Tales of Lovelive!~みんなで叶えるRPG~ 作:@ぷくぅ
「そんなことがあったんですか」
「そう!アヤセ騎士団長もひどいよ」
「いえ、騎士団長の仰る通りです」
「そんな!?」
私と、私の幼馴染で第1軍に所属しているウミ・ソノダちゃんは、隣町へ続く街道を歩いていた。隣町へは大体二時間もあれば着くと思う。私たち二人が隣町へ歩を進める理由、それは会議の後、アヤセ騎士団長の指示で王宮へと見参した時まで遡る。
◆
「はぁ……王宮に呼び出されるなんて、私、ほんとに何かやらかしちゃったのかな…。全く心当たりないんだけど」
「ホノカ…?」
意気消沈した面持ちで王宮へと向かう私に、声をかけてくる一人の少女がいた。幼馴染のウミちゃんだ。
「ウミちゃん!こんなところでどうしたの?」
「えぇ、王宮に出向くようにと兵士長から命じられまして。ホノカこそどうしてここへ?」
「私もウミちゃんとだいたい同じ……。作戦からも外されちゃったし、いったい私が何をしたっていうんだー!!」
そう、王宮から呼び出しを受けるなんて、滅多なことがない限りあり得ない。ちょっとやそっとの失敗なんかじゃないってことだ。うぅ…なんだかだんだん気持ち悪くなってきた。頭を抱えてその場にうずくまる私を見て、ウミちゃんは苦笑いを浮かべていた。
「……!でもでも、ウミちゃんも呼び出されてるってことは、怒られたりしないかもしれないってことだよね!」
「私は逆に処罰を受けるんじゃないかという気になってきましたが」
ふと思い立って立ち上がり、救いを求めるようにウミちゃんの手を握る。そんな私をよそに、呆れた顔でウミちゃんはそう答えた。
「さあ、行きますよ。考えていても仕方ありません。呼び出しを受けているのは事実なのですから、急ぎましょう」
なおも握り続ける私の両手を振りほどき、ウミちゃんはずんずんと城下町を進んでいったのだった。
「ま、待って~」
私は慌てて追いかける。心なしか、ウミちゃんの顔がさっきよりも気楽そうになっていることに気が付いた。
「ウミちゃん、もしかして一人じゃないってわかって安心した?」
「あのですね、ホノカじゃないんですからそんなことはありません。…まあ、ホノカも呼び出されているということが分かって安心した、という事実は本当ですが」
「…?」
「私たち二人が呼び出されたということは、そういうことかもしれないな、と思っただけです」
あー、なるほど。確かにそういうことかもしれないような気もしてきた。
そんなやり取りをしているうちに、王宮はもう目の前だ。いつ見ても、大きい。お掘にかかる桟橋、頑強に作られた城門と外壁、その奥にそびえたつ立派な宮殿。どれも古い歴史を感じさせる。亡くなってしまった前国王様然り、国民から愛され続けてきた証拠なのだろう。
「ホノカ、入りますよ」
立ち止まって宮殿を見上げている私を急かすように、ウミちゃんは一声かけてから、城門へと進んでいった。
城門で門番に説明すると、話は聞いているから、客間にて待つようにとのこと。客間?謁見の間でも応接間でもないっていうのはどういうことだろう。ウミちゃんと顔を見合わせ、でも、考えても仕方がないので、そのまま客間へ。待つこと数分、客間の扉が、さも誰かに気づかれてはいけないかのようにゆっくりと、音もなく開いた。
「あ、ヒデコだ」
第1軍近衛隊に所属しているヒデコが、しっ、と口に人差し指を当てて私たちに閉口を促す。あれ、ほんとに密会っぽくなってきたぞ。後ろには同所属のフミコとミカもいた。
「……何やら穏やかじゃありませんね」
ウミちゃんも、並々ならぬ気配を感じ、顔がこわばる。
「ごめんね、二人とも。穏やかじゃないってほどのことでもないんだけど、あんまり大事にもできなさそうな内容だから一応、ね」
フミコが申し訳なさそうな顔で、静かに話し始めた。
「二人に来てもらったのは、まあ、なんとなく予想ついてるような気もするけど、コトリ様のことでちょっとお願いが」
「やっぱり」
おっといけない。思ったことがつい口に出ちゃう癖は直さなきゃな、と常々思ってはいるんだけど、これがなかなか…ウミちゃん、そのじとーっとした目で見るの、やめにしない?
