「……おかしい…」
桜の花が水面に舞い落ち、波紋を広げて行く様子に、川沿いのベンチに座って享奈から貰った御守りを撫りながら夏来はボソッと呟いた。
あの日、レウザが言った言葉は夏来の心にグサッと根深く突き刺さり、離れようとしなかった。
いっそ忘れてしまいたかった…だが忘れられるわけがない…
だから何時も何時も、夏来は迫り来る恐怖に怯えていた。
無事に帰る事が出来るのか、それがとても心配だった。
ニッ怪たちに余計な心配をかけまいと、二人が寝静まった頃にヒッソリと泣いていた時もあった。
でも、何時迄もクヨクヨしていられない。
享奈との約束……強くなると言う約束を破ってしまうから…
だから夏来は奴らを倒すべく、今日まで前向きに力強く生きて来たのだ。
だが どうだ……
肝心の奴らが来るのだと思っていたこの時期も、もう終わりを迎えている。
……奴らの動きが感じられない……
「「来年の春、またお会いしましょう」」
もしかして、あの言葉は脅しだったのだろうか…
そう思っている夏来を節目に、横に座っている炎条寺は何時もより眉間にシワを寄せ、目つきが鋭くなっていた。
理由は聞くまでもない……炎条寺には分かるのだろう。
そんな姿を見て、夏来が考えを改め直した時、一通のメールが夏来のスマホへ送られてくる。
夏来) 「ちーちゃんから…?」
炎条寺) 「……内容は?」
夏来) 「機動隊の事で話があるって…」
炎条寺) 「そうか、ニッ怪たちも集合してるかもしれねーから急ぐぞ」
暫くして、幻花の家に集合した夏来たちは応接間へと移動し、幻花と向かい合わせになるように2人は座った。
夏来) 「あれ…ニッ怪君と仙座さんは…?」
幻花) 「ぁー……ちょっと訳あって2人で出掛けてるよ」
炎条寺) 「こんな切羽詰まった時に呑気なもんだぜ で? 機動隊の事で話があるって言ってたけど?」
幻花) 「えぇ………実はかなり前に、機動隊に滅ぼされかけて、なんとか逃げ延びた能力者5人と、ニッ怪とゆきなが接触に成功してね? その人達は機動隊の最高戦力部隊にやられたって言うの」
夏来) 「やっぱりまだ僕たちの他にも居たんだ……」
炎条寺) 「なにか良い情報でも手に入れたのか?」
幻花) 「まぁね、その人達の発言からは、奴らは決まって春の終わりに来るらしいの」
夏来) 「春の終わり……もう来てもおかしくないよね…」
幻花) 「そう…あと…奴らの能力も分かったわ」
夏来) 「能力…!? それって…」
と、夏来がグイッと幻花に顔を近づけた瞬間、家全体が細かく揺れだした。
突然の事態に慌てる2人を落ち着かせた炎条寺が何に気づき、カーテンを素早く開け、空を見上げたかと思うと、2人の手を掴み玄関先へと出て来た。
辺りを見渡すと、先程の揺れを感じて家から出て来た人達で溢れかえっていた。
天候もガラッと変わり、雲が空全体にかかり薄暗い。
幻花) 「今の…地震?」
炎条寺) 「いや…違う……もっと恐ろしいもんだ……来いっ! 行くぞ! 」
前を走る炎条寺の後を追う2人は、今行く方向には何か良からぬ者が待ち伏せている様な気がした。
その証拠に、前方から逃げて来る大勢の人達が3人の横を通り過ぎて行く。
ふと、空を見上げた夏来は稲妻が走っているのを確認する。
先程の揺れは地震などではなく、稲妻が地面に落下した際の衝撃から来る揺れだと言う事を察した。
地面がめくり上がった、ひらけた場所に出た3人。
その目線の先には、あの機動隊の姿があった。
稲妻が地面に落下する度に、機動隊…雷兵が召喚される。
