人間の持つ根源的な強さとは、其の者の窮地において初めて計れるモノである
――クー・セタンタ・ド・オルレアン
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ハッ! 思わずなんか名言っぽいこと言ってしまった!
あ、どもども。クーです。現在リュティスに来とります。
アルビオンで起きた事のあらましの説明、つまりはウェールズとの繋がりが出来たことやらモード大公の弱みを握ったことやら色々とミスったことやらの報告のために。
ま、この場には第三者がいたもんだからエルフ関連の話までは言及できなかったんだが、メインはマチルダさんの紹介だったわけだしね。
そっちの話にしても、他国の貴族を公爵家であり王弟である俺が見初めたともなれば、まぁ表向き『嫁探し』のためにアルビオンに旅行に行ったことにはなっていたけれども、なんらかのお叱りはあるかなぁなんて懸念したわけだが。
……現状のそれはそれどころじゃない窮地ってやつですわ。ええ、イレギュラーに襲われとりまさぁ。
はぁ。心休まる時間はいずこに?
いや、今回俺はなんもしとらんのよ? アルビオンで嫌ってほど学んだしね。
俺は万能なんかじゃないってことはさ。
二人の兄を和解させて、ガリア貴族の不満を消すため国中を走り回って、トリステインの貴族とも対等に渡り合って、それで『俺って実はすごいんじゃね?』なんて伸びかけてた鼻がポッキリとやられたからね。あの空飛ぶ大陸じゃ。
俺は確かにチート性能を神さんから貰った。だが、それだけ。俺が神になったわけじゃない。物事を思い通りに動かせるというわけでもない。
そのことを散々叩きこまれたアルビオンから帰ってすぐ、俺自身が何かをやらかすなんてありえないさ。
つまり現状は俺の起こした事じゃない。こいつは目の前の髭の起こしたイベント。
というか既にイベント自体は終わっていて、今はその概要を説明されとるというわけです。
俺としちゃマチルダさんとティファニアを紹介して、それで兄二人に祝われたりからかわれたりして一件落着としたかったってのに。
「すまんな、セタンタ」
もう使われることなど少なくなった幼名で俺を呼んだのは上の髭。失礼、上の兄上、ジョゼフ宰相閣下。
いつもニヤニヤ笑ってる印象の兄が、心なしか憔悴している気さえする。
「お前がアルビオンから女を攫ってくると知っていればこの話は後日にしたのだが」
「攫って来たとか言うな。合意の上だから。相・思・相・愛!」
「くっくっく。あのセタンタが一人の女になぁ。てっきりそちら方面にはまるで興味の無い変人なのかと思っていたが」
変人言うな。まぁパーティーなんかでも女性と踊るよりも食事の並ぶテーブルに興味が行ってる様な人間だったが。
ちなみに俺と共に来たマチルダさんとティファニアはウチの母親に連れられ、部屋から出て行って今はもういない。
おそらく今頃俺の優秀さを母上からこんこんと語られていることだろう。これで好感度もうなぎ上りのはず。頼むぜマミー。
……あの母なら俺の話題よりも自分とダディの慣れ染めなんかをキャイキャイはしゃぎながらしゃべくってる気もするが。
「まぁ俺の事は今はいいさ。で? 説明はしてくれるんだよね?」
視線はこの場に居る俺たち二人以外の人間へ。
一目見て大方の事は理解したけどさ。それでも色々と疑念はあるわけで。
だってさ。『彼女』が現在ここにいるってのは全くの予想外だったんだから。
いや、確かに『彼女』のことは原作知識で知っていたし、いずれは手を打たないとなぁなんて考えてたりもしたけどさ。
あー、アルビオンからこっち、イレギュラーに振り回されてる気がするなぁ。
歴史が変わりまくってるハルケギニアで、最早俺の予測は当てにできないってことかね。
元々原作知識という強力なアドバンテージがあったからこそ、先の事を予見できたわけだしな。
「ふむ。事のきっかけはお前のもたらした情報だな」
「はい? 俺なんか言ってたっけ?」
『この件』に関してはノータッチだったと思うんだけど。
「あぁ、そう言う意味ではなく。アルビオンに関する情報だ」
あー、モード大公家の。
でもそっから『彼女』に繋がるか?
