幻想夢物語 〜少年の日々〜   作:わたっふ

21 / 22
二十一夢 この世界の終わりに希望を抱いた少年

 

 

壊れ行く世界に背を見せ、あの場から、ゾルバースから、炎条寺から離れる。

怪我をした者や、自力では飛べない者は手を貸してもらいながら飛行する中、最後尾に付いていた幻花が突然立ち止まった。

 

幻花) 「……後は頼んだよ」

 

全てを託すかの様な目を見せ、幻花が元来た道を引き返す。

それに気づいた糜爛が振り返る。

 

糜爛) 「千代さ…」

 

追いかけようとする糜爛の手を掴み、引き止めるニッ怪。

 

糜爛) 「ニッ怪さん…」

 

ニッ怪) 「糜爛殿、すまぬが後の指揮は任せたぞい」

 

ただ、その一言だけを残して幻花の後を追う。

命を投げ打つ覚悟を胸に秘めて……

 

糜爛) 「………」

 

糜爛の目に映ったその時のニッ怪は、絶望的な冷めきった物では無く、どこかに希望の可能性を抱いて居る暖かい物に包まれていた気がした。

 

仙座) 「澄ちゃん、皆んなをお願い」

 

澄華) 「や…やだよ……行っちゃ…」

 

仙座) 「何言ってんのさ〜 ここで諦めちゃ、夏来に申し訳ないじゃん! それに……あの2人だけを行かせるわけには行かないし……ほら、しっかりしてよ!」

 

俯く澄華の肩を叩き、気合いを入れ直させる仙座。

その優しさに自然と涙が溢れ出してきた。

一緒に居た時間はとても短かったけど、それでも最後まで友達として居てくれた仙座に「ありがとう」と伝えたい。

 

澄華) 「ねぇ……ゆりかちゃん」

 

だが───、

 

顔を上げた澄華の前に、仙座ゆりかの姿は無かった。

 

澄華) 「どうか……死なないで…」

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

────────

 

────

 

 

地の底の底、光さえも届かぬ暗闇の世界に夏来は横たわって居た。

見上げる上空の彼方、空にかかる雲は一層黒みを増している。

 

 

 

悟神さん……神代さん……

 

そして この世界のみんな……

 

僕に力を……力を貸して……

 

このままじゃ終われないんだ……

 

 

 

 

 

────────────

 

───────

 

────

 

 

 

ゾルバース) 「ヒャッハハハー!!」

 

炎条寺の髪を掴み、復讐の怒りに満ちた顔面を地面へと叩き込む。

その反動で浮き上がった身体に追撃の蹴りを入れた。

力無く倒れ込んだ炎条寺の身体を、舞い上がる砂煙が覆い隠す。

 

ゾルバース) 「終わりだァ……シャイニングストラーレイン!」

 

右手人差し指を前方で横にスライド。

空中に描かれた光の線から無数の光線が射出された。

 

ゾルバース) 「案外呆気なかったなァ……もう少し楽しめると思ったが、所詮は雑魚か」

 

 

 

 

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

 

 

 

 

突然、前方から放たれる炎条寺では無い別の声。

その直後、無数の光線が見えない壁に阻まれた。

 

ゾルバース) 「ほォ……?」

 

砂煙に遮られていた視界が開け、ゾルバースは目に写り込んできた光景に苛立ちを感じた。

そこには先程逃げた筈の3人が、仙座のバリアに身を守られながら炎条寺を囲む様に立っていた。

 

炎条寺) 「お、お前ら……!」

 

仙座) 「友貴だけ、先に逝かせるわけないよん♪」

 

ニッ怪) 「我ら、死ぬ時は一緒じゃ」

 

幻花) 「そうね、どうせ死ぬんだったら夏来と…皆んなと一緒に戦った この戦場で死にたいわ」

 

炎条寺) 「ったく……思い残す事は無いか!」

 

炎条寺の掛け声に、3人は強く頷く。

そして仇敵ゾルバースを倒すべく、炎条寺達は無謀にも戦いを挑む。

 

ゾルバース) 「雑魚共がァ……鬱陶しいんだよォ!!」

 

ニッ怪の黒青刀を、バールドの力を使って取り出した大剣で弾き返して腹部を突き刺し、

 

