転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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31.ワルダクミ

 

 ぼんじゅーる。クーです。そろそろ十一歳になりますね。

 現在リュティスに来ています。というか呼び出されました。ジョゼフ兄に。

 

「アルビオンに行きたいそうだな」

 

「ええ、まぁ」

 

 いや、報告はしてたんですわ。公爵位を受け取ったからと言っても一応王弟ですしね。他国に旅行に行くのも上には伝えとかないとってね。

 ……コンビニ行ってくる! みたいなノリの手紙で報告したせいで怒られてるんですかね?

 

「旅行が目的だそうだが?」

 

「まぁ、ね。王室から外れて少し自由度も上がったし。空に浮かぶアルビオンってのも見てもみたかったし」

 

「わざわざ事前にアルビオンに密偵まで派遣してただの『旅行』、か?」

 

 うぼぁー。何故か把握されてるし。

 つかニヤニヤしてるのが気になるなぁ。全て見透かされてそうで。

 でもさすがにエルフ云々のことまで掴んでいるとは思えないんだけど。

 

「念のための用心だよ。トリステインに行った時は酷い目に会ったしね」

 

 半分くらいアンタのせいでな! 目線に込めるも堪えた様子は無い。

 チッ。それどころか楽しそうにしやがって。

 

「酷い目、なぁ。なかなか良好な関係が出来たと聞いているが?」

 

「……てかさぁ。ジョゼフ兄としてはアリなの? 俺がトリステインと繋がりを持つの?」

 

「お前は平穏を望むのだろう? トリステインと組んでガリアを狙うのを警戒しろとでも?」

 

「そうじゃなくてさ。俺は公爵になったとはいえ王家の血を引いているわけだし。利用価値はまだあると思うんだけど」

 

 始祖の血を欲しているゲルマニア辺りならば喉から手が出るほど欲しい人間のはず。アルブレヒト三世の娘あたりの婿に出せば、ガリアはゲルマニアとのつながりを深め、更に発展するだろう。

 外に出さなくてもガリア内の有能な部下に公爵位を与えるためにも使える。王室との繋がりが出来るなんて貴族にしてみれば最高の恩賞だ。有能な人間に名誉を与えるためにも利用できるはず。

 

「そんな利用価値のある俺を、トリステインとの繋がりのためだけに使うのはもったいないと思うんだけど」

 

「公爵家ならば側室を抱えても何も言われないと思うが?」

 

「勘弁してくれ」

 

 トリステインとの繋がりだけで俺を使いきるのではなく、ゲルマニアやガリア内でも相手を作れと?

 

「くっくっく。まぁ冗談だ」

 

「九割くらいは本気だったろ?」

 

「ほう、分かるか? くくっ、まぁ許せ」

 

 はぁ。ホント、勘弁してくれよ。

 

「まぁなんだ。お前には王家の人間としての意識が強すぎる気がするな。俺もシャルルも、お前を婚姻外交の道具などにするつもりは無いんだが」

 

「……はぁ?」

 

「そもそも俺は自分の相手は自分で決めた。シャルルはどうかは知らんが、少なくとも奥方を愛していないようにも思えん」

 

「そりゃ王位を継承するのがどっちか決定する前のことだからでしょ。次王の可能性のある人間を外に放り出せはしないって」

 

「まぁそれもあるのだろうが、な。しかし兄二人が好きに相手を決めたことは確かだ。お前だけに望まぬ相手を押し付けるつもりはない」

 

 なんともまぁ丸くなっちゃって。原作を知る人間が聞いたら信じられないんじゃないかな。

 

「それに婚姻による同盟(そんなもの)が必要なほどガリアは弱くは無い。婚姻による連携(そんなもの)などなくともガリアを豊かにすることは出来る」

 

「……大した自信だね」

 

「まあな。そしてこの自信はお前がくれた物だろう?」

 

「……そうなるのかねぇ」

 

「そのお前が気に入った相手がトリステインにいるというのなら、俺もシャルルも反対などしないさ。尤も、お前にとっては余計なお世話だったようだがな。くっくっく」

 

