精神もTSしました   作:謎の旅人

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第42話 私の悩み

 先ほどの喜びが落ち込みへ変わる。

 

「勝手なことをしてすまない。だが、これにはわけがあるんだ」

「わけ?」

「そうだ」

 

 わけがあると言われて耳を傾ける。

 

「前にも言ったがあいつにとって他人はどうでもいい存在なんだ。他人をそんなふうに思うあいつにお前が会いたいなど言っても、あいつは拒否するだろう。だから私が会いに行くとあいつに伝えたんだ」

「えっ? それはなんで……ですか?」

 

 私は千冬さんにとってただのたくさんいるうちの一人の生徒である。例えるならば私は量産品なのだ。限りのある、とか、唯一の、の特注品ではない、できるだけ安く大量に作られる物なのだ。

 正直に言って量産品の一つにここまでされるなんて思ってはいなかった。本来ならばここでの千冬さんの答えは「残念だが……」だったはずだ。なのに特注品のように扱われる。

 

「そこまでしてもらう必要はないんじゃ……」

「そうだな。本来ならば私だってここまではしない。だが、この話は生徒と教師の話ではない。それに個人的にお前のことを気に入っているんだ。ここまでやっても問題ない」

「……」

 

 憧れの人に気に入っていると言われてうれしくて頬を赤めた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 私はこの赤い顔を見せないように礼を言った。

 

「別にいい。だが、忘れれるな。お前があいつに告白して望んでいるような関係になれる確率は非常に低い。それにお前は身内でもないし、あいつはお前のことを全く知らない。相手があいつではなくとも、ふられるほうが高いんだ。身内にしか興味のないあいつと恋人になることがどんなに低いかなど分かるだろう? だから、あいつと恋人になってのことなど考えるな。ただ有名人に会える程度に思うだけでいい」

「……分かりました」

 

 千冬さんの言っていることは全て正しいのだろう。

 だが、それでもどうしても束さんと恋人になれたら、ということを考えてしまうのだ。千冬さんの言うそんな束さんが私と恋人になったらどんな反応をしてくれるのか、みんなにも見せたことがない姿を私に見せてくれるのだろうか。そんなことがどうしても浮かんでしまう。

 分かったと言ったがどうも無理のようだ。振られたときは声を上げて泣くだろう。

 

「でも、千冬さんは仕事は大丈夫なんですか?」

 

 プライベートの話なので織斑先生と呼ばずに千冬さんと呼ぶ。

 

「ああ、大丈夫だ。その日は私に仕事はない」

「場所はどこで?」

「ちょっと遠いな。だから、ここ(IS学園)を出たら私の車でそこへ向かう」

「え!? 千冬さんって車を持っているんですか!?」

「私も大人だぞ。持っているに決まっているだろう」

 

 な、なんだか意外だ。私の中の千冬さんは車を持っていないイメージがあったからだ。

 

「と、ということはその車に私も?」

「何を言っている? 当たり前だろう」

「二人だけですか?」

「それも当たり前だ。私たち以外に誰を乗せるというのだ」

 

 やった!! まさか憧れの人の車に乗れるなんて! しかも、乗るのは私と千冬さんだけ! もしかしてだけどこれって結構すごいことだよね?

 千冬さんに憧れを持つ人は日本だけではない。世界中にいるのだ。果たしてその人たちのうちの何人が二人きりでドライブなんて体験をしただろうか?

 

「いつかは分かりましたけど、何時ごろにどこへ行けばいいんですか?」

「そうだな。少し遠いから朝の早いうちに集まろう。場所は、寮の前だ」

「分かりました。でも、他の人たちに見られたら……」

「気にするな。周りもいつもいつも騒ぐわけではない」

「だといいんですけど」

 

 私の予想では確かに騒ぎはしないかもしれないが、しつこく千冬さんに質問攻めをしてややこしくなるのではないだろうか。私はそう思う。

 

「話はこれでいったんこれで終わりだ」

「いったん?」

「ああ、そうだ。まだある」

 

 話とはなんだろうか? 束さんのことではこれ以上話すことはないから、それ以外となるのは当たり前。ならば何だろうか? 私、何かやらかした? ううん、そんな覚えはない、おそらく。となると、私の覚えないことなのか、それとも千冬さん自身の単なる雑談か。そこらへんではないだろうか。

 分からなかったのでここで予想を停止して大人しく話を聞くことにする。

 

「月山、お前がクラス代表に立候補したのは、セシリアが目的だな?」

「!?」

 

