彼は平穏の中であっても幽霊であり続ける   作:リディクル

1 / 4
時系列は原作開始の一日前です。
ヒッキーよりも彼が先に平塚センセに呼ばれたところからスタートします。

前提条件として『IS 幽霊の笑顔』の設定を使用しています。

それでもよろしければ、どうぞ。





迷える幽霊

 

 

 

『高校生活を振り返って』

 

 高校生活を振り返れと言われても、まだ一年と少ししか高校にいないので、その期間の間で起こった出来事しかこの場で振り返れないことを、今ここで言っておく。

 まず、高校生活の中で最も印象的に残っていることは、図書室の蔵書の多さである。初めてこの高校の図書室に入ったときは、さすが高校だと驚きを隠せなかった。自分が通っていた中学校の図書室も蔵書が多い部類であるとは思うが、所詮は中学の図書室であり、専門的な教本は数が多くなかった。しかし、高校の図書室ともなると、そういった教本が多く所蔵されているため、そうした知識を必要とした場合、すぐに調べることができた。そうしたことから、図書室での時間は自分にとって有意義なものであり、それがイコールとして最も印象に残った事情であると言える。

 しかし、良いことだけではないことが世の常だ。自分にとって悪い意味で印象に残ったことは、友人と言える人物が極端に少ないと言えることだ。理由としては、自分と他人との距離感だ。

 自分は、クラスメイトの中ではある男子生徒を除き、名が知れている方であると自負している。ほかのクラスメイトの話を聞いてみれば、自分のクラスの男子といえば、という話題が出れば、ある男子生徒の次に自分の名前が出てくるほどであるからだ。しかし、そうした自分の評価に、一度も正しいと思ったことはない。むしろ、何故自分の名が出てくるのか不思議なほどなのだ。確かに、必要な時にはクラスメイトたちと関わり、なにか困っていることがあれば、手助けもする。

 ただ、それでも、ある男子生徒を除き、本当にこの距離感で合っているのかという疑問が生まれているのだ。一応距離感を測ることには成功しているが、それはクラスメイトとしての距離感であって、友人としての距離感ではない。ただひとりの例外も、ちょうどいい距離感であると分かってはいるものの、こちらが一方的に友人と思っているだけで、あちらは違うのかもしれない。

 疑念を言い続けてしまうとキリがないが、要は高校に入学してから一年経った今でも、他人との距離感がわからないのだという結論を記し、本文を締めさせてもらおう。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 総武高校生徒指導室。そこにある生徒が生徒指導担当の平塚静と対面して座っていた。既に窓から差し込む日の光は茜色に染まっており、下校時刻も近くなっている頃だった。余談ではあるが、その生徒が平塚静を初めて見た時に抱いた第一印象は、()()()()()()()()()というものである。そんな生徒指導担当の教師が、真剣な表情で口を開く。

「――今日、ここに呼ばれた理由はわかっているな?」

「はい」

 平塚教諭の問いに、ゆっくりと肯定の言葉を言ったその生徒の表情を見ながら、平塚教諭はゆっくりとため息を吐いた。生徒の表情は、真剣そのものだ。全く、質が悪い。そう思いながら、彼女は目の前の生徒に向けて、次の問いを投げ掛ける。

「わかっていながら、何故書いた」

「あれが、高校生活を過ごしてきて思ったことだからです」

 ほとんど即答という形で返ってきたその答えに、ため息をついて天を仰ぎたくなるのをぐっとこらえながら、ああ、わかっているとも、と言った。

「……私が一年間見てきた限りでは、君が問題児ではないことは分かりきっている。というよりも、君ほど模範的な生徒は見たことがない」

 だからな、と言って平塚教諭は気持ち前のめりになる。

「君ほどの生徒が、あの作文に書いたようなことに、正直言って驚いているんだ」

 平塚教諭が今目の前にいる生徒に対して抱いているイメージは、彼女の言葉通り、模範的な生徒である。

その姿は正しく品行方正という言葉が似合い、それを裏付けるかのように学業成績も常に学年一位を保っている。そうした感じから生真面目な人物であるかと思いきや、クラスメイトの輪の中で冗談を言い合うほどにはコミュニケーション能力があり、学外の奉仕活動も率先して行っている。そうした点を間近で見ていることもあり、もしも完璧超人という言葉を学校の誰かに当てはめるのであれば、真っ先に推薦できると考えている人物であるのだ。()()()()()()()()

