こないだ、実家の母からある一通の手紙が突然来た。久しぶりの親子の会話を楽しみながら、緊張感を持たせて手紙を開けば、あら不思議。
そこには自分が居ないことを嘆いているわけでもなく、内容は近所のおばさん達にたいする鬱憤を書きなぐった様な文章が書いてあった。そんな自分こと、田中太郎のここ一週間のムカつくことでした。
なにあれ? あんなのが久しぶりの交流でいいの? 母さんだってこんな文章を逆に怒られてたら、キレるでしょ? 自分、一応母さんの血が半分通っているんだよ? キレないわけないでしょうが!
――と、そのように返信したら二日後にまた手紙が手元に来た。早い返信ということなので、何かあったのではと急いで読めば………
『もう半分はお父さんの血が入っているのよ? 諦めなさい』
父さんは呪いのなにかがあるのか。昔から母さんは、父さんに対して当たりが強い。夫婦仲は息子からみても悪くはない、悪くはないが……。
鬼嫁ではない、もちろん父さんはドMでもない。けれども、あの二人の関係はどう言い表せればいいのか。
若々しい風にも見えるし、息があっている熟年風にも見える。自分の元いた世界では見たことないから、上手く判断がつけない。
というか、母さん。もう少しは息子との交流を長く持たせようとは思わないのかな? 二通目がたった一行で済ませるなんて、酷いじゃないですか
「なぁ、そう思わないか? 曹操さん」
「まるで嵐のような人ね、あなたの母親は」
向かい側の席に座る曹操は、どことなく微笑ましそうにしている。もう時刻はこないだと同じように夕暮れ時だ。
この教室に残っているのは、自分と曹操………あとはちらほらと数人しか残っていない。
もう先生も残っていない、特にやることない時間が自分を襲ってきた。別に宿に帰ればいい話なのだが、何分に子供のころから関羽と共に過ごしてきたおかげで、一人という感覚が薄れていってしまった。
いや、もともと慣れていないな。前の時なんか、よく誰かしらは自分の隣にいたから。
だから時間つぶしというわけで、先ほどまでの授業から解放されさっさと帰ろうとした曹操を捕まえたわけだ。
こいつ、多分もう塾通わなくていいよな? 曹操なんか、授業中どことなく主人公みたいに外の景色を眺めてるだけだしよ。先生に問題の回答をと聞かれたら、すぐ答えてしまう。
こんなことしないで、彼女は早く国というのを動かしたいのだろう。だけど分かっているはずだ。
それには教養と名声、そして少なからずの人脈が必要なのを。それが一気に手に入るとすれば、この塾ぐらいしかないんだろうな。
「それで、わざわざ愚痴を聞いてあげたのよ? 部下になってくれるわね」
「前提が可笑しいでしょ。そんなんだったら、色んな人が部下になってるよ」
「それでも構わないわ。あなたを手にいれられるのなら、そんな口車なんかどうでもいいわ」
「…………あんた、結構執着心高いでしょ?」
「もう気づいたの? 遅いぐらいだわ、慶凱」
なんだと、自分はやはり鈍感系主人公だったのか! こんなお決まり小説みたいな役なんて、流石は未来のスターだわ。よぅし、もし現代に戻ったらTwitte○で呟こう。
今思い返せば、中学の時なんか女子からいろいろ言われてたような……。思い出せそうで思い出せない。
あぁ、そうだ。たしか『目障り』とか言われてたんだった。
鈍感系だから気づかなかったなぁ、そうか自分は目障りの部類なんだ。キモイとかなら語弊とかあるかも知れないけど、目障りならいろいろヤバいよな。
………あぁ、死にたい。
ふと自分の周りに青黒いオーラが漂っているように見えるのは自分だけだろうか?
「………なに急に落ち込んでいるのよ。怖いわ」
「いや、なんか自分という存在はどれだけ人に邪見に扱われたのか、再確認してさ」
「怖いわね」
「二度言わなくてよろしいよ。あぁ、自分って女難という相でも出てるのかな?」
そう、曹操に聞けば彼女はどこかしか馬鹿にしたように笑い返された。なんだ、コイツ態度わるっ!