 私が立候補した理由を言い当てられて、私は動揺する。そして、瞬時に理解した。

 

「やっぱり分かっちゃいます?」

「ああ。自分がハーレムのためにここに来たと言われたら誰だって理解できるさ」

「そ、その、利用しちゃってやっぱり悪かったですよね?」

「まあ、悪いな。だが、自分の夢を叶えるためには時にはそういうことがある。それに悪いことなんてバレなければいい」

 

 そう言う千冬さんはいつもの大人なクールな姿ではなく、子どものような悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

 私も釣られて笑みを浮かべた。

 

「ふふ、そうですね」

「だが、だからといって悪いことをするなよ?」

「分かっています。犯罪なんてしていちゃいちゃできないのは嫌ですから」

「……ついでに聞くがセシリアとはどうなったんだ?」

 

 私のいちゃいちゃという言葉に反応して、そう聞いてきた。

 

「え、えっと、一応恋人にはなりました」

「ん? なんだ? そのわりにはあまり喜んでいるようには見えないが……。それに一応とは?」

 

 その理由はやっぱりセシリアを無理やりに恋人にしたということが原因だ。それに対する後ろめたさがあるからだ。自分がやったことが正しいとはもちろん思ってはいない。

 だが、私はセシリアが欲しいという自分勝手でその正しくない行いをしたのだ。

 後悔はないが、心にはそれに対する思うところはある。

 

「私、セシリアと試合前に約束事をしたんです」

「約束? それが喜んでいないことに関係があるのか?」

「はい、あります。その約束は勝ったほうが負けたほうに好きな命令をできるというものです。それで私は勝って、ある命令をしたんです」

「話が読めた。お前はオルコットに恋人になれと言ったんだな?」

「……」

 

 私は頷く。

 

「お前が喜べないのはオルコットをこのような手で恋人にしたことに対するものか」

「はい。でも、後悔はしていません。だって好きな人を私の手元に置くことができたんです。私という恋人がいる限り、セシリアは奪われることはありませんから」

 

 セシリアはたとえ私のことが好きではなくとも、恋人という関係でいる間は決して浮気のようなことはしないだろう。それに私と恋人になったということがトラウマに(おそらく)なっているのだ。恋は無理だ。

 本当に、本当に私は自分勝手だなあ。これからセシリアと楽しい思い出を築いて、セシリアは私のことを好きになってくれることはあるのだろうか?

 改めて考えて後悔していなかったはずの行動は失敗だったのではと思ってしまう。

 当たり前のことだけど、どんなに仲良くしても好きになるとは限らないのだ。だったらただ私の想いを告げて、あなたのことを好きな人がいるんだよという存在のアピールだけでよかったかもしれない。それならばあんなに嫌われずに、むしろ好意を持っていてくれたかもしれない。

 

「あの、千冬さん。やっぱり無理やり恋人にしたのって間違い、ですよね?」

 

 他人から言葉をもらうことで自分のしたことを確かめる。

 この答えは確実に分かっている。おそらくは『間違い』だ。それが分かっていても、他人からの言葉が必要なのだ。他人から言ってもらうからこそ意味があるのだ。

 私は千冬さんのその言葉を期待した。

 だが、

 

「それは分からないな」

「!!」

 

 あきらかに分かるはずのものだったはずなのに。

 答えは分からないだった。

 

「な、なんで? 普通、間違っているって言うはずじゃ……」

「なぜ間違っているんだ?」

「だ、だってセシリアを無理やりに恋人にしたってことは言わば、彼女の人生を大きく変えたということ、なんですよ? 人の人生を変えたんですよ? なんで分からないんですか?」

「分かっているのに私に聞いたのか? まあいい。いいか? そもそもだが、お前は人の人生を大きく変えたことが間違っていると思っているようだが、それは正しくもあり間違いでもある。間違いだけでない」

「どういうことですか?」

「人は必ずしも他人とかかわって生きていく必要がある。他人と関わらずに生きていくことなんてほぼ不可能だ。だろう?」

「はい。それは分かっています」

 

 人は誰かと関わらずに生活していくなんて無理だ。一人で生きていこうとしても、食べ物を食べるときは誰かが作ったものだ。間接的ではあるがこれにも人の関わりがある。ならば自分で自給自足だとなれば、家の電気や水道となる。これらも人の関わりだ。人が電気を作り、人が家に水道を家へ送るのだ。

 つまり現代に生きている以上、人との関わりなしで生きていくことなど無理なのだ。人は決して人の関わりなしで生きていけない。

 

