恋姫☦伝説   作:貧弱戦士

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やってしもうた


愛紗フェイズ1 

義大将、希代の英雄、抱かれたい人第一位。様々な異名を持ちあわせている、関帝。小さな村から関帝の物語は始まった。

もともとは、大義を掲げて村の代表に選ばれたが、それに満足せずに賊退治や悪漢退治など、人々が平和に暮らせるようにここまで生きてきている。

知略は都にお抱えの文官や、噂では軍師すらも凌駕するほど持て余し、武力は悪漢共を薙ぎ払える力を兼ね備えている。

才色兼備、文武両道という言葉は関帝に作られように思われる。下々からも信頼を置かれており、お上からは重宝として扱われている。

そんな関帝には、家族がいる。父親と母親は、幼き頃に亡くなってはいるが、まだ12歳ながらもしっかししている一人の妹がいる。

名前は関羽。真名は愛紗。時代を担う英雄が一人。

知略や武力は、まだ兄の関帝には及ばない……が。12歳というのを考慮すれば、才能は関帝と同等に満ち溢れている。それに、子供ながらも体つきも発達し、顔も言わずと知れた美貌の持ち主。

同じ年頃の男の子たちからは、少なからずは好意を抱いている。

一か月に一度は必ず告白されているという、実績も残っている。

そんな愛紗と幼馴染なのが、隣の民家に住んでいるニート賢者こと慶凱。真名は勇人。

彼女はどうやら、彼をシバクことが趣味なようなのか毎日のように彼の元に参じては不幸というのをデリバリーサービスをしている。いろんな人が誤解をしているかも知れないが、愛紗がこのような態度をとるのは勇人しかいない。

近所の人たちや、同期の子供たちと遊ぶときなどはまるでその面影がないように振る舞っている。

 

例ではあるが、勇人の前だとこういう。

 

 

 

『お前、ドブの匂いがするな………あぁ、もちろん口からな』

 

 

 

これを2進数変換とか10進数変換みたいにすると、こうなる。

 

 

 

『あなたから花の香りがしますね。これは東の山に生えている、名前は忘れてしまいましたけど、とても綺麗でいい香りがしました。それのやつですよね? あぁ、香りがいいと気持ちも安らぎますね』

 

 

 

ここまで違うと、勇人はもう何も言えなくなっている。文句を言えば暴力で返され、嫌がらせをすれば殺される勢いである。

そんな奇妙な二人の関係は、突然だが崩れてしまっている。別段、仲が悪くなったとかではない。

勇人はある用事で、兄の関帝と一緒に遠くの方まで旅に出てしまった。愛紗もそのことを知っており、心配もしていなかった。

 

―――――一か月半までは。

 

 

 

「凱、そろそろ朝練行く時間だぞ。早く起きないと、お前の穴という穴に棒を差し込んでやるから、起きろ」

 

 

 

いつもの日課である『朝から不幸を凱へ』という嫌がらせをしている愛紗。扉を強く叩き、奥に居るはずの勇人を無理やりでも起こそうとしている。

音をたてても反応はない、それに向こう側の部屋からは衣擦れや寝台からの音も聞こえない。

それもそうだ、この時間帯に勇人がいるわけではない。時間帯は関係ない、この日も勇人がいるはずがない。

愛紗は堪忍袋が切れたのか、木の棒を掴みながら思い切り扉を開けた。

いつも通り勇人はそこにバカみたいに寝ている姿は―――――。

 

 

 

「起きろ、バ凱…………、あれ?」

 

 

 

黄昏ている勇人の姿も、二度寝を聞け込んでいる勇人の姿も、シコっている勇人の姿も、どこも勇人という姿が見えない。愛紗はそのように解釈してしまった。

そんなわけはない、きっと既に外に出ているはずだ。愛紗自身にそう言い聞かすように、台所で料理を作っている勇人の母 慶天に話しかける。

 

 

 

