女騎士の定義ってなんだろう   作:闇谷 紅

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前話とこれで二話ほど投稿されずに埋もれてたので投下しておく。




第七話「村娘がオークに名前を付けていたって別に不思議なことはきっとない」

 

「ハディスン、今日も元気そうね」

 

 おそらく、それが自分の求めていた先輩ではないことを樹の幹をなでる様子を見た和人は察した。自分とおそらくはそれほど違わないであろう年恰好、ただし、着ているものはいかにも村娘風の少女は和人のやってきた方角、振り返ればかなり先まで続く道には何の注意も払っていなかったからだ。

 

(出迎えに来た先輩なら、こっちの姿が見えてるのにそっちのけで樫の木に声をかけていたりなんてしないだろうし)

 

 背負ったかごに突っ込まれた、薪と思われる枝の束や手斧、腰につるした山刀も推定村娘が視界の中にいる理由を木々の世話だとか薪取りであろうことを雄弁に語っていた。

 

「ちょっとだけ、緊張するなぁ」

 

 大きな樫の木の脇を通り過ぎ、それ程たたない内に訪れた、初となるこの世界の人間との遭遇。

 

「ほほう、いわゆる第一村人だな、和人くん」

「その推測にはおおむね同意するけど、何でそんなに嬉しそうなの?」

 

 どことなく弾んだ声の変態同行者にジト目を投げれば、当然じゃないかと答えが返る。

 

「普通に考えれば初対面だ。挨拶ついでに『お二人はどんな関係なのですか?』と問われるかもしれないだろう? その時に『妻です』と頬を赤らめる瞬間を思うと……って、ちょ、ま、待っ」

 

 いきなり寝言を垂れ流され、待てと言われて待てるほど和人は人間が出来ていなかった。そも、唐突な既成事実を回避するためにも先んじて接触し、誤解されない様手を打っておくべきだと思ったこともある。

 

(こう、騎士と村娘ってこの世界の身分だとどれぐらいの差があるかわかんないし……)

 

 置いてきてから勇み足に気付いたとしても、引き返して騎士が村娘に話しかける場合の態度のさじ加減について変態サイドの少女に教授を願うなどということはできるはずもない。

 

「ええい、当たって砕けろっ」

 

 人はそれを自棄になったとも言う。だが、和人にとって自分と後方の痴女の関係をねつ造されるよりも、無知から少々の失敗をやらかす方がはるかにマシであった。

 

「少し、いいだろうか?」

「はい?」

 

 流石に村娘よりも騎士の方が身分が下ということはないだろうと若干上から目線の口調ではあるものの、声をかけ、和人の声が聞こえたのか、村娘も振り返る。

 

「ええと……この村で、旅人が泊まれる場所はあるか? その、人と待ち合わせをしていて……な」

「待ち合わせ、ですか?」

「ああ」

 

 後方から追いかけてきているであろう変態少女の話が確かなら、和人の力になってくれる先輩がこの時点で村にいるという保証はない。

 

(だから、待ち合わせって言葉、ある意味正しくはないかもしれないけど)

 

 とりあえず、言っておくべきことはあった。

 

「ひょっとして、その待ち合わせのお相手と言うのは、なんだかイラッとくるほど無駄に大きな胸を揺らして騎士様の後ろから走ってく」

「違います」

 

 明日この世界が終わるとしても絶対に否定しておかなければいけない案件だった。

 

「むしろあれは追手だ。虚言壁と妄想癖がすごくてね、私と夫婦になりたいとあちこちに吹聴している」

「うわぁ……その、す、すみません、あたしったら失礼なことを」

「構わない。そんなことより今は逃げる方が先決だ」

 

 結局問いの答えはもらえなかった和人だったが、もう一刻の猶予もない。逃げるように。実際逃げてるわけだが、軽く頭を下げて村娘の横を通り抜け。

 

「あ」

 

 先に進んでふと思い出す。今日はその村で一泊とか同じ部屋でいいと変態少女がのたまわっていたことを。

 

「そっか、宿がなきゃあんなこと言う筈ないよね」

 

 村娘に話しかけた手前、何か言葉を続けなければいけなかった和人ではあったが、結果的に無意味な質問をしてしまったことに気付いたこと思わず苦笑し。

 

「あるぇ? 宿があるって解かってるってことは、アレってこの村にもある程度詳しいんじゃ?」

 

 樫の木の一件もあるが、そもあの痴女の役目は、右も左もわからない和人の補佐であるはずなのだ。

 

「つまり、かってしったる ばしょ で まったく ふあんないな ぼく が この きゅうち を なんとかしろ と?」

 

 進めなければいけない足を止めて固まってしまったのも絶望度の増した未来予想が出来てしまったなら無理はないだろう。

 

「……冗談抜きでまだ見ぬ先輩と会う以外に助けて貰えそうな方法ってないじゃん」

 

 逃げ隠れかくまって貰おうとしても、村のことを把握している変態少女は、こちらの行動を先読みして回り込むことだろう。

 

「イベント戦闘じゃあるまいし、逃げられないってどういうこと? あ、ゲームでもああいうサポートキャラはチュートリアル終わるまでついてくるか」

 

 ふつうのゲームのお助けキャラならそれでもいいだろう。だが、あの痴女は明らかに和人の貞操を狙っていた。

 

「最初はこっちの心の負担を減らすためのタチの悪い冗談だって思ったけど、なぁ」

 

 頻度が明らかに度を越えてるし、バレたとわかったにも関わらずやめる様子もない。

 

「今度はボクをさっさと独り立ちさせるためとか?」

 

 和人としてはその可能性もゼロではないとは思っている。だが、あの変態少女のサポート無しで旅をしろと言われてもやってゆける自信もなく、この世界の情報も足りなすぎ。

 

「もし、独り立ちの為だとしたらスパルタってレベルじゃないよね。ボク、今晩の宿代も持ってないわ……あ」

 

 げんなりしていた和人の顔は、誰の目にも明らかな程引きつった。

 

「ああーっ、宿代ーっ!」

 

 致命的すぎる問題に今更気づいて和人は頭を抱える。

 

「なんで気づかなかったんだろ。逃げたって駄目じゃん! 財布握ってるのあっちなんだから、結局のところ戻るしかないじゃん!」

 

 下手をしたらこうして自分が逃げていることさえあの痴女の計画通りである気がして敗北感に打ちひしがれ。

 

「やあ、待っていてくれたのかい?」

「っ」

 

 タイミングを見計らったかのようにかけられた声に振り向けば、和人へ微笑みかけるのは一人の少女。

 

「和人くん、宿はあっちだぞ。この村には宿屋は一軒しかないからね」

「もう、やだ」

 

 セクハラ発言は全くせず、それでいて何かを確信しているかのようにうれしそうな変態の案内に和人はぺたんとへたり込んだ。

 

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