幻想夢物語 〜少年の日々〜   作:わたっふ

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十八夢 約束を果たす その日まで

悟神との争いで相打ちとなったはずの仇敵「ゾルバース・ヴェルデ」

今この場所に存在してはいけない者が、しっかりと当時の面影を残したまま其処には居た。

軽く一礼し、微笑む狂者に立ち塞がれ、夏来達は一歩身を退いた。

 

仙座) 「な…なんで……死んだはずじゃ……」

 

あり得ない事態に怯える仙座の問いに、ゾルバースは頰を引きつるだけで答えようとしない。

 

幻花) 「話は決着が着いてからって事ね」

 

幻花が導き出した考えに応える様にゾルバースは右手を上げる。

すると、ゾルバースの背後から夏来達側に逸れていく様に稲妻が落ち、最終的に雷兵が周りを囲む様に召喚された。

悟神の時と同じ──いや、それよりも最悪な状況になってしまった。

ゾルバースの狂笑を合図に、無数の雷兵が両手に電気を纏わせ走り出す。

咆哮を上げた夏来達が、四方八方から攻めてくる雷兵に立ち向かって行く。

 

炎条寺) 「奴への道は俺たちが切り開く! 夏来は思う存分やってこい!」

 

夏来) 「分かった!」

 

炎条寺が掌に巨大な炎の玉を出現させ、雷兵目掛けて放つ。

そして連携する様に、背後から幻花が突風を巻き起こす。

炎は風に吹かれて交わり、辺り一帯は火の海と化す。

炎に身体を焼かれる雷兵の断末魔を耳に入れる事なく、炎の中を猛進する夏来。

 

ゾルバース) 「ふっ…来たかァ」

 

炎の海を抜けた先に、ポツンと佇むゾルバースの姿が見えた。

夏来はその場で止まり、開戦の心準備を整える。

目の前に居るのは、初めて心の底から恨み、殺したいと願い、全ての元凶であると憎悪した敵の主となる存在。

おそらく自分の短い人生の中で──いや、この先生きて行く中で、この者達ほど憎む相手は存在しないだろう。

自然と拳を強く握る夏来に、ゾルバースは呆れた様な表情を見せた。

 

ゾルバース) 「おいテメェ……1人で立ち向かうとかよォ……ナメてんのかァ?」

 

夏来) 「僕1人の力で勝たなきゃいけないんだよ! 今まで他人に頼ってばかりで……僕は何も出来なかった……だから僕は強くなる…強くなってみせる!!」

 

ゾルバース) 「ならば足掻いてみせろォ! 歴史を変えてやるとなァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降り注ぐ電気を帯びた矢を、夏来は己の限界を超えた起動で突破する。

左右に身を振り、速度に緩急を付け、可能な限り大仰に跳ねまわり、敵を翻弄しながら引き寄せ、掠める程にギリギリの攻防を繰り返しながら徐々に間合いを詰める。

何度も何度も拳を豪快に振るう夏来に対して、ゾルバースは落ち着いてその攻撃を滑らかに交しては、反撃として一発の重い殴りを入れる。

刻々と時間が経つにつれ、夏来の綺麗な白い肌は所々が赤紫色へと変わっていた。

 

ゾルバース) 「ほらほらァ! もっと来いよォ!! つまんねぇんだよォォォオ!!!」

 

夏来) 「ガッ……ガハッ!!」

 

夏来の攻めが弱くなり、楽しみと言えるこの戦いに終わりが来てしまうことに苛立ちを覚えたゾルバースが、夏来をまだ死なせるわけにはいかないと、夏来の襟を掴んで出来るだけ遠くへと投げ飛ばす。

地面に身体を強く打ち、転がる夏来を心配そうに見つめるゾルバース。

だが勿論、それは炎条寺達が感じる心配とは全くの別物。

 

壊れてないか? まだ使えるか? 俺を楽しませてくれるのか?