「まあ、そういわずに。今回ばかりは、ちょっとわけがあってね」
いつもハツラツとしているミカのトーンが微妙に低い。わけってなんだろう。
「うん…。実は、ここ数ヶ月、コトリ様が部屋からお出になられないの」
えっ。
「体調がすぐれない、と言うよりは、何か外に出たくない理由がおありのような口ぶりなんだけど、その理由はお答えいただけないし、私たち三人以外を部屋に近づけないようにと強く命じられてしまうし、お食事も、コックではなく私たちが作ったものを、決まった時間に部屋の前に置いておくようにと……」
コトリ様。この国の王女様だ。容姿端麗才色兼備、杖を持たせれば魔導士級、針と糸を持たせればプロデザイナー級。そのおっとりした雰囲気と、脳みそがとろけてしまいそうなあまーい声が特徴的なオトノキ王国お姫様。
「私たちは、コトリ様のことを思えばつらくもなんともない。でも、このままではコトリ様が不憫で仕方なくて…」
「それで、幼馴染である私たちに協力してほしい、そういうことですね」
そして、私たち二人の幼馴染だ。
「ごめん…」
「謝ることはありません。三人とも、誰にも相談できず、さぞつらかったことでしょう。私たちにできることがあれば、何でも協力しますよ」
三人とも、少し目が潤んでいた。三人だけで護衛から、食事から、見張り情報収集、何から何まで全部執り行っていたんだ。きっと夜中も、交代で寝ずの番だったんだろう。つらくないはずがない。しばらくの静寂が、客間を包み込む。
「よし、じゃあ、二人に正式な指令を出します。何かコトリ様が喜びそうなものを用意し、もう一度王宮まで参上すること。期限は設けませんが、できることなら数日中が嬉しいかな」
ヒデコは、自分の頬をばしっと叩き、気合を入れなおしてからそう告げた。
「承知いたしました!」
私は、それに応えるように大げさにガッツポーズを作って見せた。先ほどの静寂が小さな笑い声へと変わっていく。しかし、くすくす、としばらく笑いあったのち、ヒフミの三人の顔が、思い直したかのように真剣な表情へと変わった。
「でも、気を付けて」
とフミコ。
「国王様が亡くなってから、王宮内の様子が少しおかしいの」
ミカがそれに続く。
「おかしい、とはどういうことですか?」
「なんて言ったらいいんだろう……。ちょうどいい言葉が思いつかないんだけど、監視されてるというか、現に、今日二人に集まってもらったのだって、客間の使用だって、何一つ許可とってないからね」
それはむしろどうなんだろうか…。ばれたら大変なことになるんじゃないだろうか。あはは、と苦笑いしていると、顔に出てしまっていたのか、ヒデコが続けた。
「ま、私たちの手にかかれば、これくらい造作もないことだよ」
三人が三人、それぞれの格好で、えへん、と胸を張る。いや、褒められたことではないからね!?
