それから深海の生物を見ていたのだが、慣れた、というよりは水槽の中の魚たちに夢中になったので、暗闇に怯えることはなかった。
にしても、海老が大きい。伊勢海老というやつだ。あの海老の料理と言ったら思い浮かべるあのでかい海老。
それが多くいるのだ。しかも動いている。感動もあるが、いくらするんだろうか、とか、美味しそうだとかそういう感想しか思い浮かばない。
にしても海老ってよく見ると抵抗感があるような見た目をしているのに、どうして美味しそうって思えるのだろうか。
やっぱり他とは違って、ほとんどそのままの状態で、料理に出るからだろうか。
「むむう」
「? そんなに唸ってどうなさいましたの?」
不思議に思っているとセシリアが声をかけてきた。
「海老って良く見ると気持ち悪い形をしてるよね?」
「まあ、確かにそうですわね」
セシリアも同意してくれた。
「でも、美味しそうだと思うのはやっぱり普段からこの形のままで料理になっているからなんだろうね」
「思えばそうですわね。昔の方はよくこれを食べようと思いましたわね。きっと、小さなエビを食べていたという前提があったのでしょうけど、それでも勇気がいりますわね」
「だね。でも、まあ、その人たちのおかげで美味しいということが分かったんだからありがとうって礼を言うべきかもね」
私達は海老がゆったりと歩く水槽の前でそんなことを話していた。
さて、深海の生き物を十分に見て、次は日本の川の生物を見ることになった。
こちらは川の生物ということで、カエルなどの魚ではない両生類も多くいた。
ただ、やっぱり川の生き物ということで、そんなに大きな生き物はいなくて、正直に言うとちょっとつまらなかった。
最初に見たらそんなことを思うことはなかったんだろうけど、残念ながらコースの中で最後に見てしまった。
まあ、インパクトがないせいだね。
やっぱり見ている側としてはでっかい! とか、珍しい! とかっていうのがほしい。まあ、川の生き物にはそういうのがほとんどなかったのだが。
というわけで、あっさりと終わったのだ。
「ふう、最後は順番間違ったね」
「ですわね。最初にしたほうが良かったですわね」
セシリアも私と同じ意見みたい。ちょっとうれしい。
「じゃあ、次はコースじゃないところへ行こうか」
「何がありますの?」
「えっと、あっ、もう少ししたらイルカショーがあるみたいだよ」
水族館の所々にある地図を取って調べた。
「イルカショー」
「そう。二十分から二十五分くらいのショーだって。どうする?」
「行きますわ!」
セシリアが目を輝かせて言った。
うん、私はこの笑顔を見るためにここに来たんだ! 思わずそう思ってしまう。
だけど、恋人の幸せが一番だからあながち間違いではない。むしろそうだと言えるかも。
というわけで、イルカショーのある舞台へ向かう。
「やっぱり広いですわね」
「イルカショーだからね。多くの人がいるからこのぐらい広くないとね」
観客席は、えっと、スタンド席って言うのかな? 傾斜に席が扇状に並んでいる。
「えっと、イルカショーではイルカが跳ぶみたいで、着水のときの水しぶきがすごいんだって。だから最前列は止めたほうがいいね。濡れてもいいなら最前列でもいいけど」
「いえ、さすがに嫌ですわね」
「じゃあ、真ん中あたりに座ろうか」
「ええ」
幸いなことに空いていたので、そこに二人並んで座った。
それからついにショーが始まる。
まず最初はアシカのショーだった。
イルカショーだからイルカのみなのかと思っていたけど、アシカもするみたいだ。
アシカはイルカショーの前菜というやつだろう。
アシカのショーはスタッフが投げる輪をアシカが上手く輪に首を突っ込んで受け取るというものやボールを鼻先で受け止めたり、投げたりするパフォーマンスがあった。
派手ではないが、元は野生の生き物のアシカがこうして芸をこなすのだ。素直にすごいと思う。それに愛らしい。
周りの観客も同じようだ。皆アシカの動きに見惚れている。
ああ、何だろう。可愛すぎる!