 

そう、唯の道具として見て居るのである。

手を着き、フラフラと立ち上がる夏来は口から血を垂れ流しながら、再度身構える。

 

ゾルバース) 「良い……良いぞ……スゥゥウバラシィィィイ!!!」

 

すでに作り出された無数の矢が天を埋め尽くし、狂える声と共に撃ち放たれる。

この規模であると、後ろで雷兵達を相手にしている炎条寺達をも巻き込んでしまうだろう。

止めなければ、そう決心して叫ぶが、それは何の力も持たない絶叫だった。

そのまま、ゾルバースの酷薄が世界を黒に染めあげる───その直前だった。

 

 

 

「そこまでです、ゾル」

 

 

 

──声がした。

そして、その声の持ち主に夏来は呆気に取られた。

目を見開き、呆然としたまま空を見上げて、身動きが取れなくなる。

なぜなら──、

 

 

「シャイニングストラーレイン!!」

 

 

電気を帯びた無数の矢を上回る、ガラス雨の様な光線が空を覆い尽くしていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い光が乱舞し、血と炎の紅に染まる町を煌めきながら彩っていた。

互いにぶつかり合う力が爆風を生み出し、夏来は飛ばされない様に身を伏せる。

数十秒後、風の強さが弱まって来た所で顔を上げた夏来に、先ほどの声の主が呼びかける。

 

レウザ) 「勘違いしないでいただきたいですね……貴方よりも先に始末する必要がある者が増えただけです」

 

夏来) 「ぁ……ぇっ…」

 

ゾルバース) 「レウザ…テメェなんのマネだァ?」

 

レウザ) 「私の親友を……私達に欠かせない存在を……よくも、よくもバールドを!!」

 

地へと降り立ったレウザは、目線の先に立つゾルバースを敵と見極め、厳しい声音を深々と突き刺す。

その瞳に悲嘆と戦意を宿して、ゾルバースに──自分達のリーダーとも言うべき者に鋭い眼光を向けていた。

 

ゾルバース) 「俺達に欠かせない存在ィ? ふっ……クハハハッ!! それってよォ【友情】って奴かァ!? ぷっ……笑える…笑えるぜェェエ!!!」

レウザ) 「笑わないで下さい……次は警告しません」

 

腹を抱えて狂笑うゾルバースに、レウザは掌を突き付けたまま宣告する。

しかし、ゾルバースの耳に静止の呼びかけは届かない。

 

ゾルバース) 「俺はあいつの言った事をそのまま実行しただけだぜェ? 使えない者は要らない……この言葉、あいつに良く合ってたよなァ〜!! ケッハハハハハ!!!」

 

レウザ) 「───笑うなと、そう言いました」

 

警告通り、2度目はなかった。

周辺に光の弾を召喚、一瞬にして放たれる。

確実に命を断ち切る一撃は、直撃した存在を貫く。

ただし、

 

ゾルバース) 「危ないねェ〜」

 

強制的に転送された数人の雷兵が盾となり、肉片と化した傍でゾルバースは楽しそうに笑っていた。

その様子に絶句するレウザと夏来に、ゾルバースは足元に転がるバラバラになった雷兵の身体から滴る血に指先を付け、口へと運ぶ。

身が震え、白目を剥きながら喜声を上げるゾルバースが、自身の両手を漆黒のオーラで包み込む。

一触即発、強大な力を持つ存在同士の激突が始まる。

 

 

 

 

夏来) 「もうやめてよ……待って……」

 

仙座) 「待つのは夏来だよ! 行っちゃダメ」

 

開戦寸前の2人の間に割り込もうと足を踏み出した夏来の手が取られた。

引っ張られる力に夏来が驚いて振り向くと、そこにはいつの間にか返り血を頰に付けたままの仙座が居た。

 

仙座) 「その身体じゃ無理だよ、夏来が死んじゃったら元も子もないんだよ!?」

 

夏来) 「そんな事分かってるよ! でも──もう誰かが傷つく姿なんて見たくないんだよ……それが敵であっても……」

 

仙座) 「夏来………」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、直前までの苛烈なやりとりの様に荒々しく始まった。

一歩目から最高速に入り、滑走するレウザに向かってゾルバースが掌から灰が舞う黒い弾を数発打ち出す。

片手を振り下ろし、上空に予備として設置しておいた光の弾が地面に落ち、ゾルバースの攻撃を防ぐ壁と化す。

だが、攻撃が当たった部分から広がる様に壁は黒く変色していき、灰となって崩れ落ちる。

壁の瓦礫の間を、灰に視界を遮られながらも何とかすり抜け、レウザはゾルバースを中心に大きく円を描いて狙いを攪乱する。

 