「でも、ほんとに気を付けて。何に、って言われると、ちょっと答えられないけど、何か悪いことが起きそうな予感がするから」
話はそれだけだったらしく、何事もなかったかのように立ち去るよう指示された。三人も、すぐにコトリ様の警護に戻るそうだ。私たちも、素知らぬ顔で王宮を後にする。城門までたどり着くと、先ほどの門番がアルパカを従えて待っていた。どうやらヒフミの手配らしい。何から何まで、あの三人には敵わない。本当は10人ぐらいいるんじゃないかとさえ思えてくる。
これが昨日、王宮に見参した時に起きた出来事の一部始終だ。
◆
「にしても、どうしちゃったんだろう、コトリちゃん」
コトリ・ミナミは私たち、ホノカ・コウサカとウミ・ソノダの幼馴染である。一介の騎士と兵士が、どうして王女様と幼馴染になれようか。それは女王様の出生に秘密がある。
「コトリ様、ですよ」
コトリ様のお母様、つまりは女王様は城下町にある高等魔術学校の先生をしていたのだ。ある日、お忍びで城下町に下りてきた国王様は市場で女王様と出会い、恋に落ちた。国王様の熱烈なアプローチに、最初は戸惑っていた女王様も、いつしか心開いて、そして結ばれたらしい。
「あ、うっかりうっかり」
どうしてそんな昔の――昔なんて言ったらぶっ飛ばされそうだけど――話を私が知っているのかと言うと、実は、私のお母さんとウミちゃんのお母さん、そして女王様が幼馴染だったから。で、その当時、とっても仲が良かったお母さんたちは、恋の相談にも乗っていたりしたらしい。
「まあ、コトリ様はああ見えて、見かけによらず頑固でわがままですからね」
恋仲になるまで身分を隠してアプローチしてくる国王様の男らしさとか、仕事と恋愛に揺れる女王様の葛藤とか、それはそれはあつーいエピソードがたくさんあるんだけど、今はそれは置いておこう。
「でもさ、ただの気まぐれにしては、数ヶ月も閉じこもるなんてちょっと大げさすぎない?」
結婚してからも、しばらくは王宮へ御呼ばれしれたりして、私やウミちゃんが産まれた時も相当盛大なパーティーが開かれたそうだ。もちろんコトリ様が産まれた時は言わずもがな。
「確かにそうですが……」
年を同じくして生まれた私たちも、身分こそ違うものの、一緒に成長していったといっても過言ではない。王宮でかくれんぼしたり、こっそり抜け出して怒られたり、ペットのちゅんちゅんの世話をしたり、――あ、ちゅんちゅん元気かな?――いっぱい遊んだし、いっぱい怒られたし、ちょっぴり喧嘩したりもした。
「ですが、困りましたね。私も、ここ数年お会いしていませんし、好みなどが変わられてしまっていたらと思うと、そう簡単にはいきそうもありませんが……」
でも、5年前、国王様のお体が急に悪くなってから、王宮はそれどころではなくなってしまった。最後に会ったのは国王様のお葬式。あの日のコトリ様は抜け殻みたいになってしまっていて、かける言葉が見つからなかった私たちは、何も会話することなく、それからというもの、話どころか会ってすらいない。
「何言ってるのウミちゃん」
話は本題に戻る。コトリ様の喜ぶもの。私には一つ、心当たりがある。そしてそれは、かなりの手ごたえがあった。
「ホノカには何か案があるのですか?いえ、隣町へ向かうということは何かあるのでしょうが、もったいぶらずに教えてください」
「ウミちゃんさ、コトリ様がだーい好きなもの、一つ忘れてない?」
コトリ様が大好きなもの。実は意外とたくさんあったりする。好きな食べ物と言えばチーズケーキ。鍋に入れて叱られる程度には好きだ。
「えぇ…?……ま、まさか…!」
それからお菓子作り。7歳くらいの頃だったか、大好きなチーズケーキを自分でも作りたくて始めたお菓子作りだったが、王宮のパティシエも諸手を挙げるほどの腕前だ。
「こればっかりはウミちゃんしかできないと思うんだよねー」
「嫌です!いくらコトリの頼みとは言え、それだけは絶対に嫌です!」
好きなものとは少し離れてしまうが、お裁縫が得意で、ぬいぐるみでも服でも、パーティーで着るドレスだってなんでも作ってしまう。
「ウミちゃん、コトリ様だよ」
「う、ぐぅ…」
でも、それより大好きなものが、一つだけ、それも私たちしか知らないようなものがあるのだ。
「じゃあ、行こっか、仕立て屋さん」
それは、無理矢理カッコいい服を着せられて、恥ずかしさでがっくりとうなだれるウミちゃんの困り顔である。