)

 

 飛び掛るように相手の二人は動いた。序盤は一対一を2つ展開するのが目的、なんともあっけなく分断は成功する。

 

 ラウラは真っ向から受けて立ち、景斗はずるずる後ずさる。

 

 防御重視の片方がラウラに削りきられる前に、景斗に致命傷を与える。弱い場所に攻め込むことは、勝負の鉄則である。

 

 ただ、彼はそこまで弱くない。

 

「せいッ!」

 

 近接ブレードを手に取り、振るう。景斗は上体をそらし、後方へ大きく跳躍する。

 

(やっぱり攻めてこない!)

 

 攻撃は激しく。引く景斗に喰らいつき、真っ向から唐竹割りを叩き込む。

 

 対し、彼はスレッジハンマーで軽くたたく。衝撃で、彼の手が痺れる。

 

 刃を押付けるようにブレードを差し出し、スレッジハンマーを誘い出す。刃物と鈍器が触れ合い、しのがれるが押し合いには応じない。剣を傾け、彼の握り手を切りつける。

 

「むっ!?」

 

 鍔の役割はつばぜり合いで指を保護するため。生身では指を落とされていただろう。彼は反撃にと慣れないハンマーを力任せに振り回す。

 

 だが、当たらない。出鱈目に振り、かわされ良いようにあしらわれる。そして、速度の乗らない軽い振りにブレードを合わせられ、攻撃の手を切り伏せられる。

 

 スレッジハンマーは簡単に流され、胴が無防備な状態をさらす。その大きすぎる隙には、定石通りの突きが襲い掛かる。

 

「ヤバいって!ヤバいって!」

 

 逃げるために急上昇。ついでにハンマーは捨てる。

 

(最後の一発がでかいッ)

 

 ダメージを確認して、ラウラの状況も確認する。その結果、展開すると決めたのはスナイパーライフル二丁。

 

 彼は先のやり取りで、大まかな動きは感覚として理解した。今度はそれを、全力で逃亡に使う。

 

 連射の効かないスナイパーライフルを1発放つ。タイミングをずらし、もう1発。ただの牽制、わざと外れるように、当てて勢いを落としてしまわないように。

 

 リロードの隙をわざと作り、攻撃に最適な隙をお膳立てした。

 

 こんどは彼が相手を釣る番だ。逃げる速度を落としながら大振りを誘う。どこまでも追いかけてくるような攻撃には急転換で切り離し、合間合間に弾をバラ撒き、小さくダメージを稼ぐ。

 

 まるで鬼ごっこだ。ウチガネは頭に血が上り、遊ばれていることに気がつかない。

 

(なんだ、こんなものか)

 

 距離をとって撃てばどうと言う相手ではなかった、落胆する。

 

 おそらく、ラウラはもうすぐ相手を倒す。自分が好き勝手に動けるのはそれまでだ。

 

 交わした約束は、行ってよいのは自衛のみという内容。ラウラが相手を打ち倒し、ターゲットを変えたら射撃は許されない。支援攻撃もラウラには不要。

 

 つまり攻撃できる時間には制限がある。追いかけっこしているだけのつまらない試合になりかねないのだ。

 

 攻めずに逃げ回るのは止めにし、攻勢に彼は転ずる。

 

 新しく取り出した武器はレーザーライフル・Au-L-K37。カラサワの性能をマイルドに調整した新製品。実戦初披露の一品である。

 

 値段も(カラサワに比べて)低価格を実現。トーナメントで宣伝して来いとの指示があった。

 

(下世話だなぁ……)

 

 もう後先考えずにブースターを吹かし、全力で逃げ回りつつチャージを開始する。片手には盾を出したいところではあるが、今は温存する。出す情報は少ないほうがいい。

 

 ウチガネはそれでも追った。相手を変えることはしないようで、まさに深追いをしている。

 

 引き離したところで、狙いを定め必中の範囲まで引き込む。機械による精確な偏差射撃と単純な回避が相まって、外す自信は無かった。

 

 トリガー掛かる指から力を抜き、銃口から莫大な熱量を持った粒子がアリーナの空気を切り裂き、超音速でウチガネに突き刺さる。

 

「やったか!?」

 

 衝撃でウチガネの動きが鈍る。さらに連射し、追い撃つ。何条もの光がウチガネに伸びていった。

 

 だが、効いていない。レーザーの持つ熱エネルギーは大きな装甲に吸収され、大したダメージには至らない。

 

(あれ?)