その数はゾルバースの時程では無いにしろ、夏来たちにとっては絶望的な数である事に変わりはない。
すると、雷兵の間をかき分ける様に、1人の男が前に出て来る。
レウザ) 「おおおお〜!!! またお会い出来て光栄ですよッ 皇 夏来さぁん」
天に向かって両手を突き上げ、甲高い声で狂った様に話す姿に、夏来は見覚えがあった。
それは闇籠神社で出会ったレウザ・ディアス本人だった。
相変わらずの、そのネットリとした喋り方とニタニタとした不気味な笑顔を見て、夏来は一歩足を引いた。
炎条寺) 「なんだコイツ…」
幻花) 「夏来…こいつが…レウザ…?」
夏来) 「うん……間違いないよ…」
と話している間も、ニタニタとした笑顔を崩さないレウザに、3人は恐怖という物を植え付けられている様な気がした。
冷や汗を流している3人と、機動隊との間に暫くの沈黙が続いた後、レウザが口を開いた。
レウザ) 「まぁ……立ち話もなんです……座って話しましょう」
座って話そう、これが「楽になって話そう」と言う事だと分かった3人が身構える。
楽になって話す……つまり、夏来たちを倒してから話をしようと言う事だ。
レウザの狂った笑い声を合図に、雷兵の軍団が3人に襲い掛かった。
ここは俺たちに任せろ、そう言った炎条寺が幻花と共に雷兵たちに立ち向かって行った。
残された夏来がレウザの姿を確認しようと前を振り向くが、そこには姿が無く、頭上を見上げると、いつの間にかレウザが拳を握りしめて夏来に迫っていた。
ギリギリの所でそれを避け、距離を取る。
レウザが拳を叩きつけた地面にはヒビが入り、凹んでいる。
レウザ) 「良く避けましたね〜 素晴らしいです!!」
夏来) 「(今のを受けていたら流石に……!)」
安心したのもつかの間、レウザの左ストレートが夏来を襲う。
一方の夏来も、一瞬で反射神経を倍増させ避ける。
が、レウザの追撃の右回し蹴りに、横腹を思いっきり蹴られた夏来は地面を数メートル転がる。
何とか立とうとするが、その度に激痛が走り、徐々に夏来の足に力が入らなくなる。
レウザが夏来の目の前にしゃがみこみ、夏来の髪を掴み上げる。
レウザ) 「あらぁ〜? もぅ終わりなのですか? 案外 呆気ない物ですねぇ〜? もっと本気を出して下さいよォ!!!」
レウザは夏来の髪を掴んだ手を上下に動かす。
それに従って夏来は顔を地面に叩きつけられる。
レウザ) 「そんなっ……物ではっ……無いっ……はずです!!」
夏来) 「…っ…うわぁぁぁあ!!!」
夏来が声を張り上げると、右アッパーが油断していたレウザの顎を殴り上げる。
宙を舞い地面に落ちたレウザが、体を左右に揺らしながら立ち上がり、首の骨を鳴らす。
レウザ) 「ぁぁぁ……良いです…これです!! これこそが私が望んだ貴方の力!!」
夏来) 「ぅ……っ…効いて…ないの……」
額から流れ出る血を袖で拭い、横腹を手で押さえ、なんとか立ち上がった夏来。
炎条寺) 「くっ…! 夏来!今行くぞっ!」
夏来の声を聞いた炎条寺が、雷兵を倒しながら夏来の元へ走って来る。
レウザは炎条寺の姿を見て、クスクスと笑った。
レウザ) 「助けようとしても無駄ですよぉ〜」
とレウザが言うと、また一つ、稲妻が炎条寺と夏来との間に落ちた。
稲妻の光が消え去った後、そこにはフードを深々と被った人間が立っていた。
その人間は立ち尽くしている炎条寺に向かって手をかざしたかと思うと、次の瞬間、炎条寺が後ろに飛ばされる
衝撃波だった。
その威力は計り知れないもので、後方にいた幻花と雷兵たちも吹き飛ばされた。
さらには建物も崩壊し、反対側…夏来とレウザの後ろにあった建物のガラスも全て割れる。
