さてさて、それじゃどうしようか考え始めていこうかね。
今日の議題を端的に言うならば、『ギャンブル狂いのカイジ君たちをなんとか更生させよう』ってところか。最近平穏になってきたハルケギニアをざわ……ざわ……なんて擬音で埋め尽くされたくないしね。俺の鼻や顎が尖りだしたらどうしてくれるってんだ。
もっとも優秀な兄ズのことだ。今後の方針なんてもんはある程度決まってるとは思うけど。まずはそっちを語ってもらおうかね。
「現状については理解したよ。賭場という
革新的な政策を次々に打っている二人の兄が何も考えていないわけがない。つか俺程度の知恵を借りたがってるとも思えないんだよね。確かに俺は『前世』からある程度の知識を持ち込んではいるが、天然チートの二人はそのさらに上を飛んで行ってるわけだし。
「ああ。とりあえず兄さんと話し合ったんだが、長期的、短期的、二つの政策を始めてみようと思っている」
「ふむ。長期的なものとしては教育だな」
まぁ妥当なところだろう。俺はジョゼフ兄の言葉にうなずいて続きを待った。
「そもそもからして博打に興じる平民の増加を招いたのはそれが理由なのだしな。極端な言い方をしてしまえば、これまでの彼らにとって金というものは一日を食いつなぐ分の物でしかなかった。その余剰分で酒場に繰り出したり多少着飾ることはあってもだ」
「ゆえに平民たちは先のことを考えられなかった。というよりも考える必要が無かったというべきかもね。税を徴収官に収める分を他にすれば、蓄えるという習慣があまり無かったんだから。明日のこと、一月後のこと、一年後のことなど考える余裕などなかったんだ」
「だから考える力を与えるってことか。そのための教育、ね」
どんぶり勘定は平民の常だ。というか貴族の中にだって先々のことを考えられていない奴は少なくなかったりする。
「でも、容易なことじゃないよね? 教育ってのはすぐに効果が出るものじゃない。さらに今回教育を施そうってのは平民相手だ。働いて金を稼ぐための時間を先々のために教育に回せと言って従うかどうか」
そう考えると『前世』ってのは良く出来てた。義務教育を子供たちに課し、さらに子供を働かせれば雇用側を罰するなんて法律まであったほどだ。そこまでされりゃ親は子供を働かせるより、教育を受けさせる方を選ぶだろう。
とはいえここはハルケギニア。子供には働かせるな。勉強をさせろと言うわけにもいかないだろう。子供という労働力を失ったせいで税を納められなくなる者だって出てくるだろうし。平民が潤い始めたからと言っても、まだ一部の話なのだ。裕福な平民を対象に私塾のような形で学校を作れば見向きもされず、平民全体を法で縛れば未だ貧しい平民が苦しむだけ。
「長期的に、と言っただろう? 一朝一夕に平民全体を変えられるとは俺もシャルルも考えてはおらんさ。そこまで出来るのは偉大な始祖サマくらいのものだろうさ」
うへぇ。一見ブリミルサマの偉大さを讃えているようで、その実皮肉に塗れたセリフだ事。
「まぁなんだね。教育というものに対して簡単に思っているわけではないけれど、長い目で見て変えていこうと思っているのさ。もしかしたら僕が王位にいる間に成せることではないのかもしれないけどね」
そいつは、……なんとも気の長い話だね。
もっとも次代を担うシャルロットやイザベラのことを考えれば喜ぶべき話なのだろうけど。ウチの王様が広ーい視野をお持ちだったってことは。
まぁなんだ。反対するようなことでもない、か。
「なるほどね。ま、俺としては兄さんたちを信頼しているし、任せるさ。これまでみたいにリュティスから始めてガリア全体に浸透させることを目指すんでしょ?」
「ああ。教育に関してはシャルルが中心に組んでいく予定だ。平民たちが知恵をつけるというのはハルケギニアの在り方を変えかねないほどの大仕事だからな。国を挙げて取り組んでいかねばなるまい。なにせセタンタが言っていた、『領民を導く高等な教育を受けた平民』が生まれるのだからな」
は? そんなこと言ったっけ?