 

 ウチガネは防御型、とくにレーザーなどの熱量攻撃にはめっぽう強い。彼は最悪の手を選んでいた。

 

 やはりライフルで……と思った瞬間にはラウラの決着がついていた。事実上のゲームセットである。

 

____

 

 

 初戦が終了し、降り注ぐ質問を拒否して、やってきた二試合目。

 

 相手はウチガネとラファールの組み合わせ。どちらもライフルを装備している。

 

 今度は片方を相手にしろとラウラの指示があり、向かい側のラファールを景斗は相手にする。

 

 相性もコンビネーションも助け合いも一切無視し、実力差で相手を叩きのめすだけ。ただ、いまだに景斗は装備を出していなかった。

 

「まさか無手で戦うつもりか?」

「まさか、もうすぐ開始だから、出すよ」

 

 粒子が身を包み、形になる前にカウントが開始される。出したのはムラクモ二つ。またしても近接武装で開幕を迎えることに彼は決めていた。

 

 相手はそれがなんなのかわからない、一目見て追加装甲かシールドが思い浮かんだ直後、スタートの合図がなる。

 

 

「――っ、いきなり!?」

 

 開始と同時に彼は正面から愚直に突進した。相手と自分を直線で結んだ最短距離を突き進み、相手の体めがけてとび蹴りを仕掛ける。

 

「ふざけたマネを!」

 

 ラファールは跳躍し、飛び越えながら引き撃ちを仕掛ける。

 

「ふざけてなんかないさ」

 

 地面に足をつき、つま先を軸に180度旋回。向かう銃弾を上体の動きだけで避け、上空の相手に向かって彼は跳んだ。

 

 ダメージ覚悟で距離を詰め、加速。高さと方向を合わせ、ムラクモのブレードを展開する。

 

「そらよっ!」

 

 胴めがけ右腕を振り抜く。刃は装甲の表面を引っかいたが、ダメージにはならない。

 

 だが、体は止まるどころかさらに加速する。爆発するように急激にブーストを使い、間合いを詰め、左のブレードがラファールを袈裟懸けに切り裂いた。

 

「左が当たるのか」

「なんだよ、それっ」

 

 振り終わったため、次発までに距離をとる。

 

 速度と重量と硬度のかけあわせで、強引にラファールの装甲を切り裂いた。ダメージは比較的大きい。ただし、初見殺しには至らない。

 

 観察すればブレードが見え、近接武装だと気づくだろうがそんな時間は存在してないない。開始からまだ30秒もたっていないため、命中が確定したあのときまで未知の武装であった。

 

 正面からの不意打ちでダメージを稼げるチャンスは一度きり。それは成功したが、ここからがバトルの本番となる。初撃は開始の合図にしかならない。

 

 そして気がつく。万能機が使う、後付け武装の弱点を。

 

(振ったらクールタイムを必ずはさむ、隙なのか?)

 

 後手に回って、後の先を突けばやりたい放題。その考えを確信したのは、2回目の接触だった。

 

 景斗は1、2とムラクモを振るう。回避に集中すればそれほど難しい攻撃ではなく、避けることに成功する。そして、2度攻撃したら、必ず距離をとる定石に気がつく。

 

 攻撃はその隙に付け込むと彼女は決意する。

 

「見掛け倒しだね」

 

 彼女の顔から困惑が消えるのを確認した景斗は、時間が経過する前にダメージを稼ごうと考えていた。

 

