精神もTSしました   作:謎の旅人

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第2話 私の獲物が、う、奪われた……

 ふむ、やはりセシリアはちょっとプライドが高いみたいだ。それとあまり男である一夏のことを好意に思っていないようだ。うまく隠してはいたが、それがよく分かった。

 私はそれにダメだとは思わない。なにせ世の中がそういう世の中になってしまったのだ。

 女が上で男が下と。特にその傾向が大きいのは十代から三十代の女だ。彼女たちはまるで女王にでもなったかのように普通に男性に命令するのだ。

 もちろんそういう人がたくさんいるというわけじゃないよ。

 

 さすがにやりすぎなのでは思うのだが、うん、そういう世の中だからとしか言えない。女尊男卑の世の中だからね。

 と、そう思っているときについに私の番になった。

 私は椅子を引いて立ち上がる。

 

「月山 詩織です。趣味はにんげ――じゃなくて、動物観察です。よく見るのは……そうですね。犬や猫です。あと可愛いものが好きです。みなさん、どうぞよろしくお願いしますね」

 

 私はそう言って微笑んで、席に着いた。

 そして、次の人へとなる。

 私はそれを静かに聞いていた。が、内心は静かじゃなかった。

 あ、危なかった! もう少しで人間観察って言っちゃうところだった! もし完全に言っていたらただの危ない人になるところだった!

 ああ、ちなみに人間観察というのはある意味本当だ。私は、特に中学のときからハーレムを作ろうと思って、可愛い子をよく観察していた。結果、趣味のようなものになった。

 

 だが、まあ動物観察もあながち嘘ではない。私は犬や猫が大好きで近所の犬や猫と遊んでいたし、観察もしていた。

 それと『可愛いもの』と言ったが、それをちょっと変えると『可愛い者』だ。つまりそれの示すところは『可愛い者の女の子』だ。

 私はちょっと濁して可愛い女の子が大好きですとみんなの前で言ったのだ。

 まあ、これには気づかないだろう。なにせ『もの』と言ったのだ。これを『女の子』に変換して見事正解へ行き着くことなど無理だろう。

 

「さて、終わったな。いいか、諸君たちには半月でISの基礎知識を詰め込んでもらい、その後も半月で実習してもらう。基本動作も体に染み込ませろ。いいな? よくなくても返事をしろ。そのときの返事は『はい』のみだ」

 

 なんか理不尽を言われたような気がするが、それは気のせいだろう。

 一夏を除いた私たちはきらきらとした目で頷いた。

 

「ふっ、分かったようだな。では授業を始めるとしようか」

 

 千冬さんは薄く笑って授業を始めた。

 

 一時間目のIS基礎理論が終わった。

 すでに中学のときにISを独学で学んでいたので、実はIS学園で新しく学ぶことは一部のISの知識と実習だ。

 なので今回もこれからも私にとっては復習の時間となる。

 そういうことなので、初めてのこの学校での授業は完全に理解できた。というか、基礎ということもあって簡単だったし、忘れかけたことも思い出せてよかった。

 ほかのみんなもそうだろうか。やはり予習でもしているのだろうか。

 私はちょっと不安になる。

 

 だってもしこの中でちゃんと理解しているのが私だけだと嫌な方向に目立ってしまうのだ。

 私だけちゃんと理解していて周りは理解していない。

 この状況は中学時代にやっていた女の子たちに囲まれる、ということができるのだが、それは一部の者が理解できていて私一人ではないときにできることだ。私だけというのは私がでしゃばっているとしか見られなくなる。

 だから不安だ。

 私は気持ちを切り替えた。

 私はちょっと周りを見る。それは話しかける相手を見つけるためだ。しかし、話しかけられそうな相手が見つからない。

 みんな一夏に夢中だった。

 

 なにせ世界にただ一人のISを動かせる男で、イケメンに入る顔だ。休み時間となって話しかけるにはいい時間だ。

 みんな遠くから一夏のことをひそひそと話す。

 その内容は別に悪いものではない。ただどうやって話しかけるかを話しているのだ。

 ……うらやましい。正直言ってうらやましい! 薄々は思っていたが一夏はどこかの自意識過剰の最低なやつではなく、いい意味でもてるタイプだ!