「確かに、君は()()()()()()()()()()()()()()()()という点を除けば、素晴らしい生徒であることには変わりがない」

「わかっていたんですね」

「一年も見てれば、嫌でもわかるさ」

 そう言って静かに笑った後、すぐに表情を真剣なものに戻した平塚教諭は、言葉を続ける。

「ご家族にこのことは?」

「伝える必要はないと考えて、伝えていません」

 生徒の言葉に、そうかと答えた平塚教諭は、思案する。

 

 ――目の前の彼は、人間関係で悩んでいるということはわかった。ただ、彼の悩みは今まで自分が相対してこなかったタイプであるのだ。それは即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()ということなのだ。これは本来、生まれてから今までに老若男女関わらず、様々な人間との関わりの中で育まれるべきものであり、高校の現在になれば、既に完成していてもおかしくはないものなのだ。あの子とは仲良くしたい、だからもう少し近づこう。あいつとは一緒にいたくない、だから離れてしまおう。そんな感じで、自分独自の距離感を生み出し、他者とどう付き合っていくのか考えて行くのだ。

 ただ、彼の場合これが当てはまらなかったのだろう。何故なら、彼は生まれた時から不気味なほど優秀だったのだ。それはまだいい、コミュニケーションに優秀さもクソもない。問題は、()()()()()()()()()()()()()()()なのだろう。

 ……十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人、という諺がある。これは、才知ある子供でも、成長するにつれてごく平凡な人間になってしまうことはよくあるといったような意味があり、戒めの意として使われることがしばしばある。しかし、彼のご両親との三者面談での話を思い出す限り、彼自身も、そして彼のご両親も、そうした思い込みはなかったと言っていた。

 ――ただ、昔から人の心がわかっているかのような感覚で人付き合いをするものだから、親友と呼べる他者はいなかったと彼自身が零していたことを、他ならぬ彼の母親から聞いた。

そうした観点から、自分が彼という人物像を考察するのであれば――

 

 彼は、今も神童であるのだ。

 

 それも、彼自身はそのことを完全に自覚していない。何故か、それは彼が努力を怠らなかったこと、そして彼自身は自分が神童ではないと思い込み続けていたことが、そうした素質を磨き続けることにつながり、それが今の彼を形作っているのだ。彼は優秀だった。勉強やスポーツだけでなく、人との関わりに関してもだ。誰かと喧嘩したことがあっただろうが、すぐに仲直りしただろう。大人に怒られもしただろうが、すぐにその原因を理解し、次の機会に繋げただろう。

 どうすればその問題を解決できるか、どうすればその人間と円滑な関係を保てるか、どうすれば怨恨を残さずに縁を切れるのか…… 彼はそうしたことを全てクリアしてきたに違いない。それこそ、()()()()()()()()()。そうすることで彼が得たのは、多大な信頼と、()()()()()()()()()()()()()()だ。それは、決して他者との距離のつかみかたではないのだ。何故なら、彼は聡いからだ。それも子供の頃から聡かったに違いない。そして年齢が上がるにつれて、その聡さが強化されていき、今のような状態になってしまったのだ。

 ……お前はどこのチート主人公だよ! と叫んでしまいそうなのを、必死にこらえる。私にとってはそれだけの言葉で済んでしまうが、彼にとっては真剣そのものなのだ。

 ――だが、そんな彼に私が提示できる解決法は、ひとつしかないのだ。

 

少しの思案が終わった平塚教諭は、生徒に向けて、ある言葉を言った。

 

「――君は確か、部活動には入っていなかったよな?」

 

 

 

 平塚教諭の後ろを着いていくように、彼は廊下を歩いていた。ゆっくりと、しかし平塚教諭との距離を一定に保ったまま、彼は歩を進めていた。目的地はもう少し先らしく、まだ歩きそうなのをいいことに、彼は前を歩く黒髪の教師の背中を見ながら、先ほど言われたことを思い出していた。

 ――平塚教諭の問いに対して、自身は入っていないと答えた。理由などない。ただ、()はそういったことをしている暇などなかったからだ。最も、それも既に過ぎ去ったことであり、今は別にやってもいいと考えていたが、やりたくなったらやろうと考え、一年間部活動をやらずに過ごして来たのだ。ただ、部活動をやっていなくても、勉学などやることがあるのは、()()()と変わらない。

 そう考えながら答えた自身の答えを聞き、平塚教諭は真剣な表情を崩さないまま、あることを提案してきた。それは、自身が顧問をしている部活動をやってみないかというものである。もちろん、その部活動がどのようなものであるのかは聞いている。そして、自分の人となりを考察した結果、おそらく最もその部活動に適正があるだろうという太鼓判まで押されてしまった。その上で、平塚教諭は部員のことを話題に出した。