レウザ) 「バールドさん!貴方…兵を…!」
バールド) 「すまない…つい力が入っちまってよ」
バールドと呼ばれた男は、フードを捲り上げると、レウザに背を向けたまま言った。
そして拳を鳴らしながら炎条寺と幻花に近づいて行った。
バールド) 「今度は俺と遊ぼうぜ?」
夏来は絶望していた。
レウザと同じ……いや、それ以上かもしれない実力者がまだ居た事。
そしてこの戦いで、町に…町の人々に危険な思いをさせてしまう事に……
レウザ) 「くふふ…大丈夫ですよ? 私はあなた方だけ敵視しているのです 町の人々には危害は加えませんよ?」
小刻みに震えている夏来を見て、レウザは心を読んだかの様に夏来の思っている事に返事をした。
レウザ) 「そう……私ならですが…………くくく…さぁあ! 貴方の本気をもっと見せて下さいぃぃ!!」
レウザが地面を蹴り、右手を後ろに引きながら夏来へ一気に迫る。
夏来がレウザの接近に我に返る時には、ガードをする間もない程に間合いを詰められていた。
レウザの右手が貫手付きの構えになっているのを確認した夏来は、
夏来) 「リミッター解除っ!」
その言葉と共に夏来の姿がレウザの前から消えた。
レウザ) 「なるほどぉ……スピードを格段にアップしましたか……気配がそこら中から感じます……ですが…」
右手を前方にかざし、横に白い光を作り出す。
レウザ) 「シャイニングストラーレイン」
その後その光から無数のガラス雨のような光線を射出する。
それは広範囲に渡って広がっていき、建物を破壊尽くしていく。
そんな強力な技を夏来は避けれるはずもなく、右頬と左腕全体が擦り傷を負い、左肩と右足の太ももが少し削れ、足元はそこから流れ出た血で赤く染まっていた。
レウザ) 「捕まえましたよォ〜」
夏来) 「ぁっぐ……ぁぁっ!」
右足をやられた夏来は、たまらずその場に膝から崩れ落ちる。
荒い呼吸を繰り返す夏来の脳裏には「死」の文字が見えていた。
ニッ怪が居ない今、回復手段は何一つ無い。
戦慄でガチガチと歯がぶつかり合う音が、異常なまでに大きく聞こえる。
顔を上げ、歯を食いしばりながらレウザを睨みつける。
そんな夏来を遠くで見つめているレウザは、相変わらずの不気味な微笑みを浮かべていた………
夏来がレウザの攻撃を受けたのを炎条寺は横目で確認した。
助けに行こうとも、目の前の敵に足止めを食らってしまう。
バールド) 「おいおい…どこへ行くんだ? まだ終わってねーよ」
一瞬で炎条寺の前に現れ、腹に蹴りを入れる。
それはズッシリと重く速い攻撃で、炎条寺の身体は横U字型の形で地面へと叩きつけられた。
側に駆け寄る幻花。
幸い、雷兵はバールドの攻撃を受けて全員戦闘不能状態になっていた為、邪魔が入る事は無かった。
バールド) 「手応えねぇな〜 おい」
炎条寺) 「ガハッ……化け物め…」
幻花) 「友貴! …このっ!」
幻花がバールドに攻撃を仕掛ける。
風を掴み、空中へと飛び出した幻花が手を横に広げると、周りに風を受け高速で回転する白い刃が無数に作り出される。
幻花) 「私の全力をこの技にかけるっ!!」
それを見て少し驚いた表情を見せたバールドだったが、それも一瞬だけ。
怪しいほどの真率な表情が漲る。
バールド) 「ならばその例に応じよう…」
そう言うとバールドは、自身の頭上に光のゲートを2つ召喚する。
そしてその中から剣を出現させると、手に取り、胸の前でクロスさせた。
幻花) 「白き刃は敵を切り裂く……ミリアドゥーブレード!!」
幻花が両手を前に突き出すと、刃が一斉にバールドに向かって放たれる。