ゾルバース) 「ちっ……」

 

後追い、先回り、何を仕掛けても擦りもしない。

 

レウザ) 「貴方は私に勝てません──絶対に!」

 

力強く宣言した瞬間、再び白く輝く光の壁が出現し ゾルバースを包み込む。

逃げ道を無くし、ゾルバースの身体は完全に無防備を晒した。

直後、光壁がキシキシと音を立てて軋み、壁面から内側に向かって光線が射出される。

だが───、

 

ゾルバース) 「そんなものデェ! この俺を倒せると思ったかァ!!!」

 

閉ざされた壁の中で雄叫びが上がり、甲高い声と共に光壁が木っ端微塵となる。

破片となった壁を横目に、飛び出したゾルバースは無傷の状態だった。

しかし、勝ち誇った顔で宙へと飛び上がったゾルバースの腹に、レウザの蹴りが突き刺さる。

速度、勢い、全てにおいて十分すぎる威力の追撃に、ゾルバースの身体は地面に打ち付けられる。

が、バウンドした事を利用して体勢を立て直し、両手に宿した闇のオーラを円形状に変形させ、レウザに向けて投げ飛ばす。

空を切り裂いて飛来する円盤に、レウザは身を翻して真っ正面から突き進んで行く。

起動を読み、上手く2つの円盤の間を通り抜けたレウザだったが──、

 

ゾルバース) 「甘く見られちャァ困るぜェェェエ!!!」

 

ニタニタと笑うゾルバースを見て、レウザが何かを感じ後方に目を向けると、そこには先程回避した筈の円盤が少しの距離を置いてレウザの後をつけて来ていた。

不自然な動機で追尾をする円盤に振り回されならがも、レウザは後方に向けて「シャイニングストラーレイン」を放ち、円盤を破壊する。

 

ゾルバース) 「抗うネェ〜 ウザったらしい位にィ!」

 

目を赤く光らせ、礼と言わんばかりに猛威を成形、ゾルバースから感じる殺意はレウザの肌を粟立てた。

戦意を込めて両手を合わせ──、

 

ゾルバース) 「デス・エネクトル」

 

レウザ) 「──っ!」

 

肌を斬り付けられる感触にレウザの表情が強張った。

まさに先程の返礼、逃げ道を塞ぐ様に放たれた漆黒たる弾幕が暴威を振るう。

そしてそれはレウザの身体を何度も何度も貫いては、徐々に……少しずつ……ゆっくりと蝕んでいく。

 

ゾルバース) 「ケッヒャ──ッ!!流石のお前でも少しはダメージが入っただろォ!?」

 

レウザ) 「っぇえや──!!」

 

ガッツポーズの勝利宣言が蹴撃で中断、死角からのひと蹴りにその身体は吹き飛ぶ。

完全に予想外の出来事に何が起きたかわからないでいるゾルバースの目の前で、レウザの光像が粉々に砕け散る。

 

レウザ) 「よそ見とは──随分と余裕なのですね」

 

蹴りを浴びて地を転がるゾルバース、その両手足を拘束する光の輪が嵌められた。

身動きを封じられたゾルバースは身体を大地に縫い止められる形となる。

 

ゾルバース) 「ア〜ァ……ここまでとはなァ」

 

レウザ) 「───ありがとう」

 

嗤うゾルバースの胸に振り下ろされる光の拳が背中まで突き抜ける。

苦痛に顔を歪めて苦鳴を溢す。

だがそれも一瞬で終わりを迎え、ゾルバースの正義にかけた短かき命は断たれる。

 

 

───それが2人の戦いの決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの最後を見届け、夏来は声にならない声を上げて棒立ちとなっていた。

 

ニッ怪) 「夏来殿! 仙座殿!」

 

と、そこへ全ての雷兵を倒しきったニッ怪達が駆けつける。

身体中にアザを残したままの夏来とは違い、ニッ怪は勿論のこと、炎条寺達にも傷跡すら見受けられなかった。

それ程まで一方的な戦いだったのだろう、今のニッ怪達にはまだ力が有り余っている様に感じた。

 