 教諭曰く、その部活動唯一の部員――もとい部長は、おそらく自分が会ったことがない人種であるはずなので、その彼女とコミュニケーションをうまく取れるのであれば、自分の抱えている問題を解決できるというものだ。

 確かに、他者との正しい関わり方を()()()()()自分にとっては、そうした一対一のコミュニケーションの方が、気が楽だ。そう考え、その提案に乗り、こうして部室となっている教室へと案内されていた。

 

「――ここだ」

 そう言って、平塚教諭がある教室の前で足を止める。それに倣うように、彼も足を止めた。その教室の場所は、特別棟にあり、かけられているネームプレートになにも記載がないことから、空き教室であることがわかった。特に用事がなければ、誰も寄り付かないであろう場所が部室となっていた。そのような様相から、彼の頭に秘密結社という言葉が浮かび上がり、次いで過去の出来事を連鎖的に思い出して、内心苦い思いになった。

 そんな彼の胸中のことなど露知らず、平塚教諭はノックもせずに教室の扉を開け、そのまま教室内へと入っていく。彼女に続き、そのまま中へ入ろうかと彼は考えたが、それは礼儀としてどうなのかと考え、声が掛かるまで少し入口の前で待っていることにした。

 

 入口から見える限りでは、空き教室であることを示すかのように、机と椅子が教室の後ろ半分に積み上げられていた。しかし、前半分には長机がひとつ置かれているのが確認でき、それだけでこの教室は部室として機能はしているのだろうということが、かろうじて確認できた。そういったこともあり、彼は少しだけの疑念を心に抱きつつ、先に入った平塚教諭が何をしているのか気になり、彼女の姿を探した。幸い、標準的な高校の教室の面積であったため、ほとんど見渡す必要などなく、彼女の姿を捉えることができた。

 どうやら、彼女が言っていた部長と話しているようだ。容姿は分からないが、聞こえてくる声の質からしてクールビューティーであることは間違いなさそうだと頭の隅で考えながら、話が終わるのを待つことにした。しかし、平塚教諭は彼の視線に気がついたのか、教室の入口の方を振り返り、彼がまだ教室に入っていないことを確認するやいなや、苦笑を浮かべ、口を開いた。

「なんだ、まだ入っていなかったのか。遠慮せずに入ってこい」

 その言葉を聞き、彼ははあ、という気が抜けた返事を返し、ゆっくりと教室の中へと歩を進めた。もちろん、失礼しますという言葉も忘れずに言う。

「――彼が先生の言っていた、新入部員ですか?」

「ああ、そうだ。名前は――」

 そう言って彼の名前を言おうとした平塚教諭を手で制し、彼は大丈夫です。と言った。

「自分の自己紹介は自分でやらせてください」

 そう言って、彼は部長の方を向く。

 部長は、一言で言ってしまえば美人であった。流れるような黒い髪、雪を思わせるような白い肌。なるほど、確かに世間一般の感性から見れば美人と言える要素を目の前の女子生徒は兼ね備えている。だが――

 

『愛しているわ、――君』

 

 自身が愛し、そして自身を愛してくれた()()に比べれば、その美貌も霞んでしまうだろう。

 そんな考えを、頭の隅に追いやりながら、目の前の彼女へ自己紹介する。

 

「織斑一夏です」

 

 そう、自分の名は織斑一夏。

 

「これから宜しくお願いします」

 

 今生では、総武高校2年F組の優等生。

 

 

 ――前世では、世界最初の男性IS操縦者にして、亡国機業の首領でもあった、ただの幽霊だ。

 

 

 

 

 




馬鹿は死んでも治らない。それが『幽霊の笑顔』の一夏くんです。前世よりかはマシですが。

この話の前日譚とも呼べる作品は『IS 幽霊の笑顔』です。
今生の一夏くんには親がいます。しかも、数多と四季ですので愛情いっぱい注がれています。が、一夏くんが一夏くんなので、色々と複雑です。
一夏くんにはバリバリ記憶があります。つまり、平塚センセを誰と重ねていたか、雪乃嬢と誰を比べていたかはすぐにわかるのではないでしょうか?

忘れた頃に続きを書きます。

最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
『かくして彼は、たどり着く』の最後の一話はもうすぐ書き終わるので、待っていてください。
それではこれからもどうぞよろしくお願いします。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。