「おば様、凱の姿が見えないのですけど。もしかして、私を放っといて、一人で外に行きませんでしたか?」

 

 

 

無邪気に愛紗は聞いた。まるで玩具がなくなったような、それを大切に確認するように、慶天に問いただした。慶天はテンポよく包丁を使って作っていたが、それが忽然と止まってしまう。

愛紗の視線では気づかなかったが、慶天はどことなくバツが悪そうな顔をする。だけど、それを気づかれないようにいつものようにニコニコ、優しい慶天に戻る。勇人と旦那以外に見せる、もう一つの顔だ。

慶天はしゃがみ込み、愛紗と同じ目線になる。愛くるしいように愛紗に触れ、頬を手で撫でる。

 

 

 

「愛紗ちゃん、勇人は………まだ帰ってきてないのよ」

 

「……………………」

 

 

 

勇人はいまだに、あの塾で関帝からの頼みごとを聞いている真っ最中だ。あれから一か月半が経ってしまった。

慶天は息子が遠くに行くことを事前に知っており、簡単には帰ってこれないというのも承知している。関帝やその部下たちも知っている。

身内で知らないのは、村中に愛されている愛紗のみである。愛紗だけが、知らない。そして、理解していない。

 

 

 

「………おば様、勇人はどこにいるのでしょうか? 兄上もお帰りになっておりますのに、あの馬鹿はまだ私の前から姿を見せてくれません」

 

 

 

愛紗は久々に『勇人』と呼んだ。今までのは勇人が嫌いという思いが強いのだが、それだけで真名を呼ばなかったわけではない。

慶天は現状の愛紗の思いをわかってしまい、胸の奥からチクチクと痛みが走り出す。

不安な瞳を見せていない、体や声も震えていない。何も心配ない、愛くるしい愛紗なのに、慶天は彼女の心の内をわかってしまう。

 

 

 

「おば様、勇人は……勇人はどこに? あいつは私が居ないと、何もできない奴ですよ。今頃は、どこかに隠れているんですよ…ね? そうですよね、おば様」

 

「愛紗ちゃん…………ごめんなさいね……!」

 

 

 

愛紗を見ていられなくなり、隠すように胸に抱き寄せる。彼女の綺麗な黒髪に手で絡め、小さな体をもう片方の手で受け止めるように抱きしめる。力強く、よりさらに力強く。

 

 

 

「勇人は、どこに………。あぁ、そういえば以前に近くの崖近くで遊んだことがあります。もしかしたら、そこに居るかもしれません。全く、あいつは………勇人め、私でも探しているのか? だからいないんだな」

 

「…………………もうすぐよ、もうすぐで勇人は帰ってくるから」

 

 

 

愛紗は村中に愛されている。好意を抱く同期の物達も、少なくはない。告白も受けており、婚姻してとまで言われている。

人からの好意が嬉しい愛紗は、最初はその好意を受け止めてしまう。告白した子たちは狂喜乱舞し、勇人を蔑む目で見ている。誰もが幸せで、村の中心の愛紗も幸せである。文句は言う必要性がない、問題はない――――――

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

お相手の子たちは、やはり最初に愛紗と二人きりになろうと誘いだした。まだ幼少ながらも、盛りが付いた雄となっている。

誘いには乗ったが、問題はここから始まる。

 

 

 

『お待たせした。ほら、勇人遅いぞ! 豚のように走るな、この不貞人間』

 

『なんで、自分がお前のデートに同行しなくちゃいけねぇんだよ。しかも、侮辱とか追加されて勇人さん激オコプンプン丸なんですけど』

 

 

 

何故かゴミがもれなく付いてくる。

――――これは想定外だ、愛紗も僕と二人きりになりたかったはずなのに、きっとこのゴミが無理やり付いてきたんだろうな。

最初はそう思った。それからもちゃんと勇人のことを計算に入れて、のけ者にする方法を考える。

けれども、毎回勇人が付いてくる。何故だ?

