そしてこの小説は原作沿いです。遺憾ながら。
ちなみにプロットも簡単なものしか作っていません。
あと、今回のあとがきでは原作にあった進路指導アンケートをこの作品の一夏でやってみたのを載せておきます。
それでもよろしければどうぞ。
自販機に小銭を入れ、ボタンを押す。何かが落ちる音が聞こえたのを確認し、自販機下部の取り出し口から自身が買ったものを一夏は取り出した。
――それはMAXコーヒー。コーヒーと銘が打たれながら、とんでもなく甘い代物だ。そんな今手の中にある飲み物を見ながら、これから会いに行く人物のことを思い、少しだけ苦笑を浮かべた。
そうして避難場所であるここに来ては、ひねくれた持論を頭の中で回していた高校一年の秋――転機が訪れた。
「お、今日もいるな」
のんびりと考え事をしていた八幡に、青年の声がかけられる。やっぱり来たか、と内心ため息を付きながら、声の主を見上げてみれば、そこには高校一年の秋からの付き合いの男子生徒が一人存在した。
「――そう言うお前は今日も来たのかよ」
「そんな嫌な顔するなって。ほら、場所代」
そう言って男子生徒――織斑一夏は八幡にある飲み物を渡す。それは、彼がここに来る前に買っておいたMAXコーヒーだ。
「本当に律儀だよなぁ、お前は」
そう愚痴りながらも、八幡は一夏から飲み物を受け取り、早速開けて煽るように飲む。そんな彼の様子に苦笑しながら、一夏は彼から人一人分の間を開けて座る。八幡もまた、彼のことを気にせずに、自分の考えに没頭し始めた。早い話が、彼らは極力相互干渉を避けているのだ。
そんな不思議な関係が始まったのは、偶然二人がこの場所で出会ったからだ。一夏は静かにいられる場所が欲しい。八幡も同じ理由で、極力誰からも干渉されない場所が欲しい。そんな彼らが、二人でルールを決めてこの場所を共有し始めたことはある意味で必然であったといえよう。一応話をしないというわけではないが、大抵がどちらも一言も話さずに各々のことをするのがこの場所での日常であった。
しかし、今日は珍しく八幡の方から話を振った。
「そういえば、平塚先生から呼び出しくらったんだってな」
「ああ、恥ずかしながらな」
そう言って苦笑する一夏に対して、呆れたような表情を浮かべながら八幡は言葉を続ける。
「お前ぐらいの優等生が、何をやったんだよ」
ストレートに、八幡は一夏に問いかける。優等生、それが織斑一夏という人間に対する評価である。勉強ができ、運動ができる。それだけで十分であるのに性格も良くて人付き合いもうまいとくれば、そうとしか言えないのだ。ぼっちで最底辺の自分から見ても、彼がトップカーストのグループの人々も含め、この学園中の学生とは違う存在であることくらいわかってしまう。
そんな彼が、全く関わりがなかったであろう自分と、こうして話をするようになったという事実に、なんとも奇妙な縁もあるものだと八幡は考えた。そんなことを考えている八幡に、一夏は苦笑を浮かべたまま言葉を紡ぐ。
「この前の授業で作文を書いただろ? あれの内容でちょっとな」
一夏の言葉に、八幡は少し考えて、あれかと答えた。
「高校生活を振り返って、だったか」
「それ。書き直す必要はないらしいけど、内容がちょっといただけないらしくてな」
そう言った一夏は、自分の分として購入したペットボトルのお茶を開けて、中身を飲む。彼の言葉を聞いて、珍しいものもあるものだと頭の片隅で思いながらも、八幡も手に持ったMAXコーヒーを飲む。
「それはそうと、比企谷も気をつけろよ? あの先生絶対少しのことで難癖つけてくるから」
そう言って一夏は立ち上がって伸びをする。どうやら先に戻るらしい。そんな彼に、八幡は悪そうな笑みを浮かべながら口を開く。彼の死んだ魚のような目も相まって、その様子は他の人間が見たら、どこぞの悪役のように映るだろう。
「俺がそんなヘマをするように見えるか?」
その言葉に、一夏は少しだけ笑いを漏らしながら、言葉を返す。
「そこらへんはわからないけど、まあ気をつけておいた方がいいってことだよ」
そう言ったあとに、それじゃあと声をかけてから、一夏は校舎の方へと歩いて行った。そんな、誰が見ても様になっている奇妙な知り合いの後ろ姿を見ながら、八幡はまたMAXコーヒーを煽った。
――余談ではあるが、そうして余裕綽々の八幡は、その日の放課後、平塚教諭に呼ばれて職員室へと行く羽目となる。
◇
運動部の部員があげる大きな掛け声を聞きながら、一夏は特別棟の廊下を急ぎ気味に進んでいた。本当であれば放課後になったらすぐに部室に行こうと思っていたが、急遽図書室での用事が入ってしまったので、平塚教諭に一言断りを入れてから、図書室へと向かった。
