転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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24.公私混同

 

 ふぃー。フォーマルモードでしゃべると疲れますなぁ。

 今回は腹の探り合いは必要ない分楽な方なんでしょうが。

 ま、この会談は以前ジョゼフ兄やシャルル兄とした会談に比べればかなり気が楽なほうなんだけどね。

 あの時は俺の死亡フラグを折れるかどうかってのもあったし、かなり焦ってた。

 でも今回はそうじゃない。というかスタート時点でトリステイン側は俺に貸しがあったようなものなんだから、こっち主導で進められたしね。

 そりゃ水の精霊というイレギュラーはあったけど、それも上手く利用できたと思う。

 あのマリアンヌ大后の失態の後で、俺があくまで公人として動き、ガリアの国益を優先する姿を見せる。マザリーニ枢機卿辺りにはかなり強烈な印象を残せただろう。

 これによって期待できる効果はいくつもある、が……

 

「殿下。よろしいでしょうか?」

 

 と、俺の意識を声が引き上げた。声の主はヴァリエール公爵。

 ……いや、何を言おうとしているのかは分かるが、それを回避するために既に俺は布石を打ったぞ?

 第一に先述したように公人としての態度を示した。他国の王子が公に徹していると言うのに、娘の治療を頼むという私事を切りだすのは、プライドの高いトリステイン貴族にはつらいはず。

 さらに俺は国益を優先して見せた。しかしヴァリエール公爵がカトレア嬢の治療を頼むと言うのは、確実にガリア王族に貸しを作ることになる。私利を優先し、トリステインの国益を損なわせる可能性があるってことだ。王族とはいえ子供が国の事を考えているのに自分はッ、って感情に囚われるはず。

 俺がモンモランシ伯爵に見返りを要求したことも大きい。善意だけで他国の人間を助けるのではなく、貸しを作れば回収するぞと教えているのだから。

 序に言えばここにはマザリーニ枢機卿がいる。原作では散々鳥の骨と揶揄していた相手に、私利私欲のために他国の王族に貸しを作るという、売国とも取れる失態を見せるなど公爵家の当主ならしないだろうと踏んでいた。

 踏んでいた……んだけどなぁ。

 ヴァリエール公爵が理解できていないはずがない。ここで俺にカトレア嬢の治療を頼むというのは完全なる公私混同。自分の立場を悪くしてしまうと言うことを。

 それでもなお娘の治療を望みますか。

 モンモランシ家への見返りの内容を見て、俺なら無茶な要求をして来ないと踏んだのかな?

 だとしたら犠牲になるのは自分のプライドくらい。

 ……ま、プライドよりも娘を優先するってのは好感持てるけど、いささか甘いよね。

 そこまで考えて、なるべく表情を崩さずヴァリエール公爵に返答した。

 

「なんでしょうか?」

 

「不躾な質問をお許しいただきたい。殿下は水のメイジであらせられますか?」

 

「質問の意図が分かりかねますね」

 

「……殿下はその身の内に水の精霊を宿されたと。であるならば、既存のメイジでは治療不可能だった病の治療も可能なのでしょうか?」

 

 思いつめたような表情で語るヴァリエール公爵。同時にマザリーニ枢機卿は再び胃を押さえてしまった。

 おそらく予想していたのだろう。俺に娘の治療を頼むのではないかと。

 そして、それによって俺の護衛たちが殺気立つのも。

 

「良い。判断は俺が下す。警戒に従事しろ。『耳』を許すなよ」

 

 ともすればガリアの王族(オレ)を使おうとするかのような発言だ。花壇騎士が敵意を抱くのも仕方がない。

 しかし俺は諜報による会話の盗聴のみを警戒させ、

 

「察するに、ヴァリエール公爵にはどうしても治療したい方がおられるようで。このような場にも拘わらずそれを話題に出したということは、余程大切な方なのでしょうね」

 

「はっ。殿下のご慧眼には恐れ入ります。病にかかっているのは私の娘でありまして」

 

「ふむ。トリステインと水の精霊の盟約が復活した今でも治療は無理なのでしょうか? 精霊の涙を入手することも可能になるでしょう」

 

 トリステイン内でなんとか出来る可能性もあるのではないか、と匂わせる、が。

 

「精霊の涙に関しては既に試しております。これまでもカトレア、娘の治療法を国中を回って探しました。しかしどれも娘を癒すには至らず」

 

 むーん。どうしよ。

 いや、手を貸すのは別にいいんだよ? ヴァリエールへの貸しってのは下手したらトリステイン王家への貸しよりも有用だろうしね。

 ただね。

 ぶっちゃけ聞き方が悪いよ、公爵。

 水のメイジか? って聞かれたらこう答えるしかないじゃん。

 

「残念ながら私は水のメイジではありません。それどころか系統に目覚めてもいませんしね」

 

「そ、それは大変失礼を」

 