ニッ怪) 「これはいみじ……痛かろう、良く耐え抜いたの ジッとしておれ」

 

夏来はニッ怪に身体を触れられてアザの存在を自覚する。

急に、合図もなく激しい痛みが一気に押し寄せて来た。

だが、それもほんの僅かな時間だけ。

みんなが自分を心配していてくれているのが痛い程伝わって来た夏来は、傷が癒えた身体を起き上がらせて、震えた声で感謝と謝罪の言葉を言う。

「気にすることない」そう言われて安心した夏来は、横目で戦場となった街の真ん中で倒れたままのゾルバースを見下ろすレウザを見つめる。

その死に、レウザがどの様な感情を抱いているのかは分からない。

ただ──、夏来の目にはレウザの頰に一筋の涙が流れたのが見えた。

 

レウザ) 「………!」

 

しかしレウザは頰を伝う涙に気付き、直ぐに裾で拭ってしまう。

何か独り言を言っているように見えるが、何を言っているのか口の動きだけでは判断できなかった。

 

夏来) 「──?」

 

ふと、レウザを見つめる夏来の心に奇妙な感情が芽生えた気がした。

それは今までの想いとは全くの別物で、どこか嫌な雰囲気がしていた。

それはまるで────。

 

レウザ) 「さて、では今度こそ あなた方を潰して───ッ」

 

振り向き直したレウザの目が夏来をとらえた瞬間、その身が黒いオーラに包まれる。

 

「デス・ホール」

 

小さく呟く声がどこからか聞こえてきて、夏来は周りを見渡す。

その声はどうやら夏来以外には聞こえていないらしく、皆んなはレウザの異変に目を見張っている。

 

糜爛) 「ぇ……」

 

オーラが弾かれ、その場に倒れるレウザ。

ピクリとも動かない身体は、夏来達に向けて完全なる「死」を表している様だった。

 

炎条寺) 「おい夏来……これってどういう──」

 

棒立ちの状態で何をすれば良いのか分からなかった筈なのに──、

 

炎条寺) 「……夏来?」

 

振り返った炎条寺の視界遠くに、どこかへ向かって走る「皇 夏来」の姿が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を抱え、吐き気を堪えながら何処までも駆けていく。

出来るだけ、可能な限り遠くへ……

町から遠くへ、あの場から遠くへ───ニッ怪達から遠くへ。

 

夏来) 「はぁっ…はぁっ…」

 

息を切らしながら懸命に、1人になる場所を探しながら走り続ける。

心臓を締め付けられる感覚に苦しさを感じるが、それに気を向けてなんていられなかった。

瞼の裏には、自分が暮らしていた世界で、楽しそうに笑う3人の姿があった。

戻りたかった場所──戻らなくてはならない場所なのに、今はそんな事はどうでも良くなっていた。

それは諦めたわけでも、怖気付いたでもない。

もっと別の「何か」だ。

忌まわしく、悍ましい理由があるから───。

 

ニッ怪) 「──夏来殿! 何処へ行くのじゃ!」

 

夏来) 「うっ…!?」

 

誰にも追いつかれないよう、自身の出せる限界のスピードを出して走ったのにも拘らず、声に呼ばれて夏来は足を止めた。

振り返る視線の先には見慣れた4人が立っていた。

返り血で汚れた服の裾を払うニッ怪は、荒い呼吸を繰り返す夏来を見据える。

 

ニッ怪) 「夏来殿…一体どうしたと言うんじゃ? 機動隊らは倒せたではないか」

 

夏来) 「────」

 

幻花) 「──ちょっと、夏来」

 

押し黙り、何も語ろうとしない夏来に幻花は眉を顰める。

違和感を覚えながらも一歩、怪我をした者を案ずる眼差しを向けながら近付く。

しかし、身体には問題はない。

ニッ怪のおかげで問題なく動く。

そう──問題なく、自由に、思い通りに。

 

幻花) 「なつ──」

 

夏来) 「来ちゃだめだ、僕から逃げ───られると良いなァ〜」

 

仙座) 「──!?」

 

必死に抵抗する夏来の言葉は半ばで妨害を受けて沈黙、代わりに言葉を発したのは夏来の意志からではない。

だが、その途切れた部分を聞いた幻花は即座に後ろへと身を退き、夏来の攻撃を躱した。

 

