なにはともあれ、やっと一息つきました。どもども、クーです。
え? 話の続きはって?
ちょっと待ってよ。慣れないシリアス調が続いたんで疲れてるんだから。
あー、胃が痛い。そして表情筋も痛い。兄二人を前に俺の寿命がストレスでマッハなんだが。
だけどシャルル兄に危険視されるっていう特大の死亡フラグは(一時的に?)鎮静化させることに成功した模様。突然シャルル兄の危険度に気付いただけに、随分焦っちまったぜ。あんなに焦ったのは「誕生前」に神さんに睨まれた時以来かも分からんね。
さて、と。これでやっと本題に入れるかな?
元々ジョゼフ兄にシャルル兄の暗殺やシャルル派の粛清を行わせないためにチェスの後の話を誘導したんだし、ここからがメインディッシュのようなものだ。
シャルル兄が聖人君子なんかではないとジョゼフ兄に理解させ、シャルル兄が将来的に建てるであろう死亡フラグをブチ折ってやらないと。
俺、このミッションを成功させたらイザベラとフラグ建てるんだ。
さて、俺の「三人だけのヒ・ミ・チュ♡」発言(いや、ニュアンス的には合ってるっしょ?)以降くつくつと嗤っていたジョゼフ兄が口を開いた。次のターンはジョゼフ兄さんっすか。いよいよシャルル兄の仮面について口撃するんすか? なんて考えていたら、
「くっくっく。まったくおかしな奴だな、セタンタよ」
まだ俺の(攻撃される)ターンは終わって無いぜ! ってことっすか? 勘弁してくれー。
「始祖の残した魔法を不要な力といい、貴族を下に見、挙句の果てには王位を要らないと言い切る。どれも俺には至れぬ考えだな」
ふっ。残念だがジョゼフ兄よ。俺はもう話題の中心には居たくないからさ、ここからはシャルル兄と踊って貰うぜ?
「ジョゼフ兄が考え付かなかった? 本当に? ってことは、魔法は必要で、貴族も重要で、そして、」
行くぜ、リバースカードオープン!
「王位には興味深々ってこと?」
ウケケ。シャルル兄が目を見開く。未だに笑顔を崩していないことは立派だが、頬が引きつってるよ?
まあそれも当然か。「無能」の名は伊達じゃあない。当初は魔法の才を持たないがゆえに付けられた渾名だったのだろうが、現在では第一王子であるにもかかわらず政務に積極的に携わろうとしないその姿勢ゆえに「無能」と謗られているのだ。そんなジョゼフ兄を見て王位継承に意欲的だと見る者はいないだろう。
伝統がある故、長子が王位を継ぐべきだと口にする有力貴族たちにとってもその認識は同じ。ゆえに「長子」であるという以上のアドバンテージをジョゼフ派は得られなかったのであるが、もしもジョゼフ本人が王位に興味を示し貴族の取り込みを始めてしまえば……。そんなことを考えているのかな?
「ふむ。王位か。実はな、セタンタ。俺は次の王になるのはシャルルだと考えていたのだよ」
「……兄上」
「俺だけでなくほとんどの貴族がそう考えているはずだ。おそらく父上や母上も。俺を次期王になどとほざくジョゼフ派なる連中のことは知っているが、奴らは利権が欲しいだけで俺のことなど見てはおらんしな。セタンタが初めてなのだよ。俺を王様などと言ったのはな」
それほどハルケギニアにおいて魔法は重い。魔法を使えないという、ただそれだけのことで血筋も才能も、人としての全てをも否定されるほどに。
「正直言って王位などには興味など無かった。いずれシャルルが手に入れるのだと諦めていたのかもしれん。実際そうなることを確信していたのだ。むしろ俺に王位を譲るなどと言われたら、父上の正気を疑っていただろうな」
くっくっく、とジョゼフ兄が「ありえない未来」を嗤う。それが「正史」なんだけどねぇと俺も声には出さずにワラってみせる。
「だが、どうしたのだろうな。どうやら今の俺は王位というモノにそれなりに興味を持っているらしい。要らぬと断言できない程度には、であるがな」
「……それは、どのような心境の変化でしょうか?」
「簡単なことだ、シャルルよ。今までが狂っていたのだと理解させられたのだ」
チラリとジョゼフ兄がこちらを見る。
「魔法が使えないゆえに俺は「無能」であり、魔法の天才であるがゆえにシャルルこそ「王に相応しい」のだと思っていた。が、どうやら我らが弟の言う所によれば、魔法の才など一つの物差しに過ぎんらしい。確かにそうなのだろう。俺という人間は、「魔法が使えない」という唯それだけのモノだけで構成されているわけではないのだから」
不思議と楽になった気分なのだよ。ジョゼフ兄はそう呟いて嗤うのをやめた。そして、
「今は、試してみたいと思っているのだよ。果たして俺は「無能」だったのか。果たして俺はシャルルには勝てないのか。どうせ王になどなれぬのだからと避けてきた政務だったが、今では俺にこの国をどこまで変えることが出来るのかと興味を持ち始めてもいる」
その独白はシャルル兄にはどう映っているのか。
再びジョゼフ兄がくっくと肩を震わせて、
「まぁ結局のところは、シャルルに勝ってみたいだけなのかも知れんがな」
それだけの理由で王位争いなどという巨大な政争、すなわち政治的戦争を起こそうなどと考えているのだ。そんな思考をする俺は、王になど決してなるべきではないのかもしれないが。ジョゼフ兄は嗤ってそう言い、
「シャルルよ。お前はどうなのだ? 誰もが次の王に最も相応しいと考えているお前自身は、その手に王位を掴むことを欲しているのか?」
「次の王位とは父上、国王陛下の決定するモノです。私個人の意思など「建前は要らんよ、シャルル」」
「この部屋には我ら兄弟しかいない。そのうえ我が国最高の使い手のかけたサイレントがあるのだ。「本音」を語れ」
「……ですが」
「俺は本性を見せたしジョゼフ兄は本心を語ってくれた。シャルル兄も本音を明かしてよ」
大分軟化したとはいえ、ジョゼフ兄の意識を変えるにはシャルル兄の本音が必要だという俺の考えは変わらない。ここで退くわけにはいかないのさ。
第二の
本当にジョゼフ兄が王位に興味を持ったのかなんて、俺でさえ読み取れない。
全てシャルル兄に本音を語らせるための撒き餌のようにも見えるし、心からの本心のようにも思える。
未だ狂王とは成っていない「天才」は、一体何を考えているのやら。
次はいよいよシャルルのターン。
はたして白のキングはどう動く?
依然騙そうとしてくるか?
それとも……?
そしぶ! 出来たのだろうか?
ジョゼフの物分かりがよすぎるという意見がありそうですが、クーの語る「魔法の才能の有無なんて大した問題じゃないヨ」という考えは、今まで臣下からも軽んじられてきたジョゼフにとって救いになる言葉でした。シャルルのような才能のある相手からの言葉だったら同情なのではと穿って見たのでしょうが、自身と同じく才能の無いクーの言葉(それも負け惜しみではなく本心からの言葉)だったのでアッサリ受け入れられたわけです。
と、作者も色々考えてるんだぜ的なことを言っておけば納得してもらえるかな?
実際こうでもしないと収拾つかなかったわけなんですが
次回で、対話篇は終われるかッ!?