 できるだけ攻撃を避けながら距離をつめ、イグニッションブーストを使用、速度と共に一太刀で切りつける。

 

 二の太刀は使わず、そのまま距離を保つ。至近距離から銃弾を浴びながら、無理をして1、2とムラクモを振るった。

 

(さて、このぐらいかな)

 

 完全策をとられてしまうとムラクモで切りつけるためには無理をするかイグニッションブーストの2つに限られてくる。遮蔽物もパートナーも使えないので正面から挑むしかない。

 

 それか2連続で振るわずにインターバルを守りつつ張り付き、攻撃のチャンスを常に持ってプレッシャーを与える。命中には期待できないが、相手を止めることぐらいはできる。

 

 しかし、二対二をしていないこの対決では使える方法ではなかった。

 

(このまま打ち続ければ……)

 

 正直、景斗が射撃戦に切り替えたら勝機は薄くなる。専用機持ちのスペックはやはり高い、端から今のこの時期に勝てる相手では無いのだ。

 

 しかし、よくわからない近接武装を使い続けているのなら勝てない相手ではない。使い慣れていないのか、既に使いこなしているのかは、彼女にはわからないが、攻撃があまりにも単調すぎた。

 

 攻撃に慣れてきているのはもちろん彼女だけではない。同様にして景斗も射線を読み始めてきたのだ。

 

 外れる弾数が次第に増えてきている、この事実に彼女は、じわじわとした危機感を感じていた。時間がかかりすぎると。

 

 ラウラがこちらに向かってきたらそこで終了だ。彼女らにとってこの試合は、そもそも勝てる試合ではないのだ。

 

 が、試合を捨てるようなことはしない。最後まで足掻くと覚悟して試合に望んでいたのだから。

 

(四の五の言ってられない――)

 

 彼女は、がむしゃらに両手を振り回す景斗の距離を少し詰めた。当たらないのなら、当たる距離で撃てばいいと。

 

 ラウラがいれば勝ち進める彼にとって、これは消化試合に等しいのだろうと彼女は思う。乾ききっている、熱が入っていない。どうしてもそう思わずにはいられなかった。

 

(ダメージをできるだけ抑えればいいのに。体力を温存すればいいのに。……いいなぁ)

 

 羨ましかった。――勝ちたかった。

 

 避けては撃ち、避けては撃つ。この繰り返し。刃は2回で攻撃は必ず止まる、そう彼女は()()()()()()()。だからすこし無茶をする。

 

 攻撃を紙一重でかわし、接触に近い距離で攻撃を仕掛ける。だが、前触れ無く出てきた勝利への欲に、景斗は手を伸ばした。

 

 二振り目の左が終わり、お互いの距離が開くと思われたその時、予測もしない3発目が彼女の視界を揺さぶった。

 

「痛っ――!」

 

 振りぬいた左を返し、彼女の側頭部に裏拳が叩き込まれた。

 

 続けて胴に右ブローを当て、左足で回し蹴り、最後に右後ろ回し蹴りで後方へと吹き飛ばす。

 

「まだ、続くよ」

 

 イグニッションブーストで追う。既にムラクモは振るえる状態にあった。

 

(まずい、距離を――)

 

 彼女の思考が真っ白に染まる。突然の拳に処理が追いついていない。

 

 景斗が使う両腕の刃物に目は釘付けにされていた。それだけを見て考えていた。だから、視野の外にすぐさま対応ができない。

 

(彼の足癖の悪さは知ってたけど!)

