転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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15.チェックメイト

 

 王族同士ではなく、ただの兄弟として接している二人を、俺は何も言わずに見ていた。

 何も思わないわけではない。俺も二人の弟なのだから。

 だが、今はそれ以上に冷静になるべきだ。

 ジョゼフ兄とシャルル兄の仲が良好になったことは、原作で発生したシャルル暗殺の可能性を大幅に引き下げた。それはネガティブな俺でも確信しているし、それこそ万が一ジョゼフ兄が狂いでもしなければ、原作でのシャルル暗殺は発生しないだろう。

 そう。「原作での」である。

 今回の対話での唯一発生した懸念。それを挙げるとすれば、ジョゼフ兄の発言である。

 曰く、王位に興味が湧いた。

 もちろんシャルル兄から本音を引き出すための布石だったとも考えられる。本心を隠し、演技を得意とするシャルル兄から本音を引き出すには、可能な限り精神的に追い詰める必要があった。すなわち俺がその気になればガリアにクーデターを起こすことも可能だと理解させ、ジョゼフ兄が王位を積極的に継承しようと動くと思わせる。王位を渇望するシャルル兄からすれば危惧すべき状況だ。ソレを突き付けていなければシャルル兄の仮面を壊すことは出来なかったかもしれない。

 そう。ジョゼフ兄のあの発言は、シャルル兄から本心を引きだすために吐いた嘘ともとれる。

 しかし、本心から王位に興味を持ったのではないかとも懸念出来るのだ。

 

 原作でのジョゼフは父王から次王として指名されるまで王になるとは思っていなかった。これはジョゼフが初めから王位はシャルルのモノと諦め、政治的活動をしてこなかったことを意味している。

 しかしもし、ジョゼフが王位継承にむけて積極的に動いていたら?

 魔法の才能がないとはいえ、王家は長男が継ぐもの。それはゆるぎない伝統。王族のお家騒動など国力を下げるだけなのだから、継承者争いなどを防ぐためにも、その伝統はもはや鉄則に近いモノがある。

 しかし如何に伝統が、それこそ六千年もの間王家を維持させてきた伝統が存在したとしても、ここはハルケギニアである。

 魔法の才がないというだけで王家の者が謗られることさえ普通な、ハルケギニアという俺には狂っているとしか思えない世界なのだ。

 当然のように「魔法が使える」という理由だけで次男であるシャルルをそれでも推そうとする者はいるだろう。

 ならば、伝統を超え次男であるシャルルを王にしようと動くシャルル派と、それを積極的に迎え撃とうとするジョゼフ派がぶつかり合うことになる。

 ジョゼフ兄が王位を目指すということは、原作では発生しなかった次王指名以前の政争の発展を意味するのだ。

 そして、ここは大国ガリアであり、数多くの貴族のいる国なのである。

 全員の行動を把握できなくなるまでに膨れ上がった派閥の中で、暴走する者がいないとは限らない。

 政治的闘争において、支援者の上げられる最大の功績は政敵の追い落とし、すなわち暗殺にあるのだから。

 「原作での」シャルル暗殺はもはや発生しない。しかし、俺はそれだけで全てを安心したりなんかしない。

 最後の仕上げ、させてもらうぜ、兄さんがた。

 

 

「恥ずかしい所を見せてしまったね」

 

 ようやく落ち着いたシャルルの第一声は、気まずそうに目を逸らしたまま発せられた。

 

「恥ずかしいなんて言わないさ。むしろ兄弟としての親睦が深まった感じだし」

 

「くっくっく。確かに距離は縮まったか。なに、俺もセタンタもこの部屋であったことは秘密にしておきたいのだ。シャルルが口外しなければ、誰にも知られることはないさ」

 

「それは、……僕としても誰にも話すつもりはないけどさ」

 

 随分と打ち解けている。出来ればこのまま、めでたしめでたしと行きたいところなんだけど、

 

「さて、それじゃあ結論を決めようか、兄さんがた」

 

「「結論?」」

 

 仲良くハモっちゃって、まあ。

 

「そ、結論。俺にとっては平穏が一番大事って言ったでしょ? だからさ、俺の住んでる国で、俺の兄弟たちが王位をめぐって争い出す、なんてのは回避したいんだよね」

 

 その言葉で二人の兄も俺の言いたいことを理解したようだ。さすがは天才兄弟。

 

「ジョゼフ兄は王位に興味が出てきたって言ってたけどさ、シャルル兄の本音を聞いてもまだ「シャルル兄に勝ちたい」と思ってる?」

 

 それは劣等感から来た思いのはず。シャルル兄を見返してみたいという思いから来たはず。

 ならば、シャルル兄もまた劣等感にさいなまれていたという事実が明るみになった今はどうか? シャルル兄が清廉なだけの人ではなかったと分かった今でもその思いは変わらないのか?