用事の方はそんなに時間がかからずに終わったとはいえ、かれこれもう40分は経っている。一応平塚教諭に話を通していたとはいえ、部活動に遅れることには変わりがない。しかも、自分はまだ入部二日目の新入りなのである。始めて早々遅刻をするというのはあまりいただけない。また、部長である雪乃は、噂を聞く限りでは厳しい人物であるらしい。そうしたことから、あまり怒られたくないという気持ちがあり、だから部室まで急いで向かっているのだ。
そんなことを考えながら、もうすぐ部室の前というところで、一夏は突如歩を緩めた。疲れたというわけではない、部室の扉の前に、見慣れた人物が立っていたからだ。その人物――平塚教諭は、一夏の存在に気がついたのか、一夏に向かって手を上げて挨拶の代わりとするとともに、すぐに自分の人差し指を口の前まで持っていき、静かにするようにという意味のジェスチャーをした。そんな彼女に怪訝な表情を浮かべながら、一夏は隣へと移動して、扉の向こう側の様子に耳をすます。どうやら二人の人間が言い争いをしているようだ。しかも、聞こえる声からして、どちらも一夏が知っている人物であった。
「――入らないんですか?」
教室の中の様子に気を配りながら、一夏は平塚教諭に問いかける。彼の問いかけに、平塚教諭はもう少ししたらな、と答え、そのまま言葉を続ける。
「こういう事象は何事もタイミングが重要なんだ」
君ならばわかるだろう? そう続けられた平塚教諭の問いかけに、一夏ははあ、という気の抜けた返事しかできなかった。一応目の前にいる教師の人となりを知っている一夏からすれば、彼女がジャストタイミングで入って何かをすることは容易に想像することができた。しかも、今回の場合は彼女がそうした行動をとったとしても、一夏には害が来ないだろうと考えられた。何故そう思うのかと問われても、平塚教諭が
そうして考え事をしている一夏の耳に、そろそろいいか、という平塚教諭の言葉が届いた。その言葉の意味を彼が問う前に、彼女はノックもせずに扉を開けて教室の中へと入ってしまった。何も恐れず、そして遠慮もしないそんな担任の姿に、一夏はそれでいいのか、生徒指導担当と思いながらため息をつき、先に教室へと入っていった彼女を追って教室に足を踏み入れた。
教室で言い争いをしていたのは、八幡と雪乃の二人だった。雪乃の方は一夏が教室に入った時に軽く会釈をしたら、彼女も会釈を返してきた。八幡は一夏がこの部活動に入っていたという事実に驚いていた。
「どうやら難航しているようだな、雪ノ下」
不敵な笑みを浮かべながら、平塚教諭が雪乃に向かって問いかける。彼女のその言葉を聞いても、当事者ではない一夏には現在何が起こっているのか全くわからないが、この教室に八幡がいるという事実から、教諭の言った言葉が八幡と部活動に関係しているということは理解できた。ただ、それだけで彼女らの話題に口を挟むのはあまり良いものではないと考え、しばらくは現状を理解するために聞きに徹することにした。
「ええ、どうやら本人が問題点を自覚していないようなので」
そう言った雪乃の言葉には、一種の冷たさが混じっている。そんな彼女の言葉を聞いた平塚教諭はそうか、と腕を組みながら相槌を打つ。顔に浮かべた不敵な笑みは、未だに崩れていない。
「さすがの君でも、彼の更生には手こずるか」
そう言って肩を竦める平塚教諭に、鋭い視線で睨む雪乃。どうやら教諭の言葉が彼女の感情を刺激したらしい。そんな様子を見ながら、一夏は机の上にカバンを置いて、その中から参考書を取り出す。我関せず、とまではいかないが、こちらに矛先が来ないうちはのんびり構えておいていいだろうと考えたからだ。現在はあくまで八幡が話の対象なのだ。
そんなことを思いながら行く末を見ていると、平塚教諭に何かを言おうとした雪乃を遮るかのように、八幡が口を開いた。
「……さっきから聞いてれば、更生だのなんだので好き勝手盛り上がっているようですが、俺はそんなこと一度も頼んだ覚えもなければ、求めてもいないんですけど」
その言葉に反応したのは、やはり雪乃の方だった。その睨みの矛先を平塚教諭から八幡へと変え、言葉を紡ぐ。
「何を世迷言をのたまっているの? あなたは変わらなければ社会的にまずいレベルの人間なのよ」
その言葉を皮切りに、二人の口論が再開された。やれ、お前は変わらなければならないとか、やれ、現状から逃げないから変わらず踏みとどまるとか、そんな会話が聞こえてきた。その口論の内容を聞き、一夏はようやく起こっている事のあらましを理解することができた。
彼女らが行いたいのは、比企谷八幡という人間を更正させることだ。性格から始まり、彼に関する全てを変えるということなのだろう。だが、一夏からしたら、人間一人変えるのに他者が干渉していいのだろうかという疑問があるのだ。