 

 開幕の蹴りを思い出し、隠し玉ではないことを彼女は悟る。そして再び相手を見据えた。

 

 振りかぶっているのはただの右手。なんてことは無い顔狙いの右パンチを、彼女は過剰な回避で下をくぐる。

 

 今まで強く張ってきたムラクモへの警戒心が、なんてことの無い打撃を誇張してみせていた。

 

 パンチの当たるその距離は、徒手空拳の独壇場だ。

 

 そんな中で、足癖の悪い彼に頭を下げるマネは、決してしてはならない手であった。

 

「ドンピシャ」

 

 下がる頭に膝がめり込み、鼻先がつぶれる。彼ら二人は知らないが、ムエタイの組み付かない膝蹴りであるテンカウに酷似している。

 

 衝撃で中を切り鼻血をたらす彼女に、再び景斗は拳を振るう。

 

 だが、今まで強く張ってきたムラクモへの警戒心が、なんてことの無い打撃を誇張してみせていた。

 

 左の拳から離れるために、大げさにも彼女はイグニッションブーストを使用する。

 

 

 後ろ向きに急激な推進力を得るが、使うブースターは、メインブースターの減速と姿勢制御が主な役割のバックブースター。

 

 景斗は追いかけるためにイグニッションブースト。メインブースターで正面に向かって、吹っ飛ぶように追いかけた。

 

 前者と後者では、明らかに得られる推力が違う。そのため当然、距離は劇的に詰まる。

 

「さあ、避けてみな」

 

 拳ではなく、今度はムラクモを。

 

 切り返すこともできない急な速度。動きすら制限される慣性を纏ったなか、至高のスピードを持った刃が襲い掛かる。

 

 質量と速度の二乗がたたき出す威力は、彼女を落とすには十分すぎる。

 

 教師すら命中を確信したその一撃。目を背ける暇さえない速度を持ってして、吸い込まれるように胸元に入り込み――

 

「ああああぁぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

 絶叫と共に、彼女は死力と言えるものを振り絞って回避した。

 

 

 会場がざわめく。そこに、ただ一人心を動かさぬ者がいた。

 

 必殺の一撃だと予感したが、それは一連の動作の初撃。

 

 続きが存在している。

 

「――左が、残ってる」

 

 避けられたことは想定外。だが、この動きは一撃で終わらせるため動作ではない。

 

 姿勢制御用のブースターを使い、もはや流されるだけのラファールに左の剣を振るう。

 

 その体をどうにか止めるようと、ストップをかけようと差し出された彼女は右腕を、握っているライフルと共に刃を滑らせた。

 

(いつの間に減速した? 仕留めきれない)

 

 攻撃手段を失わせたが、すぐに新しい武装を取り出してくるだろう。既にラウラは相手を倒している。期待にこたえるためにも、これ以上戦いを長引かせるわけにはいかなかった。

 

 両断されたライフルがまだ形を保っているうちに、相手が戦意を取り戻してしまううちにムラクモを捨て、すばやく彼は体を動かす。

 

 切りつけた腕を上るように、相手を引っ張るのではなく自分を動かす。位置取る場所は相手の側面。撃つ、斬るが主力のISバトルで、この技を警戒し、対処できる生徒はいない。

 

 相手の手首を掴み、一方の腕で相手の二の腕を脇に挟み、相手の腕を絡めながら自分の手首を掴む。そのまま相手の手を背中へと、腕の力のみを利用、絞るように極める。

 

 絡めた腕を支点とし、テコの原理で肩の関節に痛みを加える。立ち関節技である、ダブルリストロックが完成した。

 

「腕、もらうよ」

 

 痛みから逃れるためには、曲げられた二の腕と肩を平行にするように曲げればよい。つまりこの状況では体を寝そべるように横にする。当然彼女がその方法を知るわけはないし、それを許す景斗でも無い。

 

 その回転方向にイグニッションブーストをスタンバイ。その推力を利用して力を更にかける、弾丸のような速度を得るそれが、全て肩にのしかかったらどうなるのだろうか?

 

「降参! 降参します!」

 

 その声で、試合終了が決定した。

 

 お互いの装甲に傷は少なく、シールドエネルギーを双方5割ほど残したまま。戦闘の続行が可能な状態で彼らはアリーナ後にする。

 

 この試合で彼は初見殺しの関節技を会場に見せつけた。彼が考える隠し玉はもう残っていないが、格闘機の気力を削ぐには十分過ぎた。

 

 

 その後、ラウラに打撃のダメ出しを受けた。


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