転生?チート?勘弁してくれ……   作:2Pカラー

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58.幕間② モンモランシーの溜息

 トリステイン貴族たちが現在最も注目している少女、それがモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシである。

 弱冠八歳で水の精霊との盟約を結び直すという偉業を達成し、マリアンヌ太后から直々に名誉を称えられた。

 そしてその結果としてだろうか、モンモランシ家は宮廷に多大な影響力を持つマザリーニ枢機卿やトリステイン一の貴族と言って差し支えないヴァリエール家ともコネクションを得るに至っている。

 また、モンモランシーが水の精霊と盟約を結び直す時期と前後するようにヴァリエール家の次女、カトレアの病が治癒したことも大きかった。

 何せヴァリエール家当主はカトレアのため、これまで古今東西の水のメイジを集めさまざまな治療法を収集していたのだ。そのことは多くの貴族が知ることであり、なれば当然カトレアの病が完治したことも知られること。それがモンモランシーが水の精霊との盟約を結び直した時期と重なれば、関連性を疑われるのも当然だった。なにせ水の精霊の一部である精霊の涙はあらゆる薬の最高の素材でもあるのだから。

 しかもモンモランシー本人がカトレアと親交を深めているのだ。カトレアはよくモンモランシ領へと足を運んでいるし、社交界などで二人が同席すれば、毎回親密そうにあいさつを交わし姉妹のように仲睦まじく話している。もうこれはモンモランシーがカトレアの病の治癒に一役買ったと思われても仕方がないだろう。

 さらにダメ押しのような形でモンモランシーの交友関係に加えられるのがかつてのガリアの第三皇子、現在のオルレアン公であるクー・セタンタの存在である。

 モンモランシーには一体どれだけの価値があるのか。利に聡い貴族たちのこと、モンモランシ家の持つ政治力、モンモランシー個人の持つコネクションを考えればこぞって親交を持とうとするのも当然だった。

 結果モンモランシーはたびたび社交界に招かれ、数多くの貴族子弟と引き合されることになる。いささか食傷気味となるほどに。いかに女としてチヤホヤされることが嬉しいと言っても限度があるのだ。

 

(それに私はまだ十五歳だし。というか三十、四十のオジサン連れてきて婚約を仄めかされても……)

 

 自分が優良物件だということくらいモンモランシーも理解していた。モンモランシー自身、れっきとした伯爵令嬢なのである。貴族の婚姻の持つ意味など嫌というほど理解している。

 さらに言えば六年前に弟が生まれていることも大きかった。かつて干拓事業に失敗し、精霊にそっぽ向かれた時にはモンモランシ家はもはや凋落するしかないとさえ思えたが、盟約は結び直され、隣領であるオルレアン領の開発に引っ張られる形でモンモランシ領も非常に豊かになった。その心理的余裕もあったのだろう、両親の夫婦仲は現在も非常に良好で弟まで生まれたほどだ。

 貴族の常通り、モンモランシ家は男子である弟が継ぐだろう。なれば当然モンモランシーはどこかへ嫁ぐこととなり、結果六年前からモンモランシーを狙う男は倍増した。それまで婿入りは無理だとあきらめていた貴族の長男たちまで名乗りを上げたのだから。

 多くの貴族子弟に言い寄られているという点ではカトレアも同じなのだが、あちらはなんといってもヴァリエール公爵令嬢である。高嶺の花どころか雲上人といっていいほど。雲の上を目指すよりは高嶺の花を目指した方がまだ可能性はあると思ったのだろう。本来なら伯爵令嬢(高嶺の花)であるにも関わらず、一向にモンモランシー狙いの男はカトレア狙いに鞍替えしてくれない。

 

(来年には魔法学院に入学だけど、自由でいられる最後の時間になりそうね)

 

 学院を卒業すればおそらく自分は結婚することになる。それはモンモランシーも理解していた。

 そのことに不満があるわけではない。引く手あまたな今の状況なら名門貴族に嫁ぐことも可能だろうし、貴族の妻として家を守り、子をなすことこそ女の幸せだとも教育されている。

 

(でも、家柄だけじゃイヤよね)

 

 ぎらついた目で見てくるような男はイヤ。なんか怖いし。

 紳士的でない男もイヤ。ちゃんと気遣ってくれる人がいい。

 リード出来ない様な情けない男もイヤ。顔色を伺ってくるような男なんて論外。

 気の多い男もイヤ。浮気なんて絶対許さない。

 子供に優しくない男もイヤ。世の中にはそういう人もいるらしいけど自分の夫になる人にはちゃんと子供をかわいがってあげてほしい。

 太っている男もイヤ。顔の造形とかならともかく努力でなんとか出来るのにそれをしない人はちょっと。

 年を食いすぎてる男もイヤ。後妻なんて冗談じゃない。

 魔法の腕を自慢するだけの男もイヤ。大事なのは何が成せるか。何が出来るか。実際魔法の腕が無くても様々な政策を実施し国を豊かにしている宰相や、領地を風光明媚な美しい街に発展させた公爵を知っている。

 貧乏な男は……どうだろ? 昔のお父様のことを考えるとイヤって断言できないけど。今は貧乏でも向上心を持って頑張ってる人なら支えてあげてもいいかもしれない。

 

(あれ? 私って結構贅沢なのかしら?)