その瞬間、バールドが2つの剣に力を込め勢い良く振るうと、斬撃が形を持ったまま飛ばされる。
そして呆気なく幻花の攻撃は、バールドが放った斬撃により相殺された。
空中で大規模な爆発が起こる。
幻花) 「そ……そんな…っ!!」
バールド) 「どこを見ている…空を飛べないとは言ってないぞ」
幻花) 「なっ…!」
爆発に気を取られていた幻花の背後に回り、背中へ足を振り下ろす。
そのまま垂直に落下した幻花は、立つことが出来なかった。
血反吐を吐き、さらには右足が折れ曲がっていた。
炎条寺) 「千代!」
バールド) 「所詮は人間……自分を守れず…仲間を守れず……本当に愚かだ」
炎条寺) 「ぐっ……この野郎!!」
地面に倒れたままの炎条寺が、力を振り絞って右手から炎を飛ばす。
バールドはそれを避けるわけでも、弾くわけでもなく、自ら当たりに行った。
バールドの口元が引きつる。
炎条寺) 「…なんで…効かねんだよ…! 当ててるはずなのにっ……!」
バールド) 「くくく……良いだろう…教えてやる どうせ死ぬんだからな 俺は受けたダメージを自身の力に変えることが出来る能力を持っている」
炎条寺) 「なんだと…!?」
バールド) 「そしてあそこに居るレウザは不死身の能力を持っている 最初からお前らには勝機なんて無かったんだよ」
炎条寺) 「……………」
バールド) 「ふっ…… おいレウザ! そっちは終わったか」
レウザ) 「はい、動けないように痛めつけて置きました」
バールド) 「んじゃ…そろっと終わりにすっか」
レウザが夏来の目の前に立ち、バールドと共に3人に向けて手をかざす。
闇の球が2人の手に宿り、黒いオーラに包まれる。
バールド) 「少しは楽しかったぜ」
レウザ) 「さようなら」
耳に届く その言葉に夏来たちは目を閉じる。
逃げる気力も体力も無い。
潔く死を認めるしか無かった。
2人) 「冥界への誘い(ヘル・アルーア)」
次の瞬間、夏来には聞こえた。
何かが突き刺さったのと同時に、血が噴き出している音が………
だが、不思議と身体は痛くない。
そしてこの音が自分自身の体から発しているのではないと分かったのは、ほんの数秒後の事だった。
顔を上げた炎条寺の目に、レウザの方を見て何かに驚いているバールドの姿が映る。
そのまま視線を横にやると、そこには背中から氷の槍に腹まで貫かれ、大量の血を吹き出しているレウザの姿があった。
夏来は顔を上げた拍子に、顔中に血を浴びる。
一方のレウザは、自分の身に何が起こったのか分からなかった。
腹部をさわるとジワっと暖かい何かに触れる。
そしてそれが血だと言うことが分かった途端、レウザが氷の槍を前に押し出したかと思うと、勢い良く後ろに引いて抜く。
槍の先端にある返しから、レウザの身体から引き千切られた生々しい肉片が足元にボトリと落ちる。
レウザは貫かれた所を再生し、振り向くと空を見上げた。
夏来たちも、その視線の先に目を移す。
雲がかかった薄暗い空に7人の人間の姿を確認する。
ニッ怪) 「さぁ……今度は我らが相手じゃ」
2日間、殆ど寝ないで考えていたので、少し文章がおかしい所もあるかもしれませんが、目を瞑ってください!
ついに機動隊との戦いに入りました夏来たち一行。
バールドとレウザにコテンパンにやられるが、最後にニッ怪たち登場!
おや?でも7人? あーれー?おっかしーなー
そして、そんな疑問は次回明らかとなる!
次回作はなるべく早く出しますので楽しみにしてて下さいね!
あと関係ないけど、国語赤点だった……(´・ω・`)