「そこのあなた。もしかして転校生?」
私はお姉さまのように話しかけた。
その子は小柄でツインテールがよく似合う少女だった。あと胸も小さい。ロリって言葉が似合う子だ。本人の前で言ったら絶対に怒るな。
相手が一年生ということは胸元のリボンの色で分かっている。その子は制服できていた。
「へっ!? あっ、そ、そうです」
いきなり話しかけたからびっくりしていた。ごめんね!
「困っているようだけど、どうしたのかしら? もしよければ私も手伝うわ」
「ありがとうございます。えっと、受付を探していて」
「受付ね。こっちよ」
相手は私のことを年上だと思っているようだった。
君が私をそう思うのも無理はないよ。私だって私みたいな美人で可愛い子がこんな口調で話しかけたら、絶対に年上だって思っちゃうもん。『お姉さま!』って言いたくなるもん。
私が歩き出すとその子も後ろについてくる。
おっと、その前に。
「荷物、持つわ。その大きな荷物を貸しなさい」
「そ、そんなの悪いです! 先輩に私のを!」
やっぱり私のことを先輩だって思っていたようだ。
「言っておくけど私はあなたと同じ一年よ。先輩ではないわ」
「え? 本当に?」
「ええ、一年よ」
しばらくその子はポカーンとしていた。どうやらそうなるほどショックが大きいようだ。同い年に見えないからかな?
「荷物、持つわ。その大きな荷物を貸しなさい」
先ほど言った言葉を繰り返す。
「うん、お願い」
私の意図を理解してくれたその子はすぐにそう答えた。
その子が持っているのは小さなバッグが二つとなった。
「そういえばあなたの名前を聞いていなかったわね。私は一組の月山 詩織よ」
立ち止まりその子と向き合う。
「あたしは二組の
「こちらこそ、鈴音」
「あたしのことは鈴でいいわ」
「鈴ね。分かったわ」
私は手を差し出す。鈴はその手を取って握手をした。
へえ、結構鍛えているんだね。
手からこの子が何かの武術をやっていることがわかった。もちろん雰囲気でも分かっていた。
まあ、達人ではないみたいだけど。
「あんたって何かやってる? 武術とか」
どうやら鈴も感じ取っていたようだ。握手をしたことでよく分かったのだろう。
「ええ、そういう鈴もそうよね?」
「もちろん。だって代表候補生だもん」
鈴はど~んと胸を張る。小さいけど。
だが、すぐにその自信も消えていった。
「詩織って強いわよね? あたしよりも」
「ええ、強いわよ」
過剰な自信ではない。それは事実なのだ。
鈴もまたそれを分かってる。だからそう聞いてきたのだ。
「ってことはあんたが日本の代表候補生? うわっ、じゃあ、あんたと戦わないといけないってこと? 負ける、負けるわ……」
鈴は目の前に本人がいるにもかかわらず、小声ではなく私にも聞こえるほどの声で独り言を言っていた。
けれど、鈴と戦うなんてことはないと思うけどね。だって代表候補生じゃないし。それにセシリアのときのようなことがない限り、私が女の子と戦うなんてことはできないからね。男は別だよ。ボコボコにしてやる。
「言っておくけど私は代表候補生ではないわよ。ただの生徒」
「ええっ!? 嘘よね!?」
「本当よ」
「……強いのに?」
「世の中にはたくさん強い人は多いわよ。それに強い=代表候補生になれるというわけではないわよ」
「そりゃ分かっているけど、あんたは確実になれるでしょ。あたしの直感が告げてんのよね、絶対に勝てないって。もちろんISを使った戦いでも」
「初対面の相手なのにそこまで言うの?」
鈴って負けず嫌いって感じがしたからちょっとびっくり。
う~ん、違ったのかな? それとも負けず嫌いなのに自分の負けを認めた? どちらでもいいや。
「あんたは特別ってだけ。普段はこんな弱気なことは言わないわ」
ハーレムにしたい子から『特別』って言われた……。ふふ、うれしすぎる。
今のところ好感度上がっているはず。このままいけば好感度はマックスになる!