 

そして、いつしかそういう関係に冷める愛紗がフルときは、大抵はこのようなセリフを言う。

 

 

 

『すまないが、あなたの好意は大変嬉しい。しかし、あのバカのことを考えればわかる通り、これ以上お互い接触するのは避けるべきだと思う』

 

 

 

そのように言われたら、このように返す。

 

 

 

『なら、あいつをこれ以上出しゃばらない様に叩きつけるからさ。これで問題は平気でしょ?』

 

 

 

このように返す子は、ほとんどだった。中には勇人を殺すとまで言い出した子もいる。嫉妬とは子供大人でもそう違いはないのかも知れない、むしろ子供の方が純粋なせいでどす黒いはずだ。

けれど、これは悪い解答方法。正解はないが、ほとんどこう返した男の子たちは知らない。愛紗にとって、勇人はどういう存在なのかよ。

 

 

 

『…………………………そうか』

 

 

 

愛紗は初めて、付き合っている相手には見せなかった笑顔を見せた。希望が見えた子たちは、イケると勘違いしてしまう。

愛紗はいつも短剣を装備している。これは兄の命令で、護身用に装備している。

それが鞘から出ており、利き手で持っている。

ここから先は、ご想像にお任せします。結論を言えば、それを繰り返したせいで、村中から愛紗に好意を抱くものが減っていったことしか言えない。

 

友情を超えた関係、愛すらも余裕で凌駕する勇人への気持ち。いつしかその気持ちは凶器に変えてしまった。

 

素直に言えば、愛紗は勇人のことを愛してしまっている。

 

けれども、それは愛とは言えない。過ぎたことを、何時までも愛とは言えない。

関帝が帰ってきたときは、勇人が居ると決めつけている愛紗は嬉しそうに、愛しそうに村の大通りで待っていた。四日間会えない愛紗は、その間にいつも通り大人しいが、それがさらに閉じ込めたように静かであった。

勇人が居ない今にアプローチする子が多数いたが、それに聞く耳をもたず、興味もない。

もし、もしもだが、今回の関帝からの頼みごとを愛紗が聞いてしまったら彼女は有無言わずに勇人の近くにいただろう。

けれど彼女はまだ子供だ。感情の制御ができないでいる、まだ12歳の女の子。関帝は愛紗がいつか勇人で壊れてしまうのではないかと、心配している。

このまま大人になってしまい、勇人と離れ離れになってしまったらと思うと、想像などしたくないと言っている。

慶天は愛紗が愛している気持ちを汲んでおるが、それでも何もできないでいる。勇人に合わせようにも、彼は遠いところにいる。

勇人のことも心配だが、これが慶天が恐れていたことだ。愛紗がだんだんと可笑しくなっている現状が、物語っている。何故、愛紗が勇人に依存している理由を、知っているものが慶天、関帝と片手で数えるほどしかいない。

 

 

 

「なら、仕方ないが後を追いかけることにします。心配ないですよ、おば様。あれ以上バカをやらかさないように、ちゃんと見張りますから」

 

「そうね、愛紗ちゃん。勇人は、おバカな子ね」

 

 

 

――――女の子の気持ちも知らない、バカな子。あの人によく似ているわ。

抱きしめていた手を緩め、そのまま愛紗は元気よく出て行った。背中を見つめることしかできない慶天は、愚かな自分と蔑んでいる。

あぁ、早く帰ってきなさい勇人。

じゃないと、あなたの大切な子が『また』泣いてしまうわ。

思い残すようにそう呟き、青い天空を眺める。勇人のところまで続く天空が、きっとこの言葉をあの子に伝えてくれる………そんな馬鹿らしいと思いながら、途中まで作っていた料理を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

「なにこの空、なんでこんな雲ひとつないの? 暑すぎて死ぬんでけど、空とかもう最悪なんですけど。消滅しないかなー!」

 

 

 

空を眺める子が、有もないことを叫び今日もあの学び舎へと足を運ぶ。

 

では、また今度。




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