ちゃお。クーです。ついに七歳。そろそろ「政変」を警戒しとかないとまずいかな、って時期ですかね?
だというのに、現在ジョゼフ兄の私室に招かれてます。
「ふむ。ずいぶん長考しているな」
「……ってかもう詰んでね?」
あ、今はチェス中ね。当然のようにフルボッコにされてるわけだけど。
チェスはいいね。リリンの生みだした文化の極みだよ。なんたって普通に遊ぶだけで俺の無能っぷりをアピールしてくれるんだから。
「いや、俺から見る限り、まだ生きる道は残っているぞ?」
「ジョゼフ兄には世界はどう見えているんだか」
そう言ってナイトを相手のビジョップの進路を遮る位置に動かす。
「残念。チェックメイトだ」
「うぼぁー」
ま、勝てるわけもなし。なんたってシャルル兄以外では誰も太刀打ちできない指し手らしいしね。
せめて囲碁なら……。うん、囲碁でも無理。ってかルールも分からんし。saiでも取りついてくれんことにはジョゼフ兄と遊ぶこともままならないだろうね。
「セタンタは強いのか弱いのか分からんな。穴に見せかけた罠は容易く看破する癖に、ソレを逆に利用する戦術が立てられていない。こちらの狙いが分かっているようだが自分が何を狙うべきかは分かっていない、とでも言おうか」
まぁ、ね。普段もある程度の「コミュ力」が発動してるからね。相手の思考を「察する」ことは得意っすよ。
に、しても、と思う。ジョゼフ兄と仲良くなりすぎだよなぁ、と。
先々のことを考えると、ジョゼフには興味すら抱かれないくらいが理想だったってのに。
こうやって接してると普通に「兄」なんだよね。
そりゃひねくれてる所もあるけど、むしろいつも仮面みたいな笑顔を張りつけてるシャルル兄よりも接しやすい。
ホントにこの人が「狂王」になるのかと疑問にすら思えてくる。それとも俺というイレギュラーが現れたことでジョゼフの性格に改変でも起きたのか?
ま、いくら状況が楽観的に見えたとしてもそれを鵜呑みにするわけ無いんだけどね。
「セタンタよ」
「あー?」
態度が悪いって? あー、思考が体に(ってか名前に)引っ張られてんだよ。特に脳みそを酷使した後なんかは、この本能的なものに抵抗できなくなるんだよね。
「最近はもう、魔法の授業に顔すら出していないそうではないか? イザベラ達が寂しがっていたぞ?」
「イザベラを寂しがらせたくないならもう少し構ってやれよ。父上殿」
「くっくっく。違いない」
盤上のクイーンを手にとって眺めながらジョゼフ兄が笑う。
ふむ、何か言いにくそうにしているが。
「コミュ力」のうち「心情察知」を発動。相手の思考を知ろうとするのは円滑なコミュニケーションに必須だからね。
さてジョゼフ兄の心情図は、っと、悲哀……嫉妬……そして自己嫌悪……が、二対三対五程のブレンド。やや不安、それだけのこと。……って片付けるわけにはいかんよなぁ。
「なぁ、セタンタ? お前はなぜ魔法の勉強を嫌うのだ?」
あー、やっぱり魔法がらみか。
相変わらずこの世界の人間は。
「お前は少なくとも俺とは違う。時間こそ人の数倍の時をかけたかも知れんが、きちんとコモンスペルを唱えることが出来たのだ。他の学問や宮廷作法はしっかり学んでいるし、騎士団の連中と戦闘訓練までしているそうではないか。お前は怠け者などではない。魔法の勉強だけを嫌っているのだろう?」
優しいねぇ、ジョゼフ兄は。ライト一つにシャルロットやイザベラの数百倍の時間をかけた俺に、「人の数倍」程度だと言ってくれるとは。
「王族付きの魔法の教師陣はアレでも有能なのだ。俺という前例がいては説得力などないかもしれないが、セタンタがきちんと奴らと向き合えば、今頃はドット、いや、ラインメイジにも手が届いていたやもしれん」
ホント、優しすぎるよ。「無能と呼ばれる苦しみを味わって欲しくない」だなんて。「俺のように歪んでほしくなどない」だなんて。心情を察知出来る俺にはジョゼフ兄のデレ期が到来してる様にしか思えないんだけど。
そういや俺という、よりいっそう影の濃い落ちこぼれがいるせいか、ジョゼフのイザベラに対する風当たりも無くなってるんだよね。シャルルと比べられる自分を、シャルロットと比べられるイザベラに投影していたからこそ、イザベラへの風当たりの強さがあったわけで、それがない今、ジョゼフ父娘の仲はおおむね円満といえる。うん、いいことだ。
それも関係してるのか、原作で知るジョゼフとは比べ物にならないほど丸いんだよね。
それともこれはあれか? キャラとしてしか「ジョゼフ」を知らなかった俺が、人間「ジョゼフ」の本質まで見ぬけてきたということなのだろうか?