ただ問題なのが、鈴が私のことを好きになってくれるかどうかってことかな。鈴が私と同じように女の子大好きってわけじゃない。鈴はきっと異性が好きなはずだ。
どうやって私のことを好きになってもらおうか。
私は三人ほど恋人にしたのだが、全部いつの間にか私のことを好きになっていたのだ。どうすれば……。
まあ、今は好感度を上げて仲良くなることが優先だ。いい関係を築けば友人だろうと恋人だろうと何だってなれる。
「そういえば聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
聞きたいことか。学園のことかな? だったら答えられるかな。
「その、詩織って織斑 一夏って知ってる?」
向かい合ったままだったので鈴の頬が赤くなっているのは十分に見えていた。
その顔と言葉に一夏に対する怒りが湧いてきた。
もうこれだけで鈴が一夏に対して好意を抱いていると分かる。
くそっ! 一夏め! また私の邪魔をするか!
いや、待て。鈴は中国代表と言った。つまり日本にいた一夏とは接点がないはず。つまり! 鈴がニュースなどで一夏を見て、一目惚れした可能性がある。一夏はイケメンだからね。
「知っているわ。同じクラスだからね」
なんとか怒りを
「初対面だけど詩織とは仲良くなれると思っているから言うけど、あたし、一夏のことが好きなのよ。その、だからどうしてるかなって思って?」
くっ、女の子にこんな表情をさせるなんて!
「別に教えてもいいけど、まずあなたと織斑一夏の関係を教えてちょうだい」
認めたくはないがこの子は一夏と接点がある。じゃなきゃ『どうしている』なんて言葉を使うはずがない。この言葉は一夏と接点があるから言えるものだ。
もう! もし鈴が一夏と接点がなかったらよかったら、難易度は大幅に下がったのに!
「ああ、もちろん簡単にでいいわ。詳しい話はもっと仲良くなってからでいいわ」
「あたしも詩織と仲良くなりたいわ」
どうやら鈴も本心からそう思ってくれているようだ。
な、何かうれしい。
「えっと、一夏と出会ったのは日本の小学校。あたしが転校してきたんだけど、そのときに一夏と会って、一緒に過ごしてたら何か好きになってた。本当にいつの間にかって感じかな」
「一目惚れではないのね」
「うん。あたしが一夏と交流を持ち始めたきっかけは一夏が話しかけたこと。最初の印象は変な男子だった。つまりあまりいい印象じゃなかったかな。それが好きになるんだから本当に不思議だわ」
鈴はうれしそうに言う。完全に恋する乙女の顔だ。
うう、また……またあきらめないといけないの? 箒のときみたいにまた? いや、残念だけどあきらめないよ。今回は無理!
箒のときは色々と初体験であきらめたけど、今回はあきらめずに鈴の心を私が奪う! 略奪愛は嫌いだけど、一夏と鈴はまだ恋人じゃない。チャンスはまだある。どうやって好意を抱かせるのか分かんないけど、私はやってみせる! 振られたら振られたときでそのとき考えよう。
「でも、中学のときに中国に戻ることになって、それから今まで離れ離れになったのよ。でも、明日からは違うわ。違うクラスだけど同じ学校に通えるから」
……もう本当に可愛すぎる! こんなに想われる、一夏が本当に憎い! もし私が箒と出会っていなかったら、絶対に応援していたな。
でも、鈴。その想いは叶わないよ。だってその想いの対象は私に変わるんだから。
あっ、もちろん私は鈴の恋路を何かを使って無理やり邪魔をするなんてことはしない。そんなことをして鈴を手に入れても、絶対に最後には破滅が待っているからね。
だから、さっきは叶わないって言ったけど、もしかしたら一夏と恋仲になれるかもしれない。そのときは私の実力不足と鈴の愛が強かったということであきらめる。
それ以外だったらあきらめない。もし鈴が告白して振られたら、振られて弱っているところを利用しよう。
「それで一夏はどうしてる?」
「まあ、元気でやっているわ。ただISの授業にはまだついていけていないようだけど」
約束なので教えてやる。
「そっか。元気でやっているんだ」
本当にもううれしそうだ。
絶対にこの笑顔を私に向けさせたい!
