今回のエピソードは廃ビルの続きです。
そして、阿良々木君がマヂギレします。
そして
【ブラック羽川】
それが”専門家”、忍野メメが「怪異化した
羽川でもない”障り猫”でもない「全く新しい怪異」には、なるほど新しい名前も必要だろう。
だけど、
『どういうわけかほとんど障り猫と委員長ちゃんは一体化しちまってる。本来なら仮面の猫が本体なら、一体化というより同化かな? しかも怪異化しかけてるような変体刀まで持ってるとなれば、ますます無敵っぷりに磨きがかかるって寸法さ』
忍野はそう評した。
だけど僕はこう返す。
『忍野、心配はいらないさ。最悪でも猫が……仮面が素顔に置き換わるなんてことは
『ほう? どうしてそう思うんだい?』
『忍野……いい加減にしろよ』
本当にいい加減にして欲しいものだ。
忍野、お前はもう自分で答えを言ってるじゃないか。
「お前はなんで”
***
「何故、障り猫の名称を使わずに”羽川”を置き、暗転を意味する”ブラック”を付けたんだって聞いてるんだが?」
「はっはー。僕は君の言うとおりネーミングセンスがないからねー。なんとなくその場のノリとニュアンスだよ」
「嘘付け」
巨木がトレードマークの学習塾跡の一室、床に胡坐をかいて吸血鬼幼女を膝に乗せた僕は間髪いれずに返した。
「僕と同じく羽川と戦ったお前が気付かないはずないだろ?
「なあ、阿良々木君……実は委員長ちゃんのご両親、もう意識が戻ってるんだよ。まあ何箇所か骨折してるから退院にはもうしばらく時間がかかりそうだけどね」
ああ、羽川が蹴飛ばして僕が打ち払ったときか。
「そこでちょっと話を聞いてきたんだよ。なんかブラック羽川対策のヒントを聞けるんじゃないかと思ってね」
「んで、何か収穫あったのか?」
「いいや。ぜんぜん。ご両親は”
「さもありなんだ。知ってるってことは最低限、知ろうとする興味があるってことだからな。羽川家にはもっとも不足してるものの一つさ。好きの正反対は嫌いでなく無関心とはよく言ったもんだよ」
「はっはー。まあ、薄々そうなんじゃないかと思っていたけど」
むしろ楽しそうな顔で忍野は言ってくる。
「だけど代わりに面白い話を聞けたよ」
「【ブラック羽川】が爆誕する日の朝、委員長ちゃん、親父さんに殴られていたんだって?」
「まあね」
あの日、羽川とデートした日……僕は羽川と一緒にいたことは忍野に話したけど、戸籍上の父親に殴られたことは告げてなかった。
今もその判断は正しいと思ってる。
羽川家の病巣は根深い。一過性でのみ関わるつもりなあら深入りしないほうが賢明だ。
僕?
当然、一過性で済ますつもりはないから別にかまわない。
「ついカッと殴った。それは断じて誉められる行動じゃないけど、同時に人間的な行動でもある。ともかく、委員長ちゃんは壁まで吹っ飛んで痛みでしばらくうずくまっていたらしい。委員長ちゃん、軽量級だからねー。眼鏡のフレームで切り傷ができるほどの勢いで殴られればそうもなるさ……そして、ある程度のダメージが抜けた委員長ちゃん、なんて言ったと思う?」
「さあ。羽川らしいパンチの利いた台詞でもカウンターで返したのか?」
「笑顔でこう言ったそうだよ。『駄目だよお父さん。女の子の顔を殴ったりしたら』だってさ」
ビンゴ。
「気持ち悪いよね。凄まじいまでの善性だ。更に逆上して親父さんが追撃したのも無理からぬ話さ。それこそ邪馬台国に生まれていたら、卑弥呼の代打でも出来たんじゃないかって聖人っぷり……はっきり言っちゃえば、ボクでも殴るよ。そんな子供」
忍野にしては珍しい言い回しだった。
「今回のことはきっかけに過ぎなくて、ご両親はずっと委員長ちゃんを殴りたかったんじゃないのかな?」
「そのココロは?」
「ココロも何も……化物とは思えても、娘とは思えなかったってことさ。彼らの感覚じゃあ、15年前に妖怪の子供を理不尽に押し付けられて育てろといわれたようなもんじゃないかな?」
ふーん……そういう解釈もあるのか。
「『鳶が鷹を産む』なんて表現があるけど、身の丈に合わぬ”
「だからといって殴る理由にも、殴られる理由にも、殴っていい理由にもならないさ」
なら、育はどうなるって話だ。
それこそ面白半分に実の親に殴られ続けたあいつは……
