転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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23.交渉? いいえ、お願いです

 

 さて、マザリーニ枢機卿のお連れのお二方を放っておくという選択肢を選ばなかったわけだが。

 ヴァリエール公爵は……まだ俺の覚悟が決まってないっす。と言うわけでモンモランシ伯爵から崩していきますか。

 ま、とりあえずは、

 

「ふぅ。公式な立場としての会話はこれくらいにさせていただきましょう。さすがに疲れました」

 

 と、笑みを浮かべて見せる。九歳児ってのはこういうとき便利だよね。大使として行動している時はさすがに責任が付きまとうけど、そうじゃないと明言してしまえば子供として見てもらえるし。

 まぁ今はリラックスさせる効果を期待しての言葉だったんだけど。

 俺の肩から力が抜けたのに安心したのか、マザリーニ枢機卿もどこかホッとした様子。

 ここからはプライベートだと理解し、最初に動こうとしたのはヴァリエール公爵だったが、今はモンモランシ伯爵を優先させてくれ。

 そして、モンモランシ伯爵との交渉を見て、俺を安く使えるなんて考えは消し去ってくれよ。

 

「一つ、いえ二つですか、トリステイン側に、というより貴方がたにお願いをしてもよろしいでしょうか?」

 

「は? 殿下が我々にお願い、ですか?」

 

 反応したのはマザリーニ枢機卿。そろそろモンモランシ伯爵は帰ってこいよ。

 

「ええ。彼女(?)に関してのことで」

 

 俺が示したのはティーカップ。というか紅茶で造られたヒトガタの精霊サマ。

 

「私としても水の精霊に気に入られるなど予期していなかったことでして。まぁ人の身である我々に精霊をどうこう出来る道理もありませんし、受け入れるほかないのですが」

 

「なんだ? 我と共に在れることに不満でもあるの「精霊サマは少し黙ってていただけますか?」……つれないのぅ」

 

「私個人にとっては水の精霊と交流が生まれたことに問題などないのです。ただ、我がガリアにとってみれば、あまり歓迎できる事でもありません」

 

「どういうことでしょうか? トリステインにとって、という話ならばわかりますが、殿下と水の精霊との間に交流が生まれることはガリアの国益につながるのでは?」

 

「時期が悪いのですよ、マザリーニ殿。ご存知かもしれませんが我がガリアは我が兄シャルルの王位継承を祝うため国が一丸となっている段階です。長兄であるジョゼフも、不肖の身ながら私も王位継承式典の準備のために動いています」

 

 言外にガリアが一枚岩であることをアピールする。次男の王位継承というイレギュラーを好機と捉えられて、トリステイン如きに暗躍されても鬱陶しいしね。

 

「そんな折に私が水の精霊との交渉を成功させた。それも本来トリステインと盟約を結んでいる水の精霊と、などという話が広まれば私を推す貴族が出てきかねない。宮中で行われる謀略に関しては、私以上にお三方の方が詳しいのではないですか?」

 

「確かに、殿下のおっしゃる通りかも知れません」

 

「となれば私が水の精霊に気に入られたという情報は隠しておきたい。これがお三方への一つ目のお願いになります。トリステイン側としても悪い話ではないでしょう? 水の精霊の言葉にはトリステイン側への明確な批判がありましたが、これは表には出したくないはず」

 

 ビクリとモンモランシ伯爵の肩が震える。まぁお家お取りつぶしとなっても仕方ない失態だものね。水の精霊を怒らせるなんて。

 ま、二つ目のお願いでその目に生気を取り戻してよ。

 

「二つ目のお願いですが、情報を隠すだけでは心もとないので別の情報に目を向けさせたいのです。つまりは」

 

 一旦区切る。演出ってやつだよ。

 

「モンモランシ家で再び水の精霊との盟約を結びなおしていただきたい」

 

「「「なっ」」」

 

 挨拶以来初めてモンモランシ伯爵が声を発した。驚いてる驚いてる。

 

「な、なにを、殿下?」

 

「ああ、正確には王家との間を取り持つ交渉役でしたか? まぁともかく、モンモランシ家にはトリステイン王家と水の精霊の間の交渉役に戻っていただきたいのです。現状私が警戒しているのはトリステイン側からの情報流出のみ。我々の側は一つに纏まってますしね」

 

 東薔薇騎士団には緘口令を既に敷いてある。俺(の鼻)が[ピー]されたなんて、噂にしようものなら心臓ブチ抜いてやるわボケ。

 

「トリステイン側で私の事が噂などになることを防ぐためには、より大きな噂で持ち切りになっていただくのが良いでしょう。ですのでモンモランシ家に水の精霊との交渉を成功させたという偉業を打ち立てていただきたいのです」

 

「仰ることは分かりますが、水の精霊は殿下をお選びに……」

 

「私はあくまで気に入られただけですよ、モンモランシ伯爵。それに水の精霊が常に一つの陣営としか協調しないとは限らないでしょう」

 

 そもそも国とか派閥とかいった俗っぽいことが水の精霊に関係あるようにも思えない。俺を気に入ったからと言ってトリステインを完全に無視するようになるとは思えないのだが。

 

「その辺りどうなのでしょうか、精霊サマ?」

 

「む?」

 

「モンモランシ伯爵を交渉役とし、再びトリステインと盟約を結ぶつもりはおありですか?」

 