勢い良く引き抜いた大剣を両手に持ち替えて、鳳凰と化した仙座の翼を斬り裂き、

 

幻花が放った風の刃を、片手からの衝撃波で粉々に粉砕、

 

炎条寺の両手からの火柱を、その身で受けて力へと変換する。

 

ゾルバース) 「ダメだ……ダメなんだよォ……それじゃあァ!! 全くもってつまらんのだァァア!!」

 

大剣を足元に展開した光のゲート内にしまい込み、空中へと飛び出したゾルバースが、炎条寺達に向けて両手からの弾幕を喰らわす。

 

炎条寺) 「グハッ!くっ……うぉぉおお!!」

 

身体中を血で濡らしながらも、炎条寺達は痛みに耐えて反撃を仕掛ける。

だがそんな抵抗も虚しく、次々と力無く倒れていく姿に、ゾルバースの狂笑いは止まらない。

そして最後まで戦い続けた炎条寺までもが、その猛攻の前に倒れ散った。

━━かに見えた。

 

ゾルバース) 「ちっ……しぶてぇ奴だな」

 

地面に身体が着く直前、脳裏に浮かぶ夏来の姿。

 

 

 

頑張って……死んでいった人達の為にも、ゾルバースに勝つんだ。

僕は皆んなを…信じ…て……る………

 

 

 

幻花) 「分かってる……わよ…夏来」

炎条寺) 「諦めてなんか……いねぇ!」

ニッ怪) 「ここで諦めてしもうたら……」

仙座) 「夏来に合わせる顔が無いんだから!」

 

最後の力を振り絞り、炎条寺が倒れまいと足に力を入れる。

さらに、倒れていたニッ怪達も手をついて起き上がった。

その時に見た彼らの目は、今までの怯えきった物では無く、ゾルバースに対する怒りと復讐心に燃えていた。

力強い雄叫びをあげ、再度立ち向かう炎条寺達。

 

ゾルバース) 「けっ! 往生際の悪い奴らだァ……さっさとくたばっちまえよォォオ!!」

 

自分の思い通りに事が進まず、ゾルバースの苛立ちは溜まって行く一方。

これ以上の戦闘は、無駄な体力を消耗してしまうと考えたゾルバースは、一撃必殺の大技を放つ。

 

ゾルバース) 「グランド・オブ・アルマス」

 

そう、その技は神代 愛佳を倒した、バールドの決め技だった。

目の前の地面が大きく凹み、砕けたコンクリートのカケラが一斉に炎条寺達を襲う。

先が針の様に鋭く尖った物体は、仙座のバリアさえも貫いて行く。

 

仙座) 「ガハッ!」

 

口から血を吹き出し、コンクリートのカケラが左眉を擦り、さらに右肩と両足を貫通。

額から流れ出る血が目の前を赤く染め上げ、仙座はその場に倒れた。

 

炎条寺) 「ぐっ……!」

 

遠くから聞こえる衝撃波の音。

その直後、横たわる仙座の前に左腕があり得ない方向に曲がった状態の炎条寺が飛ばされて来た………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏来) 「あはは……それはダメだよ仙座さん」

 

炎条寺) 「まっ、アホらしい所が ゆりか らしいっちゃ、そうなんだけどなw」

 

仙座) 「むー! 笑うなぁ! 私はこう言う食べ方がいいの!」

 

ニッ怪) 「しかしの……西瓜を米と一緒に食べるのはどうかと……」

 

幻花) 「ゆりかって、友貴の言う通りちょっとア───」

 

仙座) 「それ以上言うなぁ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でだろう……

皆んなと過ごしたあの日々が……景色が……思い出が……

次々と脳内に映像として再生される。

笑いあったり、喜びを分かち合ったりしたのが随分前に感じるのは何故だろうか……

 

結局私は最初から最後まで、何の役にも立てなかったのかな……

 

ごめんね…夏来…皆んな……私━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「おいおい、立てよオラァ!」

 

膝をつくニッ怪の髪を掴み上げ、顔面へと重い一撃を喰らわす。

何度も何度もその顔に叩き込まれる拳が、ニッ怪の口から吐き出された血と鼻血に薄っすらと赤く染まる。

 

ニッ怪) 「あ……がっ……」

 

最早言葉を発する事すらままならず、だらしなく垂れ下がった手足が完全なる敗北を物語っていた。

 