夏来) 「流石だなァ〜 外見こそ変わりないコイツに油断してると思ったがァ……」

 

空振りした腕を摩り、『夏来』は口を引き攣りながら言う。

 

炎条寺) 「おい…嘘だろ…」

 

両膝を突き、絶望の表情を見せる炎条寺が力なく呟く。

 

仙座) 「ニッ怪! これって……」

 

ケタケタと嗤う『夏来』の姿に目を見開く仙座はニッ怪の横に並び、険しい目を向ける。

空気が張り詰め、それぞれが顔を歪める中、『夏来』だけは両手を広げて楽しげに口を開いて──、

 

 

 

「「特殊能力撲滅機動隊 戦闘部隊隊長──ゾルバース・ヴェルデ、デス」

 

 

そう、名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やられた、完全にしてやられた。

一番大事な部分であり、ゾルバースが機動隊を指揮する理由、レウザに殺される瞬間まで嗤う理由がやっと分かった。

 

──ゾルバース・ヴェルデは、その身体が死しても、魂が適する者に取り憑く事で生き続けられる「精神体」だったのだ。

悟神の時も、森の中に憑く事が出来る雷兵を1人待機させておいたのだろう。

 

万が一の為に……

 

夏来) 「ァァア〜力がァ…コイツに秘められた力が俺の物となっていく……クフフ…カァハハハ──ッ!」

 

炎条寺) 「夏来から……夏来の身体から離れやがれぇぇえ!!」

 

地面を踏み込み、夏来──ゾルバースに炎を纏わせた拳を振るう。

だが夏来の能力を使い、スピードを極限まで高めたゾルバースには攻撃は当たらず、炎条寺は腹に重く速い一撃を食らわされる。

 

夏来) 「攻撃はしない方が良いぜェ? 俺が受けるダメージは、当然コイツにも影響されるんだからなァ」

 

ニッ怪) 「夏来殿!目を覚ますんじゃ!」

 

夏来) 「フッ…無駄無駄ァ コイツにはテメェの声なんざ聞こえねェよ」

 

ニッ怪) 「貴様には話しておらん! 夏来殿、思い出せい! 何の為に戦い、何をしに元の世界へ戻るのかを!!」

 

ゾルバースを一喝し、ニッ怪は今にも悪に支配されそうな夏来の心の中へ叫ぶ。

その圧倒的な気迫に一瞬だけ押される。

完全に意識を覆ったゾルバース、そこに僅かな緩みが生まれる。

そして──、

 

夏来) 「な、なんだ!? 何が……俺の身体………なわけ、ない……これは、僕の身体だ……!」

 

内側から湧き上がる対の感情に、ゾルバースが驚きと恐怖の入り混じる目を見開いた。

その口から漏れ出た言葉は途切れ途切れではあったが、この身体の持ち主の意思が片鱗を見せる。

そのまま、驚嘆するゾルバースを押し返し、苦しみもがく夏来の心が這い出てくる。

 

 

「「──夏来!!!」」

 

 

夏来) 「コイツ、まだ……あ、諦めてなんかいない……うる、せぇよォ……」

 

負けない、負けたくない、この心を黒く埋め尽くそうとする淀みに。

強がり、希望を持ち、自身を奮い立たせる。

そうでもしないと、今すぐにでも闇に堕ちてしまいそうだから……

 

夏来) 「絶対に帰さない、絶対にィィィイ!!!」

 

そこで再度、夏来の抵抗を飛び越えたゾルバースの声が放たれた。

これ程までに根付いた想いを、感情を、狂気を口にしてきた精神で押し出す。

それはこれまで感じて来たどんな狂態よりも夏来を底冷させる闇だった。

そして理解する。

 

──これは決して表に出してはいけない物だと。

 

夏来) 「ニッ怪君……やって……殺って」

 

ゾルバースの抵抗が弱まり、この身体の主導権が自分にある間に決着をつける。

その為に夏来は最も効率的で、簡単な方法を選んだ。

夏来が元の世界へ帰る為だけにニッ怪達がこの世界に召喚されたのなら、夏来という存在が消えたらニッ怪達は目的を無くし、各自 自分の世界へ帰れるのだろう。

その指名に、ニッ怪は凝然と目を見開いて唇を震わせる。

 

