Hi,Guys. クーだ。
現在オルレアンでの園遊会中です。
万事つつがなく進行し、一応は総責任者である俺の評価にも繋がっている。ジョゼフ兄にも褒められたしね。
今はシャルル兄の他国貴族に向けての挨拶が終わり、歓談の時間となってます。
とはいえ他国の貴族との接触をなるべく避けたい俺は、ガリア貴族らの集まっている一角にてボケッとしています。ここまで乗り込んでくる他所の貴族はいないでしょう。
さて、そんな俺の頭を埋め尽くしている案件は唯一つ。
どうやってアルビオンに介入するか。
既にこの件から手を引くことは諦めた。助けられる相手を助けないという選択は精神的につらいし、なによりモード大公投獄から発生する可能性に気付いてしまったのだから。
モード大公投獄。これは原作においては過去の事件であり、フーケ=マチルダ、ティファニアらの生い立ちに関わる歴史の一つでしかなかったが、俺はこれを一つのトリガーだと考える。
もともとモード大公は現アルビオン国王ジェームズ一世の弟に当たる。つまりは
つまり過去にアルビオンでも王位争いがあったことは想像に難くない。
もっとも先日ジェームズ陛下とモード大公が話す様子を見たが、兄弟仲は悪いようには見えなかった。が、ガリアでもそうだったように、王位争いの影の主役は貴族たちである。過去には派閥で別れて政争があったのだろう。
そして、おそらくは現在でもモード大公派は存在している。原作ガリアで、ジョゼフによるシャルル派大粛清後も、タバサ=シャルロットに期待を寄せるオルレアン公派が根強く残っていたように。むしろ粛清など無かったアルビオンでは、原作ガリア以上に、王弟派が多いのかもしれない。
もしこの状況でジェームズ一世がモード大公を投獄したらどうなるか。
それも、エルフを妾に取っていたなどという醜聞を隠すため、モード大公派の貴族になんら説明することなくモード大公を投獄したらどうなるのか。
モード大公投獄の理由を捏造した所で、王弟を投獄するほどの理由としてモード大公派の貴族を納得させるだけの説得力のあるものを作れるとは思えず、逆に王は何かを隠しているのではと疑念を持たれることだろう。そうなったら一体どうなるのか。
国王への不信感で済めば奇跡的なほどだろう。
そして俺は、奇跡など期待しない。常に最悪を想定し、それを回避しようとして来たのだから。
最悪。それは何か。
原作を知る者ならばこう言うだろう。レコンキスタの再現こそが、アルビオンにとっての最悪だ、と。
はっきり言わせて貰おうか。
その程度で済むのならば、諸手を上げて歓迎したいくらいだ。
原作におけるレコンキスタ。すなわち貴族派による王党派の打倒は、ハルケギニア史にとってみれば、一連のアルビオン戦役の序章に過ぎなかった。
モード大公の投獄という大公派貴族への不信感を火種にし貴族派の原型が出来上がった。オリヴァー・クロムウェルがアンドバリの指輪を用いて、自身が虚無の再来だと喧伝することで貴族派のトップに立った。指輪の力で王党派を操り、貴族派を多数派に変えた。全てジョゼフの指揮の下、ミョズニトニルンが暗躍して創り上げた状況だったが、その結果は、数百程度の王党派を数万の貴族派が討つというものだった。
そう。ガリアの暗躍によって、数万の王党派と数万の貴族派による血で血を洗うアルビオンの内戦は回避されたのだ。被害は精々数千人程度。数百の王党派を数万の貴族派が撃つという状況だったからこそ、その程度で済ませることが出来たのだ。
もしモード大公投獄への不信感を募らせた貴族が反意を抱いたら。ミョズニトニルンの暗躍なしに貴族派が立ちあがったとしたら。
なるほど、アルビオン王家の血は保たれるかもしれない。
しかしその対価として差し出されるのは、数万に及ぶ人の被害なのだろう。
俺は、その『最悪』を許容できそうにない。
正史においては死ななくても良かった人にまで死ぬ危険が生まれるのは、俺がジョゼフ兄を変えたからかもしれないんだから。
「叔父様?」
「ん? ああ、イザベラか。シャルロットは一緒じゃないのかい?」
「はい。エレーヌはシャルル叔父様と一緒にトリステイン王家の方々とお話しているみたいです」
とはいえそのことに後悔があると言うわけではない。
俺はガリアの人間だ。ガリアの百人を救うためなら、アルビオンの千人を殺すことだってできるだろう。アルビオンで多くの死者が出ると理解していたとしても、ガリアの未来を暗いままでいさせる選択肢は無かった。
それに、今、イザベラやシャルロットが笑ってられるのだから、後悔などしようはずもないんだ。
「そうか。シャルロットが一緒じゃないと、寂しいんじゃないのかい?」
「そ、そんなことありません。私はエレーヌが心配なだけで」
「ハハッ。そうかい? イザベラが寂しがっているようなら一緒にラグドリアン湖を眺めに行こうかと誘うつもりだったんだけどね」
原作と性格が変わっているのはジョゼフ兄だけじゃない。イザベラもまるで別人のように変わっていた。
原作でのイザベラには味方がいなかった。父であるジョゼフは、自身とシャルルの魔法の才能の差を、イザベラとシャルロットとの魔法の才能の差から思い出してしまうがゆえに、イザベラを疎ましく思っていたし、周囲の貴族の大多数は、ジョゼフが王位についても尚、心情的にはシャルル派のままだった。
従姉妹であるシャルロットは父を恨み、周囲の貴族は何時ジョゼフを、そしてイザベラ自身を裏切るか分からず、父であるジョゼフすら味方にはなってくれない。その結果、原作でのイザベラはあのような性格にならざるを得なかったのだ。
しかしジョゼフが変わり、シャルルが王位に就いたこの世界には、イザベラに敵など存在しない。
素直なまま笑うイザベラを見て、アルビオンのために原作通りの歴史の方が良かったなどと言えるはずがないだろう?
「もう。しばらく会わないうちに意地悪になりましたね、叔父様」
「そうかな? イザベラは綺麗になったね。立派な淑女になってるようで安心したよ」
「も、もう! 叔父様ったら意地悪です!」
後ろを振り返る暇などない。
前を向いて、救える者に手を伸ばそう。
俺の『お人好し』が神様から押し付けられたものかどうかなんて分からないけれど。
それなら別に、それでもいいさ。
ハッピーエンドを望むのは人として当然だろうしね。
さて、とりあえずはサウスゴータと面識でも作っておくとしますかね。
もちろん、
クーの決意表明 そんな29話 シリアス風味
久しぶりのイザベラさまですが、え? 誰? って感じになってしまいましたね
まぁイジワル姫のツンデレっぷりを期待していた方には申し訳ないですが、本作のイザベラさまはイジワル姫になる必要のないほど満たされているということで
さて、いよいよアルビオン行きを明言化しましたが、ガリアの人間としての自覚が強くなってきたクーに、ガリアに非難が行きかねないアルビオンへの干渉を決意させるため、色々考えさせることになりました
アルビオン編はこれまで以上にご都合主義に頼る形になるでしょうが、どうか生温かい目でお見守り下さい