彼は平穏の中であっても幽霊であり続ける   作:リディクル

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今回は一夏と雪乃の回になります。一応。
そしてみんな大好き? 葉山くんが初登場します。一夏とは話しませんが……

あと、私の作品全般で言えることですが、読者の皆様が原作を知っているのを前提で話を作っているので、本文中で多少説明不足になることがありますが、ご了承ください。

それでもよければ、どうぞお楽しみください。






幽霊と才媛

 

 

 

 一夏が部室で平塚教諭の言った勝負というものを拒否した翌日、彼は雪乃とともに登校していた。なんてことはない、彼の登下校のルートには彼女が住んでいるマンションの前を通るので、必然的に同じ道を使うことが多く、さらに今回は登校中の彼とマンションから出てきた彼女がたまたま鉢合わせしてしまい、それならばと一緒に登校することにしたのだ。

 ただ、現在進行形で登校している彼らの間に会話はない。一応は鉢合わせたときに挨拶を交わし、二言三言喋りはしたのだが、それ以降はどちらも口を開かずに、黙々と歩き続けていた。

 歩きながら、一夏は頭の中で昨日自分が言ったことを思い出し、ため息をついた。彼自身、昨日は言いすぎたという自覚はあった。しかし、あれは自分が()()で思っていたことに他ならないのだ。

 ――人を助けるのであれば、自らの欲を捨てるべし。これは自分が()()の時から考えている心得じみたものの一つだ。だが、そんなものがあっても、助けられる人は少ない。そして、どんなに足掻いても助けられない人がいるのもまた事実なのだ。

 そこまで考えて、一夏はもう一度ため息をついた。何を気取ったことを自分は考えているのか。もうあの時とは違うのに、それでもあの時の自分になろうとしている。今を生きると言っておきながら、その実前世に目を向け続け、過去に囚われている。捨てられない、でも受け入れきれない。だからうまくいかない――

そんなことを考えながら、一夏は学校に向けて歩き続けた。

 

 ――そんな彼の様子を、横目で観察しながら隣を歩く雪乃には気がつかずに。

 

 

 

「――織斑君」

 校門の前に着いた時に、雪乃はおもむろに口を開いた。その口から出た言葉には刺がなく、むしろ昨日八幡と言い争いをしていたときよりも格段に柔らかい感じがした。

 そんな彼女の様子に訝しみながらも、一夏は特に気を乱さずに何か、と答えた。

 返答を聞いた雪乃は、静かに口を開く。

「今日の昼休みに奉仕部の部室まで来れるかしら?」

「――何か作業でもあるんですか?」

 少し意地が悪いと思いながらも、一夏は雪乃の言葉に疑問を投げ掛ける。彼女ほどの美人にいきなり呼び出しをされたとあれば、何か裏があるのではと疑ってしまう。これはあまり褒められたことではないな、と思いながらも、その言葉以降は口を閉ざし、彼女の返答を待った。

 雪乃は、彼の返答を聞いたあと、小さく息を吐いてから、言葉を紡ぐ。

「昨日のことについての謝罪と、もう少しあなたのことを知りたくて、一度二人だけで話したいと思っていたの」

 駄目かしら、と続けられた目の前の少女の言葉を聞き、一夏は少し考える。

 彼女の行動は、一部活動の部長の行動としては当たり前のことだと思った。その人物の人となりを一挙手一投足事細かに観察していても、それは外面しか理解できない。人間の内面を理解する為には、実際にその人物と言葉を交わし、どのような思想を抱いているのか語り合うことが一番の近道だ。

 今回の彼女の申し出も、そうした考えに基づいたものであるだろうと考えられる。自分の部活動の部員のことを把握しておきたい。しかし、自分が収集した情報でも、彼の内面は把握しきれない。では、時間を設けて彼と話し合おう。そうすれば彼のことが少しでもわかるかも知れない。そんなところが、彼女の動機なのだろう。そこに悪意が介在する隙はない、それは部長としての義務に近いものなのだから。

 そして、彼女がそう思っているのならば、自分の答えるべき言葉は決まっている。そう考え、一夏は雪乃に向かって自身の答えを言う。

 

「分かりました。では、昼ごはんを食べた後にすぐ部室に向かいます」

 

 

 

                      ◇

 

 

 