「アシカってとても可愛らしいですわね。何だか興味が湧きますわ」
「私もだよ。そういえばアザラシもいるみたいだよ。あとで見ようか」
「ええ」
立派に芸をやり遂げたアシカを見送りながら、私達はそんなことを話した。
次はメインのイルカショーである。
スタッフたちが舞台に立ち、挨拶をする。
早速始まる。スタッフが二匹のイルカの先に立って、舞台の水槽をすごいスピードで移動する。
何て言う技なのか分からないけど、絶対に難易度の高い技だ。だって、いくら芸とはいえ、二匹のイルカの上に立って移動しているんだもん。バランスもあるけど、二匹のイルカ同士の息が合っていないとできないことだ。
「す、すごいですわね。開幕からいきなりあのような大技をするなんて……」
セシリアも驚いている。
それから水槽を何周かして、その技が終わった。
それから始まる挨拶。スタッフたちが自己紹介し、最後にイルカたちを紹介する。どうやらイルカそれぞれに名前があるみたい。
まあ、私には分からないのだけど。
「セシリアはイルカたちの名前、分かる?」
「え、えっと、わ、分かりませんわ。詩織はどうなんですの?」
「う~ん、分かんない! やっぱりいつも見てないと分からないね」
「スタッフの方はどうやって見分けているのでしょうね。やっぱり少し違うのでしょうかね」
「気になるね」
「ええ」
だって、明らかに分かっているみたいだし。
どこで見分けているのか気になるのは仕方ない。
さて、イルカたちの紹介が終わるとイルカたちによる芸が始まった。
内容はイルカたちによるボール遊び、イルカたちの背泳ぎなどでした。
それらが終わり、最後はイルカたちのジャンプだ。
舞台の天上から吊り下げられたボールが降りてくる。そのボールはボールの真下の水面から、どれくらいかは分からないけど、結構距離がある。多分十メートルはある? それくらいである。
スタッフからの合図があると、イルカたちが深く潜り、跳ぶ体勢へ入った。観客席側の水槽の壁は透明な壁になっているため、それがよく見えた。
そして、すごい勢いでイルカが水面へと上がって行き、イルカは空を飛んだ。
周りからは、おおっ~という歓声が。私もセシリアも声を出して見ていた。
イルカはそのまま飛んで、目標のボールを突いた。
それに対して、また一段と大きい歓声が。
イルカはそのまま水面へと水しぶきを上げて戻っていった。
それから何度かイルカが跳び、イルカショーが終わる。
終わった後は他のアザラシやペンギンのいるところへ行ったりした。
全てを見終わる頃には日が傾き、空が茜色になっていた。
「見終わったね」
水族館から出た私は隣にいるセシリアに少し残念そうに言った。
だって、見終わったということはデートの終わりが近づいているということだから。
「ええ」
返事をするセシリアも同じようだ。
でも、楽しかったのは事実である。二回目のセシリアとのデートはまだ終わった訳ではないけど、楽しかった。
「今日は外で食べようか。今から帰っても遅いし、お腹が空いたままだからね」
「分かりましたわ」
「じゃあ、近くに大きなショッピングモールがあるみたいだから、そこへ行ってそこの飲食店でご飯にしようか。ショッピングモールだからいっぱいあるよ」
ということで、歩いて二十分ほどの距離にある、ショッピングモールへと向かった。
ショッピングモール内は今日が休日ということで多くの人で、多くの家族でいっぱいである。もちろん、恋人も。
そんな中を私たちは歩くのだけど、家族連れを見ると少し羨ましく思う。
いいなあ。私も恋人じゃなく家族になりたいなあ。
そう思うから羨ましい。
ちなみに女性同士の私たちが言う家族は一緒の家に住み、ほかの家族のように過ごすことである。私たちの間に子どもが産めないと言うのは本当にとても残念なのだけど。
「セシリア、何が食べたい?」
心の中で絶対にセシリアたちを放さないと思いながら、セシリアに聞いた。
「わたくしはパスタを食べたいですわ」
「パスタか。分かった。私も久しぶりに食べたいし、ちょうどいいね」
地図を見て探してみるとこのショッピングモールにはその店があった。
さっそく行って満席ではないか、中を覗いてみる。
うん、まだ空いているね。
行列が出来ていたら、その列次第では別の店に行こうかと思ったけど、その必要は全くないようだ。早速中に入る。