 

「シャルル兄は王様になりたいって言ってたけどさ、そのためならジョゼフ兄や俺を害すことも辞さないと思ってる? それとも真っ向から挑戦して、王位に届かなかったら素直に諦められる?」

 

 自分で言っておいてなんだが、シャルル兄が俺やジョゼフ兄に直接手を出すことはあり得ないだろう。それはシャルル兄がこの部屋に来て、最初にサイレントをかけた時点で判明している。

 シャルル兄が王位のためなら手段を選ばないという人なら、あの瞬間唱えられたのは攻撃魔法だったはず。それこそが「最短」。言い訳など、「無能な兄弟たちが王位を簒奪するために父王を害す計画を立てていた」とでも言えばいい。清廉で知られるシャルル兄を疑う者はいないだろう。

 しかしシャルル兄は対話を選んだ。それはシャルル兄が「最善」を目指していたことを示している。

 ならばどれほど効果的でも俺やジョゼフ兄を害そうとはしない、と、思うわけだ。

 ゆえにあの時「安堵から笑みを浮かべ」たのではあるが。

 

「つまり、セタンタは今、僕か兄さんのどちらが王に相応しいか決めろ、と?」

 

「くっくっく。政争を回避するにはそれが最適なのかもな」

 

「……セタンタ。僕もいろいろ言ったけどね、次の王とは国王陛下が指名するモノなんだ。周りの貴族の意見を聞くことはあっても、決定権は陛下にある。誰にも口出しは出来ないんだ」

 

 頭が固いなぁ。やりようなんていくらでもあるのに。根っこのところは王子様なんだよね。髭だけど。

 

「なら、国王陛下ではなく、父さんに話しに行きましょう。俺と、まぁどっちかの兄さんが王位を要らないと言って、王様になりたい方の兄さんが父さんに「王冠ちょうだい」って「おねだり」に行く。家族の会話を咎める奴なんていないでしょ?」

 

「ハッハッハ! 王位をねだれ、か。まったく、お前と言う奴は」

 

「しかしだね、セタンタ」

 

 笑う長兄、渋る次兄。だけど俺は止まらんよ。ここまで来たんだ。詰み(チェックメイト)まで行くさ。

 無言で二人の兄を見る。目に込める意思は「コミュ力」を使ってブースト済みだ。答えを聞くまで引かない意思を視線に込める。

 数分、もしくはほんの数秒だったのか、まぁ俺にとってはとても長く感じた時間の後、

 

「そうだな。父上に頼んでみるか」

 

 口を開いたのはジョゼフ兄だった。

 

「うむ。次の王にはシャルルを、とな」

 

「兄さん!?」

 

「ん? セタンタの言うことはもっともだと思うぞ? 政争を避けるにはそれが最適だ。それに折角本心を語り合った弟たちと争いたくなどないし、な」

 

「そうじゃなくて、兄さんは王位を諦めていいの?」

 

「ああ、いいとも」

 

 ジョゼフ兄は茫然とするシャルル兄に笑いかけながら

 

「俺は一度だけでもシャルルに勝って見たかった。ただそれだけだ。そしてシャルルは今まで俺に負けていたと思っていたんだろう? なら俺が勝っていたも同然ではないか。それならもう満足だ」

 

「……兄さん」

 

「それにな、この国を良くするにはそれが一番いいのだろう。なに、王宮から離れて隠居するつもりはないぞ? 俺は自分がこの国をどこまで富ませることが出来るのか、試してみたいと思っているのだからな。次王の政治にも口出しさせてもらうとも」

 

 はっはっはとジョゼフ兄が笑う。シャルル兄もそれにつられて、そして全てが綺麗にまとまりそうなことに俺も笑みを浮かべ、

 

「俺たち兄弟ならきっとガリアをもっと素晴らしい国に出来るさ。セタンタもいるのだしな」

 

「………………へ?」

 

「へ? ではないだろう?」

 

 いや、ちょっと待ってよジョゼフ兄。俺は隠居したい組なんだけど。

 

「なにせ口先だけで俺とシャルルに本心を語らせ、その上国の未来まで決定してしまったんだぞ、お前は。今から鍛えればどれほどの外交の天才になることか」

 

「確かにセタンタならとんでもないことが出来そうだね。うん。僕たちならきっとガリアをもっといい国に出来るよ」

 

 いやいやいや。ちょっと待とうか、髭共。俺に今後もこんな腹の探り合いを続けろと? しかも他国と?

 

 おいおいおい。マジで待ってくれよ。

 

 なに? 決定? ふざけんな!

 

 やらんぞ俺は! 外交なんぞ学ばん!

 

 頼むよ。マジで。

 

 …………勘弁してくれ

 




これにて「ジョゼフ対話篇」から始まった対話シリーズ終了です
楽しんでいただけたでしょうか?
行き当たりばったりで脳内プロットを二転三転させたので全体通しての整合性とか雰囲気とかがチグハグかもしれませんが
どうかそこら辺はご容赦を

さて、本作品ではシャルル君が王様になるという珍しい(?)展開を取りましたが、個人的にはコレがガリアにとってベストな展開だと思ってます
キーワードにご都合主義を入れることになりそうですけどね

では、次回も読んだって下さい

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