転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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50.ガリアの虚無

 

「は? え? 使い魔?」

 

 まずはジョゼットちゃんよりシェフィールドさんの問題から片付けますかね。

 問題は山積みだけど、げんなりしたから放置ってわけにもいかんしね。

 というわけで、俺はシェフィールドさんの自己紹介に聞き返す。

 まぁ原作知識があるから聞き返すまでもないんだが、一応、ね。人間が使い魔ってのは相当イレギュラーなことだし、驚いている風は装わないと。

 さすがに『前世』のことまではジョゼフ兄にも知られたくはない。これだけは墓の下まで持って行くさ。

 

「はい。わたくしはジョゼフ様の使い魔にございます」

 

「……あー、ミス・シェフィールドはこう言ってるけど、ホントに?」

 

「ああ。本当だ。シェフィールドは俺が召喚した」

 

 俺の問いに肯定を返す出来立ての主従。

 むーん。まずは疑問のほうから晴らしていきますか。

 

「使い魔の召喚、ね。そういう儀式があるってのは魔法に興味のない俺でも知ってるけどさ。なんで召喚なんてしようと思ったわけ?」

 

 ぶっちゃけきっかけがわからない。

 今のジョゼフ兄を取り巻く環境は、魔法が使えないからと言って無能だとそしられていた頃とは違う。魔法なしでも国を支えることができると、この数年でしっかり実感できていただろうし、最近じゃガリアの民からは国王シャルルを支える有能な宰相として、『王佐』のジョゼフ、なんてどこぞの文若様や公瑾様のような二つ名までついてる始末。使い魔を従えるというメイジらしさを今更求めるとは思ってなかったんだが。

 いや、やっぱり魔法が使えないことへのコンプレックスは消え去っていないってことかね? 俺なんかとは無能扱いされてきた年季が違うわけだしさ。

 そうなるとまた違った懸念が生まれちまうわけだけど。原作で『記憶を消されたルイズ』が『虚無の聖女』としてロマリアに持ち上げられて舞いあがったみたいに、暴走してしまうんじゃないかって。怖いものな。

 

「きっかけは先ほども言ったようにジョゼットだ」

 

 ふむ。とうなずいて先を促す。

 視界の端で小動物チックにジョゼットちゃんがオロオロしているのが、ちょいと気にはなったけどね。

 

「ジョゼットがセント・マルガリタ修道院にいるということまで掴んで、それでも放置するという選択肢はなかった。わかるな?」

 

「わかるよ。シャルロットというガリア王位継承権第一位保持者とそっくりな双子。よその人間に見つかれば利用されることは目に見えている。シャルル兄を通してガリアと取引をしようとされるか、それとも人質としてガリア王家への脅迫材料にでもされるか、はたまたシャルロットと入れ替わりをさせてガリアの王位を取らせ、傀儡のように操るか。まぁ碌なことにはならないだろうね」

 

 実際原作のロマリアはジョゼットを利用していたわけだし。

 

「可及的速やかにジョゼットを保護する必要があった。しかし事が事だけに部下は使いにくい」

 

「まぁねぇ。よそに気づかれればそれだけで不味いことになりかねない以上、大々的に動くわけにはいかないし」

 

「任務にあたらせる人材についても問題だ。ガリアに忠誠を誓っている貴族を使ったとしても、王家の慣習をシャルルが破っていたことが知られてしまう。だからと言って忠誠心のない人間を使うわけにもいかない」

 

「見事なまでに八方ふさがりだね」

 

 俺ならどうしたかな。

 やっぱり自分で動くのが一番だろうけど、俺が動くってのはそれだけで目を集めることになる。

 ワケアリの子女ばかりを集める修道院というのなら、そういう方面では有名なんだろう。となれば俺が其処に赴いたという事実だけを材料に、王家ゆかりの人間がセント・マルガリタ修道院に預けられているのではないかという推量をされてもおかしくはない。

 水の精霊サマに頼んで嗅ぎまわる輩用にアポトキシン4869でも開発して貰っちまうか。

 

「そこで使い魔だ」

 

「……段階を二三吹っ飛ばしてる気がするのは俺だけか?」

 

「くっくっく。まぁそうなのかもな。ふと思い浮かんだのだが、今思い返せばどうしてそのような思考に至ったのか、俺自身不思議だよ」

 

 どういうわけか思い浮かんだってか。

 まさか世界の修正力だとかそんな感じの不思議パワーは働いてないだろうな?

