「本当に! とにかく落ち着きなさい! 話はそれからですわ!」
「ふう……ふう……ふう……」
それでようやく私も落ち着く。
うう~なんとも変なところをセシリアに見られた! だ、大丈夫かな?
「それでいきなり奴隷になるってどういうことですの? まさかとは思いますけど脅されているので?」
「違うわ。ただちょっと正気を失っていたみたい」
「でしょうね。正気だったらあんなことは言いませんもの」
すみません。実は正気です。正気で奴隷になるって言ってました! しかも奴隷もいいかもって思ってました! うう~私ってそういう願望があるのかな? もしかしてセシリアとそういう関係になっていたらそういうプレイをするかもしれない。
それをちょっと想像してみる。
私がセシリアをお嬢様、またはセシリア様と呼び、セシリアに仕えるのだ。
昼間は完璧なセシリア。でも、夜になり二人きりになると完璧なセシリアは乱れて私にエッチな命令を……。
うん、ハーレムは作れないかもしれないが、それもいいかもしれない。やはり奴隷もまたいいかも。
「……何か変なことを考えていません?」
「いえ、考えていないわ」
鋭い! 私じゃなければ動揺していた!
「それで聞きたいことはそれですの?」
「ええ、そうよ。結局一夏は奴隷にするの?」
「い、いえ、しませんわ。しないことに決めました」
「そう、よかったわ」
よかった! もしするって言っていたらまた暴走していたかもしれない。
まあ、私を奴隷にするというのはいいけどね。
「セシリアにとっても一夏が奴隷なんて似合わないもの」
絶対に似合わない。というかふさわしくない。ふさわしいのはやはり私だ! そして、奴隷の身になってからセシリアを奪うのだ!
いや、まあ、なんか奴隷になる気満々だけどそれはまだだ。そうなると決まったわけじゃないし。
そもそも私の目標はハーレムだ。セシリア一人を愛するというのも悪くはないが、やはりたくさんの女の子に囲まれたい。
「……詩織、あなたもしかしてあの男のことが好きなんですの?」
突然セシリアから耳を疑ってしまうような言葉を聞いてしまった。
い、今なんて言ったの? わ、私が一夏のことが好き? は、はは……冗談じゃないよ! 一夏なんて大嫌いだ!! だって今日だけで箒を奪われ、セシリアの心をある意味奪っているし! しかも、私の直感が一夏は鈍感の女たらしって告げているもん! 一夏は私の敵だ!! だから……だから……だから……!!
「一夏のことなんて人生の中で一番大嫌いよ!! なんで一夏と同い年なのよ!! 同い年じゃなかったらこんなに悩まなかったのに!! 本当にふざけないで!! というか、そもそもなんでISなんて触ったのよ!! ISは貴重なのにどうして触れることができたの!!」
「し、詩織?」
「もしかしてやっぱり異性に囲まれるためなの? そうなの? ありえる。だって一夏だもん。あんな感じだけど本当はわざとで……」
「詩織!!」
「はっ! ごめんなさい。ちょっと感情が爆発したわ」
私は再び冷静になった。
「そ、そう。あなたって切り替えが早いのですわね」
「ええ。けどまあ、先ほどのことは忘れてちょうだい」
「分かりましたわ。でも、そんなに嫌いになるなんて何がありましたの?」
「え?」
「だってそうでしょう。あなたとは初対面ですけど明らかに本気で嫌いだって分かりました。それも殺意を抱いているのではと思うほど。だからそれなりの事情があるのかと思いまして」
うっ、確かにそうだ。事情がある。しかも、その嫌いという感情の発生は私が勝手に抱いたもので実は一夏には全く何の非もない。
だからセシリアに説明しようにも言えない。言うならば私が同性愛者ということも告白しなければならない。だが、ここで言うわけにはいかない。ここで言ってしまえばセシリアをハーレムの一員にする前に確実に距離を置かれてしまう。
「さあ、お話になってくださいな。わたくしには聞くだけしかできませんが、それでも心は軽くなると思いますの」
セシリアは優しく微笑んできた。
て、天使だ! セシリアは天使だよ!