『やれやれ、なにを言っているんだかこの童貞ピーポー風情が』という意味を込めたような顔しやがって、とんだ野郎だな。自分だって言葉を間違っているわけでもない、ただ真実を語っているだけだ。
自分自身でもどうもバカらしくなり、机に顔を突っ伏せる。全身から力が抜け、やる気スイッチが入らなくなった。
「自分の故郷に幼馴染がいてさ、こいつが酷いという所を力づくで通り越すバカ野郎でさ。女の子のくせに、自分を片手で倒せる化け物だし、口も一流悪党みたいに悪いし、自分にだけ当たりが強いんだよ。そうさ、あいつは初めて会った時から最悪な態度だったさ。様々な工夫された苛めを仕掛けてくるわ、自分しか知らない秘密を何故か知ってて暴露するし、もう危険という文字を着こなしているやつ、あいつぐらいなもんだし」
「よく、そんな幼馴染と過ごしていたわね」
曹操は呆れながら、深いため息を吐いた。
「そしてここの塾に入れば、変な奴らにも目を付けられるしよ。片や大陸を制覇するとかいう病気みたいな奴に、毎日声をかけられるしよ」
「ねぇ、火葬か土葬どっちがいいかしら? こんな時だから、選ばせてあげるわ。私はもちろん『生き埋め』にしたいけど」
「あれ、それもう自分死んでからの後始末の話? 最後の方とか、完全に殺害予告なんですけど。これ、笑えばいいの? 笑えば許してくれるの!?」
いつの間にか彼女の手には小さな鎌が装備されており、刃先が光って切れ味が見るだけでもわかる。
突然の殺害予告のせいで口がどもったりして、上手く会話できない状態が続いた。何をいっても、笑顔で返されるから。
この曹操という彼女は、どこかしか関羽に共通すると何回も言っているし、思っている。
大きくまとめれば、自分に対して容赦がないという点だ。
曹操は他の男子生徒と話すときは、こんなラオ○のようなオーラを決して発しはしない。不愉快になっても、ト○のように事を荒立てないで済ましている。
八方美人とまではいかないけど、いい結果を残しているのは自分もこの眼で見ている。失敗しないでここまで上り詰めた彼女を称賛したい気持ちもある。
たしかに初めて出会ったときは、自分にはいい印象を与えようと頑張っていた彼女であったが、生憎に身内で間に合っているため自分には利かない。
あの時の変貌振りときたら、綺麗なグッピーがジョグレス進化で鮫という捕食生物になったような、そんな感想だ。
つか、このまま彼女と話していたら自分の命も危ない。
咄嗟に一番前の席を確認して、席を立つ。
「じゃ、じゃあ自分は用事があるから! その話はまた後日に!」
「待ちなさい慶凱!! 今とっておきの拷問思いついたのよ!」
思いつくなよ、怖いわ。
それに先ほどから自分と曹操の組み合わせが気に食わないのか、あちらの英雄は大層ご立腹になっている。
もう一つの悩み。片や大名家の跡継ぎで、自分をコキ使うお嬢様。髪の毛は腰まであり、曹操と同じ紙をクルクルにしている。
体の発達も12歳ながら関羽に負けず劣らずのナイスさ、頭は関羽と曹操に劣るが。
この教室に曹操と並ぶ、もう一人の『王様』。曹操とは違う才能を持ち合わせており、この教室に君臨している。
自分が曹操と話していたのは、単なる時間つぶしのためだ。彼女はたいてい色んな人に囲まれて煽てられているために、放課後になれば数十分は忙しい。
どうやら様子を窺えば、腰巾着どもは皆解散しており、彼女は自分を待っているようだ。
先に教室から居なくなった彼女を追いかけて、長い廊下で声をかける。
「待ってよ、麗羽!」
そう呼べば、不機嫌そうな顔をこちらに振り向かせた彼女がいた。
「随分遅かったですわね、勇人さん」
自分が急いできたのを察知したのか、先ほどまでの不機嫌が飛んで自分の隣まで移動してきてくれた。
「ごめんって。つか、先行くとか酷いくないか? もう少しで、自分もう少しで息が出来なくなるところだよ」
「大袈裟ですわ、そんなことぐらいで」
「そうか? 仕方ないだろ? ―――――――友達なんだから」
関羽や曹操とは違う。彼女から自分に『友達宣言』をしてくれたただ唯一の人。この世界で初めてできた友達だ。
自分のことを友達として大切に思ってくれて、自分のことを信頼してくれている。ここまで心地良いのは久しぶりだった。
「そうでしたわね。私たちは友達……ですから。この文書持ってくれませんか? 少々私には重いので。もちろん、友達ですから持ってくれるますよね」
「あぁ、いいとも」
彼女はとても見栄っ張りなので、文書が入っている鞄はまさに金持ちが持ちそうな豪華な鞄だ。その鞄をもう片方の手で受け取り、彼女の後についていく。
友達だから助け合わないとな!
「それじゃあ、行きましょうか。勇人さん」
こないだの曹操と同じようなシチュエーションだ。夕日をバックにして、自分に笑顔を向けてくれる彼女は、どこかしか尊いように。
もう一人の『王』、名前は袁紹、字は本初。
三国時代を輝かしく幕をあける、偉大なる英雄が一人である。袁紹が居なかったら、劇的な物語にならなかったと言われている。
彼女は初めて自分に真名を許してくれた。
それが一番うれしい。この塾にきて色々嫌なこともあったけど、友達が出来てなんとか頑張っています。
すでに彼女は少しばかり遠くにいるのに気づき、背中を追うように駆け出す。
じゃあ、また今度
今回短めです。
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