 その証拠に男子にはうれしいはずのこの学園に来ているというのに一夏は自ら話しかけようとはしていない。逆に本心から気まずいという顔をしている。

 おそらくだが一夏は鈍感で、無意識のうちにフラグを立てるのだろう。そして、本人の知らぬ間に女の子たちを惚れさせているのだ。

 なんだか私の勘がそう告げている。

 

 や、やっぱりハーレムを作る上での障害は一夏のようだ……。やはり一夏に近づいたほうがいいのかな?

 悩ましいところだ。

 最後にチラッと一夏を見る。

 やはりもうすでに疲労の顔だ。

 いきなりIS学園に入れられたのだ。きっと全くと言っていいほどISについて知らなかったのだろう。それだから勉強についていけなかったのだ。

 ん? あれ? でも、参考書があったよね? アレを読んでいれば大丈夫のはずなのに。もしかして……読んでいなかった?

 

 IS学園に入学する前に私たち生徒はちょっとぶ厚い参考書を貰う。それは必読だ。内容はもちろんISについてのこと。中には先ほどした授業の内容も書かれていた。

 なのでこれを読んでいれば基礎は軽く固めることができる。

 でも、まさか最初時間でこれか。次の時間も午後にもISについての授業があるんだけど……。一夏、大丈夫かな?

 色々と一夏に同情してしまう。

 と、一夏がガクリとなったところに一人の少女が一夏に近づいてきた。

 むっ、勇気ある子だな~。さてさて誰かな?

 私はクラスメイトのほとんどの名前と顔を記憶している。なので誰が近づいたのかは分かる。

 私はその勇気ある少女の顔を見た。そして、驚愕のあまり椅子から転げ落ちそうになった。

 

「なっ……!」

 

 思わず声が出かけたが、なんとか口を押さえて踏みとどまる。

 な、何で!? 何で箒が一夏に近づくの!?

 そう、私のハーレムの対象の一人である篠ノ之 箒が一人で一夏に近づいたのだ。

 

「……ちょっといいか?」

 

 箒が一夏に声をかけた。

 それに反応して一夏が箒のほうを見る。

 周りの女の子たちは驚愕で先ほどとは違ったざわめきに包まれる。

 だけど、一番驚いたのはやはり私だ。

 

 周りの子たちはただ箒が最初に話しかけたということで、まだ一夏が箒によってどうにかなるというわけでもない。だが、私は違う。私は箒のことを狙っているのだ。その箒が自ら一夏に会いに向かった。

 一夏は本人すら自覚のないフラグメイカーだ。

 つまり、箒がどういう意図があろうと一夏の言動が箒を惚れさせる要因となるのだ。

 それは箒が一夏に取られるということを示す。

 

「……箒?」

 

 えっ!? そ、その反応……ま、まさか二人は知り合いなの!?

 一夏は箒の名前を言った。

 普通、これが初対面だったらいきなり名前で呼ぶなんてありえないというものあるが、名前など覚えれるはずがない(私は別)。そういうことから二人は知り合いだ。しかも名前で呼ぶからにはただの友達ではないはず。

 ど、どういう関係なんだろう? こ、恋人じゃないよね?

 箒を狙う私としては一夏との関係が気になった。

 もし二人がそういう関係ならば私はあきらめなければならない。

 

「廊下でいいか?」

 

 箒が一夏にそう言う。

 こっそりと聞いていた私はなんとも複雑な気分となる。

 う、うう~二人が友達以上恋人未満ならば絶対に箒は一夏に恋心を抱いているよ~!

 愛の力は絶大だ。どんなに危険があろうが、その中へ愛のために飛び込んでいくだろう。私のもそうだ。愛ではないが、思いだけでこのIS学園に入った。それだけの力があるのだ。

 

 まさか愛がないのにこの学園にいる唯一の男、一夏に声をかけないだろう。それがたとえ一夏のことを気遣ってでも。

 と、その間に二人は廊下へ出て行った。

 二人が、特に箒のことが気になる私は気配を消して後を追った。

 この気配の消し方はもちろんのこと祖父から習った。

 

 だが、うん、気配を消した意味はなかった。なにせまだ休み時間で廊下には一夏を見ようとする人たちがいたからだ。これじゃ気配を消しても意味がない。

 廊下にいるみんなは一夏たちから距離を置いて囲むようになっている。

 私はみんなに紛れて二人の会話に耳を傾けた。

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」

 

 呼び出したはずの箒ではなく、一夏から切り出した。

 というか、箒って剣道をやっていたんだ。しかも、全国大会で優勝する実力者!

