「報告会議?」
ミョウコウが鎮守府に来た書類を仕分けしていると、報告会議開催のお知らせと書かれた封筒が目に入る。提督が「そっちには無かったのか?」と、めんどくさそうに封筒を受け取り、簡単に会議について説明する。
この鎮守府は北海道の端の端にあり、できたばかりなので大本営直属の鎮守府は無い。
それなら近くにあるかといえば、北海道には直属の鎮守府がないのである。……昔はあったらしいのだが、立て続けに火事や空襲に見舞われることが続き、鎮守府の設置は断念したらしい。
そのため年に数回、北部方面担当の提督達は大湊警備府まで出向き、それぞれの鎮守府の情報を共有するための会議を開くのである。
ミョウコウはここから大湊までの距離を考え、船がどの程度で着くか瞬時に計算した。
「しかし、大湊は少し遠いな……」
「ああ、俺も初めて行くから不安だ……と、飛行機のチケットがあるな。空から行くのか。確かに船で行くよりは早いし安全だが……」
「たしか本土の上ならば安全だったな。海を渡るのは難しいらしいが」
「飛行機が途中で撃墜されない事を祈るか」
提督が封筒の中から手紙を取り出し、真剣な表情で内容を読み始める。
提督が居ない間はどうするのかと考えていると、まじかーと言いながら提督が椅子にもたれる。
そのまま手紙をこちらに渡すと、そのままうなり始めた。
「なになに……なお、初めて会議に参加する提督は、秘書艦と主力艦隊も一緒に連れてくること……か」
「どうすりゃいいんだ……明石以外は残らないぞこの鎮守府。せめて工廠が使えるようになればいいんだが」
「それは明石に頑張ってもらうしかないだろう。もう少しで直るとは言っていたが」
それはミョウコウ達が鎮守府に配属されたころまで遡る。
明石が来た事により、新しい艦娘の建造ができるとなると、提督はさっそく余っていた資材で戦艦の建造にチャレンジした。
別にここまでは何事もなかった。しかし、建造途中にそれは起こった。
爆発。
どうやら建造途中で何かミスがあり、艤装の弾薬庫に火が付いた……らしい。妖精がそう言っていた。
現在、爆発した艦娘が入っていたドッグを含め明石が懸命に修理をしている最中だ。
もう少しで直りそうとは明石が言っていたが……。
提督と秘書艦の二人で艦娘が足りないという事を説明するしかないなと、話し合っていると叢雲と白雪が部屋に入って来る。
「お疲れ様です、お茶でもいかがですか?」
そう言うと、白雪は机の上の書類をどかし、空いたスペースに4人分のお茶を置いた。
「何か話してたようだけど、どうしたの? アンタ達、眉間に皺が寄っているわよ?」
お茶をふーふーと冷ましながら叢雲が聞いてくる。
「ああ、困ったことになった」
「来週に報告会議が開かれるんだが、秘書艦と第一艦隊も連れて行かないといけないらしい。だか建造ドッグはいつ直るかわからないし、秘書艦だけ連れて行って説明しないといけない。だから弁明内容を二人で考えていたんだ」
話を聞いた叢雲は口を開く。
「それなら丁度いい報告があるわ。ついさっき一部のドックが直ったと明石が言っていたから」
「本当かッ! よかった~、それなら何とかなるな。」
「後で明石が執務室に来るから、その時一緒にアンタも私について来たらいいわ」
そう言うと叢雲はソファーに腰を下ろし、明石が来るのを待ち始めた。
私も熱い茶が冷めないうちに飲んで、仕事に戻ろうか。
「なぁ妙高、ちょっといいか?」
書類仕事をこなしていると、横から提督に話しかけられた。
体を提督に向け、手に持ったペンを机の上に置く。それから、提督に用件を尋ねる。
「どうしたんだ提督? 何か気になることでもあるのか?」
提督は真面目な顔で質問をする。
「その眼帯ってどうやってひっついているんだ?」
「……アンタちゃんと仕事に集中しなさいよ」
どういう意図の質問かと考えていると、叢雲が呆れたように提督を叱る。
「いやだってさ、ちょっと気になったんだよ……お前の耳だって今でもどうやって浮いてるのか謎だし」
「耳じゃないわよ! こ、れ、は、艤装! 断じて耳じゃないから!」
じゃれている二人を置いといてどう答えるか決め、二人の会話に割りこむ。
「これは私の艤装のようなものだ。……まぁ叢雲なら着けれるんじゃないか?」
「俺は無理なのか?」
「提督は艦娘じゃないからな……試してみるか提督?」
私はそう言うと眼帯に手を伸ばしカチッと眼帯を外すと、外した眼帯をそのまま提督に投げ渡した。