 時が過ぎ、あっという間に昼休みになった。一夏の周囲の生徒達も、各々の友人と昼ごはんを食べるために席を移動したり、教室から出て行ったりしていた。昨日奉仕部の部室にいた八幡も、いつもの場所に向かうために席を立ち、そそくさと教室を出て行った。その姿を気にする人間は、どうやらいなかったようだ。ぼっちゆえに致し方なし、というのは少しさみしいように感じるが、彼には彼の考えがあるので、特に気にはしない。

 そんなことを考えながら自作の弁当を食べていると、ある席の周りに何人かの生徒が集まっているのが目に入ってきた。男女ともに数人ほどの集まりであるその集団の中心にいるのは、一人の男子生徒だ。

 彼の名前は、葉山隼人。弁護士の父を親に持ち、運動もできて勉強もできる。学力テストでも、確か総合順位で学年上位に入るほどであったと一夏は記憶している。さらに容姿も整っていて、俗にイケメンと呼ばれる人間だ。しかしそんな彼の性格は、良く言って他人を尊重する、悪く言って優柔不断と呼べるようなものだ。もっと言ってしまえば、個人ではなく集団を優先する人間である。

 そんな彼のことを、一夏は一年の頃からよく見ていたが、特に興味がそそられる人間ではなかった。ただ、よく活躍するから目に付く、いわゆるクラスの人気者的な存在なので、必要最低限の関係を保ってはいるが、一夏にとっては()()()()()人間だ。ひどい言い方をしてしまうと、自分の知るある天災科学者の観点で見れば、とてもつまらない人間で、本来は関わり合う気はない存在なのだ。

 

 そう思いながら、一夏はしばらく彼とその取り巻きを観察してみる。一人の男子生徒が話題を振り、他の二人が相槌を打ち、それに葉山が反応を示す。そして一つの話題が終わると、今度は一人の女子生徒が話を始め、もう一人の女子がそれに便乗。それに葉山と他の男子生徒が反応する。話題が尽きないと好意的に見ることはできる。しかし、そうして話題を振るのはいつも取り巻きであり、中心にいるはずの葉山はそうした彼らを繋ぐ役割に徹しているように見える。そのため、彼自身が自分から話題を振るという場面は限りなく少ない。

 人と人の間のクッション的な存在とでも言えるか、確かにそうした人種も世の中にはいることはわかっているし、彼らのような集団を維持するには必要な存在であるとは理解している。しかし、例えそうであっても、葉山隼人の()()()()()()としての立ち振る舞いは、露骨に見えてしまう。まるで、そうすることが一番良いことなのだと思っているようにも感じられるのだ。

 ――まあ、彼の主義主張など、自分には関係ないか。そう思った一夏は、空になった弁当箱を自分のカバンに仕舞い、静かに席を立った。

 

 

 

 一夏が部室に着いた時には、雪乃は部室の中にいた。遅れてしまったかと思った一夏は彼女に謝ろうと思ったが、それを彼女は手で制した。

「大丈夫よ、私もさっき来たところだから」

 そう言った後に、雪乃は右手で椅子を示し、座るように促す。その仕草を横目で見ながら、一夏は促されるまま、示された椅子に座った。

 一夏が椅子に座ったことを確認した雪乃は、一度小さく息を吐いた後に、口を開く。

「――昨日のことなのだけれど」

 彼女のその言葉は、少しだけ何かを探るような感じがあった。一夏はそれに気がついていたが、今考えることでもないだろうと考え、頭の隅に留めておく程度にしておいた。いちいち細かいことで話の腰を折ることは、できる限りしたくはないからだ。

 そんな彼の考えを知らずに、雪乃は話を続ける。

「言いだしたのは平塚先生でも、あれを止められなかったのは部長である私の落ち度よ」

 だから、ごめんなさい。そう言って、座ったままではあるものの、雪乃は一夏に向かって頭を下げ、謝罪した。

 そんな彼女の様子を見ながら、一夏は一度ため息をつき、口を開く。

「……頭を上げてください。今回の件では部長は悪くない」

 その言葉を聞いて、雪乃は下げていた頭を上げて一夏の顔をまじまじと見る。彼女が見た彼の表情は、少しだけ呆れのようなものが混じった苦笑が浮かんでいた。

「確かに止められなかったことは悪いことですが、俺も感情的になってしまったことは事実です。それに今回の件で頭を下げるべきなのは、あんなことを言った平塚教諭だと俺は思ってます」

 そこで一度言葉を切り、息を吐く。そしてまたゆっくりと、言葉を紡ぐ。

「――こう言ってはなんですが、あなたが気にすることではないと俺は思ってます」

 その言葉を聞いてもなお、雪乃は一夏に視線を送り続ける。それに対して、ひと時たりとも目を逸らさずに視線を返す。決して長いとは言えない昼休みの中の、さらに一分もかからない時間、奉仕部の部室に不思議な空気が流れる。

