「元気そうでなによりだよ、勇人くん。愛紗も世話になっているようだし、君にはいつも感謝しているよ」
希代の英雄 関帝 字は海雲。この世界で驚いたのが、こいつの存在である。たしかに過去の世界に転生というのは、まぁおおよそという感想で、そこまで仰天に驚いたほどではない。関羽という存在もいて、性別も違う。けど、歴史は忠実……かと思いきや、こんな人物は聞いたこともない。
関羽の兄であり、しかもまだ若輩ながらこの村の義勇軍の大将を務めている。
顔付きも、まぁこの村のマダムたちに人気がありそうな顔でいらっしゃる。本当に人気なのが腹が立つけど……!。
性格ともに申し分ない、どこかしか裏があるのでは? 一度は探っては見たが、イケメンを見る自分も疲れるのはわかるだろ? なぜこんなこと、と必ず思う。別に見習う点など、考えるほどない。
べ、べつに性格がイケてて顔がメンだからって、負けたとは思わないから。むしろ、自分は読者に好かれているから!
お気に入り数はすごい少ないけど、こないだやっと感想もらえてうれしかったから! けど、今度から女性ファンからコメントをもらいたいと思う、田中 太郎であった。あれ、作文?
とりあえず、第一印象はいけ好かない野郎。第二印象、さらにいけ好かない野郎。第三印象は、ぶち殺し―――
「おい凱、兄上に対して無視とはいい度胸だな。顔面を荒く削るぞ」
「削るってなに。殴るとかなら想像できるけど、削るって表現は自分でも想像はできないな」
関羽は、自分が関帝にたいする態度が気に入らなく、拳を構えて脅しをかけてくる。ぶっちゃけ、こいつの武力はわかっているから、たぶん削るとか言ってはいるが、不可能ではないないだろう。
一瞬だけ想像してしまったが、末恐ろしい光景が頭の中をよぎったため、気分が悪くなりだした。恐ろしいほどにも、限度があるぞ……若干、涙が流れるじゃないかバカヤロー。
「これ愛紗! 友にかける言葉に気を付けろ!」
「あ、兄上………し、しかしですね。この害が兄上にどれだけの非礼をあげたのか」
おい、漢字が違う。
なんだそのことにかいて、害って? 害虫とかの意味を込めていっているのかな? え? これはアレですね、もう武力でもこいつに勝てないから、頭の中で犯す妄想が決定ですわ。
「いいか、愛紗。これからお前たちは必ず、いやもう運命に逆らえないほど、共にこの世を駆け巡るんだ。いざというときに、お互いがコジれてしまったなら、いつか後悔という重荷がくる。だから、今のうちなんだ。今、この若いという時代は今しかない。大切にしなさい、お前も勇人くんのことも」
関帝の説教を食らいながら、あの関羽は多少怒られているのを自覚しており、目線が下に移る。しかし、兄が必死に自分を説こうとしているのもわかり、先ほどの目線が今度は兄との目線を合わせる。
………関帝。やはり、こいつも関羽の兄である。人を引き付ける魅力を兼ね備えている、人を圧倒する武力も持ち合わせている。
歴史が変われば、少なからずバグは残ると思ってはいたけれども、これはどうも……、判断つけにくい。
関帝は説教を終えたのか、自分のもとに近寄ってくる。関羽は母に呼ばれたのか、台所のほうにそそくさ行ってしまったようだ。
「すまない、勇人くん。まだ愛紗は未熟なうえ、このような暴言を君に浴びせたこと、心から謝るよ。本当に、すまない」
「…………この流れですと『き、気にしないでください関帝さん!』という言葉を、貴方に言えばいいんですか?」
自分はこいつが嫌いだ。
「相変わらずだね、君は」
「不愛想であり、不器用である自分の姿を唯一見せられるのが、貴方だけですからね」
関羽の兄だけという理由ではない。イケメンという理由でも……いや、それは多少入っていた。けど、それが主にではない。
「意地が悪いね……。最近は君たちの面倒をみてないから、心配なんだよ。愛紗とはどうだい? 仲良くしていてくれてるなら、嬉しいよ」
「別にですね。関羽とは日々武将ごっこで、山賊役をやらされるはめですよ。武将ごっこなのに、あいつだけ武将とか、なんの苛めかと思いますけど」
彼は多少の笑みをしながらも、だんだん詰め寄ってくる。
それも、もちろん嫌いな理由とは繋がらない。
「そんなに警戒すると、傷つくな………ね、太郎くん」
不意打ちのように、久しぶりに自分の本名を呼ばれた。
もちろん、呼んだやつは、自分がこの場で一番嫌いなヤローからだ。関帝は、妹とは違う笑みを浮かべている。優しい雰囲気を漂わせながら、どことなく危ない一面を一瞬見せるような。
―――――――――――――――――
「こら勇人、もっとお行儀よく食べなさい。いくら成長期だからって、家計が火の馬車になったら元も子もないわ」
なんすか、その火の車の三国志バージョンは。
丁度四人座れる椅子と、間に四角のテーブルがちょこんと立っている。テーブルの上には山菜やら魚やら、メインの猪肉も置いてある。
母さんは関帝と隣同士で座っており、その向かい側に自分と関羽が座っている構図だ。
「おば様、こいつは手の使い方をよくわかっていません。作法も知らない手つきなら、夜の作法も「まてし、いやちょやめてください! 誤解だから、そんな相棒は右手ですよとかじゃないから! そう、自分は花を静かに添える練習をだな」」
「あぁ、だから花が傾いたときに『うっ』っていう言葉もあげるのね。ごめんなさい勇人……母さん、もしやと思って疑っていたわ」
ドア越しで聞いてやがった。
母さんと関羽は、どこかしか似ている。共通点としては、自分を苛めるときは、意地が何でも心を挫けるというのが、たちが悪いことに一致してやがる。
そんな他愛ない会話を聞いている関帝は、口元を手で覆い自分に背を向けて肩を震わせている。
いいよ、笑えよ、笑ったら、お前も頭の中で100回泣かしてやるから。
おうおう、今頭の中で懺悔と後悔しているのが思い浮かぶわ。はーはっはっはっは!!