「大公家の、王家に連なるモノの醜聞は国を容易く揺るがすほどの力がある。それはお前も理解しているだろうが。俺としてもアルビオンのそれも大事だと理解しているが、しかしそれ以上にガリアが気になってな」
「ガリア王家に醜聞がないか調べてみたってことか」
「ああ。まぁ、念のため、という奴ではあったが。だがその念のためが幸いした」
「隠し子を発見したってわけ?」
「いや……」
そう言ったジョゼフ兄は一旦言葉を切って目を細めると、
「ガリア王家の風習、特に双子にまつわるモノをお前はどの程度知っている?」
「……聞いたことがあるかもって程度かな」
確か双子=不吉で、どっちか片方を生まれなかったことにするとかいう奴だったか? 由来は数千年前、兄弟で仲たがいした王族が血で血を洗う戦いをしたからとか。
それを回避するために双子は生まれた瞬間『いなかったことにしちまえ』ってのは暴論すぎるとは思うけどね。
「ふむ。まぁ法で定められているというわけでもない単なる『風習』だしな。知らなくても仕方ない、か。簡単に言うとだな、ガリア王家においては双子というものが文字通り認められないのだ」
「……それって聞かせちゃっていいわけ?」
視線は『彼女』の方へと。
言ってみればその『風習』が自分が捨てられた理由なわけだから、あの子にとってみれば聞いていて楽しいものではないだろうに。
「ああ。彼女には既に説明してある。酷かも知れんとは思ったが、本人が知りたがっていたというのもあったしな」
「ふぅん」
「シャルルの子は本来シャルロット一人ではなく、シャルロットと彼女の双子だったというわけだ。ガリアにおいては『いなかったこととされる』双子ではあるが、親子の情がそうさせたのか。ともかく彼女は生かされ、しかし人目をはばかるために修道院へと送られた。セント・マルガリタ修道院。陸の孤島と呼ばれる場所だ」
「よくもまあ今までバレなかったもんだ。髪の色で一目瞭然だってのに」
「フェイスチェンジ。お前が使わせている魔法と同じ物だろう。ワケアリの貴族の子女らが入れられている修道院らしく、見た目から出自がばれないよう、対策が施されていた」
あー。そういやそんなんだったっけね。原作のことも十年以上前に読んだっきりだし既にうろ覚えだけど、確かにフェイスチェンジを有効活用しているシーンはあの修道院くらいだったかも。
「それで、あの子の存在を知った伯父さまが颯爽と救い出したってわけか」
「なに。偉大な弟の真似をしてみたにすぎないとも」
ウケケ。何言ってやがるんだか、この髭は。
さて、問題は山ほどあるし、聞きたいこともまだまだあるが、一応そろそろ自己紹介をしておこうかね。
『彼女』の名前もうろ覚えなことだし。
「少々遅れたが、名乗っておこう。俺はクー・セタンタ・ド・オルレアン。よろしく頼む」
俺の言葉に俺達兄弟の様子をじっと見つめていた少女は背筋をぴんと伸ばし、
「は、はいぃ! よろしくお願いします! あ、えっと、私はジョゼットです」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
と、ここまでで済んでたら、俺も現状を『窮地』だなんて呼んだりしなかったんだけどね。
ジョゼットが頭を上げるとほぼ同時に、ジョゼットの隣、ジョゼフ兄の横にたたずんでいた『彼女』もゆっくりと礼をした。
「お初にお目にかかります、クー様。わたくし、主、ジョゼフ様の使い魔として召喚されました者にございます。シェフィールドと、そうお呼びください」
あぁ。そうだった。シェフィールドだ。
ったく。何時の間に使い魔召喚なんてしやがったんだ、この髭は。
しかも額にはバッチリとルーンが刻まれているし。ミョズニトニルンに間違いないわなぁ。
はぁ。ジョゼフ兄が『虚無』だったなんて情報が広まれば、下手したら王位争いの再燃だぞ?
平穏がまた一歩遠のきやがる。
ホントもう、勘弁してくれよ
既にジョゼットなら救っておいたんだゼ そんな兄貴の暴走回
まー、悩みました。色々とw
いつものようにクーに兄ズを言いくるめさせるって展開でも良かったんですがね
もっとも一番の悩みどころはミョズ姉さんを登場させるかどうかだったんですが
折角ガリア安泰な二次創作ですし、いっそ彼女もどうにかしてしまおうかと
クーにとっては厄介事が増えたようなものなんでしょうがw