 

「使い魔とは主と一心同体だと聞いていたからな。裏切る心配はなく、また王家に対しての不満も持たないだろうと踏んだのだ。俺自身に対しては何か思うかもしれんがな」

 

 と、そこで今まで沈黙を守っていたシェフィールドさんが横から、

 

「私はあくまでジョゼフ様の忠実なしもべにございます。思うところなど、あるとするならば、それは全てジョゼフ様への敬愛の思いのみでしょう」

 

「くっく。くすぐったい言葉だ、シェフィールドよ」

 

 ……oi misu ミス おい紀伊店のか?

 いちゃついてんじゃねぇぞコノヤロー。

 パルパルパルパル!

 

「まぁ使い魔に思い至ったとは言っても、俺のことだ。十中八九失敗すると踏んでいたのだ。仮に召喚に成功したとしても、竜やグリフォンのような直接ジョゼットを連れ戻せるような立派な生物など召喚できないだろうと思っていたのだがな」

 

 蓋を開けてみれば人間が出てきちゃった、と。

 まぁ状況を考えれば使い魔の契約で縛った人間ってのはジョゼット救出に最適な人材だったんだろうけど。召喚に応じて現れたのが人間だった時のジョゼフ兄はいったいどんな顔してたんだろうね。この人の驚いてる表情ってのはかなりレアだから、見たかったような気もするわ。

 

 ま、それはそれとしてシェフィールドさんを召喚した理由は大体つかめた。

 じゃ、次の質問に移りますかね。

 

「そういや使い魔ってったら普通は動物だよね。魔法に関しては興味ナシだったから不勉強なんだけどさ、人間の使い魔ってありえるの? まぁミス・シェフィールドの額にルーンっぽいのはあるけどさ」

 

 俺が今の質問で探りたかったのは、ジョゼフ兄が何処まで掴んでいるか、だ。

 人間を使い魔として召喚するイレギュラー。それに対してこの異常に頭のいい兄が何の疑念も感じないはずがない。

 サイトでさえ剣を手にすることで己の特異性を早い段階から気づいていたんだ。

 シェフィールドさんがマジックアイテムを自在に操れることまで、すでにジョゼフ兄が検証し終わっていてもおかしくはない。

 まぁさすがに虚無云々までは気づいていないだろうとは思うが――

 

「ミョズニトニルンという名を聞いたことがあるか?」

 

 うぼぁー。

 え? マジで? そこまで調べがついてるわけ?

 どんだけ有能やねん。むしろ俺と同じ原作知識持ちなんじゃないかと疑えてくるわ。

 

「無いね。使い魔が人であることを指す言葉とか?」

 

「六千年前、ハルケギニアに降り立った始祖は四体の使い魔を連れていたとされている。神の左手ガンダールヴ。神の右手ヴィンダールヴ。神の頭脳ミョズニトニルン。そして名すら残されていない四体目。シェフィールドの額に現れたルーンはミョズニトニルンのものだった」

 

「はー。ジョゼフ兄が始祖のことに詳しかったとは知らなかったねぇ」

 

「くっくっく。俺もシェフィールドのことが無ければ知ることはなかっただろうがな。まぁ今必要な話はそんなことについてではないだろう?」

 

 そうだよなぁ。

 ジョゼフ兄はシェフィールドさんがミョズニトニルンだと確信している。おそらく実際にマジックアイテムに触れさせるなりして確かめてもいるだろう。

 となれば、ジョゼフ兄が虚無の担い手だということもまた、確信に近いものを持っていると考えるべきだろうね。

 

「ズバリ訊くけどさ。王位には?」

 

