転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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12.脅迫? いいえ、交渉です

 

 まず口火を切ったのはシャルル兄だった。小手先のジャブ、本気ではない一言。先ほどの俺の発言に切りこんでくる。

 

「聞かれて困る話ではないと言ったけどね、セタンタ。私は聞いていてヒヤヒヤしたよ。そのせいで立ち去ることも出来なければ、ノックをするタイミングも掴めなかったんだけど」

 

 それに対して言葉を返したのはジョゼフ兄。

 

「ふむ。俺も聞かれて不都合のある会話だとは思わなかったがな」

 

「兄上。ここ、グラントロワには多くの貴族がいるのですよ。王族同士の会話を盗み聞きする貴族の存在など考えたくもありませんが、もし彼らに「貴族は魔法の才能でしか人の器を計れない者ばかりだ」なんて言葉を聞かれたら、セタンタは確実に反感を抱かれてしまいます」

 

「シャルルよ。セタンタは貴族の反感などどうとでも出来ると言ったのだぞ? 特に、そんな言葉(・・・・・)に図星を指されて反感抱くような連中ならなおさらな」

 

「ですが兄上。セタンタはまだ幼いですし……」

 

 笑顔を張りつけたままシャルル兄の眼が俺に向く。ちっとも笑っていない視線に貫かれながらも俺は肩を竦めて見せ

 

「確かに俺に反感を持った貴族が襲いかかってきたら事だけど、それはないでしょ。そんな短絡的な手段に出るバカが宮中勤務を務める地位まで登れるとは思えないし」

 

「短絡的でないからこそ怖いのだよ。恨みのような暗い感情というものは根付くものなのだからね、セタンタ」

 

 まるで「暗い感情」と長い付き合いをしてきた人みたいな言葉だね、シャルル兄。今のジョゼフ兄なら、その言葉の意味を、そしてその先の真相/深層まで予測出来てしまうかもよ?

 

「溜めこむというのなら余計に懸念は無くなるでしょう。そういう連中にしてみれば、俺は王位から最も遠い第三王子にして、特筆すべき明晰さも無く、さらには魔法の才も持たない、どう考えても王位に付くことはないだろう存在だ。放っておけば上の兄が王位に付くと同時に辺境にでも飛ばされるか、国益のために他所に政略結婚でもさせられ(売りに出され)るような存在だ。眼中から消えてくれる存在をわざわざ害して地位を捨てるものなんていないでしょう?」

 

「くっくっく。忠義がある者ならそもそも王家に杖を向けることなどありえず、利によって動く者もまたセタンタに杖を向けることはない、か? 俺にはむしろお前が貴族共を眼中に入れていないようにしか思えんがな」

 

「まさか。年中何かを企んでないと安心できないような連中を視界から外すことなどありえないさ。歯牙にかけるつもりもないけどね」

 

 そりゃあ理想を言えば貴族が視界に入らない場所で悠々と暮らしたいけどさ。

 

「……ふぅ。セタンタは一体何者だい? ほんの数時間前まで、私にとってセタンタは体を動かすことの好きな弟という印象だったのに。演技でもしていたのかい?」

 

「それは俺も聞きたいな。魔法が不要だと言いきった時といい、貴族に対する考え方といい、これまで謀られていたのかという気分にさえなって来る」

 

 かたや「演技」を得意とする者が俺の「演技」を疑い、かたや周囲を「謀って」己を無能だと思わせている者が俺の「(はかりごと)」を疑ってくる。

 気付いているのかな、この滑稽さを。気付いているんだろうね、どうせ。

 

「別に演技していたわけでも騙していたわけでもなかったんだけどね。ただ今まで俺の思考を表に出してこなかったというだけ。兄さん達しかこの場にいないから、今は話しているってだけのことだよ」

 

「何故、今までは隠していた? セタンタは自分の考えを、セタンタがそこまで深く物事を洞察できるということを私たち以外には知られたくないのかい?」

 

「隠していたつもりもないんだけどね。さっきと同じ事を訊ねられていれば、正直に答えていただろうし。でもまぁそれでも何故だって言われるなら、「王位争い」なんてのはゴメンだって思いのせいだって答えるかな」

 

「ほう? それは言い換えるならば、実力を隠さなければ王位を争えると? 自分も王の椅子に届きうるという自信の表れか?」

 

 ジョゼフ兄の言葉に圧力が増す。もちろんシャルル兄からのプレッシャーだ。

 

「そんなんじゃないよ。王様になれるとも思えないし、なりたいとも思ってない」

 

 でも、と続ける。

 

「ブリミル教が思いのほかしつこくてね。騎士団の奴らに聞いた話だと、例の「神託司教」を中心に噂を広めているそうなんだよね」

 

「なんだって?」

 

「俺って連中に狙われてるっぽいんだよね。一応俺が魔法苦手なこともあって大々的には動いてないけど、でももし俺がそれなりに頭の回ることをアピールでもしようものならさ、アイツら俺を担ぎ出しそうなんだ」

 

「ほう。セタンタにとっては面白い展開ではないのか?」

 

「冗談。俺は王冠なんかより平穏が欲しいの。ブリミル教に後押しされるなんて最悪な展開だよ」

 

「……やはりサイレントは必要だったじゃないか。今の発言が聞かれていたら」

 

「サイレントをシャルル兄が掛けてくれたからこそ言ってるのさ」

 

 それ以前は貴族を批判はしてもブリミル教やロマリアには一言も触れていなかっただろ?