 くっくっく、で済ませて欲しくは無いんだけど。

 

「まあいい。話を戻そうか」

 

「なんの話だったっけねぇ」

 

「お前がアルビオンに行きたいと言っていた話だ」

 

 あー。そうだったそうだった。その話でリュティスまで呼ばれていたんだった。

 まぁ単純に反対されるだけ、というわけではないだろう。それならば俺の手紙に対して駄目だの一言を送り返せばいいだけの話だし。

 とはいえ賛成されるってわけでもなさそうなんだよねぇ。

 

「で、何が狙いだ?」

 

 来たぜぬるりと。

 さて、どうしたものか。

 嘘を『コミュ力』使って信じ込ませてもいいんだが……。

 うん。折角だし引き込もうか。原作でビダーシャルを手中に入れていたジョゼフという人間を。

 風の精霊ちゃんにお願いして周囲の気配を探り、音を部屋の外に伝搬させないようお願いする。疑似的なサイレントってわけだ。

 

「俺が精霊サマに気に入られたことは知ってるよね?」

 

「ああ。ラグドリアン湖の水の精霊だな」

 

「アレ以来ちょっとばかし感覚が鋭くなっていてね。特に……鼻が利くようになったのさ」

 

 とはいえ全てを明かすわけじゃない。

 目的はぼかし、真実の中に一滴の嘘を。

 身動きが取れるだけの余裕は常に確保しておきたいからね。ウケケ

 

「継承式典で会ったモード大公。あの人はやけに匂いが強かった」

 

「ほう? 血の匂いでも感じたか?」

 

「いや、それだったら首を突っ込むのを自重するさ。俺が感じたのは精霊の匂い。精霊を使役するモノの気配」

 

「……まさか?」

 

 ジョゼフ兄の言葉にニヤリと笑みを見せてやる。

 ジョゼフ兄もまた、俺を見てニヤリと笑う。

 この場にシャルル兄がいないのは僥倖だったね。シャルル兄には清廉な王を演じて貰って、俺たちは裏で悪だくみ。実に利にかなった役割分担だ。

 

「初めは有益な技術を秘密裏に集めているのかと思った。なにせ歴史の示す通りなのだとすれば――」

 

「奴らの能力は人の十倍、か。しかし初めは、ということは実態は違ったのだろう?」

 

「ああ。密偵が見つけられなかっただけ、という可能性もあるにはあるが、おそらく違う。モード大公の個人的な事情だろうね」

 

「なるほど。それでお前自身が行くというわけか」

 

「その通り。下手にこの情報を下の者にまで出して、その挙句どこぞの六千年モノの信者共(イヌ)にまで嗅ぎつけられたんじゃ分け前を取りそこなう」

 

 ロマリアがエルフを嗅ぎつけてしまえばモード大公は破滅だ。

 そうなれば貸しを作るどころじゃないだろう?

 折角の『お友達になれる相手』だ。大切にしないとね。

 俺の表情からジョゼフ兄はそんな思考を読み取ったはず。そう俺の『顔に書いてある』のだから。

 やっぱり便利……♡ ボクの『コミュ力』チート♡♡

 

「分かった。お前の道は俺が均しておこう。向こうで自由に動けるようにな」

 

「そいつはありがたい。正直あちらに『善意』で護衛でも付けられたら面倒だと思っていたんだよね」

 

「くくっ。そうだな。それとシャルルには」

 

「言わないさ。陛下にはガリアを照らす光でいて貰わないと」

 

 俺たちは影でいい。ガリアを支えることが出来るのなら。

 

 くくく、ウケケと嗤い合う。

 

 さて、悪だくみを進めましょう。ね、兄上?

 

 その裏で、俺だけの悪だくみもさせては貰うがね。ウケケケケ

 




アルビオン行きをなるべく自然に兄ズに納得させよう。そんな31話。シャルル君の出番はナシ

期せずしてジョゼフが味方になりました
陰謀面ではこれ以上心強い味方はいないでしょう
きっと素晴らしいバックアップが期待できるはず

次回はアルビオンに乗り込んだ辺りでしょうかね
さて、展開を考えなければ

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