「安心しろ。今更シャルルの代わりになどとは考えんさ」

 

 そいつは重畳。というか即答されたってことはジョゼフ兄も俺と同じ可能性を懸念しているってことだよなぁ。

 

「くくっ。あいも変わらず理解の早いことだ。シェフィールドの額のルーンが始祖のそれと同じだと聞いて、まず出る質問が王位について、だからな」

 

「元『光の御子』としては、そういうのに敏感なんだよ」

 

「なるほど。お前はすでに教会の動きというものを経験しているのだったな」

 

 まったくの不本意ながら、だけどねぇ。

 なんせミョズニトニルンの存在はジョゼフ兄が虚無の担い手であることを示す強力な証拠なわけだし。

 虚無の担い手。ぶっちゃけ『光の御子』なんて目じゃないほど価値のある肩書だ。

 なんたって始祖の魔法を使う『始祖の再来』なわけだから。

 始祖の血を引く=王に相応しいという図式の成り立つハルケギニアじゃ、始祖の再来である虚無の担い手はそのまま王に最も相応しい人間ということになる。

 今更シャルル兄を排してジョゼフ兄を王に、なんて言い出す輩はないとは思うが、ロマリアあたりに出しゃばられたらどうなるかはわからない。

 俺の平穏のためにもヤバイ未来の可能性には対策を講じておかないとね。

 

「始祖の使い魔と同じルーンがジョゼフ兄の使い魔に刻まれた。つまりはジョゼフ兄には虚無の才能があったってことが予測されるわけだ」

 

「ああ。虚無の担い手。王位に就くのにこれほど強い肩書は無いだろう」

 

「ロマリアあたりが騒ぎそうだね。正当な王に王位を譲れって」

 

「もっともそこまでされれば逆に動きやすい。内乱を起こさせようとすることと同義なのだからな。始祖の血を引く王家を分裂させようとする狂った教会。そうとなれば討つことすら可能になるだろう」

 

「やだねぇ。坊主は嫌いだけど争乱はもっと嫌いだよ。平穏安穏こそ至高でしょ」

 

「ふむ。セタンタならばそう言うだろうとは思っていたがな。では俺たちの取る選択は」

 

「「この件は秘密に」」

 

 とはいえ『秘密』がどれくらい効果あるものか。

 シェフィールドさんの額のルーンはフェイスチェンジなりを使えば隠しきれるだろうし、虚無なんて伝説上の存在にすぐに思い当たるような奴はロマリアの狂信者くらいのものだろうけど。

 突然ジョゼフ兄の周りに身元不明の女性が現れたってのも噂を呼びそうだけど、そこらへんの情報工作はジョゼフ兄に任せましょ。

 

 

 

 

「あ、あの……今のお話。私、聞いちゃってよかったんでしょうか?」

 

 あ、小動物(ジョゼットちゃん)のことすっかり忘れてたわ。

 ……いや、大丈夫だろ!

 目の前のジョゼフ兄が非常に珍しいことに冷や汗かいてたりするけど、大丈夫なはず!!

 

「……ちなみに、理解できたかい?」

 

「あの……なんか大変っぽいなぁということくらいしか」

 

 セーフ? まぁ魔法の教育すら受けていなかったみたいだし、肝心なところは理解できていないだろうけど。

 きっちり口止めしとかないとな。

 というか、ジョゼフ兄はこの子のことどうするつもりなのかね?

 シャルル兄のもとに返すってのは、それはそれで問題が起きそうな気がするんだが。

 ……まさかティファニアに次いでジョゼットの世話まで押しつけられたりしないだろうな?

 まだまだ一件落着とはいかないってか。

 嗚呼。マチルダさんにハグしてもらいたいぜ。

 




上手くまとまっているのだろうか
どうにも勢いのままに書くことができず、無理やり詰め込んだような形になってしまってないかと不安だったり
長年連れ添ったPCが寿命を迎えてしまったことも関係しているのかも
新調したPCの使いにくいことといったら・・・

次回更新も遅れるかもです
ディスガイアもやりたいですしw

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