 

「……わかったわ」

 そんな空気の中で最初に折れたのは、雪乃の方だった。彼女はため息をつき、表情を柔らかいものに変える。

「あなたがそうすることを望んでいるのであれば、私はそれに従うわ」

 そんな彼女の様子に、一夏は心の中で安堵のため息をついた。昨日あんなことを言ってしまった手前、あの場にいた彼女が気にしているのではないかと考えていた。そして案の定、彼女は昨日のことを自分の責任として考え、こうして自分に謝罪をしてきた。だが、自分は彼女のことを責めた覚えもなければ、彼女から害を受けた覚えもない。今回悪いのは平塚教諭が提案した勝負という事象と、それに反発した自分の考えであるのだ。だから訂正する必要があったのだ。悪いのは人ではなく、()()であるのだと。

 その真意が彼女にうまく伝わったかはわからない一夏であったが、それでも彼女がこちらの思いを汲んでくれたことにホッとした。

「そう言っていただけるのであれば、幸いです」

 だからこそ、一夏は雪乃に向かって、素直に感謝の言葉を言う。その言葉を聞いた雪乃は、何故かジト目で一夏を睨む。その視線には悪意やそれに準ずる感情はないのだが、何かを訴えていることだけはわかった。そんな彼女の視線に、一夏は困惑する。

「あの、何か?」

 困惑したまま、理由を聞く。一夏自身、全く睨まれる理由がわからないからだ。そうして困惑する彼の言葉を聞き、雪乃はまた小さくため息をついたあとに、ジト目をそのままに、口を開く。

「今まで気になっていたのだけれど、何故あなたは私に対して敬語で話しているのかしら?」

 彼女の言葉を聞き、一夏はああ、と声を上げた。彼が彼女に対して敬語である理由はいろいろあるが、一番の理由は彼女が自分の所属している部活動の部長であるからだ。言ってしまえば、目上の者に対する礼儀というやつだ。他にもう一つ理由があるが、それは彼女に話せるような理由ではない。

 自分の敬語が、部長に対する礼儀であるということを雪乃に話すと、彼女は顎に手をやって何かを考える素振りを見せる。

「別に私は気にしていないのだけれど」

 そう呟くように言ったあと、顔を上げて一夏を見る。そしてそのまま言葉を紡ぐ。

「その敬語を使わなくすることは可能かしら?」

 そう言って一夏を見る雪乃の視線は、やはり何かを探っているような色が見え隠れしていた。彼女の提案とその視線にどのような関係があるのかわからない一夏であったが、少なくとも悪意があるわけではないことはわかった。そのため、敬語を使わなくすることは可能であるという旨を伝えると、彼女は表情こそ変わらないものの、満足気な雰囲気になった。そして、その雰囲気のまま口を開く。

 

「じゃあ、これからは私と会話するときは敬語を使わないでちょうだい」

 

 彼女のその言葉には、静かで優しい声色でありながら、有無を言わせぬ迫力があった。なぜ彼女が自身の敬語のことについて触れたのかはわからない。ただ、このような雰囲気の女性にはあまり下手なことを言わない方がいいことは、前世でも経験したことだ。こういった場合、ふざけたことを言えば話がややこしくなってしまうのだ。そうなると、せっかくの部活動が台無しになってしまう。一夏自身それでも構わないと思っているが、彼女は違うだろう。半分聞き流していたが、この部活動への思いは間違いなく本物であるのだ。それに加え、自身にこの部活動を紹介してくれた平塚教諭にも迷惑が掛かってしまう。

 ――彼女の思いと、教諭への恩。その二つのものがあるからこそ、自分がこれからどうすればいいのか既に決まっているようなものだ。

そう考えた一夏は、観念したように口を開く。

「分かりました……じゃなくて、わかったよ」

 了承の言葉を言った一夏の表情は、どこか疲れたようなものになっていた。

「うん、それでいいわ」

 一夏の了承を聞き、雪乃はとてもいい笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 




本文中の葉山くんの考察じみたものは、今現在深く関わっていない一夏が思っていることであり、これから話数を重ねるごとに変わっていく予定です。

そして、ついに次回からガハマさんが登場しますよ~
つまり、料理回です。

最後になりましたが、ここまで読んで下さり、どうもありがとうございます。
次回もどうぞよろしくお願いします。


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