幻花) 「は……な…せ……!」

 

ユラユラと足元が覚束ない状態で立ち上がる幻花。

その姿を横目で黙視するゾルバースは、数秒の間を空かせ、ニッ怪の髪を掴む手を放し、遠くへと蹴り飛ばした。

 

ゾルバース) 「ついに1人だけになっちまったなァ………そこでだ、俺と1つ取引しねェか?」

 

幻花の方へ振り向き直したゾルバースが、右手を伸ばして問いかける。

 

幻花) 「と、取引……?」

 

ゾルバース) 「あぁ、他の奴らはまだ死んでねェ テメェが俺に付いて来れば、其奴らを見逃してやるよォ」

 

幻花) 「そ…そんなの……」

 

当然、幻花は拒絶した。

夏来を殺した敵の仲間になるなんて、死んでも嫌だったから。

しかし━━━━、

 

ゾルバース) 「嫌だってかァ? 別にそれでも良いんだぜェ? その代わりテメェらは全員死ぬ事になるがなァ」

 

そう聞いた瞬間、幻花の心が揺らぎ始める。

自分がゾルバース達の仲間になれば、ニッ怪達の命は助けられる。

その方が、誰も死なないで済む……

だけど…そうなると、皆を裏切ってしまう事になるんだ。

 

ゾルバース) 「俺はこの世界の神となる そんな弱々しいクズ共と居るよりも、俺と居た方が良いとは思わねェか? 俺がテメェを気に入ってるからこそ、最後の選択を選ばせてやってんだぜェ?」

 

幻花に歩み寄るゾルバース。

立場が良いことを利用し、様々なメリットを上げ、仲間に引き入れようとする。

 

だが、表情を和らげ、ゆっくりと口を開いた幻花の答えに、ゾルバースは耳を疑った。

 

幻花) 「私は……私を裏切りたくない……例え、どんなに追い詰められたとしても……あんたの様な奴の仲間になんか……なるわけ無い」

 

ゾルバース) 「良いのかァ? その判断のせいで、彼奴らは死ぬんだぜェ?」

 

幻花) 「死なない……」

 

ゾルバース) 「ハァ?」

 

幻花) 「あんたに私達は殺せない……その前に、あんたは敗れ去るから…!」

 

ゾルバース) 「テメェ……何言って━━━」

 

意味の分からない発言に、聴き直そうとしたゾルバースの声を遮る爆発音が背後から響く。

振り返ったゾルバースは、目に映り込んで来た衝撃の光景に目を見開いた。

 

ゾルバース) 「なッ! き、貴様 生きてやがったのかッ!?」

 

深穴の中から姿を現した者は、身の回りを白く輝くオーラで包んで居る。

片手を天へと突き上げ、光を放つ虹色の小さな球体が現れた。

瞬間、空に掛かる黒雲が逃げ去る様に晴れていき、闇に支配されていた地上に天の光柱が射し込む。

ギラギラと輝く太陽の日差しが、痛みを感じるほどに眩しかった。

 

夏来) 「ありがとう、ちーちゃん 最後まで信じてくれて」

 

幻花) 「いいのよ夏来……貴方が無事で良かっ……た……」

 

安心したかの様に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちる幻花。

そんな彼女を抱えて逃げ去る、両足を血で染めた炎を纏う鳥。

 

仙座) 「やっちゃえ夏来━━━!!」

 

思わぬ不幸の事態が続き、ついにゾルバースの苛立ちは頂点へ達した。

 

ゾルバース) 「た、確かにテメェは死んだはずっ!! 何故だ…何故だ何故だ何故だァァァア!!!」

 

空中に浮かぶ夏来へ向けて大量の弾幕を放つ。

しかし、それは夏来に直撃する前に白いオーラに阻まれて爆発する。

 

ゾルバース) 「これでもォォォ食らいやがれェェエ!!」

 

両手を目の前で向かい合わせ、その隙間に身体中の全ての力を注ぎ込む。

そしてゾルバースの手の中に、夏来を倒した、あの黒い球体が現れた。

 

夏来) 「フッ……」

 

殺意と怒りの篭った黒き球体を目にし、苦痛に顔を歪ませたまま薄ら笑いを浮かべる夏来。

掌にある虹色の球体がいっそう輝きを増す………

 