「ならば分かるんじゃないか?」

 

 私はしばらく考えるが分からなかった。

 

「……分かりません」

「そうか。人と関わるということは人と話すことだ。人と話すということはその先の未来を決めるということだ」

「うん? なんで話をしたら未来が決まるんですか?」

「そうだな。中学のときに進路の話をクラスメイトとしなかったか?」

「しました」

 

 今はもう連絡を取っていないが、中学時代の友達とどの高校に行くかを何度も話した。それが三年生後半の話題だった。

 けれど、それがどうしたというのだろうか。関係があるようには思えない。

 

「そのときに誰かが決めた学校に私も行こうと言う友達はいなかったか?」

「そういえば……いました」

 

 私のある友達(A)が高校を決めたときにその友達ととても仲のよかった友達(B)が一緒に行きたいと言った。その高校は友達(B)にとってはそのときの成績では受かるのは難しかったのだが、友達(A)と一緒にその高校へ行きたいという気持ち一心で勉強し、無事にその友達(A)と同じ高校に行くことになった。

 あの子たち本当に仲良かったな。今思えば友達(B)って友達(A)のこと、私と同じ意味で好きだったのかな。今度帰るときに聞こうかな。

 

「それはつまりだ、何気ない会話だったが同時に一人の人生を変えたということにならないか? 会話があったからそこ、人生の一端がそこで決まったんだ」

「確かに」

「そう考えるとそれはある意味人の人生を変えたということにならないか?」

「……そう言えます。でも、それと私のは違います!」

 

 私のはどう考えても違う。千冬さんのは話によって変えるものだが、私のは約束という名の強制だ。前者は自分の意思があるが、後者は意思はないのだ。

 決して同じではない。

 

「まあ、待て。これは例だ。お前のと同じと言っているわけではない。それで話をしたことによって変えられた人生は幸せか不幸かなんてものは分からない。選んだのは自分だ。自分がその道を選んだのだから」

「そうですけど……。でも、私がセシリアにやったような私が選んだセシリアの人生は……」

 

 無理やりに他人に選ばされた人生は果たして幸せになれるだろうか。いや、無理に決まっている。そんな人生で幸せになるわけがない。

 私自身そんな自分の好きにできない人生では幸せになれないと私はそう思う。

 

「そうだな。だが、オルコットがお前の恋人という関係を幸せと取ることがあるかもしれないぞ」

「そんなことないですよ。セシリアは私のこと嫌いなんですよ。私の恋人で幸せなんて……」

 

 そう言って私は落ち込む。

 すると私の頭を千冬さんが撫でる。

 

「ハーレムを作ると自信満々に夢を語っていたお前が何をそんな顔をする?」

「すみません。それは確かに言っていましたけど、あの時とは違います。セシリアのことは好きですけど、なんだか途端に自信がなくなったんです。どんなに頑張ってもこんなことをした私を好きになってくれるのか分からなくなったんです。いえ、別にそういう意味じゃなくてもいいんです。私のこと嫌いになってくれなければ」

「なるほど。現実を突きつけられたというわけか。それで自信喪失、か。私から言わせてもらえば気にする必要はないんだがな」

「どういうこと、ですか?」

 

 私は疑問を浮かべる。

 

「例え他人に決められた人生でも幸せになることはできるということだ。第三者の私から言わせてもらえば、お前とオルコットはそれだな。幸せになることできるということだ」

「でも……」

「でも、ではない。お前はそんなこと気にしなくていい。夢だけを見ていろ。自分が嫌いなオルコットにいつもやっていたようにしていればいい」

「……なんだかむちゃくちゃなアドバイスですね」

「だが、お前にはぴったりのアドバイスだ」

「でも、自分の夢だけ見ればいいってそれはいいんですか? 普通現実を見ろとかじゃ……」

「普通はな。だが、私が思うに、詳しくは言わないがハーレムを作るという夢を見ていればいいと判断しただけだ。お前はこの言葉に従え。それにセシリアとはまだそういう関係になったばかりなのだろう。つまり、相手はお前のことをよく知らない。お前のような特殊の場合を除き、人を好きになるときは相手のことをよく知らないとダメだろう。そういうことだ。それは分かっているのだろう? 何も心配せずにセシリアに自分の愛を示し続けろ。まだなったばかりなんだ。そう思うのはまだ早い」

 

 私は千冬さんの言葉に頷いた。

 それで私たちの会話は終了した。そのときには私の心は落ち込んだ気持ちはなく、再び自信が付いた。

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