人が変わるということは、その人間が付ける仮面が一つ増える。そのような持論を持っている。何故なら、どんなに外面を取り繕っても、その内面まで変わることはない。俗に本質は変わらないというのはこういうことだと一夏は思っている。そして人間が変わるときは、その人間が必要に迫られた時に限るのだ。変わらなければ生き残れない。だから変わる。そう考え、人間は変わるのだ。それこそが、変化であり、成長であると考えている。
――誰かが干渉して変えるということは、成長でも変化でもなく、洗脳だ。
そんなことを思いながら、ぼうっと彼らの様子を見ていると、平塚教諭が二人に落ち着くように言った。その声色は落ち着いたものであったが、その表情には喜悦が滲んでいた。
「面白い事になってきたな、私はこういう展開が大好きなんだ」
何故か、テンションがおかしなほど高い。
「古来よりお互いの正義がぶつかった時は、勝負で雌雄を決するのが少年漫画の習わしだ」
そして、その口から言葉になった理論は、一夏にとっては到底理解が難しい理論であった。お互いの正義がぶつかったときは、相討ちになって双方消滅するのが常ではないのか? そう考えながら、一夏は事の顛末を見守る。
「それではこうしよう、これから君たちのもとに悩める子羊を導く。彼らを君たちなりに救ってみたまえ。そして自分の正しさを存分に証明するがいい」
「――先生」
平塚教諭が何かを言う前に、そして他の二人が口を開く前に、一夏は声を上げた。
彼の声を聞き、三人の目がこちらを向く。その顔に浮かんでいた表情は三者三様。
まず一番手前にいた平塚教諭は、どこか不満げな表情。今いいところだったのに邪魔するなよという感情を如実に表している。
教諭より少し奥、ちょうど教室の真ん中らへんに居る八幡は、いきなり声を上げた自分に少々困惑しているように見える。
教室の窓側――こちらから見て一番奥側に居る雪乃だけは、ほとんど表情を変えていない。しかし、自身を見る目が、
全員その表情から考えていることは全く違うだろうが、それがどうであれ、今この瞬間はいきなり話に入ってきた一夏に注目していた。
「どうした、織斑」
代表して、平塚教諭が問いかける。その声色は、浮かべている表情と同じく不満げなものだった。
しかし、その程度では一夏は揺るがない。
「……失礼ですが、先ほど言った勝負についてのことを即時撤回してください」
そこで一息つき、誰かが言葉を発する前に続ける。
「でなければ、俺は一生この部活には来ません」
そう語った一夏の表情は、一切の感情が消失していた。今の彼には怒りも悲しみもないことが、一番遠くから視線をやった雪乃は気がついた。そして、そんな彼の表情を見て自然と息を飲んでしまった。人が表情を浮かべる時は、その裏に何かしら感情があり、その感情に振り回されるがゆえに、どんなにそれを巧妙に隠しても、浮かべている表情からそれが滲み出してしまうのだ。
だが、今自分の目線の先に居る彼は、その表情から感情を読み取ることができない。何故なら、彼が浮かべている表情からは、全く感情が滲み出していないのだ。こんなことは、初めてだ。
「――そう思った理由を聞こう」
そう問いかけた平塚教諭の表情は、苦いものに変わっていた。
そんな彼女に、一夏は容赦なく言葉を投げ掛ける。
「ただ、この部活の理念に基づいて考えれば、勝負というものが不適切であると考えたからです」
そう言って、一夏は出したばかりの参考書を仕舞いながら、言葉を続ける。
「そも、この部活は人を助けるということが活動目的のはず。そうであるならば、勝負などという言葉は出てこないはず」
その言葉を聞いて、雪乃はこの部活――即ち『奉仕部』の理念を思い出す。
まったくもって、その通りだ。そんなことを雪乃が思っていることを知ってか知らずか、一夏は言葉を続ける。
「だからこそ、何故そんな言葉が出てきたのか、逆にこちらが問いたいのですが?」
そう彼が言い切った瞬間、下校時刻を知らせるチャイムが教室に響いた。
2年F組 織斑一夏
座右の銘『馬鹿は死んでも治らない』
*進路指導アンケート
Q:あなたの信条を教えてください
A:今を生きる
Q:卒業アルバム、将来の夢はなんて書いた?
A:ある人に胸を張って「自分は立派になった」と言える人間になる
Q:将来のために今努力していることは?
A:様々な技能の習得+人間関係の構築
先生からのコメント
何が君をそこまで突き動かすのか先生にはよくわかりません。
しかし、君であれば将来の夢を叶えられると思います。
とりあえず今やるべきなのは青春を謳歌することでしょう。
ところである人とはご両親のどちらでしょうか?