「何故、アルビオンに、か」
マチルダさんに案内されたテラスで二つの月を見上げながら考える。
はて、何故俺はアルビオンに来ているのだろうか。
いや、頭がおかしくなったわけでも急にボケが来たわけでもないんだ。
ただなんとなく思っただけ。俺の本心はどこにあるのだろうか、と。
ガリアにとって有益な『モード大公への貸し』を作るため? アルビオンの内戦を食い止めるため? それともこの地にいるエルフの親子を救うため?
さて、俺の本心はどこにあるんだろうね。
「答えにくいことでしたか?」
「ふむ。まぁ、そうなるか」
未だあどけなさの残るマチルダさんを正面から見返しながら、いくつか騙すための嘘を考え、しかし結局それらの嘘を捨てる。
「ただ、
『対外的には』という言葉を『コミュ力』で強調する。マチルダさんの思考に一番強く残る様に。
マチルダさんはしばしの逡巡。うん、横顔がふつくしいねぇ。
……そういえばメガネかけてないんだよねぇ。
俺としては秘書モードのミス・ロングビルが結構好きだっただけに、少し残念だったりも。やっぱ女性は知性的な方がいいよね。パリッとしたスーツが似合うような人。
…………それにさ、いいよね、メガネ。たとえメガネ属性が無かったとしてもメガネっ子からメガネを奪うなんてことはあり得ないでしょ。○ョン氏は何もわかっちゃいない。お前はニーソ属性が無いからと言ってニーソを脱がせるのかと。ブレザーよりセーラーが好きだからと言ってブレザーを脱がせてジャージを着せるのかと。違うだろと。たとえお前にメガネ属性が無かったとしても、メガネにはただあるそれだけで並々ならぬ魅力が詰まっているというのに。全く、アイツは何にも分かっちゃいない! 俺の『転生』先があの世界だったなら出会い頭にハイスラでボコッてたってのに。忌々しい、ああ忌々しい、忌々しい。
……そういや分裂の続きどうなったんだろうなぁ。『前世』で死ぬ前に読んでおきたかったんだがなぁ。
なんて感じに悶々としていたところ、はたして俺の企みは成功したようで、マチルダさんは俺の望み通りの疑問を口にしてくれた。
「つまり名目的には、ということでしょうか? では、実際は?」
ふむ。『コミュ力』をある程度行使しているから分かるけど、なかなか警戒されてますな。
これは……エルフという大スキャンダルまで知っているのかもね。
十六、七の女の子に関わらせるなよとも思うけど。
「アルビオンをどうこうしようというのではないよ」
実際はどうこうしようとしているんだが、アルビオンにとってもプラスになるんだから別にいいよね。
それはそれとして風の精霊ちゃん。お仕事のお時間ですよーっと。
本来音を伝えるはずの空気の層に壁を作り、絶対的な盗聴防壁を発生させる疑似サイレント。さらには空気の流れを操って他人に俺たちの気配を感じ取れなくさせる。水場が近ければ水の精霊サマに頼んで近づこうとする者の心情に『近づくことに対しての忌避感情』を発生させて貰って疑似人払いなんてのも出来たんだろうけど、さすがにそこまではしない。
まぁ、これで俺とマチルダさんだけの密室が出来たわけだ。月が綺麗ですね、なんてセリフを言いたいくらいだね。
「詳細に関してはさすがに言えないが、私は注目されるためにアルビオンに来ている」
「注目ですか?」
「ああ。大国ガリアの公爵。それも先日即位したガリア国王シャルルの弟が僅かな護衛を連れてアルビオン入り。ゲルマニアなんかは私の動向に注目するだろう」
「……オルレアン公が視線を集めている間に別の人間が、ということでしょうか?」
Exactly(その通りでございます)
さすがに優秀だね。
「ロサイスから馬車でサウスゴーダまで来た私とは別に、ガリアからの使節団がロンディニウムにも向かってるんだよ。私は多くの人に見られなければいけなかったがために竜籠を使うわけにはいかず、使節団は見られることを防ぐために歓迎されるわけにはいかないがね」
「そこまでしてガリアは何を?」
「そこまでは言えないよ。裏があることを話したことだってかなりギリギリなんだから」
「……そうですね。私が聞いていいことでもありませんし」
とアッサリ引き下がったマチルダさんはどこかホッとした様子。
やはりエルフ親子に関してサウスゴータ家は既に御存知のようだね。
ま、原作でも愛妾を匿ったほどの直臣だし、十分あり得る展開だと予想していたけど、希望を言わせてもらえば、徹底しとこうぜモード大公。こう言う所の緩みから情報ってのは流れ出すんだから。
さてと、マチルダさんへの返答はそれなりに上手くいったかね?
国から任務を与えられるだけの地位をアピールし、なおかつ重要な情報は易々と外に漏らさない。将来的にエルフを匿える力と情報の扱いかたを知っていることを示せたんじゃないだろうか。
とはいえマチルダさんの中での俺は、まだ『頼れる相手』にまではなっていないだろう。
なにより俺のエルフに対しての感情を示していない。クー・セタンタならばエルフを差別せず匿ってくれるとマチルダさんが認識してくれないと保険の意味がないんだが。
仕方がない。もう一歩だけ踏み込み……
あれ? ちょっと思い付いたんだけど。
これってもしかして。
……いけるか? いや、いけそうだね。
でも俺としては……アリだな。むしろ大歓迎?
うん。何を悩んでいるのか分からないだろうけど、もう少し待ってくれ。
ならば外向けには……平気だろ。
ジョゼフ兄の意向は確認済みだし、シャルル兄もおそらく平気なはず。
ならこっちはオーケー。そっちは……どうだ?
うん。あれがあーなってこうなって。
つまりは……
おk。覚悟を決めろ。男は度胸、何でも試してみるもんさ。
「なぁミス・マチルダ。結婚してくれないか?」
……
………………
……………………………
「はあああああああああああああああ!?」
はあああああああああああ!? そんな34話 暴走気味
あまりにも先の話が作れない作者の脳裏に閃いた言葉
「パンが作れないならお菓子を作ればいいじゃない」
……にゃるほど!!
ということで思い切って方針変換
この方針変えが作者をさらに困らせることになろうとは、今はまだ誰も知らにゃい……