 

 

 

感じる……2人の力を……この世界のみんなの力を……

 

ありがとう悟神さん、神代さん、そして……皆んな

 

こんな情け無い僕を信じてくれて

 

この想い、無駄にはしない

 

僕の力で……いや、皆んなの力で

 

「悪」を……

 

 

 

 

「「「ゾルバースを倒すっ!」」」

 

 

 

 

ゾルバース) 「ッァァァアアア!!!」

 

夏来) 「はぁぁぁあ!!!」

 

 

 

両者の掌から撃ち放たれた球体が、空中でぶつかり合う。

大気を震わせる程の衝撃に、大地が大きく揺れている。

 

夏来) 「僕は負けないっ! 皆んなを守る為に、もっともっと強くなってみせるっ!!」

 

ゾルバース) 「ァァア……グガガガァァア!?」

 

決死の夏来の言葉が世界に響き渡ると同時に、ゾルバースの身体から無数の光が溢れ出し始める。

さらには、全身の力と言う力が失われて行く感覚に、ゾルバースは自分の身が悲鳴をあげて居るのを感じた。

 

ゾルバース) 「な、なな…なんだ…こ、これはァァア!?」

 

夏来) 「だから……お前なんかに負けるわけにはいかないんだ━━━━!!!」

 

抵抗する力に負けじと、心からの【願い】を叫び、言い押し切る夏来。

直後、相対する黒き球体が光に包まれて粉々に砕け散る。

降り注ぐ光に、どこか懐かしくも悲しい想いを抱いた瞬間、虹色の球体がゾルバースの身体に取り込まれて行く━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゾル! ほら、前から欲しがってたロボットだぞ! 嬉しいか? そうか、良かった良かった! はっはっは!」

 

色んな事を教えてくれて、俺を強くしてくれた父

 

 

 

「また喧嘩してきたの? 元気なのは良いけど、他の子を傷つけちゃダメよ?」

 

いつも見守ってくれて、俺を愛してくれた母

 

 

 

「おーいゾルー! また遊びに来てやったぜ!」

「トランプしましょトランプ!」

 

どんな時も力を貸してくれて、一緒に笑い合った仲間たち

 

 

 

 

 

 

 

俺は……いつからこんな奴になッちまッたんだ

 

 

 

 

 

 

『ッヒャヒャハハハ━━━!! 先ずはこの能力を試してみるかぁ! 村の奴らを全員皆殺しだぁ━━!!』

 

《おぉぉぉぉ!!!》

 

平和な土地に、絶望を齎す者が現れる。

 

「早く行け!! お前だけでも生き延びるんだっ!!」

 

ゾルバース) 「嫌だ……嫌だよ父さん!!」

 

「何でそんな我儘を言うの! 最期くらい母さん達の言う事を聞いてよ……!」

 

『ぴーぴーうるせぇんだよ!!』

 

空から降り注ぐ、黒々しいオーラを纏う矢の数々。

ゾルバースの目の前で、悲しい表情を見せて居た両親の顔が地面へと倒れ落ちる。

2人の身体から流れ出る血が、辺りを赤く染め上げた。

 

 

 

ぁ………ぁぁ………ぁぁぁァァァア!!!!!

 

 

 

憎い……

 

憎い……

 

憎き……能力者め……

 

 

 

 

【バキッ】

 

 

 

 

暗闇に閉ざされた中で、鈍い音を立て何かが壊れる。

それは愛、幸せ、嬉、喜び、そして━━━、

 

 

 

 

 

ゾルバース) 「俺の……心……」

 

夏来) 「………」

 

そう呟いたゾルバースの目から、大粒の涙が溢れ出して来た。

自ら狂気に陥る事を望み、この事実から目を背け続けた今までの日々。

決して消えることの無い、あの能力者への恨みの念。

その全てが、この光によって浄化されて行く。

 

ゾルバース) 「俺はまたァ……愛を感じる事が出来るのだろうかァ……」

 

夏来) 「出来るよ……本当の自分を取り戻せば、必ず……」

 

ゾルバース) 「そうか……良かっ……た……」

 