 

 いや、そんなことはないはず。社交界なんかで知り合った女の子たちはもっといろいろ言っていたし。出来れば爵位は伯爵以上とか、贅沢できない貧乏貴族は嫌だとか、理想はトライアングル以上とか、グリフォン隊やマンティコア隊といったエリートが最高とか、マザコン野郎は死ねとか。

 それに比べれば自分の理想はそんなに高くはないはず。

 

 ギラついた目は多分私のコネが欲しいのよね? だったら私を政治的な道具とかじゃなく一人の女として見てくれる人がいいってことか。

 それでいて紳士的で、でもちゃんとリードしてくれて。

 浮気なんかしないで私だけを愛してくれて、子供はちゃんと可愛がってくれて。

 だらしなく太ってなくて、歳も同じくらいで。

 魔法の腕なんかより大事なことが分かっていて、実績とかはまだ無理でも、ちゃんと自分に何が出来るかを考えていて。

 貧乏でもいいけどちゃんと向上心を持っていて。まぁお金持ちならそれにこしたことはないけど。

 

(で、お父様やお母様が納得する程度の家柄、か)

 

 自分は贅沢じゃないはず。そう思うのに該当する相手がなかなか思い浮かばない。

 先月の社交界であったグラモン家の四男は? 見るからに気の多そうな感じだ。あと薔薇を咥えるのもちょっと。口説き文句は洒落ていたけど、それはつまり色んな女性に言っていて慣れているということだろう。

 そのとき一緒にいたグランドプレ家の彼は? ……太ってたわよねぇ。一途そうな感じだったけど社交界で食事に一途なのはどうなんだろう。

 眼鏡をかけていた彼、えっとレイナールだったかしら? 彼はどうだろう。なんか年上の女性に言い寄ってあしらわれていたような気もするけど。それってマザコンってことなのかしら?

 ロレーヌ家の彼は……、駄目ね。自分が既にラインメイジなんだってことばっかり自慢してたし。オーク鬼十数頭を槍一本で倒せる人がいるって知ったらどうなるんだろう?

 お父様と一緒に宮廷に上がった時に会ったグリフォン隊の隊長は? 特に引っかかるところはないはずだけど……。あ、そういえばあの方はカトレア様の妹の婚約者だったわね。なら駄目ね。

 

(うーん。やばい。ロクなのがいない気がする)

 

 いや、と頭を振ってモンモランシーは顔を上げる。自然と視線はラグドリアン湖の方向を向いていた。

 

(きっと魔法学院でならマトモな男が見つかるはず!)

 

 それでダメでもまだ手はある。親交のあるカトレアからエレオノールを紹介してもらい、そこからさらにアルビオン貴族とのコネクションを得られれば。

 さすがに二つの国から探せば条件に合う男も見つかるだろう。もし魔法学院にゲルマニアからの留学生でもいれば展望はさらに広がるかもしれない。ゲルマニア人は野蛮だって聞いたこともあるから期待薄だけど。

 

(……だからもう、ラグドリアン湖の向こう側を思うのはやめるのよ、モンモランシー)

 

 青い髪の少年の思い出を振り払うように今一度頭を振って、しかし振り払えなかったのか、諦めたように一つ溜息をついた。

 

(ヴァリエールが雲上人だというのならあの方は天上人だっていうのに。それに婚約したとも聞いてる。またお目にかかれる日が来るのかどうかすらわからないっていうのに。我ながら女々しいわね)

 

 

 

 

 

 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。彼女は同世代の女子が魔法衛士隊に守られる姫君としての自分を夢見るように、隣国の王子に攫われる自分を夢見る少女だった。

 

 様々な思惑から留学してきた彼に彼女が再会するのは、まだしばらくは先のこと。

 

 




 というわけで幕間第二話はモンモンちゃんです。
 なんかコレ誰?ってほどキャラが違うような気もしますが、ご容赦ください。
 まぁ幼少の頃に家が水の精霊からそっぽ向かれて、以降貧乏だった『原作モンモン』と同じにすると逆に不自然かなぁ、と。
 また魔法の才のないクーが治めるオルレアン領の発展を隣でみていただけに、魔法の才をあまり重要視しなくなったことも原作との差異ですか。多分このモンモンならルイズを馬鹿にはしないかと。

 それと接点が少なそうであるにもかかわらずクーに対して憧れっぽいものを持ってますが、これにはモンモンの事情が絡んできます。
 なにせ彼女、精霊との再度の盟約を成功させた『神童』で、カトレアの病を治した『天才』とまでされています。
 でも本人はそれが自分の力ではないことをきちんと理解しています。でも誰にも明かすことは出来ません。なにせガリアの元王子、現公爵との取り決めですし。
 なのでちょっとばかり不安になってるんですね。このまま結婚したら、相手を騙し続けなくてはならない生活を送ることになるんじゃ、と。
 で、騙さなくても済む相手、騙しているという罪悪感を背負わなくてもいい相手というと、真実を知っているマザリーニ枢機卿かヴァリエール家の者、そしてクーだけです。実際にはクー一択になってしまいますね。
 なんとなくそのことを理解してしまっているがゆえに、こんな乙女に出来上がってしまってるわけです。
 こんなモンモンもたまにはいかがでしょうかね

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