私はその笑顔に見惚れた。
やはり私はセシリアが欲しい。セシリアを私のものにしたい。
その欲とも言える『好き』が私の心の中で大きくなった。
あきらめられない。誰にも渡したくない。絶対に一夏には渡さない。
「ふふ、ありがとう、セシリア。大丈夫よ」
「本当ですの? 我慢はよくありませんわよ」
「我慢、我慢ね。問題ないわ」
本当に問題ない。
我慢するなと言うならばセシリアという存在を貰いたい。うん、そしたら私も問題ないよ。
「本当ですの?」
「心配性ね。しかも相手は今日会ったばかりのクラスメイトというだけの相手なのに」
「相手を心配するのにそんなのは関係ありませんわ。誰であろうと心配します」
「セシリアは優しいのね」
「そ、そういうわけでは……」
照れたのはセシリアは頬をほんのりと染めて俯いた。
ぐはっ! か、可愛すぎる!! またまた改めてセシリアが欲しくなったよ!
と、こんなことをしている暇ではない。とても話がずれてしまったが、本当の目的は違うのだ。それをやらなければ二人の決闘に参戦した意味がない。
私はゆっくりセシリアに近づく。
先ほどまでは一メートル半ほどの距離だったが、今はわずか十センチほどだ。少しでも動けば簡単に触れられる。
はわあ~! せ、セシリアがこんなに近くに! と、吐息だって感じられるし! な、なんかドキドキするし……。このままセシリアに触れたい。でも、そんなことはできない。してはいけない。
「ち、近すぎますわ」
「…………」
「な、何か言ってくださいませ」
「…………そう、ね。ちょっと近かったわ」
セシリアのためにも私のためにも距離を開けた。が、心の奥底ではやはり近づきたいと思っているせいか、それでもセシリアとの距離は三十センチほどだ。大して変わらない。
「ねえ、セシリア」
「……なんですの?」
「なぜ私が一夏との決闘に入ったと思う?」
「それは……クラス代表になるためでは?」
「そうね。確かに私はそう言ったわ。でも、本当にそうなら最初に立候補しているわ。でも私はしなかった。私が立候補したときはセシリアと一夏が決闘するとなってから。そのときに決闘込みで立候補した。それっておかしいとは思わない?」
「お、思いますわ」
「そうよね。だって一夏はともかく、セシリアはISの代表候補生で私は入試以外では全くISを動かしたことがない素人。どう考えても私が勝てるわけがないわ」
それを分かっていながら私は立候補した。どう考えてもおかしいはずだ。
私の言葉を聞いたセシリアは先ほどの可愛い顔が消え、鋭い睨むような顔になった。これは完全に私を敵にしている顔だ。
それに対して私は笑みを浮かべる。
「……あなた、何者ですの?」
「ただのセシリアのクラスメイトよ。まあ、これから先の関係は分からないけど」
もしかしたら私と恋人という関係になっているかもしれないよ。
「わたくしを侮辱してますの?」
「違うわ。で、話を戻すけど私が立候補した理由はね、ある目的のためなの。あっ、でも、決して一夏のデータを取るためのスパイとかじゃないから」
男の中で唯一ISを動かせる一夏。やはりこの学園にはどこかの国からの学生スパイがいると思う。
なにせ世界で唯一、だ。一夏のデータはどの国も欲しいに決まっている。
まあ、私がスパイなら一夏よりも女の子たちのデータのほうが価値は高いけど。
「まあ、目的のためにセシリアが必要なのよ」
「つまり、それはわたくしを利用すると?」
「う~ん、それは違うわね」
利用どころかセシリア自身が目的だもん。
「とにかく! そのために! セシリア、今度の決闘で私があなたに勝ったら私の言うことをなんでも一つだけ聞きなさい!」
そう、これこそが私が参戦したわけなのだ! これも全て一夏を奴隷にすると言ったからだ。それは勝ったら勝者が敗者に命令をできるということだ。それを利用したのだ。
「あ、あなたは何を言っているのですの!? まさかこのセシリア・オルコットを奴隷にする気ですの!?」
「ふふ、それは私が勝ってからのお楽しみよ。それに第一私は素人よ。そんなに心配しなくてもいいじゃない」
「そ、そうですわね。勝てば……って、ちょっと待ってください。あなたはわたくしが勝つと分かっていながら決闘を? ふざけていますの?」
確かにそう思われるかもしれない。でもふざけてなんかない。
「まさか。でも、窮鼠猫を噛むって言うでしょう? もしかしたらってことがあるじゃない。そのためのものよ。もちろんセシリアが勝てば私はあなたの奴隷になるわ」
結局のところ私が勝とうが負けようがプラスしかないのだ。どちらにせよ、セシリアを私のものにできる。ただ奴隷になったときのデメリットがあるとすればハーレムが作れなくなることだ。
まあ、そうなったらそうなったで受け入れよう。
「あなたはプライドというものがないのですか!! 何を軽々しく奴隷になると言っているのですか!! それは自分の人生を奴隷として過ごすということですのよ!!」
「知っているわ。でもね、私。セシリアの奴隷にならなってもいいって思っているの。これは本気よ。さっきは正気を失ってって言ったけど、やっぱり撤回するわ。あれも正気だったの。本気であなたの奴隷でもいいと思っているのよ。だからあなたも私が勝った時に一つだけ言うことを聞いてちょうだい」
「…………」
「…………」
私たちは睨み合う。
願いを叶えるためにもここで負けるわけにはいかないのだ。
はあ……それにしてもセシリアはきれいだな。顔立ちといい、髪といい、スタイルといい。本当にどれも美人にふさわしいものだ。
こんなに美人なセシリア。
あれ? もしかしてセシリアって恋人っているのかな?