……あー。なんかずいぶん昔にそんなことを言ったような気も。よくもまぁあんな戯言を覚えているもんだ。
ま、いっか。なんか突っ込んで掘り返すのもアレな予感がするし、スルーするということで。俺の言葉がそこまで影響与えてるとか考えだすと、これから先不用意に口を開けなくなりそうだもんな。
「長期的な指針ってのは理解したよ。で、短期的にはどうするつもりなわけ?」
「簡単……というよりも単純と言うべきだろうけど、ストレートに出るつもりだよ」
「それはつまり?」
「賭場によって裕福な平民が搾り取られるというのだ。ならば賭場の方を潰してしまえばいいだろう?」
いや……まぁ理にはかなっているけど。
「それは無理でしょ。賭博が流行っているってことは、つまりは人気があるってこと。賭場を開く側が儲かるってことだ。今ある賭場を潰したところで、別の奴が新たな賭場を開くだけ。解決策にはなりえないと思うんだけど」
そのまんま『エスポワールを倒したくらいでいい気になるなよ。やがて第二第三の帝愛が……』な展開になると思うんだけど。
「分かっている。すべてを潰そうなどとは思っていないさ。ギャンブルというのも一種の必要悪だ。蔓延しすぎなければ、そして平民たちが節度を守れるというのなら、ハメを外せる場と言うのも必要だろう。だから賭場を潰すのは警告のようなものだな。やりすぎれば叩くぞ、と国側から言うのだ」
「そちらに関してはジョゼフ兄がやることになってる。叩き過ぎず、見逃し過ぎず。絶妙なバランス感覚が必要になるだろうからね」
ふーん。まぁジョゼフ兄なら出来るの……か? まぁなんとかなるんだろうけど。
……あれ? 長期短期ともに指針は決定してるじゃん。ならなんで俺が呼ばれたわけ?
「それでな、セタンタ」
あ、どうしよ。なんか嫌な予感がビンビンしだしたんだけど。
今日は『面倒事』の相談じゃなかったわけ? ホントは『厄介事』だったってわけ?
「政策の方は纏まりを見せたんだが、別方向からも一手打ちたいのだ」
「平民は贅沢の仕方が分からないと言ったね。ならば贅沢の仕方を教えようってわけさ。さてセタンタ。平民たちに贅沢をさせるには何をすればいいと思う?」
「あ、あー。やっぱ物を増やしたりするのが良いんじゃない? 絵画や宝石……とまではいかなくても、平民向けにも上等な衣類を増やさせたり、食を向上させたり」
「ああ。そしてもう一つ。今まで貴族にしか許されなかったものがある」
……どうしよ。ジョゼフ兄がすっごいいい顔してるんだけど。いかにも悪巧みしてますって表情をしてるんだけど。
「それはガリアにない物を手に入れることだ。アルビオンの茶葉。トリステインのワイン。ロマリアの絵画。ゲルマニアの織物。輸送費がかかるため、これまで市井の者では手にすることが出来なかった様々なものを商人に扱わせれば、ガリアを循環する金の流れは加速するだろう」
「だからね。外交においては僕たち以上に才のあるセタンタにお願いしたいんだ。各国との交易の開拓をね。幸いオルレアン領はトリステインとの国境にあるのだし」
「来年からトリステインに行って来い」
……
…………
………………………や
「やだ!!」
1ダースの話数を稼ぐどころか2話で打ち切りになったでござるの巻
すいません。内政編は着地点をある程度考えてはいたんですが、どうにも本作らしくない展開になってしまい
そんなわけで打ち切りです。次回はトリステイン行きを拒否するクーを説得する兄ズの図になるかと(交易開拓は彼らお得意の表向きの理由だったり
ボツになった内政案を少し
感想でもありましたがハルケギニア版ベガスを作るというのは作者も考えてました
もっとも今回の「平民相手」にした政策としては微妙なんですよね
ハルケギニアは最もメジャーな移動手段が馬です
となれば広大なガリアの一都市をガリアのベガスにしたところで人がやってくるのかと
しかも今回のターゲットはGWなんてありえない世界の平民
例えるなら東京にカジノが出来たからと言って関西の人がパチンコを我慢するのか?といったところでしょうか
ほかにはクー主導のスポーツ政策なんかも考えてたりしたんですが
それを始めると、クーがトリステインに行く時期を完全に逃すことになってしまって
内政編に取り掛かる時点では面白そうなんて思ってたアイデアも今思うと穴だらけで
そんなわけで方針を転換させることに。申し訳ありませぬ
そろそろ更新間隔を狭めたいなぁと思う今日この頃