ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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策謀編・1

 

 

 

・輝暦2911年・珊瑚の月『二日目・臨時政庁臨時議会議事録より抜粋』

 

「……は? ごめんもう一度言って」

「だから、撤収だ」

 

 頷き応じるバナードの言葉に、シガレットは手にしたペンを器用に指で回転させながら、しばし黙考に浸った。

 此処は、ビスコッティ王国ミオン砦の一角。

 今は、ガレット侵攻軍の臨時政庁のような装いを示していた。

 と言うか、シガレットが侵攻軍内のたまっていたらしい書類を整理し始めた辺りから、必然としてそうなったのだが。

 急遽事務方の人間が招集され、未だにガレット領主の装いを纏ったままのシガレットを上座において、王都ヴァンネットの政庁もかくやという忙しない空気を形成していた。

 

「撤収、か……」

 杜撰に―――あくまでシガレットの基準で。中世末期の文明レベルに近いフロニャルドの基準で言えば真っ当に―――管理されていた物資の運搬、輸送計画を戦争開始前まで遡ってチェックして、その都度適宜修正印を押し続けている途上で出迎えたバナードの言葉を、シガレットは自ら呟く。

 

 撤収。何を? 決まっている。

 

「……城攻めを止めて、野戦に切り替えるとか?」

「いや、勿論違う」

 尋ねて、即答されて、そりゃそうだろうなと、頷く。

 だが言われた内容を認めがたい気分は抜けず、シガレットは苦笑を浮かべた。

「久しぶりの再開……じゃなかった、再会だってのに、初っ端から冗談きついですよバナードさん」

「私も冗談であれば良いとは思うのだがね。―――残念ながら既に、現在進行形で発生している問題なのだよ」

 二枚目の顔を、やはり同様に苦笑気味に変えながらも、バナードは自らの言葉を撤回することはなかった。

 

 つまりは、だ。

 

「これでこの戦争は手打ち、ですか」

「ああ、ガレットは本日中にビスコッティ領内より全軍を撤収する。―――此処も、例外ではない」

 

 そう言う事だ。

 周りで聞いていたらしい事務職員たちが目の下に隈を作った顔で互いを伺っている。

「折角皆で徹夜して輜重計画の再構築をしていたってのに、可哀想に……」

 グシャっと、机の上に広げてあった書類を握りつぶして屑篭に投げ入れながら、シガレットは言う。

 彼がパタパタと室内に向かって手を振ると、事務職員たちが次々と机の上に突っ伏していった。

 細かいところまで妥協を全く認めない臨時上司を相手に神経をすり減らしていたらしく、限界を迎えたようだ。

「……ああ、うむ。その、すまない。超過勤務手当の方は出すから」

「S資金の方使ってくれて良いですよ。残ってるなら」

「あんなもの、キミ以外誰も恐くて手を出せないよ。軍の年間維持費の五倍近くの内部保留があるらしいじゃないか」

 因みに、シガレットがヴァンネットで六年ほど宰相紛いの仕事をしていたときに経費の効率配分、資産運用で発生させた余剰資金である。

 全て王宮の金庫に納められているが、誰も迂闊に手を触れられない彼がヴァンネットを留守にしている(・・・・・・・)現在は一種の聖域のようになっているらしい。

「カイゼンって大切ですよね。やり過ぎると下請けが泣きを見るんですけど」

「下、だけかね? あの当時の金融大臣のご老公の顔色の悪さと言ったら……」

「むしろアシガレ卿のいらっしゃらない今の方が、毎日胃痛で大変そうな顔をしていそうですけど」

 机に突っ伏して寝始めた事務職員たちの肩に毛布を掛け終えたらしいルージュが、紅茶を載せたトレイを片手にそっと言い添える。 

「口うるさい子供がいなくなって、むしろ万々歳じゃないですか?」

 受け取った紅茶を啜りながら、シガレットはいっそ爽やかな笑顔でのたまう。

「失って初めて解る、というヤツだね。宰相閣下のご不在で、我が国の政府中枢は毎日が狂騒状態だよ」

「一人の力に頼りすぎると、良くありませんね」

「……たまに、フィアンノンに木箱一杯の書類が送られてきてたような記憶があるんですが」

 つまりは、居なくなったはずの人間の力を利用し続けているという話だったりもする。

「誰に頼まれた訳でもないというのに、趣味で口を出し続けていればそう言う事にもなる」

「やー、元々インドア派の人間でした(・・・)から、たまに机の上に沢山の書類って言う環境が懐かしくなるもんで」

「普通は、手を出す前に躊躇いを持つものなのだがね。何しろ他所の国の行政機関だぞ。―――尤も、その辺りが、いかにもシガレットらしいが」

「お褒めに預かり恐悦―――とでも言いましょうか? 武張った人間ばかりが幅利かせて、事務方が毎度泣きを見てるシーンを見てると、子供心に憐憫の上も浮かぶんですよ。そう思いません、バナード将軍(・・)?」