閑話休題。
さて、優しい兄上の言葉には誠意を持って応えるとしましょうかね。
下手をすると「わざと阿呆のフリをしていたんじゃ?」なんて警戒されるかもしれないけど、仕方ない。「俺」の言葉で話してみたくなっちゃったんだから。
死亡フラグが立っちまったら、そうだな、ゲルマニア辺りに逃げますかね。
覚悟を決めて話しましょ。それで兄上が少しでも救われることを願って。
「ジョゼフ兄は魔法ってなんだと思ってる?」
「ん? 魔法は魔法だろう? 貴族たちにのみ許された力であり、始祖の残した偉大な「心にもないことを」……」
俺は盤上の
「魔法なんてものはさ、ただの戦う道具でしょ? ジョゼフ兄。水には癒しの魔法なんてのもあるけどさ、あれだって戦場で使われるためのものでしょ? 土の錬金は暮らしに根付いているなんて言うかもしれないけど、土メイジが自慢するのは自分のゴーレムだったり派手な土の魔法でしょ? メイジなんて連中はさ、結局のところ剣や銃を持ってはしゃいでる子供と同じなんだよ」
槍を持ってはしゃいでる俺も人のことは言えないけどさ。
「確かに魔法がもっとも活躍する場は闘争、ひいては戦争にこそあるのかもしれん。だが、魔法なくして国家は保てないだろう?」
「そこがまさに間違いなんだよ。なんで俺みたいなのが気付けることにジョゼフ兄が気付いていないのかが分からないんだけど」
今度はキングを持ち上げる。先ほどジョゼフ兄のルークの射程に入れられたキング。それを大きく動かし、ジョゼフ兄のキングのすぐ前にまで前進させる。
「王が敵陣に突っ込んで行くなんて、英雄譚でもありえない」
ま、どこぞの指輪にまつわる物語なら普通にやっていたけど。
ハルケギニアでの英雄譚なんてメジャーなのはイーヴァルディの勇者くらいだし、説得力はあるだろう。
「貴族だってそうでしょ? 前線に出たがる貴族なんてのは領地の経営に失敗して名誉挽回の機会を欲してるダメ貴族くらいなもの。普通は平民を前面において盾にするし、私軍を持ってる貴族なら一番後方に自分を置くでしょ?」
ポーンを揃えてクイーンを守る様に囲ませる。鉄壁の守りを手に入れたようでもあるが、クイーンという「戦闘力」が完全に封じられている。
「王族や貴族ほど魔法なんて言う「戦闘力」を必要としない人間はいないよ。本来こんな力は前線に立つ
「平民に魔法を? くっくっく。変な発想をする奴だ」
「多分俺が生まれてから数年の間、家族くらいとしか接して来なかったってのがでかいんだろうね。下手な貴族意識に染まることなく成長できた今までのおかげで、魔法ってやつを貴族の持つ特権だと思い込まずにきちんと認識出来ているんだと思う。俺からしたら魔法が使えりゃ偉いなんて考え、狂ってるとしか思えないよ」
「はっはっは。では、戦場ではなく内政においてはどうだ? 貴族などいらないか?」
「領地は統治する貴族は必要だろうね。治安の向上にはそれを引きうけてくれる領主の存在は大きいし、領地の繁栄には高等な教育を受けたリーダーが必要。そしてそれらを担えるのは現状では貴族だけ。でもね、メイジはまるで必要とはされていないのさ」
「治安を守ってくれるなら魔法の有無は関係なく、領民を導く「高等な教育」とやらには魔法に関してのものは含まれていない、か」
「むしろ魔法があるほうがマイナスかも。魔法という分かりやすい武器、圧倒的な力の差が存在するからこそ、貴族の中には重税を課す馬鹿も多い。どう扱おうが平民は逆らわないんだから、ってね。重税を課して恐怖政治しか出来ない