涙に濡れた顔で、最期に心からの微笑みを見せたゾルバース。

その身が完全に消え去り、天へと昇っていく様を、夏来は只々見つめて居た━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都内で始まった、【夏来&糜爛率いる全10名の戦士】 VS 【特殊能力撲滅機動隊3大勢力】の戦いは、夏来達の勝利と言う型で幕を閉じた。

倒壊した建物や、生臭い血の匂いが漂っていたりと、激しい戦いの爪痕が痛々しく残っていた。

 

夏来) 「終わっ……た……」

 

全ての力を使いきった夏来。

身体を包む白いオーラが砕け散り、夏来はそのまま地面へと落下する。

地に崩れ倒れる夏来に、足を引きずりながら歩み寄る炎条寺達。

近くに居たニッ怪は始めに夏来の傷を癒し、続いて重傷の仙座と炎条寺、最後に軽傷の幻花の治療を行った。

完全なる勝利を掴み取り、それぞれが勝利を喜ぶ声を上げる中、遠くから夏来を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

糜爛) 「夏来さんっ! まさか生きておられたとは…… 奴らに勝ったんですね!」

 

澄華) 「ゆりかちゃんっ………良かった…本当に良かったよ……」

 

地に降り立ち、夏来の元へ駆け寄る糜爛達。

だが、澄華だけは夏来には目もくれずに仙座の胸へと飛び込んだ。

その瞳に涙を浮かべ、安心したかの様に泣き出す澄華を見て、夏来達は久しぶりに【平和】と言うものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし━━━━、

 

 

 

 

 

 

 

幻花) 「……待って……何この地響き…」

 

そんな平和と呼べる時間は、幻花の言葉で掻き消された。

足元から伝わる細かな振動。

それが段々と大きくなりながら夏来達に襲い掛かってくる。

 

糜爛) 「時間ですね……」

 

そう呟いた糜爛の言葉の意味を、炎条寺達は知ら無い。

「何が時間なのか」と、焦る様に聞き返そうと顔を上げた炎条寺の目に、ある光景が映り込んで来た。

 

澄華) 「ぁぁ……」

 

手足の指先から、徐々に光と共に消えて行く糜爛達の姿。

それはゾルバースの最期を思わせる光景だった。

 

糜爛) 「───ここでお別れの様ですね」

 

夏来) 「……」

 

夏来は知っていた。

自分が【願い】を叶えれば、この世界は存在意義を失い、消滅してしまう事。

そして同時に、夢の世界の民も消えてしまう事を……

だから何時も不安だった。

偽りの世界だとしても、皆んなと過ごした日々は本物であり、掛け替えのない存在だ。

それが全て一瞬のうちに砕け散ってしまうのだから……

 

ニッ怪) 「崩壊が始まってしもうたか……」

 

仙座) 「ほ、崩壊……そ、そんな……」

 

糜爛) 「我々はこの世界に住む者 共に生き、共に消える………これは逃れられぬ運命なのですよ」

 

悲しそうな目で、夏来達一人一人を見据える糜爛。

光球が下半身を奪い去り、続いて腰回りへと上がって来る。

 

糜爛) 「さぁ進んで下さい、あの先にきっと出口はあるはずです」

 

糜爛が夏来達の背後の空を指差す。

その指を指した先を見ると、天へと長く続く大きな階段が光と共に現れた。

涙を飲み、糜爛達に背を向けて歩き出す夏来達。

仙座は、最後に澄華と抱き合い、別れの言葉を言って夏来達の後を追った。

 

糜爛) 「良かった、皆の仇を討てて……もう思い残すことは無い」

 

澄華) 「そうだね………夏来さん達には感謝しきれないよ…」

 

階段を登る夏来達の背中が、どんどん小さくなって行く………

 

糜爛) 「お前もそう思うだろ? 愛佳」

 

手の中で安らかに眠る神代に声を掛ける。

その言葉を最後に、糜爛達は聖なる光に魂を包まれ、この世界から完全に消え去った━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上を離れ、天へと長く続く道を歩んで行く。

踏みしめる半透明の階段を通して見える下界は、酷く荒れていた。

山が割れ、海は裂け、彼方此方で夢の世界に住む民が光へと姿を変える。

この様な結果を招いてしまったのは自分自身なのだと、改めて目の当たりにした夏来の表情が段々と暗くなるのを見て、隣を歩む幻花は何か優しい言葉を掛けようと口を開く。

だが、今の夏来の心にどう届くのか、そんな思いが頭の中を駆け抜けて、幻花は半開きになったままの口を静かに閉じた。

 

