彼女が出来たよ♪
バッソに。
どちくしょう!!!!!!!!
ニーハオ。クーです。現在八歳です。あの兄弟会議から一年くらい経ちますね。
あの後すぐに父上に直談判に行き、結構あっさりシャルル兄を次の王にするという提案は受け入れられました。まぁ、ジョゼフ兄と俺が「アルビオン辺りまで旅行に行って行方不明になりたくなるかも」と亡命をほのめかしたりもしたんで、ゴネルわけにもいかなかったんでしょうがね。
とは言えアレから一年経った今でも、まだ王位継承は行われてません。
俺たち兄弟の目的の主眼は「シャルルに王位を継がせること」というより「王位争いを発生させないこと」にあるので、少ないとはいえ確かに存在しているジョゼフ派などの掌握を進めないといけないそうで。
大体後一年くらいかかるか、とジョゼフ兄がこぼしてました。王位争いは数十年に一度のビッグイベントなので、その中心に儂を据えろと仰りやがるアホ貴族も多いんですわ。俺もOHANASHIに駆り出されたりしたよ。え? なのは式は使ってませんとも。ええ。平和的なOHANASHIでしたヨ? ウケケ。
そんなこんなでこの一年は結構忙しかったりしました。リュティス以外に出ることも初めてなのに、ガリア中を移動させられたからね。
なもんでグラントロワにもあまり来れなかったんだけど。
まさかソレがこんな事態を引き起こすとは。
「バッソに彼女が出来るなんて……」
現在東薔薇騎士団の詰め所に来ています。お通夜のような雰囲気です。
ガリアのエリート組と呼ばれる花壇騎士ですが、コイツラ、基本的に一人身が多いです。
騎士なんて言ってみれば軍人ですからね。出会いがないのがデフォ。宮中勤務の女性はどうかと思うかもしれないけど、そういう女中のような人は平民だからね。結婚を前提に付き合うには身分の差が壁になり、軽い気持ちで手を出すには宮中勤務という職業が壁になる。結局手を出されることは無いわけですわ。
それに実力はあるとは言っても命を張る職場に勤める連中です。当然領地持ちの長男坊なんかは騎士団入りなんてしません(たまに箔付けのためにコネで入団してくる奴もいるけど)。
魔法の腕は確かにある。でも出会いは無い。金もない。爵位もたいして持っちゃいない。
すなわち、モテないわけですわ。
そんなモテない奴らで構成される騎士団に、未だ見習いにすぎない少年に彼女が出来たなんて情報が広まったら。
ま、吊るし上げですわな。
「バッソ」
「はっ」
椅子に座らせられ縛られているバッソの前に立ち、語りかける。俺の背後には他の騎士団員が沈痛な面持ちで並んでいた。
「バッソ。俺は悲しい。俺はお前ら花壇騎士団員を部下だなんて思ったことは無かった。共に訓練し、共に笑い、共に泣き、かけがえのない絆で結ばれた仲間だと思っている」
「……もったいないお言葉です、殿下」
「特にお前のことは友達だと思ってたんだ。年も近いことがあったしな。なのに、なのになんでっ」
思わず膝から崩れ落ちる。周囲で成り行きを見守っていた騎士団員にも、俺と同じように声にならない声を押し殺している者がいた。
「なんでっ、お前だけ彼女が出来てるんだよぉぉぉ!!!」
「そうだ、カステルモール! ふざけんな!!」(←二十三歳独身のAさん)
「一人だけ抜け駆けしやがって!」(←十九歳童●のBさん)
「イケメン死ね! 氏ねじゃなくて死ね!」(←二十六歳お見合い十七連敗中のCさん)
「クソッ。私には春が来ないっていうのに!」(←三十四歳東薔薇騎士団団長のDさん)
嗚咽が漏れる。もうね、裏切られるってのがこんなにツライことだったなんて思わなかったよ。
これも、王家に生まれた者の宿命、か。くそっ、壁殴っちまったぜ。
「で? バッソよ」
「は、はっ! なんでしょうか、殿下!」
「……相手は誰だ?」
俺の言葉に皆の呪詛の声が止まる。この後のバッソの一言が分岐点だろう。妬まれるか、祝福されるか。俺としては祝福してやりたいところだが、宮中勤務のフレデリークさん(17)に手を出してたらぶっ殺す!