 

「現状俺は王位獲得レースでは大穴なんだよ。それも誰も賭けていないほどの。でも教会がバックにつこうものなら、下級貴族がわらわら群がってきかねない」

 

 順当にジョゼフ兄が王位を継げば、現在の有力貴族が次代の国家の中枢も担うことになるだろう。

 次点のシャルル兄が王位を獲れば、シャルル兄を支持した有力~中堅貴族にポストが用意されるだろう。

 ではクー・セタンタが王位を奪えば? 俺に手を貸した貴族が新たな有力貴族になることは明白。

 現状では俺は王位に最も遠く、実績・功績なども皆無。王位争いにおける勝ち目など見えない俺に味方する者はいない。なぜなら王位争いに負けた派閥は辛酸を舐めることになるのだから。次代の王にとっての「過去の政敵」になど誰もなりたくはないだろう。

 しかしブリミル教がバックにつけば話しは完全に変わる。

 ブリミル教が俺を支持するということは、ロマリアが支持するということであり、俺の力が増すことになる。

 勝ち目が見えてくれば下級貴族にとってコレほどおいしい勝負の場は無い。クー派に属し勝利すれば、一気に子爵以下の貴族が侯爵・伯爵クラスの爵位を手に入れられるかもしれないのだ。領地も持たない貴族の次男三男でも、宮中勤務の要職につけるかもしれないのだ。ジョゼフ、シャルルに与したゆえに有力貴族は中枢権力から追放され、多くのポストが空位になるのだから。

 ゆえに「神託司教」らは、騎士団員のような領地を持たず己の才覚で立身出世を目指す下級貴族、シャルルにとっては掌握する優先順位の低い者らに目を付け。

 そして、ガリア貴族の大半を占める下級貴族、その多くが俺の味方となった場合、

 

「それこそ前線に出たがる貴族ばかりが集まるだろうね。貴族に戻りたがっている爵位を取り上げられたメイジなんかも集まってくるかも。魔法を使う兵隊(ポーン)が完成することになる」

 

 ――強力なクー・セタンタ軍が出来てしまう。それこそ、王位をめぐって「政争」ではなく「戦争」を起こせるくらいの。

 さらにジョゼフ派、シャルル派の苦境は続く。

 俺を敵に回すということは、同時にブリミル教を敵に回すという、最悪異端認定されかねないリスクを背負うことになり、今まで支援していた貴族の離脱や平民の悪感情を引き起こすことにもつながるだろう。

 さらには「始祖の敵」とされてしまえば、周辺国すら敵に回しかねなくなるのだ。ロマリアがただ声明を出せばいい。「始祖の敵を討とうとしない者もまた、異端である」と。異端認定への恐怖ゆえに、ゲルマニアからトリステイン、アルビオンに周辺の小国までもがガリアに攻め入って来るだろう。

 とはいえそこまで事態が悪化するとも限らず、今述べたものは想定できる未来のうち最悪に近いモノでしかない。だがジョゼフとシャルルも想像できる最悪である以上、それは可能性として考えておかなければならないものだ。

 そう。今、この場での俺の僅かばかりの発言で、ジョゼフ兄もシャルル兄もソレを想像できていた。

 ゆえにシャルル兄の表情は「初めて」歪み、それを見たジョゼフ兄は「初めて」震えていた。

 

「王位争いに巻き込まれるなんて、平穏を望む俺には百害あって一利なしなんだよ。巻き込まれたが最後、祖国は荒れ、兄弟とは敵になり、たとえ勝ったとしても、幼い俺を操って国を我が物にしようとする貴族には狙われ、バックに付いてたブリミル教は枢機卿を送り込んできかねない。得るものなんて何もないのさ」

 

 だからさ、と俺はワラう。

 

「俺の本性は兄弟だけの秘密ね。兄さん」

 

 ワラうワラう。ワラってみせる。

 

 最初のターン(だましあい)は俺の勝ち。

 

 二人は騙されたことにも気づいていない。

 

 俺は「コミュ力」を使い「以心伝心」を操った。

 

 最悪の未来のイメージ。全てが兄さんたちにとって悪い方向へと転がった場合のイメージ。

 

 それは俺が放ったもの。テレパスの如く飛ばしたモノ。

 

 二人の兄は誤解する。僅かばかりの俺の言葉から、それを自分が閃いたのだと。それが脳裏に閃いた「自分の想定」「自分の予測」であると誤解する。

 

 ゆえに騙されたことには気付かない。気付くことなく「自分の考え」を「確信」する。

 

 これで青のナイトは傍観者に変わる。巻き込まれることをこそ警戒する俺を、シャルル兄は王位争いの敵候補とは見なくなる。クーは「あり得る未来」を回避したいだけなのだ、と「確信」させたのだから。

 

 全ては俺の狙い通り。最初のターン(勝負)は俺の勝ち。

 

 はてさて次はどちらのターン?

 

 黒のキングと白のキングの一騎討ち。

 

 血みどろの戦いだけは勘弁してくれよ?

 




まいりました。対話篇が全然終わらない
騙し合いとか陰謀とか考えていると頭がフットーしちゃいそうになるってのに
オチをどうするかも未だ決められていないし
まいった


もう爆発オチで終わらせちゃおうか
ジョゼフの虚無暴発→ジョゼフ頭を打ったショックで丸くなる&シャルル頭を打ったショックで丸くなる&クー頭を打ったショックでポジティブになる
そして数年後、うんたらかんたらありました(完)
みたいな?

はい。冗談です。…………冗談、です、ヨ? ウケケケケ

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