 いや、別に失礼だとも何とも思ってないけど。魔法が苦手なことを知られる=侮辱されるって式がトリステインじゃ出来てるんだものな。そりゃ不敬なこと言ったと焦るわね。

 というか落ち込んじゃったよ。

 あーやだやだ。魔法至上主義って。

 たとえ水の精霊に気に入られたとしても水のメイジじゃなけりゃ何も出来ないと思ってんだろうね。

 助けなくてもいい気がしてきた。

 ……って言ってもここまできたら助けないわけにはいかないんだよねぇ。

 ここで手を引いたら俺は魔法の才が無い事をバラしただけになってしまう。ガリアにとっても俺の価値が下がることはマイナスでしかない。

 だから俺は進むほかない。魔法など使えなくても俺に価値があると示すのは必須。

 …………やる気は削がれちゃったけどねぇ。

 

「そもそもヴァリエール公爵は何故私にお尋ねに?」

 

「はっ。いえ、水の精霊の加護により殿下は不治の病すら治せるかと」

 

「それは私の力ではないでしょう。私があらゆる病を寄せ付けなくなったのはあくまで水の精霊の力によるもの。治療を願うのなら相手は精霊なのでは?」

 

「は? いや、しかし」

 

 しどろもどろになるヴァリエール公爵。まぁ水の精霊に直接治療を頼むなんて常識的に考えてあり得ないことなのかもしれないが。

 

「どうなのでしょうか、精霊サマ? 不治の病に苦しむ女性を回復させることは出来ますか?」

 

「何故我がそんなことをしなければならないのだ?」

 

 精霊サマは不思議そうに尋ねてくる。不機嫌とかではなく、純粋に疑問に思ったのだろう。

 まぁ、何故かと問われれば、何故なんだろうね。

 治療してやったとしても精霊サマに見返りなど無い。金だの物だの貰ってもしょうがないんだろうし。

 ヴァリエール公爵は俺と精霊サマの問答を固唾をのんで聞いている。

 

「ふむ。何故。カトレア嬢が治療を望んでいるから、ですかね。現に私の胃の痛みは消してくれたではありませんか」

 

「それはクーだからだ。他の単なる者のことなど知らぬ」

 

 ……何故に俺だけ贔屓されてんだろうか。これは検証しとかないと更にヤバイことになりそうな気がする。

 それはともかくとして、どう籠絡するかね。

 つかモンモランシ家は価値観も違う精霊相手に代々どうやって交渉して来たんだか。

 

「カトレア嬢を治療することが出来れば我がガリアにとって有利になるのですが」

 

「ガリアというのはクーのいる単なる者らの集まりであろう? 有利にさせるだけならば我が力を貸すぞ?」

 

「いえ、それは止めてください。少なくとも数年の間は」

 

 むむーん。いっそ『コミュ力』全開で命令しちまおうか? たぶん成功すると思うんだけど。

 でもなぁ。なんかやっちゃいけない予感がするんだよなぁ。

 言動から伺える性格は単純そうなんだけど、だからこそ交渉が難しいというか……

 あれ? ならこっちも単純に行けばいいんじゃね?

 念のため『コミュ力』で言葉の重みを増やしてっと。

 

「精霊サマ?」

 

「なんだ?」

 

「カトレア嬢の治療をしてください。お願いします(プリーズ)

 

 イスカリオテの機関長も籠絡出来るこの一言で、どうよっ!?

 

「あいわかった。クーのため、その単なる者を治そう。ここへ連れてくるがよい」

 

「お、おぉぉ」

 

 ヴァリエール公爵が感激の声を上げていたが、俺の頭は別の言葉で埋め尽くされてたね。

 うん。『ちょれぇ』って言葉で。

 つかそれでいいのか精霊サマ。素直と言うかなんというか。

 

 ま、なにはともあれ、俺は多くのカードを手に入れるに至った。

 トリステイン王家への貸しはシャルル兄かジョゼフ兄が有効に使うだろうが。

 トリステインを実質的に取り仕切っているマザリーニ枢機卿へは、兄に「手加減してやってよ」の一言を伝えるだけで貸しが出来る。

 水の精霊との盟約を結ぶトリステインにとって重要なポジションにいるモンモランシ家には、家を救ったに等しい貸しを作れた。

 トリステインにおいてクルデンホルフ大公国を除けば最大の貴族であるヴァリエール家には、娘を救う手伝いをしたという貸しを与えた。

 ……これもうトリステイン詰んでね?

 後は、軍部の頂点であるグラモン家でも落とせば、完全にトリステイン掌握出来るものね。

 まぁトリステインが掌握できたとしても、するだろう命令は唯一つなんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すなわち、色呆け姫をこっち来させんな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 公私混同言うなし! 俺にとっては死活問題なんだからよぉぉぉぉ!!

 お前らだって見ただろうが。あのアホ王妃を。アレの娘だぞ? 絶対原作通りのアホ姫だぞ?

 折角のフラグを折れる機会を見過ごせるかい! 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)! 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)! 拘束制御術式解放したいくらいだっつーの!!

 

 




必死か!? そんなお話でした
ひとまずトリステイン実質トップ相手の会談は終了です
三人のオッサンは「(ウチの姫にもあれくらいの聡明さがあれば)」だとか「(いや、姫どころか大后にもないだろ?)」とか考えながら帰って行きましたとさ

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