上手く片手でキャッチした提督はしばらく手の上で重さを量る。
「へえ、結構重いな……それじゃあ着けてみるか!」
しばらく何とかしてつけようと奮闘するが……
「……ダメだ着かない。叢雲、ちょっと着けてみろよ」
「しょうがないわね……どう? 似合う?」
あっさりと右目に取り付けた後、腰に手をあてキリッとした顔でポーズをとる叢雲。
「かっこいいぜ叢雲!」
「悪くないわ」
しばらくそうやって二人が遊んでいるのを眺めていると扉がノックされ、
「提督、それから叢雲さんもちょっと工廠まで来てもらっていいですか?」
部屋の中に入ってきたのは明石であった。
明石を先頭に、工廠へとおもむく三人。途中、港に接した建物から騒がしい音が聞こえてくる。
現在、船の方の明石は港につけられたままであり、雨や風が直接船体に吹き付けてくる。
そのため、毎日甲板の清掃やらが大変なのである。ならば少しでも外の環境が受けにくいようにと、明石専用のドッグを作っている最中なのであった。
幸いなことに、建物自体は昔に作られた缶詰工場を改装すればいいだけなのですぐに終わるらしいが。
明石専用ドックを通り過ぎるとすぐに港につけられた明石がみえてくる。三人はタラップから船に乗船すると、そのまま船内に入る。
いくつかの工場を通り過ぎてから、どちらの用件を先にすましますか?と明石が聞いてきたので、まずは叢雲の件を後回しにして建造ドックの方を先に見たいと返答した。
明石、提督、叢雲の三人は工廠の一角にある4つ並んだ機械の前にたどり着く。
部屋には爆発事故があったせいで、いくつかのドックがグシャっと潰れてしまっている。
直したドックはどこにあるのかと部屋を見回すと、3つのドックに明かりが点っている。そのうち残りの一つはオレンジ色の明かりが点っていた。
明石は灯りが点いている機械の前に立ち止まると、此方を振り向いた。
「現在、建造ドックのうち稼働できるのはこの3つだけです。そのうち、一つはまだ建造途中の艦娘が入っているので実質、2つだけですね稼働できるのは」
2つだけか……まあ使えるなら問題ない。現在建造中の艦娘について質問する。
「前は高速建造材を使っている途中で爆発したんだったな……その時は現場に居なかったが中の艦娘は無事だったのか? 正直、何も言われなかったんで諦めていたんだが」
「そうですね……爆発直後は建造途中だったこともあり、だいぶ危ない状態でしたので助かるか助からないかで言えば助からない確率の方が高かったんです。」
「それで、どうしてその事を報告しなかったんだ? 生きていたなら様子をちょくちょく見にきてやったのに」
別に怒っているわけではない。ただ、報告しなかった理由が知りたいだけだ。
この1か月、明石と信頼関係がちゃんと築いていたと思っていたのだが。
「実は一度、体の機能が殆ど停止しかけたんです。その時は諦めて解体しようと準備していたんですが……」
明石に目線で続きを促す。
「体の機能が殆ど止まった状態で体が再構築し始めたんです。最初見た時はビックリしちゃって……体はほぼ死んでいるのに再構築されるなんて聞いたことがないので、経過観察することにしたんです……」
「なるほどな、つまり明石は珍しい事が起きたのでついそれに夢中になってたということか?」
「ごめんなさい」
「次からはちゃんと報告してくれよ? ……それでその艦娘はどうなっているんだ?」
ドックの中を窓から覗きこむが暗くてよく見えない。
「体はほぼ出来上がっているんですけど、まだ意識は無い状態ですね。体の機能が昨日の夜に動き始めたので大丈夫だとは思うんですけど」
そう言って明石は機械に携帯端末を繋げ、素早く操作をすると画面をこちらに見せてくる。
何やらいろいろ画面には数値が並んでいるが、かろうじて俺にも分かる情報を読んでいく。
「……まあ今は安定していることしか分からんが、結局中の艦娘はいつ頃建造できるんだ?」
「体や艤装はほぼできているので、後は意識が覚醒するのを待つだけですね」
「なるほどな……じゃあ明石、さっそくで悪いが今空いてる2つのドッグを使って艦娘を建造したいんだが」
「分かりました、艦種は何がいいですか?」
「そうだな、一応ちゃんと造れるか心配だから、あまり時間がかからないのがいいな」
「それなら駆逐艦がいいですね。今からなら明日の昼位には出来上がると思います」
駆逐艦か。小回りもきくし、燃費もいいやつだっけか……。
今まで黙っていた叢雲に一応聞いてみる。