 ゴクリと鳴った音は誰の……まぁモンモランシ伯爵だよね。

 上手く行けば家の名誉が回復するのだ。ただでさえ領地の干拓に失敗し貧乏しているらしいし、この状況に目が血走るの、も……いや、目が血走ってるのはさすがに必死すぎでしょ、伯爵。

 

「クーの願いならば大抵のことは受け入れようと思うが、その単なる者は我を道具のように使おうとしたのだ。我としてはそのような無礼者と再び盟約などと思うのだが」

 

「ふむ。モンモランシ伯爵が気に入らないと? トリステインとならば盟約を結んでも良い、とそういうことでしょうか?」

 

「うむ。そうなるな」

 

 その言葉に打ちひしがれたように再びうなだれるモンモランシ伯爵。

 別にこのオッサンのために頑張ってやる必要など無いんだよなぁ。モンモランシーも別に好きなキャラってわけじゃなかったし、というかギーシュとくっつくじゃん?

 それにトリステイン内で水の精霊との盟約を復活させられるのならば、それがどの貴族の手によるものだったとしても大騒ぎにはなるだろう。俺としては条件はクリアされるわけで。

 ……ただなぁ。

 …………ああ、そうだよ。名前だけとはいえ知っている人間が不幸になるってのはなんか嫌なんだよ。

 これがガリアの為とかなら割り切れるんだけどな。

 仕方ない、か。お人好しと言われるんだろうけどさ。

 

「精霊サマ。モンモランシ伯爵以外でしたら誰が交渉役でも構わないのですね?」

 

「ああ。構わぬ」

 

「でしたらモンモランシ家の御子息か御息女に新たな交渉役をお願いしましょう。伯爵、お子さんはおられますか?」

 

「は、ははっ。娘がおります。ですがまだ八歳になったばかりでして、魔法の腕もドットでありますれば」

 

「待て! その者の血族だと!?」

 

「まさか嫌だと? 親の罪は子の罪だとでも? 私は嫌いですよ、その考え方は」

 

「む、むぅ。仕方あるまい。クーに感謝せよ、単なる者よ」

 

「さて、精霊サマのお許しも出たことですし話を戻しますが、八歳ですか。まぁ年は若い方がむしろ話題になるでしょう。魔法の腕も関係ないかと。将来性を期待されることは御息女にとってもモンモランシ家にとっても良いことかと思いますが?」

 

「ははっ。異論などあるはずもございません」

 

 ふぅ。これで水の精霊サマに関することは落着かな。

 情報が漏れる可能性はかなり減らせたはずだ。

 ロマリア辺りに知られていたらどうなっていたか分からんものね。『光の御子』の名もまだまだ消えてはくれないし。

 モンモランシ家の復興のメドも立ったし。これでモンモランシ家はトリステインでの地位を向上させるはず。となれば俺の作った貸しの意味合いも大きくなる。出来ればモンモランシ家が侯爵でも綬爵してからこの貸しは回収したいけど、……さすがにそこまでは望みすぎか。

 さて、後はヴァリエール公爵か。モンモランシ伯爵との交渉中にドンドン目が怖くなって行ってたんだけど、やっぱ警戒されたかね?

 なんて考えているとモンモランシ伯爵がテーブルに頭を打ち付ける勢いで頭を下げた。

 

「クー殿下。このたびは、まことにありがとうございます。我がモンモランシ領は救われました。殿下にはなんとお礼をしていいか」

 

「ふむ。でしたら私の行っている園遊会の準備への助力をお願いしたい。オルレアンと隣接するモンモランシ領の助力があればありがたいのです。トリステインから輸入する資材などもあるでしょう。それらがモンモランシ領を通過する際の税を優遇していただけるだけでも我々には大きな利益となります。税が少なくなれば商人らは通過する経路にモンモランシ領を選ぶようになるでしょうし、そうなればそちらの税収も潤うでしょう。園遊会前にラグドリアン湖周辺の亜人・盗賊に関して一掃する予定ですので、その際にも協力していただければと思います。無論、許可さえいただければ我が東薔薇騎士団がモンモランシ領の亜人・盗賊も討伐しましょう」

 

 え? 相手に有利な話ばかりじゃないかって?

 向こうもそう思ってるだろうぜ。

 いいんだよ。こっちが損するわけじゃない。

 税は掛けられるのが当たり前だから減らしてくれればこっちが得になるし、商人がトリステイン内のどの領を通過してやって来るかなんてガリアには関係ないしね。

 亜人や盗賊関連は元々予定に入っていたことだ。むしろラグドリアン湖の向こう岸をどうやって調査するか考えていたくらいなんだから。

 ガリアには損はない。そして確実にモンモランシ家に貸しを作れる。

 ならばモンモランシ家という将来貸しを返してもらうことが決定している家を富ませるのは悪手じゃないさ。

 豚はまるまると太らせてから食べましょうってね。ウケケ

 




公私を分けられるんだよアピールということでクーの口調を変えてますが、なんか誰だか分からないですね、コレ
だからと言ってトリステイン貴族相手にプライベート口調にしても不自然ですし

Wikiによるとモンモランシ家が精霊サマ怒らせた後、交渉役に他の貴族が付いているらしいんですが、どこで書かれてますかね?
原作でもモンモランシ家は交渉役奪われていたとは
まぁ本作では精霊サマはそっぽ向いたままだったということで

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