そもそもよく考えてみればそういうところを気にしていなかった。
私はこれからを含めて、その相手に恋人がいたらどうするつもりなのだろうか。あきらめるのか。それとも逆に奪うのか。
その答えはすでに決まっている。
うん、おそらくは後者だ。
私は自分のためなら手段を選ばずに奪うだろう。
「……分かりましたわ。わたくしが勝てばあなたをわたくしのものに、あなたが勝てばわたくしに一つだけ命令しなさい」
「ありがとう、セシリア。あなたとの決闘を楽しみにしているわ」
「……わたくしは楽しみではありませんわ」
どうしてかセシリアは悲しそうな顔をしていた。
それは私が本気で奴隷になってもいいと言ったからだろうか。それにセシリアは引いたわけではないというは分かっている。だとしたら悲しい顔なんてしないから。
でも、結局なぜそのような顔をするかなんて分からなかった。それを理解するのは今の私、いや、きっとハーレムを目指す私には分からないのだろう。
理解できたならばそれはきっと本人か、本人のことをよく知る者から聞いたときだけだ。私一人では無理なことなのだ。
「それじゃ、また明日ね、セシリア」
「ええ、また」
それを最後に私たちはそれぞれの道を歩いた。
その道の途中、私は振り向き小さく見えるセシリアの背を見て最後に微笑んだ。
そして、私は寮に着いた。
本当ならばセシリアと同じ道を行けば真っ直ぐ寮へ行けるのだが、一週間後にISを使うということでそれを申請しに行ったのだ。
ちなみにその申請したISは『
まあ、最初から打鉄を使うつもりだったからいいけど。
で、私の部屋の前に着いた。鍵を開けた。そして、中へと入る。
うん? あれ? あの子はまだ帰ってきていないのかな?
ベッドや机を見ても私の同居人がいなかった。
はあ……あの子、いつも帰りが遅いし、今日もそれなのかな。仕方ない。今日もなら食堂でまたテイクアウトしてもらおう。
あの子は自分のやっていることに夢中になってご飯を食べずにそのまま作業をするようなのだ。そして、帰ってきたときにようやく食べていないことを思い出し、お腹を押さえながらベッドへ直行する。
なので私がその子の食料調達係となった。
ちょっと前になぜそこまでするのと聞いたが、そのときはなぜかその可愛い顔が怖い顔へとなった。それからは聞いていない。
まあ、あの子が私のものになったらいつか聞けるでしょう。
私はそのときを妄想して鼻歌を歌いながら、手に持つこの部屋の鍵で遊んだ。
と、そのとき鍵を落とした。
「あっ!」
鍵は床に落ち、跳ねてベッドの下へと転がり込んだ。
私はすぐさま伏せてベッドの下を覗き込む。
ベッドの下は旅行用バックが入るほどの高さがあるので十分に手を入らせることができる。
ん~どこかな? ここ? 違う。じゃあ、ここかな?
一応部屋の電気は点いているのだが、ベッドの下はやはり薄暗い。それに加え、ベッドの下に荷物が入っているので余計に暗かった。
これは一旦荷物をどけたほうが早いね。あと明かりも必要だ。確か私の机の上にライトがあったはず。それを使おう。
私は起き上がり、まずベッドの下の荷物をいくつかどけた。その後に教科書やノートが置かれている自分の机の前に来て、ライトを手に取った。