「いいんじゃない? 正直、そろそろ遠征とかも考えないといけないし。それにもしその子が目覚めたらいろいろ資源がカツカツになると思うし」
「遠征か。そうだな、そろそろ送られてくる資源を頼りにしているのも卒業しないとな。明石、それじゃあ駆逐艦の建造を頼む」
「了解しました。……これをこうして……良し。後は待つだけですね」
「それじゃあ叢雲の用事を済ませるか」
トイレに行ってくるから先に行っておいてくれと提督に言われた叢雲は、艤装を改装するための部屋に足を踏み入れる。
先に部屋に入った明石の姿を探すと、クレーンを操って叢雲の艤装を部屋の外に運びだしていた。
明石が準備しているうちにぐるりと部屋の中を見回す。部屋の天井には白雪の艤装や妙高の艤装が吊るしてあり、落ちないよう、しっかりと固定されている。
壁の方に目を向けると、何かの設計図や工具などが並んでいる。と、油臭い部屋には違和感を感じる物が置いてあった。
明石の作業が終わるまで暇なので、違和感を感じる物の方に足を運ぶ。
それは乱雑に本が並んでいる巨大な本棚であった。棚にはみっちりと辞書やファイル、漫画などが詰め込まれている。しばらく本のタイトルを読んで暇をつぶしていると、何も背表紙に掛かれていない本が一冊だけ端の方に押し込まれている。
手に取って「準備できましたよー!!」
「わぁっ!! と、と……脅かさないでよ! ビックリしたじゃない!!」
明石は少し笑いながら叢雲の隣に並ぶ。
「ぷっ、ご、ごめんなさいね、……コホン、何か気になる本でもありましたか? 乱暴に扱わないなら一冊ぐらい貸しますよ」
「まったく……、それじゃあこの白い本を……あれ?」
視線を本棚に戻すと、さっきそまでこにあった本が忽然と姿を消していた。
「白い本? これですか? これは貸せませんよ! 私の日記帳ですから。借りるなら別の本にしてくださいね♪」
「いや、なんで本棚に日記帳が混じっているのよ! 普通の本とごちゃごちゃ混ざっているから紛らわしいじゃない!」
「私しかこの本棚を利用しないからいいじゃないですか。それで、なにか本を借りますか?」
「元々準備ができるのを待っていただけだし、別にいいわ。」
「そうですか、また借りたくなったら声をかけてくださいね。それじゃ、演習場に行きましょう!」
演習場に行くと、提督もすでに待機していた。
さっそく明石から艤装を受け取り、装着してみる。
「よいしょっと、……いつもより軽いかしら?」
艤装を装着した叢雲が最初に感じたのはいつもより背中が重くないことであった。
他になにか変わっていないか自分の艤装を注意深く観察すると、見慣れない物がついている。
「ふむふむ、他には何か装着したときの違和感などはありませんか?」
「特に違和感はないけど。これはなに? 前まではこんな物はついていなかったけど?」
そう言って、艤装の一部を指さす。そこには何かの印みたいに、黒い紋様がついていた。
「それはですね、私が近代化を施した印といいますか、エンブレムみたいなものなんです。後一応叢雲さんだと分かるように目印がつけてあるんです! ……もしかして、迷惑でしたか?」
改めて艤装を観察するが、それ以外は特に変な物はないので気にしないことにする。
「別にいいわ。それじゃあ叢雲改の艤装テストを始めるわ!」
一時間ほどしてからテストが終わり、叢雲が此方の方に戻って来る。
見ているだけで強くなったのが分かる性能の上昇だった。今夜は何かお祝いでもしてやろうかな。
「どうだった叢雲? 改になった感想は」
明石に艤装を預けて一息つくと、叢雲は少し笑った。
「悪くないわ。今から次の実戦が楽しみね」
「まだ叢雲さんしか改になれる錬度に到達していませんが、徐々に改も増えるでしょうね」
「それは楽しみだな。改が増えれば海域も楽に攻略できるし、次の改装が待ち遠しいな」
「まあ、それまでに私達だけじゃなく、アンタも立派な司令官になるように頑張りなさい!」
「ああ! ……それじゃあ今夜は初めて改になった記念にお祝いをするぞ!」
「別にそんなことしなくてもいいのに……。明日に響かない程度にしなさいよ」
「わかってるさ! 明日は新しいメンバーが加わるから、自重する!」
「本当にわかってるの? まぁ祝ってくれるのは嬉しいし、素直に気持ちは受け取っておくわ」
さて、今夜のご飯について白雪に話しておかないといけないし、
明日からドンドン人も増えてくるから忙しくなるな。気合入れるぞッ!