ニッ怪) 「そろそろじゃの」

 

不意に、先頭を歩くニッ怪がボソッと呟く。

と同時に、前方に青白くユラユラと光り輝くオーラに包まれた、二本の巨大な柱が姿を現した。

 

 

早く帰らなきゃ、、

 

 

そう決意を新たに、夏来達の足は自然と走り出していた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽光がサンサンと照らす雲の上。

夏来達の目の前にそびえ立つ、不思議な程に静まり返った白障壁の神殿。

足元は、神殿の奥に見える門の僅かな隙間から流れ出てくる、青く透き通った水に満たされていた。

 

夏来) 「雲の上にこんな場所があったなんて…」

 

幻花) 「空気も薄くない……浮遊島って感じ…?」

 

水に沈んでいない石場を渡りながら、夏来達は人1人ようやく入れるほどの隙間を通り、門をくぐり抜け、神殿内部へと足を踏み入れる。

天井一面が氷に覆われ、壁に掛けられた松明の炎が空間全体を明るく照らしている。

 

仙座) 「すっごい……こんなの見たことないよ……」

 

水、氷、炎、その3つが同じ空間に層の如く段々と積み重なっている。

この不気味で不思議かつ、幻想的に美しい光景を目の当たりにし、仙座はその場に立ち尽くす。

 

瞬間、夏来達の耳に此処から少し離れた場所で、何かが崩壊した音が聞こえてくる。

それが先程登って来た、あの階段なのだと察した夏来は先を急ごうとニッ怪達に呼びかけた────。

 

 

 

 

 

 

 

いくつもの部屋を抜け、神殿の最深部へと辿り着く。

中へ入ると同時に、すぐ近くの壁に大きな亀裂が入り、地面がグラグラと大きく揺れる。

どうやら、もうすぐで此処も夢の世界の消滅に飲み込まれてしまうようだ。

 

炎条寺) 「アレか!? よし行くぞ、お前ら飛び込めっ!!」

 

部屋の中央にポツンと立つ、苔と植物の蔦が絡み合った円形状のゲート。

その中へ炎条寺、仙座、幻花の順番で飛び込んで行く。

 

幻花) 「ほら2人共! 急いで!」

 

幻花がゲート内から夏来とニッ怪に向けて手を伸ばす。

その手を掴んだ夏来は、振り返ってニッ怪の方を向く。

 

ニッ怪) 「ぅ……ぐっ……」

 

そこには、右目を抑えながら歯を食いしばるニッ怪が居た。

咄嗟に手を離し、駆け寄る夏来。

 

ニッ怪) 「来るでない!!」

 

だが、その足は放たれた張り声に止まる。

荒い呼吸を何度か繰り返し、右目を抑える手を下ろすニッ怪。

そして、目に映り込んで来た衝撃の光景に、その場に居る全員が凍りついた。

 

夏来) 「ニッ怪……君……な、なにそれ……そんな……」

 

 

 

なぜなら………

 

 

 

 

 

 

ニッ怪の右目から、ゾルバースや糜爛達との最後に見た、あの「光」が溢れていたのだから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ去る夢の世界、その中心で新たな真実を突きつけられ悲しみに耽る少年がいた。

 

夏来) 「それ……な、なんで……ニッ怪君は──」

 

あまりの衝撃的な事に、目の前が真っ白に染まる。

 

【ニッ怪は夢の世界の民だった】

 

と言う事実が、夏来の心へ容赦なく突き刺さる。

 

ニッ怪) 「夏来殿、皆………すまぬ……我はまたつまらん嘘をついてしまっていた様じゃ」

 

仙座) 「ぇ……その光って……まさか……」

 

炎条寺) 「おい…嘘だろ……」

 

皆んなが動揺し、取り乱す中、ゲート内から出てきた幻花が、夏来の手を掴み引っ張る。

必死にその手を振りほどこうとする夏来、だが幻花は俯きながら夏来の手を掴んだまま離さない。

 

夏来) 「離してちーちゃん!! ニッ怪君を置いていくわけにはいかな───」

 

その必死の言葉が、頰に受ける痛みに半ばで沈黙。

平手打ちを食らわせた幻花を見て、炎条寺と仙座は唖然として驚いた。

 