―――――――あぁ、だから自分はモテないんだろうな。
自分の不可能なところを、頭の中で過ったためどこかしかテンションが下がりつつある。
「す、すまないね勇人君っ……。少しだけ笑いのツボに入ってしまって、息が苦しいんだ……!」
「そのまま死んでくれないかなー。もう死因は、自分のせいにしていいから死んでくれないかなー」
「はぁ……はぁ……。もし私が死んだら、君の末代まで呪う勢いだけど…………それは無理そうだね」
この一族たちは笑顔が好きなのだろうか? どんだけ自分にスマイルを提供してくれるんだよ。
つか、なんで無理そうなんだ………?。自分は意味わからず悩んでいると、関帝のセリフを聞いた他の二人が突然吹いた。
先ほどの関帝と同じように、自分に申し訳なさそうに笑い出す。なんだこれ、不快すぎる。
あいつが死んで、そんで末代まで呪うとか言ってて? そんで無理そう………。
あぁ、そういうことか。
「テメェ、自分が一生無職童貞だと決めつけているのかーーー!!!」
「はははははは!!! いやぁ、本当に君は面白い。まだ意味が分からず悩んでいた君も、最高だったよ」
「諦めろ、凱。兄上は聡明なお方だ。もう決まっているのだ、お前の運命というのは」
「まてやバカ兄妹!! そんな運命あるわけないだろ。自分信じているから、いつか必ず自分の息子を甘い蜜で包んでくれる女性がきっといると」
「「あぁ、よく森の中でキーキー騒ぐアレね」」
「猿じゃねぇよ! 動物でもないから、なにそんな自分と距離を遠のこうと椅子を移動させてんだよ」
「そうよ、愛紗ちゃんたち。息子の勇人は、たしかに童貞だけど………いつか、母さんのためにいい職についてくれると信じているわ」
関兄妹は、先ほどまで隣と前にいたのにいつの間にか、離れた場所に避難していた。
母さんは期待の眼差しを自分に向けているけど、言いたいことがある。
「母さん、なんで童貞は否定してくれないの。きっと卒業できるとか、そんな気休めを自分は期待しているんだけど」
「無理よ、だってあなたは『あの』父さんの子供よ? 諦めて、仕事だけを考えなさい」
12歳にいう母さんはもう、末期だと思うのは自分だけでしょうか?しかも、母さんも自分から少しだけ離れているし。
そんな他愛ない会話をしながらも、時が過ぎていく――――。
すでに就寝の時間帯だ。この村はたしかに他のよりかは広いが、何分田舎のためやることが少ない。この時間帯になれば、どこの民家も寝ている………そして、どこかしら夜のプロレスでもやってんだろうな。やべぇ、興奮してきた。
関兄妹と自分たちは外まで出ている。見送るといっても、家が隣同士なので少しばかりの世間話だ。
あたり一面真っ暗。この世界には電気がないため、かなり暗い。
それを照らしてくれるのが、近くにある数個の篝火。そして、空一面に輝く数えきれない星が自分たちを照らしている。
夜風も冷たく、雰囲気がかなり大人チックだ。自分はそういうのが慣れていない、それは関羽もそうだ。
関羽のやつは、もう眠そうで関帝の裾を引っ張っては今でも目をつぶろうとしている。
自分はあまりあいつの近くに居たくないがため、少し離れた距離から様子をうかがっている。…………母さんと関帝がここまで話すとなると、何かあるのだろうか? 仮にも片方はこの村の大将を務めている。片や猪を狩ることができる謎多き母さん。
「……………はい、ではやはりあの子を………」
「そう………ですから、彼を………塾………きっと、彼なら………」
「…………わかりました。では………」
所々だが、会話がここまでの距離なら聞こえている。会話が終わったのか関帝はこちらに手を振り、家に帰っていく。
関羽も帰るとわかったのか、こちらに振り向きこないだ教えたばかりの、中指を立ててこちらに向けてきた。
……………自分は紳士なため、お返しといってはなんだけど、親指をたてて手首を回し、親指の向く先が下に変わった。
地獄へ落ちろ。
「ほら、勇人。そろそろ寝るわよ」
「……………うん」
この時分からなかった。
母さんの顔が、あの聖母マリアとまではいかない美貌が、少しだけ歪んでいたことに。
あの時、母さんは泣いていたことに――――自分は、気づけなかった。
じゃあ、また今度
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