「あいつ、あたしがここに来たって知ったら驚くかな?」
鈴は恋する乙女の顔でそう呟く。
そういえば恋する乙女といえば箒のことを伝えたほうがいいかな? いや、伝えなくていいか。
後日『なんで言わなかったのか』なんて言われたときは正直に『箒のことを応援しているから、言いにくかった』と言っておこう。
事実、私、言いにくいんだけど……。
これ、ばれて絶交ってことはないよね? 説明したらわかってくれるよね? 絶交されたら落ち込むよ。
「ほら、もうすぐで受け付けよ」
しゃべりながら歩いているうちについに着いてしまった。
まあ、これからは同じ学園に通うもの同士、そして同じ建物で暮らすのだ。会う機会はちゃんとある。それに私のものにすると決めた子だ。絶対にチャンスはある。
「詩織、ありがとね。初対面だってのに親切にしてもらって」
「こちらこそ、あなたと出会えてよかったわ。鈴とは長い付き合いになるだろうからこれからもよろしくね」
「あたしこそ」
もう一度私たちは握手を交わした。
案内し終わった私は自分の部屋へと戻った。本当は荷物のこともあったので部屋まで行きたかったのだけど、どのくらい時間がかかるのか分からなかったし、鈴本人からここまででいいと言われたのだ。
部屋に戻った私は簪に抱きつく。
「簪~」
「……遅かったね」
簪の言葉はちょっと冷たかった。
「ごめんね、ちょっとね」
「ちょっとって……織斑先生と、エッチ……してたん、でしょ? においが、する」
「……」
簪にはお姉ちゃんと会うとだけしか言っていない。
なのにこんなに時間がかかればそういうことをしていたってのは分かって当たり前だ。
私が気まずそうにしていると、
「冗談。あまり……気にして、ない」
そう言った。
そして、私の頬にちゅっとキスをした。されたので私も簪の頬にキスをした。
ふむ、こういうキスもいい。
「そういえばね、さっき転校生に会ったんだ」
「転校生?」
「そう。明日からのね」
「それが?」
「その子、欲しいなって思って」
一瞬だが、簪の目が鋭くなった。
「詩織は……好きなの?」
「うん」
まだ小さいものではあるが、ハーレムの一人になると思う前に感じた一目惚れ。確かに恋心であった。
「こんなに簡単に……好きな人を、増やされる、と……本当に好きなのか……疑わしい」
「もちろん本当に好きだよ」
「なら、あまり増やさないで……ほしい。なんだか……コレクションみたいに……扱われ、てる気がする、から」
その言葉を聞き、恋人たちに申し訳なく思う。簪が思っていることは当然のことであるから。
だって私ってあっさりと好きとか言って、恋人にしているもん。私はこの気持ちがちゃんと恋心なのだと断言できるが、恋人たちは私ではないためその言葉を簡単に理解することはできない。
だからあっさりと恋人にする私の行動は、確かに好きではあるのだろうが、物が好きと同じような意味だと思われる。だからコレクションなのだ。
うう、私もそう思われたくはないのだけど、好きって思う子が多いんだもん。こんなに節操なしなのは、やっぱりハーレムを作るって夢のせいかな? だって複数人好きになってもどちらも選べばいいもん。
「ごめんね。でもね本当に私はみんなのこと恋愛的な意味で好きなの。決してみんなをコレクションとして恋人にしているわけじゃない」
「これ、以上……ハーレムを作らないって……言わない、んだね」
「多分好きになったら止められないから」
「そう。なら、この機会だから……言うけど、私を……捨て、たら、恨むから。それを忘れ、ないで」
一瞬だが簪の目には狂気が宿っていた。
愛が深すぎるために宿ってしまったものだ。それが完全に宿ってしまえば人を殺しかねないほどのものだ。すさまじく危険である。
だが、その狂気を感じ、私はうれしくなる。その狂気が生み出されるほど私のことを愛してるってことだもん。
「うん、分かった」
言ってしまえば私って他人の人生を変えているんだもんね。殺されたって何もいえない。うん、割とマジで。
セシリアもある程度は容認してくれるようになったけど、もし恋人の中で『私だけのものにならないなら、殺してわたしのものにする!』なんて子がいたらどうしよう。
簪の言うとおりなのかもしれない。
「簪、私絶対にみんなを手放さないよ。一生私のものだ」
「? いきなり……どうした、の?」
「ちゃんとみんなを愛しているってことの表明しようって思って。私の人生はみんなに捧げるつもりだしね」
「それだと詩織の……人生、は? そんなの、幸せじゃない」
「いや、幸せだよ。私の幸せはみんなと一緒にいうことだもん。捧げるって言っても奴隷みたいにってわけじゃないしね」
そんなちょっと真面目な話をして残りの時間を過ごした。
ただ問題だったのは私がノーパンだったことがばれたことだろう。
なぜかお姉ちゃんにパンツを渡したことに怒っていた。
ただ洗ってもらうだけなのに……。