「何だか落ち着く雰囲気になっていますわね」
中に入って周りを見回すセシリアが言う。
「だね。でも、パスタとかの店だから雰囲気とかあってるかも」
「同意しますわ」
店員に案内されてから椅子に座る。
メニューを取ると何を食べるのかを決める。
私が選んだのはカルボナーラだ。個人的にはとても好きな食べ物だ。
「詩織はカルボナーラなのですね」
「うん。好きだからね。セシリアは? 一応、パスタ以外にもあるよ」
「いえ、パスタにしますわ。詩織のおすすめはありますの?」
「そうだね。たらこパスタとかは? 私、結構好きなんだ」
「なら詩織の言うたらこパスタにしますわ」
「あれ? いいの?」
あっさりと言われるとうれしいというのもあるけど、責任を感じるというか。
「詩織がおすすめしたものですもの。良いに決まっていますわ」
ということで私たちの料理が決まった。ただし、責任という名の緊張感が増したが。
早速店員を呼んで注文をする。
しばらく待っていると店員が
え? 皿の数が多い? いえ、間違ってないです。
だって、三皿のうち二皿は私が食べるのですから。
「……大盛り二つを食べるんですの?」
「うん!」
まあ、今までの私の行動を見れば当然の量である。
まあ、確かに今回は大盛りが二つと昼間でもしなかったことをやっているという自覚はあるけどね。
「ほ、本当に入りますの? 正直、大盛りが二つは見たことがありませんわよ」
「あはは、大丈夫だよ! ちゃんと食べれるから頼んだしね」
たくさん食べる私は基本的に食べ物を残すということをよしとしない。もちろん、例外はあるけどね。
なので、こういう外食では食べれる分しか、頼まない。つまり、大盛りのカルボナーラ二皿分は食べられるということなのだ。
「「いただきます」」
二人で手を合わせ、そう言って食べ始める。
「はむはむはむ。ん~、美味しい!」
「ふふふ、詩織はいつもそう言ってますわ」
セシリアが微笑ましそうに見ながら言った。
まるで、保護者である。
「だって美味しいからね。セシリアのほうはどう? 美味しい?」
「はむ、美味しいですわね。何というか、今まで食べたことのないパスタですわ」
「ふふふ、気に入ったみたいだね」
「ええ!」
気に入ってもらえて何よりだ。
それから私たちは軽く話をしながら、その夕食を楽しんだ。
「ふう、ごちそうさま」
「……ごちそうさまですわ」
セシリアと
「あ、相変わらずどうして一緒に食べ終わるんですの? わたくしの二倍どころか四倍近くありましたわよね?」
「だね。どうしてだろうね」
「はあ……、もう七不思議レベルですわ。そのうち学園で噂されるんじゃありません?」
「あはは、されたら面白いよね」
IS学園は歴史が浅い学園だ。その学園の七不思議とか、そういうレベルになれるのは歓迎である。
「笑い事ではありませんわよ。実は結構噂になっているんですのよ」
「え? 本当?」
まさか、冗談ではなく、本当に七不思議化されかけているようだ。
「ええ。全学年で、ですわ。もちろん、詩織の耳に入っていない程度の噂ですけど」
「ぜ、全学年で、か。さすがに驚きだよ」
「わたくしだってそうですわよ。まさか先輩方の学年で噂になっているって言われたんですもの。すぐに詩織だと察しましたわ」
「あはは、お恥ずかしい」
まさかそこまで広まっているとは……。もしかしたら私の名前が大食い少女として知れ渡るかもしれない。
……それはちょっと嫌だ。七不思議になるのはいいけど、そういう有名になるのは嫌だ。
私だって女の子である。大食い少女とされて、想像されるのは絶対にぶくぶくに太った私である。さすがに想像でも嫌だ。
それならば七不思議でもそうではないのかとなるのだけど、七不思議と言われるのだ。ただの大食いでなるはずがない。なるのは大食いなのに太っていないからだ。普通に考えてもとてもたくさん食べていて、太っているのと、たくさん食べて太っていないの二つでは、どう考えても不思議に思うのは後者であろう。つまり、七不思議である。
なので、七不思議はいいのだ。
「一応聞くけど、その噂を確かめに来る人っているの?」
「多分
「そう、なんだ」
そっか。
そういう未来があるかもしれないということに少々身震いする。