部屋に残っているのは私とセシリアだけだ。つまり、ここで何が起きても邪魔をする者はいないということである。
私はこの状況を冷静に分析して、それがよく分かりごくりとのどを鳴らした。
私たちは体のラインが出てしまうISスーツを着ている。それはちょっと見方を変えれば裸である。ただ大事な部分が見えない。違いはそれだけ。
そんな裸で私たちは至近距離でいる。先ほど抱きしめたせいで距離も近い。触れている部分からはセシリアのほんのり上がった体温を感じる。
私の興奮が上がった。
さらに保健室の窓はカーテンが開いていて、窓からの夕日が部屋に射し込みそれがまた雰囲気を醸し出していた。
セシリアもこの状況と雰囲気を感じ取り、さらに顔を真っ赤にして私から目を逸らした。
「そ、そういえば話がまだでしたわよね?」
この状況を脱しようとセシリアが話を切り出してきた。
「え、ええ、そうだったわね」
私は結局逃げた。さすがにいい雰囲気でもここでセシリアをがばっと襲うことなど無理だった。
それでその話とはもちろんハーレムのことである。
セシリアはハーレムを許せなくて、ただ一人を好きになってほしいと思っている。反対に私はもちろんのことただ一人を愛するのではなく複数人を愛したいと思っている。
どちらも譲れない。
私たちはその決着をつけるために二人並んでベッドに腰掛けた。
「ねえ、ハーレムは嫌、なのよね?」
「ええ、嫌ですわ。わたくしは複数人を好きになることなど無理に決まっていますもの」
「でも、私はセシリアのこともちゃんと愛するよ? それでもダメかしら?」
「な、何度言っても無理ですわ! わたくしは断固として認めませんわ!」
やはりセシリアは認めてくれない。
さて、どうしてくれたら認めてくれるのだろうか。
「もうわたくしをあきらめたらどうですの? わたくしは決してハーレムを認めなくて、あなたもハーレムをあきらめることができない。このままではずっと平行線ですわ。それにわたくし以外にもあなたの好みの子はいますわ」
セシリアがそう提案してきた。
確かにセシリアのその提案はもっともだ。互いに譲れないのであれば、私たちの関係をなくして別の人と関係を結べばいい。それが一番の手だと言える。それがもっともいいのかもしれない。
だけど、だけどね、セシリア。その提案は確かにいいものだけどね、そんなのもう無理なんだよ。
私のセシリアへの想いはすでにそのようなことで消えるような小さな灯火ではもうない。どのような雨や風だろうが決して消えることのない炎なのだ。もうセシリアをあきらめることはできない。例えほかに私の好みの子がいようとただハーレムに加えるだけであって、決してセシリアを捨てたりなどはしない。
「いやよ。あなたを絶対に放さないわ」
「……よくそのような恥ずかしい言葉を真顔で言えますわね」
顔を真っ赤にしながらそう言う。
「本当のことだから別に恥ずかしくないもの」
これが何かの罰ゲームで言うとかなら恥ずかしいのだろうが、この想いは本気なのだ。それを言っただけ。恥ずかしいなどという感情は湧かない。むしろ伝えることができたなどの達成感と満足感を感じるほどだ。
「好き。大好き。愛してる」
「ま、真顔で言わないでくださいまし! よ、余計に恥ずかしいですわ!」
「そんなこと無理よ。セシリアは私のこと好きじゃないとしても恋人だもの。好きな人に想いを伝えて当たり前よ。そうじゃない? 好きな人に好きだって伝えるのは当たり前でしょ?」
「た、確かにそうですけども……」
「好き。好き好き!」
「ああ、もう! 分かりましたわ! だからやめてくださいまし!」
「いや。セシリアがハーレムを認めるまで言い続けるわ」
「また脅迫ですの!?」
「そうね。脅迫よ。認めてくれるまであなたへの想いを言い続けるわ」
「もう! 本当にあなたは自分勝手ですわね!」
「ええ、そうよ。それはもう自覚済みよ」
私は同性愛者である。同性愛というのはやはり世間から見るとやはり厳しいものがある。それは同性愛というのが普通ではないからであるのが主な理由である。人というのはその普通ではないことに対して、ごくたまに受け入れることはあるが、ほとんどが拒絶する。
同性愛はもちろん拒絶される側である。
だから、もし同性愛者というのがばれてしまえば、皆でその者を拒絶し、その場の平穏を保つために追い出そうとする。群れの輪を乱す者は仲間から追い出される決まりだ。同性愛である私はそんな立場なのだ。
そんな立場に好きな人を巻き込む。私とともに好きな人も同じように追い出されるのだ。
私の愛が他人の人生を危ういものに変える。それは自分勝手に違いない。私はちゃんとそれを自覚している。自覚した上でさらに好きな人を作ろうとしているのだ。辞めようなどとは思わない。私はこれからもハーレムを作るのだ。だから私は自分勝手をするのだ。
他人の人生を変えるというのにこのように考えていられるのは、私のこの二度目の人生をおまけの人生だと心の奥で感じているからなのかもしれない。
「愛しているわ」
「あぁっもう!! 分かりましたわ!! わたくしの負けですわ!!」
「えっ? それって?」
「聞いてのとおりですわ。あなたのハーレムを認めるということですわ」
「い、いいの!? ハーレムでいいの!?」
「ええ」
「ほ、本当に!?」
「ええ、本当ですわ」
「あ、あんなに認めないって雰囲気だったのに……」
どう考えてもこんなに簡単に認める雰囲気ではなかった。もう何を言おうが絶対に認めないという雰囲気だった。
な、何かあるのかな? わ、私を騙そうと?