「そうかい? 先に言っておくけど。羽川夫妻は決して誉められた人間じゃないさ。それは理解してるよ。あの二人は育児放棄どころか両親であることを放棄しているからね。でもさ彼らのことを理解しないわけにはいかないんだよ……”
「笑わせるな。羽川夫妻の弱さや醜さは羽川夫妻自身のせいだ。
「委員長ちゃんのせいだよ。間近で絶対的な正しさを見せ付けられ続ける、それは言い方を変えれば己の未熟さ醜さを延々とエンドレスに見せ付けられるってことだぜ? それは悪夢であり地獄さ。よくも十数年間も殴らずに耐えられたと誉めてもいいぐらいだ」
「だから殴ってもいいと? 僕に言わせれば、殴るのなら殴り返される覚悟を持てってことさ。今回は殴ったから怪異化した羽川に猫パンチで殴り返されただけだ。よかったじゃないか? 中身はともかく、形だけなら羽川家始まって以来の親子喧嘩かもしれないぜ?」
「その中身が大事なんだろうに。力を持つ持つ人間は、その力が周囲に与える影響に自覚的であるべきだ。委員長ちゃんは、あまりにも無自覚だった。自分を普通だと思い込もうとした。普通であろうと頑張った。結果、この有様だ」
忍野は一呼吸置いて、
「障り猫すらもその存在のあり方をあらん限り捻じ曲げられている。阿良々木君の言うとおりにね……今回の件、何もかもがイレギュラーだ。何もかもがイレギュラーで、委員長ちゃんだけがイレギュラーだ。あれもこれもどれもこれも委員長ちゃんのせいさ」
***
「忍野……お前は本当にバランサーか? はっきり言う。お前は羽川翼って人間を見誤ってるし、過小評価してるし、過大評価してる。バランサー失格だな」
「はっはー。言うじゃないか?」
「お前が言ってるのは全て『
僕にも我慢の限界ってのはあるんだぜ?
「羽川は、そのどう考えても不幸な生い立ちのせいで確固たるアイデンティティを、『性善説的な人間性』を規範とするしかなかったんだろうさ。実の両親がろくでもない死に方をし、今の戸籍上の両親が両親であることを放棄してるんだ店…だったら、その規範は書物の中にしか求められなかったんだろうさ。当然だ。あいつには他に選択肢なんてなかった」
羽川が実感できる、知識を得られる
「本の中にあるものは所詮は
だが、羽川はそれを規範としてしまった。
「羽川は虚構の中にある”善”を、居もしない聖人君主を規範としたのさ。
ああ、口元が歪んでいくのが自分でもわかる。
「人ではありえない善性をもてるってことは、あまつさえそれを自分の中で普遍的な価値観とするってことは、羽川がそれだけの強さをもっていたってことは疑いようはない。だが、それは羽川夫妻の”
「それなりの事情はあったんだろうねえ」
「知ったことか!」
僕は思わず声を荒げていた。
「どんな理由があれ、羽川はあの家に住んでいたいたんだ。住んでいたにもかかわらず”
まったく……不愉快だ!
「忍野、お前が『十数年間、羽川を殴らなかったことを誉める』なら、僕は『殴られたときに羽川夫妻をその場で斬り殺さなかった』羽川を、その自制心を誉めるし誇りに思うよ。僕が同じ環境に育ったら、とっくに両親を細切れにして人間世界に見切りをつけ、今頃は”
***
もう結論を出そうじゃないか。
「500万だ」
「……何の話だい?」
僕は吸血幼女……”彼女”の両脇を持ち膝から降ろすと立ち上がる。
「お前の言うとおりなら、【ブラック羽川】は吸血鬼に匹敵する怪異なんだろ? なら春休みのとき、お前が請求した解決料との相殺で折り合いがつくはずだ」
春休みの吸血鬼騒動……今の僕と”彼女”が生まれた
「……どういう意味なのかな?」
「決まってる。忍野、お前が羽川を気持ち悪いと思うのは勝手だ。
だけど、
「だけどそんな奴に羽川は任せられない。この件は……」
だから、
「僕が決着をつける」
皆様、ご愛読ありがとうございました。
阿良々木君が忍野への借金を早期に踏み倒す話は如何だったでしょうか?(えっ?
原作との一番の違いって、実は「阿良々木君自身が
だからある意味、原作よりも”
いよいよ次回から最終決戦でしょうか?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
もし、ご感想をいただければとても嬉しいです。