「だが、治世を目指す貴族は驚くほど少ない。……なるほど。剣や銃を持ってはしゃいでいる子供と同じ、か。先のことなど考えられず、重税を課して「今の」己の私腹を肥やすしか考えられない、と。くっくっく。治世を行えるものは、むしろ魔法の才に乏しい者だとでも言うつもりか?」
ジョゼフ兄はひとしきり笑うと俺のナイトをつまみあげ、盤の中央に運んだ。
「なるほどなるほど。魔法は戦う力。王族には必要のないものだと言いたいのは良く分かった。しかし王家にとって魔法の才能とは重要なものだ。偉大な始祖様の系譜だそうだからな。それゆえ魔法の才能に乏しい王族は排斥される傾向にある。お前はそれを望むというのか? だから魔法の勉強を嫌うのか?」
「魔法を苦手とする王族がいたからといって、全ての貴族が敵になるというわけではないでしょう。王族が偉大な始祖様の血を引いていることに変わりなんてないんだし。それに魔法が使えないというだけの理由で見下してくる貴族なんて、あっさりと潰せると思うけどね」
「ほう? どういう意味だ?」
「魔法ってのはバカ御用達の物差しだってことさ。まず魔法が使えるか使えないかで人を二種類に分け、使える連中はドット、ライン、トライアングル、そしてスクウェアと四つに分けられる。スクウェアなら天才。ドットなら落ちこぼれって分かりやすく測れるわけだ。逆に言うなら、そんな物差しに頼らないと人の本質を計ることも出来ない連中が多いってことだけど。俺の本質も見抜けずにただ見下してくる馬鹿共なんて怖くもなんともないよ」
そう。怖いのはジョゼフのような「俺」を見ることの出来る者だ。目立ちたくないというのだって、ジョゼフの対抗馬に担ぎ出されることを防ぐためといった意味合いがもっとも大きい。
望んだことではないが、幸いなことにこの身にはいくつもの「チート」が宿っている。ジョゼフほどの大物に狙われでもしなければ、逃げ伸びて生きていく自信くらいは付いているのだよ。
「……セタンタの物差しでは、俺の本質はどう見える?」
「王様」
即答だよ? 悩む必要もないじゃん。
原作では最大派閥だったシャルル派を粛清し、その反乱を完全に封殺し、国を乱すこともなく、その上手駒を操るだけでアルビオンという国家を落とすほどの人だ。正直狂王バージョンでも、色呆けアンリエッタやプライドのために王家の血を絶やしたウェールズなんかより、よっぽど王族らしかったと思ってる。いや、ウェールズも?って思うかもしれないけどさ、王族なら血筋を残すために泥をすすってでも生き延びるべきだと思うんだ。
身内にいると未だに死亡フラグの塊にしか見えないんですけどね。
でも、この対話は千載一遇のチャンスだと言えるのかもしれない。
だから、俺は止まる気は無いよ、兄さん。
「多分有能な人間ほどジョゼフ兄のことを買ってると思うよ。ね、シャルル兄?」
珍しく驚いた顔で固まっているジョゼフ兄を置いて、扉へと声をかける。
風の精霊ちゃん達が騒いでいたよ。青いヒトが聞いてるって。
ゆっくりと扉が開き
そして現れたシャルル兄は
いつものように仮面のような笑顔を浮かべていた。
今回のクーは結構本音でしゃべってます
これまでと方針が変わってる様に見えるかもですが、騎士団員らと体を動かしているうちにふっ切れたのか、それとも何か考えでもあるのか
うーん。それっぽい理由を次回にでも付け加えるか?(ぉぃ
それにしても、なんか雰囲気暗いですかね?
否定的な意見ばかりなんで仕方ないのかもしれませんが
ハルケギニアから否定されてきたジョゼフを変えるにはハルケギニアを否定するのが一番でしょう
三十ウン年も無能呼ばわりされ続けていたジョゼフが言葉だけで変わるかは難しそうですが