「い、いえ、その、ですねっ、あの」
「バッソ。黙秘は許さん。無論、虚偽もだ。どうせ話すことになるんだ。早いトコ吐いちまえ」
「あの、えっと、その。……『紅玉』殿です」
「「「「「………………………げぇ!!!!」」」」」
あばばばばばばばばばばばばばば!
説明しよう! 『紅玉』のレティシア。西百合騎士団副団長を務める女傑である。
土のスクウェアである彼女の名に何故これほどまで反応するかと言うと、
「マジかよ。『歩く自然災害』だと」
「どこで知り合ったんだ? あの『殲滅屋』と」
「つか正気か? 相手は『火竜山脈産の女傑』だぞ?」
彼女の二つ名は『紅玉』。しかしその名で呼ばれることはまずない。というか『紅玉』なんて綺麗なもんじゃない。
彼女の得意技は全長五メイルほどのゴーレムによる、岩の投擲である。それだけならば土のメイジとして珍しい戦闘スタイルではない。実力的にはエリートである東薔薇騎士団もこれほど恐れはしなかっただろう。
しかし『紅玉』のレティシアは、あろうことか投擲する岩に炎を纏わせるのだ。正確には同時に二つの魔法は使えないため、炎を纏わせた岩をゴーレムで投げるのであるが。
まさに『紅玉』。ライン時代の彼女であったのなら、その二つ名はとても良く映えていたことだろう。
しかし、現在レティシアは土のスクウェア。ついでに言うと、火のトライアングルでもある。
岩の表面を錬金で融解しやすい物質に作り変え、炎によって溶かし、それを投擲する。
初めて彼女の『レッドストーン』を見た時は思わず突っ込んだものである。マグマグの実の能力者か! と。
実際トラウマものだった。弾丸を用意するために一度辺り一帯を火の海に変えてからゴーレムを作るのである。戦闘で使うためだけに災害現場を用意する自然破壊者。まさかそんな
だって、恋人を吊るし上げてるとあの皆殺し屋が知ったら……
あばばばばばばばばばばばばばば!!
「や、やばいぞ! バッソの縄を切れ! こんな所を万一見られでもしたら!」
俺の言葉に皆の顔から血の気が引く。誰だって火山の噴火を再現出来るような化け物の逆鱗を触れたくはないだろう。
「おい! 水の秘薬をありったけ持って来い! カステルモールの口が切れてやがる!」
「痣になってる所も全部治すぞ! 急げ! 風のメイジは外を警戒しておけ!」
「くそっ! どこの誰だ、バッソをこんなに殴った奴は!」
「「「「殿下が一番殴ってましたよね」」」」
「うぉい! こういう時は連帯責任でお願いします!!」
治療には参加できないしいっそ土下座でもしてしまおうかとオロオロしていると、外を見張っていたはずの団員が悲鳴のような声を
「殿下!! お逃げくだぶぐるぉあ!!」
上げて飛んでった。
……え? マジ?
「うふ。うふふふふ。バッソ君とお昼でもと思って来てみたら、随分楽しそうなことをしてらっしゃるのね」
あば、あばばばばば。
「ねぇ、殿下? 私のバッソ君に何をしたんですかぁ? いくら殿下といえども。うふふふふ」
コ、コエエエエエエエエエエエエ!!
一年ぶりの死の恐怖だよ
ハルケギニアはやっぱり死亡フラグが満載だよ
もうホント
勘弁して下さい
幕間のような息抜き回です
ちなみに続きません。クーはいろいろオシオキされて許してもらいました
なんとなくバッソの彼女ということで出したレティシアさんですが、今後の登場は未定です。戦闘スタイルも中二ハートをフルドライブで考えたチート能力なので、パワーバランス崩しすぎて使いにくいですし。(マグマって大体1000℃ですからね。そんなん投げるメイジとか、エルフも真っ青でしょうしね)