幻花) 「ニッ怪はこの世界に居なきゃいけないの! 夏来がどうかしようとしても、できない事なのよ!」

 

顔を上げ、声を張り上げた幻花。

その目から零れ落ちる涙が頰を伝うのを見て、夏来は目の前の事実と向き合う決心をする。

 

夏来) 「………ちーちゃん、先にゲートに入ってて……最後はニッ怪君と2人で話したいんだ……」

 

幻花) 「……分かったわ」

 

ゆっくりと手にかかる力を緩め、夏来の手を離す。

そのまま後ろへと下り、ゲートに入った幻花を確認した夏来は、再びニッ怪の方へと向き直す。

 

ニッ怪) 「夏来殿……お主には2度も嘘をついてしまったの」

 

夏来) 「本当だよ……こんな最後の最後に嘘なんかついてさ………本当……もう……」

 

目元が震え、今にも泣き出しそうな自分を奮い立たせ、夏来はニッ怪の目をしっかりと見つめる。

 

ニッ怪) 「成長したの……初めて会った頃とは大違いじゃ」

 

笑みを見せ、夏来の成長を喜ぶニッ怪。

その笑顔を見た夏来は、貰い笑いをする。

 

ニッ怪) 「何はともあれ、夏来殿……お主と会えて我は嬉しい限りじゃ……沢山の幸せを貰い、優しさを受け、これまでにない程に楽しかった……」

 

夏来) 「僕もだよ、ニッ怪君……元の世界に帰っても絶対にニッ怪君と……皆んなと過ごした日々を忘れない……」

 

ニッ怪) 「我の物語は此処で幕を閉じてしまうが、お主の物語はまだ始まったばかりじゃ……じゃからの、強く生きよ夏来殿! 進み続けよ!決して止まるでは無いぞ」

 

また会えるかはわからない。

でも、いつか会えたら───

それこそ僕が死んだ時でも会えたらと願い、夏来は最後に小さく呟いた。

目を離すのが怖くて……惜しくて……悲しくて……

この光景を少しでも目に焼き付けておきたくて、夏来はゆっくりと後ずさった。

夢の世界から出る直前、ニッ怪は一粒の涙を見せ微笑んだ。

 

 

ニッ怪) 「……さらばじゃ、我の分まで幸せになるのじゃぞ…皆…」

 

 

夏来がゲートの中に一歩を踏み出す。

1秒にも満たない瞬きの間に、ニッ怪の姿は消えていた。

そこには、ただ崩れ去っていく世界が見えるだけで……

 

夏来) 「ニッ怪君…」

 

次の瞬間、夏来達4人を取り巻く光が一層激しさを増す。

思わず目を瞑り、光が消えるのを待った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして────世界は動転する。




これで夢の世界での物語は終わりを迎えました。
まさか最後の最後でニッ怪君が消えてしまうとは、読者の皆さんは思いつかなかったでしょう。
本当に衝撃的ですよね……
自分も正直、ニッ怪君を手にかけるのはどうかと思ったのですが、編集の方が

「こっちの方が、ニッ怪君への思いが深まるんじゃない?」

とか言っちゃって……口論の末、仕方なく編集さんの思いを入れる結果となりました………
自分自身、なんて言いますか……ニッ怪君の事を気に入ってたので……悲しいですね

(因みに ニッ怪君、幻花さん、炎条寺君、仙座さん、夏来君の順番で好きかな! どうも夏来君だけは自分を客観的に見て居るような気がして好きになれません)←ま、この中に機動隊入れて良いなら二位にレウザさんが入るかな!



と、自分が今抱いている悲しみの感情と、編集さんへの怒りを只々書きました所で、さっそく次回予告と行きますか!(これは後で確認しに来た編集さんにLINEでなんか言われるな……ぉぉ怖い怖い)



無事、元の世界に戻って来られた夏来!
しかし、待ち受けるのは仙座とニッ怪が居ない悲しみと、いじめっ子 紅原の存在
能力をなくし、夢の世界の出来事を知る者が居ない世界で、夏来はどう立ち向かうのか!?
そして学校に新たな転校生の姿が───


次回 最終夢【幻想夢物語】

もう、この小説も終わってしまいますね……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。