こんなにあっさり認めたからどうしても疑ってしまう。
「そんなに疑わなくてもいいですわ。これは本当のことですから」
そうは言われるがやはり疑ってしまう。
「ただ、条件がありますわ」
「……条件?」
「ええ、認めるとは言いましたがそれはあなたがハーレムを作ることであって、わたくし自身の心がハーレムを受け入れたという意味ではありませんわ。それを分かっていてくださいな」
「分かったわ」
「で、条件ですけどそれはたとえあなたのハーレムの方が相手でもその前ではあなたと恋人らしくしないということですわ」
「……なんで?」
私としてはハーレムなのでみんなでいちゃいちゃしたい。私の両脇に二人を置いてキスしたり、抱きしめたり、ちょっと過激なスキンシップなどをして。なので私はセシリアのその条件をあまり受け入れたくないのだ。
「言いましたでしょ。わたくしはあなたのことを好きではないし、あなたがハーレムをするのは認めましたけど、わたくし自身がハーレムを認めたわけではないと」
言っていた。
恋人関係になるのは別にいいが、ハーレムは浮気のように感じられて嫌だと。だからセシリアはここまで頑なにハーレムを否定してきたのだ。そのためセシリアはハーレムという浮気がもっとも顕著に現れるセシリア以外の子を含めた、いちゃいちゃすることを許せないのだろう。
なるほど。でも、まあ、それでもいいかな。
簪とセシリアに囲まれていちゃいちゃしたかった私なのだが、あっさりとセシリアのその条件を受け入れようとしていた。
セシリアは約束ということで嫌々私の恋人になった。その気持ちはまだ嫌いのまま変わっていない。条件は現在のセシリアの気持ちで言ったものだ。だから、だからもしセシリアがこのまま私と過ごして私のことを好きになってくれたら? そのときセシリアの気持ちが変わってその条件を変えて、私が願いである私と簪、セシリアの三人でいちゃいちゃができるかもしれない。
私はそういう考えがあってそう思ったのだ。
うん、そのためにもセシリアからの好感度を上げないと。
「分かったわ。その条件を呑むわ」
「……いいのですの?」
「いいわよ」
もちろんのことセシリアが私のことを好きになっても簪と一緒に、なんて絶対にあるとは思ってはいない。むしろ可能性としては一緒にいちゃいちゃなどは少ないような気がする。まあ、私としては半分以上期待はしているが。
「ふう~」
色々と解決したことでゆっくり息を吐いた。
なんだかこの数日で私の夢が順調すぎるくらいに叶ったな~。だからだろうか。まるで人生に満足した感覚を得るのは。でも、それは当たり前のことだと思う。だって私のこの人生の大半はハーレムを作るということに捧げてきたのだ。その夢を叶えた、つまり生きる目標がなくなった今、私はその達成感のような虚無感のようなそんなものを感じているのだろう。
なんだかこれを感じていると間違ってはいないがもう生きることに満足したような感じもする。
こ、これはダメだ。感じちゃいけないものだ!
