転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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22.胃痛シンパシー

 

 うぅぅ。クーです。

 鼻が痛いです。喉も痛いです。頭も痛いです。

 なんだか血管がむずむずするんですが、これって大丈夫なんでしょうか?

 あぁ、そして今は何よりも、胃が痛いんです。

 

 現在俺は湖畔の椅子に。目の前には四つのティーカップ。

 ええ。今そいつを挟んで相対してます。トリステインのオッサン共と。

 真正面に居るのはマザリーニ枢機卿。彼も胃を押さえてます。新事実(水の精霊サマにまつわるエトセトラ)のせいで只でさえ痛かった胃が色々とヤバイ域に来ているんでしょう。

 向かって左側に居るのはラ・ヴァリエール公爵殿。事の大きさの分かっていない宮中貴族の代わりに駆り出されたっぽいですね。確かにマトモな貴族と言って思い浮かぶのは彼くらいかもしれません。どこかバッソに似た苦労人臭がしますね。

 そして向かって右側。今にも入水自殺を図りそうなほど思い詰めた表情をしているのがド・モンモランシ伯爵です。自領がオルレアンと隣接しているということで連れて来られたんでしょうが、まさか代々交渉役を仰せつかっていた水の精霊の浮気現場に立ち会うことになるとは思っていなかったんでしょう。……目がnice boatなんですが、こっちに被害は出ませんよね? ハッ! 前回の小舟はこのフラグかッ!?

 あー、胃がぁ、胃が痛いぃ。

 

「ふっ、安心せい、クーよ。我がお主と共にあるのだぞ。お主のウチに在る我が少し本気を出せば胃の痛みどころか、不治の病ですら敵ではないわ」

 

「いや、心を読むなよ、……って、おい!!」

 

 目の前のティーカップから水の精霊サマ(レッド)が出てきやがった。なるほど、全ての水は精霊サマと繋がっているわけですな。ってそうじゃねえよ!

 不治の病のところで俺へのプレッシャーが一つ増えたんですけど!!

 ヴァリエール公爵の目つきがギラついた雄の眼に!?

 コレ、絶対立ってるよね? いや、そっちの立ってるじゃなくてさ、フラグだよね? ここまで分かりやすい展開ないよね?

 いや、カトレアさんに会うのは別にいいんだよ。治せるってんなら治してあげたいくらいだし。

 でもさ、そうなると『烈風』さんとも会うことになるよね?

 ……嫌な予感しかしねぇよドチクショウ!!

 あぁ、胃がぁ。

 と、ストレスによる永続ダメージと水の精霊による永久リジェネが同時にかかっている胃に手でさすっていると、

 

「お、おほん。よろしいですかな、クー殿下?」

 

 とはマザリーニ枢機卿。あー、謝罪に来てたんだったね。連れの人選間違えたこと理解しているのか、さらに顔色が悪くなってるけど。

 俺も外交モードに切り替えないとな。九歳児がやると滑稽に映る事の方が多いが、仕方ないんだよねぇ。

 

「ええ。見苦しい点をお見せして申し訳ない。本日来る旨を通達していただければそれなりの用意をさせたのだが」

 

「いえ、お気になされませぬように。本日は我々、トリステインを代表して謝罪に参りました」

 

「ふむ。トリステインを代表して、ということはマザリーニ殿の言葉はトリステインの総意と捉えるが、よろしいか?」

 

 おつかい扱いなんてしないぞ、と暗に込める。

 

「はっ。当然のことでしょう」

 

 その当然が出来てないのがお宅の王妃さんだったんだがな。

 

「まずは謝罪を。先日はガリアの大使であらせられるクー殿下に数々の非礼。誠に申し訳ありませんでした」

 

 返事はしない。ここで気にしていないだの許すだの口にするのはありえないしね。

 

「ですが我がトリステインに貴国に対しての害意はない事をどうかご理解いただきたい。無論、言葉で足りないと仰られるならばそれ相応の謝罪を用意いたしますゆえ」

 

 なにとぞご容赦を。と、こっちが悪いことしてんじゃねぇかと思うくらいの平身低頭っぷり。

 ……ってか、スゲェ。

 一応『コミュ力』使って真意を読み取ろうとしてみたんだけど。

 なんとこのオッサン、いや、マザリーニ枢機卿。自分の首を差し出す覚悟すら決めてやがる。

 スゲェな。トリステインなんかに何故そこまでするのか分からないが、元がロマリアの坊主だとは信じられないくらいの忠誠心だねえ。

 

「ふむ」

 

 俺としては謝罪を受けはするが何も返答する気はなかったんだ。

 大使へのトリステイン大后の無礼なんてのは、使いようによっては、というかジョゼフ兄あたりが使えばかなり強力な外交カードになる。それこそ侮辱されたことを大義名分にして戦争を起こせるくらいの。

 だからこそマザリーニ枢機卿もここまで頭を下げているのだろうが、……ふむ。

 

「トリステイン側の謝罪は確かに受け取りました。大使としての立場上、私はガリア王家への報告をしなければなりませんし、トリステインへの対応を決定することも明言することも出来ません。しかし今は我がガリアとしても大切な時。余計な火種を抱えることは私としても本意ではありません。ゆえに我が国王陛下への報告の折、微力ながらも言葉添えをすることを約束しましょう。それでよろしいでしょうか?」

 

「は、ははっ」

 

 まぁなんだ。マザリーニ枢機卿の懸念ももっともだとは思うが、案外平気だとは思うがね。

 だってトリステインなんて呑み込んでもしょうがなくね?

 碌な資源があるわけでもない小国で、その上売国貴族が山ほど。

 きっとトリステインに宣戦布告した瞬間、腐敗貴族共がこっちに尻尾振って来るんだろうね。

 めちゃくちゃウザいよね? 他国で好き勝手やってるならまだしも、こっちくんなって感じだし。

 国王になるシャルル兄も征服願望あるようには思えないし、ジョゼフ兄も当分は内政チートを楽しんでるでしょう。

 トリステイン如きに目を向けることはないと思うよ。今回のように、ガリアが舐められでもしない限りはね。

 

 

 さて、めでたしめでたし……とはいかないよねぇ、やっぱ。

 いや、メインはあくまでマザリーニ枢機卿の謝罪だったんだよ。

 他国の王族相手に謝罪に来たのに、オマケとして来た人間が口を開くなんてことは本来無いんだよ。

 だけど、ねぇ?

 モンモランシ伯爵は目が虚ろで、口からエクトプラズムらしきものがちらちら見えてるし。

 ヴァリエール公爵は最愛の娘の治療法(の可能性のあるもの)を目の前にして我を失い気味だし。

 無理矢理ならともかく、このままお帰りいただくのは無理だよねぇ。

 はぁ。もうちょい薄情な人間に生まれていれば、こんな苦労しなくて済んだんだろうに。

 全く。勘弁してくれよ。

 




なんと当作品への感想が百件行きました(ワーパチパチ)
PVやユニークアクセス数もとんでもないことになってはいましたが、こう、読んで下さる方がいることを一番実感できるのが感想を書いていただけた時でして
ホント、ありがたいことです
拙作ではありますが、今後もよろしくお願いします

あ、今回はマザリーニさんの回でしたね
相変わらず中身のある様で実際は……
ま、今回は次回以降の布石ということで

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