ニッ怪) 「な、何を、言い出すのじゃ」

 

夏来) 「もう、これ以上…皆んなを巻き込みたくないんだ………早く…」

 

炎条寺) 「何言ってんだ夏来!!俺たちも、お前も!皆んなで帰るって約束しただろ!」

 

絞り出すような掠れた声の答えに、炎条寺が苦渋に顔を歪める。

前向きで、優雅で、勇敢で、どんな困難にも立ち向って、いつでも余裕を絶やさない。

そんな態度を貫き通して来た炎条寺の表情に、夏来は少しだけ驚く。

違う世界線の『皇 夏来』だと言うのに、ここまで躊躇うとは。

 

仙座) 「そうだよ夏来! 約束は……守らなきゃいけないんだよ!」

 

夏来) 「ごめん……守れそうに、ないや……」

 

いつ交わした約束だったのか、夏来は覚えていない。

けれど、皆んなと一緒に帰りたかった事は事実だ。

無事に帰って、元の世界でまた会えたら───そんな事も考えてたっけ。

 

夏来) 「───ちーちゃん…」

 

この闇は、夏来以外には払えない。

だが、当の本人には払うほどの力なんてある訳なかった。

夏来は息を吐くように無様な自分を嘲笑い、最後の1人に任せる事にした。

 

幻花) 「──こんな事になったのは、私達の責任でもある……ごめんなさい」

 

涙目の幻花、その手が夏来の胸に触れて変化が生まれる。

──それは肺へと送られる酸素が逆流する様などうする事も出来ない苦痛、さらに体内の水分が分解され、酸素と水素に分かれた様な………

 

夏来) 「あ、あぁぁ───ッ!!」

 

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛

苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦し苦し苦し苦し苦しししししししししシシシシシシシシイイィィィィィ

 

『ア゛ア゛ア゛ァァ───ッ!?』

 

潰れる鼓膜とは別の場所に、自分以外の何物かの断末魔が響き渡った。

操る身体は1つ、宿る精神は2つ。

当然、ゾルバース自身も言っていた通り、夏来が受ける痛みは共有される。

逃さない、このまま魂を閉じ込めてあの世まで送ってやる……

 

夏来) 「───」

 

苦しみ悶えた末、身動きが出来なくなる。

辛うじて出来る呼吸も、肺へと流れるのは少しだけだった。

 

炎条寺) 「千代! 何やって……」

 

幻花) 「最期くらい叶えてあげようよ! これが夏来の望みだから!」

 

炎条寺) 「だからって──こんな事する必要ねぇだろ!!」

 

幻花) 「──っ! 私が! 躊躇わずにやったと思う!? この力で、夏来を守る為の力で、こんな事を……!」

 

無念の嘆きと、それを塗り潰す悲嘆の怒声が聞こえる。

しかし、そちらに首を傾ける力もなく、夏来は望まない手段をさせてしまった幻花に内心で詫びた。

ごめん、の一言が言えたらよかったのに。

 

ニッ怪) 「──夏来殿 お主と居た時間、我は忘れぬぞ」

 

あぁ、忘れないでほしい……僕という存在を。

 

──だから僕も絶対に皆んなを忘れない。魂だけになっても、無と化しても、絶対に。

 

ニッ怪) 「───」

 

一瞬、躊躇いが生まれた。

しかし、それは武士としての覚悟を挫けさせはしない。

青黒いオーラに包まれた刀を掲げ、見送ってくれる事に嬉しくも悲しい意味のこもった息が漏れた。

 

語りかけてくれる声も小さくなっていき、何も考えられなくなる。

忘れないと誓った事だけを身に秘めて──

 

 

夏来) 「ァァア! バカな…バカなァ……俺は、こんなァ 適した者が居ればァ……この身が滅ぶ事などォ………」

 

 

 

 

 

 

────さよなら、

 




はい、やっと終わりました18話!
あ、これで終わりじゃありませんよ?
後2話分ありますので、楽しみにしてて下さいね!

まぁ、今回の話はリゼロ23話を凄く意識して書きましたね〜 (ほぼ同じ)
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