私はそう思い、生きる目標を再設定しなおす。今まではハーレムがそうだったので、ハーレムが前提でその上位のものであるいちゃいちゃするということを目標とした。
すると私の中の先ほどまであったあの感じはきれいに消え去った。
「……詩織?」
なぜか知らないけど心配そうなセシリアが私の顔を覗き込むようにして、私の名前を呼んでいた。
「どうしたの?」
「……あなた、どうもありませんの?」
「え? な、何が?」
「詩織、今、あなたの顔色がとても悪かったのですよ? 気付いていませんでしたの? 本当にどうもありませんの?」
冗談ではと思ったのだが、セシリアの顔がそういう冗談を言っているような顔ではなかった。どうやら本当に顔色が悪かったらしい。
私は自分の体のほうに意識を集中される。
うん、どこも問題ない。
ならば何のせいだろうか。考えるが分からなかった。
「大丈夫よ。どこも痛くないし、気分が悪いとかじゃないから」
「そう……ですの」
セシリアは未だに心配そうな顔だ。
そんなセシリアを安心させるために私は安心させるという意味を込めて優しくぎゅっと抱きしめた。
「そんな顔をしないで。ほら、本当に大丈夫だから。それに何かあれば大事になる前に誰かに言うわ」
「本当ですの?」
「ええ。だってセシリアって恋人がいるもの。体が悪いまま放って置いてもう二度と会えなくなるなんて嫌だからね」
私の生きる目標は好きな子たちといちゃいちゃするとなったのだ。それは始まりはあるが終わりのないもので、つまりは人生の最後までいちゃいちゃするということなので、早く死ぬなどということはできないということなのだ。だから私は重症だと思えばすぐさま病院に行くなどしてそれを解消する。
絶対にみんなには心配なんてさせない。
私は心の中で誓った。
「にしても、そんなに心配してくれるってことは私に惚れた?」
「ち、違いますわ!! 誰だって心配くらいしますわ! 何を言っていますの!? というか離れなさい!」
「いやよ。しばらくはこのままで」
「離れなさい! 言っておきますけどわたくしは怪我人ですのよ! 悪化させる気ですの!?」
「……」
そう言われると私は離れざるを得ない。元々セシリアの腹部の怪我は私のせいである。セシリアの怪我を治すためにも無理をさせることはできない。いくら自分勝手な私でもそれを出されたら強く出ることができないのだ。
私は渋々セシリアを抱きしめる腕を解いた。
セシリアはもう私のものなんだしまだいくらだって時間はあるよね。それにいつかはセシリアのほうから恋人として私に抱きついてくる可能性だってあるんだ。そのためと思えば……。
自分をそう説得してその欲求を取り去る。
「ふう」
セシリアは息を吐いて落ち着く。
私はセシリアがそうしている間に腹部を見た。別に下心とかではない。ただ腹部の具合を知るためだ。
腹部が見えるようにとISスーツをきれいに切り取った部分から見えるのは、勝つためとはいえ愛する人にひどいことをしたという事実である、内出血による青紫色のようなどす黒いものだ。見るからに痛々しいものだ。
私は思わず俯く。
「どうしましたの?」
自分を落ち着かせたセシリアが私の様子に気づいて声をかける。
「そ、そのお腹のこと……」
「これ、ですの?」
セシリアは自分のお腹に顔を向ける。
第三者の私でも痛々しくみえる傷。なのにその傷を負っているはずのセシリアはもうなんでもないかのように淡々としていた。
「鎮痛剤を打ってあるので問題ありませんわ。今はちょっと痛むだけですし」
その言葉には偽りはないようだ。
「もしかしてこの傷のことを気にしていますの?」
「……うん」
「気にしなくていいですわ。ISの戦いではこういうことはよくありますわ」
よくあるのことなのだろうが、よくあることだからといって納得できるようなものではない。
「でも……」
「でも、ではありませんわ。もう一度言いますけど気にしなくていいですわ。分かりました? それにあなたが気にしたって治るのが早くなるわけではありませんわ。精神面での回復というならば気にせずにいてくださるほうがいいですわ」
「うん、分かった。気にしない」
私はセシリアにそう言われできるだけ気にしないように心掛けることにした。
「じゃあ、シャワー室へ行きましょう? 詩織もまだ行ってないでしょう?」
「ええ、まだよ」
私たちはベッドから下りてシャワー室へ向かった。
隣を歩くセシリアは保健室へ連れて行ったときは痛みでほとんど歩けなかったが、今は鎮痛剤のおかげなのか私と同じスピードで歩いていた。