 そういう競技に詳しいわけではないが、一位を取る難しさは知っている。それは才能だけでなく、努力も必要なことだ。私の中学時代の成績もそうだ。動機は不純だが努力して勝ち取ったものだった。

 

 一夏にそう言われた箒は頬を赤らめていた。

 ぐっ、さっきまではちょっと鋭いちょっと威圧的だったのに今は可愛らしく頬を染めているからギャップが!!

 可愛さ、美しさ。そして、それらを伴った言動。

 それは私にとっては精神攻撃だ。

 

 思わず自分の胸元を握り締める。

 私は一夏に嫉妬する。

 ずるい。そんなのはずるいよ。自分と箒が知り合いだからって箒にそんなふうにさせるなんて!

 

「なんで知っているんだ?」

「なんでって、新聞を見たから」

「なんで新聞を見ているのだっ」

 

 箒の言葉に一夏は困った顔をするが、私には分かる。箒のその言葉は照れ隠しなのだ。

 やはり箒は一夏に好意を抱いている。一方の一夏はやはりそれに気づいていない。

 箒が本当に好意を持っているということは私に一夏への恨みが募らせる。私が箒を狙っていただけにそれは大きい。

 こ、これはやっぱり私に箒はあきらめるしかないのかな?

 箒は一夏に好意を抱いているのだ。そこに別の相手、それも同じ同性である私が入り込める余地などない。

 残念だがどうやら私は箒をあきらめなければならないようだ。

 

「久しぶり。六年振りだったか? だけどすぐに箒だって分かったよ」

「え……」

「髪型だって一緒だし」

「よ、よく覚えているのだな」

「当たり前だろう。幼馴染のことだ。忘れるわけがない」

「…………」

 

 さらに新事実。

 どうやら二人は幼馴染という関係のようだ。

 それじゃ余計に入り込むなんて無理だ。幼馴染とクラスメイト、それも同性では勝つなんて難しすぎる!

 でも、あきらめるからと言って仲良くしないわけではない。束さんのこともあるが、純粋に箒と友達になりたいという気持ちがあるのだ。

 ん? おっとチャイムが鳴った。

 二人を囲んでいた私たちは一斉に教室へ戻っていく。

 二人は私たちの後に続いた。

 はあ……箒が奪われたよ……。

 教室へ戻り、席に着いた私は思わず机にうつ伏せになってテンションを落としていた。

 じゃあ、次はセシリアか。今度こそは手に入れよう。一夏、今度は私が奪うからね!

 私は次の授業の準備をするセシリアの姿をじっくりと見て堪能した。

 

 その授業中、山田先生がISについての説明をしつつ板書をする。黒板にはすでに八割ほどが白や赤のチョークで埋められていた。

 もちろんのこと私はちゃんとそれらを理解していた。

 周りの子達も時折うなずいてノートに板書を写していた。

 私は板書を写しつつ、周りの子達の姿を見るという同時に二つの行動を行っている。この技は小学生時代になんだか同じ内容ばかりだからつまんないな、だから授業を聞きながら別のことをしよう、という考えにより作られたものだ! 一度に二つのことをするこれはとても難易度の高い技だ。この技には努力だけでは不可能だ。二つのことを同時に処理するという才能がいる。

 

 このようなことができるのは世界中にも滅多にいないだろう。

 私が板書を写し終わり、周りの子達を観察――じゃなくて、眺めていると山田先生がここまでで分からないところはないか、問いかけてくる。

 私はもちろんのことなく、周りの子達も理解できていた。

 だが、ただ一人そうではない者がいた。それは一夏だった。

 

「ほとんど全部分かりません」

 

 …………確かに分からないことをそのままにしておくのはまずいと思う。そのときは恥を忍んで正直に言うべきだと思う。だけど、それには限度があると思うんだ。

 一夏、君のソレはひどすぎるよ!!

 一時間目が終わってからの一夏を見て、まさかとは思っていたけど……。

 

「え……。ぜ、全部ですか? え、えっと他に分からないところがあるって人はいませんか?」

 

 だけど周りは手は上げない。周りは完全にここまでの授業を理解しているからだ。顔を見ていたがそこに偽りはない。

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

 千冬さんが一夏に聞いた。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 一夏のまさかの告白。

 それを聞いた千冬さんは一夏の頭を叩いた。

 私はただ読んでいないだけかなと思っていたが、まさか捨てたとは!!

 さ、さすが一夏。予想にもしていないことをしてくれる。

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