「私もキミに訂正印を押される立場だからね。彼等の気持ちの幾分かは理解できているさ」

「あ、バナードさんの修正が必要な書類、後で届けさせますから」

「……了解だ」

 部屋の隅の『済』と書かれた紙の張ってある箱を示されて、バナードは頬を引きつらせながら頷く。

 大き目の木箱からは、大量の紙束があふれ出していた。明らかに、戦争に関係ある分だけの書類ではない。

 確りとレオンミシェリの採決がなされた筈の此処二年ほどの各種書類も詰まっているに違いなかった。

「ま、権力は有る内に使わないとね」

 自身の衣装―――ガレット領主を代行するための装いを示しながら、シガレットは笑う。

 領主が承認した書類を他国の騎士が後日否定するとかいかにもシガレットらしい行動だったから、バナードもルージュも半笑いのまま何も言えなかった。

 

「と言っても、戦後交渉も終わってるんだから、もうお役目ゴメンですかね」

 

 空気を引き締める一言にはなったのだろう。

 雑談気味に緩んでいたバナードたちの顔も、深刻さを交えたソレに変わる。

「ああ。このミオン砦からも撤収する。レオンミシェリ閣下が王城に戻られるわけだから―――」

「代行なんて要らんですか。先代様によろしく伝えて置いてください―――と言うか、余り子供のたわごとを真に受けすぎないようにしてくださいと言うべきなのかなぁ」

「先代様は、アシガレ卿を実のお孫さんのように思っていらっしゃいますから」

「孫可愛さに無茶を聞く、ですか? だったら実の孫を助けてやれっつーのに、あの爺さん……」

「実の……レオ閣下、か」

 苦い言葉で自らの主の名前を呟くバナードに、シガレットは目を細める。

「俺さ、昨日一緒に飲んだときには、『まだビスコッティに居座るつもりだ』って聞いた筈なんだけど」

 酔っ払って聞き間違えていなければと、昨晩のレオンミシェリとの密会を思い出しながらシガレットは言う。

 その場に居合わせていたルージュは、その言葉に首を縦に振った。

「私たちも、そのようにお聞きしていました。レオ様は、レイクフィールドの戦の雪辱戦に乗り気でしたから」

「軍の方にもそのように下知なされていらした。―――が、今日の早朝に、な」

 

 レオンミシェリは軍議の席で、突然に戦争の終結と撤収を命じた。

 

「昨日の今日で、女心は秋の空とは言うけど、ちょっと、なぁ」

「どうも、ビオレお姉さまにも何もお告げなさらなかったらしいんです」

「てっきり、シガレットなら何か知っているかと思ったのだが……」

「だから昨晩は戦争続行だって言ってたとしか、俺は知らんってば」

 ルージュとバナードの探るような視線を向けられても、シガレットも眉根を寄せる他なかった。

 武闘派国家ガレットの中でも比較的理性派に属する三名は揃って難しい顔で黙る。

 前言撤回して突然の転進。

 負け戦の挽回をすることも無く、王都前まで攻め寄せたのに―――ついでに、勇者に大陸最強騎士と言う新たな強敵も出現したと言うのに、一当てすることも無く逃げ帰るなどガレットの領主らしくも無いやり口である。

 そして、恐らくは三名共に推察しているであろうこの戦争の『真の動機』と照らし合わせてみれば、レオンミシェリがこの場で兵を退けると言う発想に至るのはいかにもありえなかった。

 率直に言って、意図が読めない。

 

「嫌な夢でも見て、恐くなったかね」

 

 やがてポツリと、シガレットは呟く。

「夢、ですか……流石に、それは」

「まぁ、冗談だけどさ。或いはこう、……いや」

 ルージュに頷きつつも、シガレットは言葉を濁す。

 レオンミシェリの方針転換の理由に行き当たって、だからこそ口に出すのがはばかられたのだった。

「方針を転換したのなら、奇妙な話だけど。逆に言えば」

 

 ―――ある意味で、一貫性の有る行動だとすれば。

 

 無意識の仕草で、シガレットは首元をくすぐる感触に触れていた。

「短絡な行動に突っ走りやすい人ではあるからね、まぁ」

 何時かの都市国家の要塞攻めみたいなときみたいに。

 一度熱が入ってしまうとただ勢いだけで突っ走ってしまうような部分が、レオンミシェリにはあった。

「……やはり一度、ヴァンネットに戻ってはもらえないものか?」

「は?」

 深刻な顔でのたまうバナードに、シガレットは目を瞬かせる。

 戻る。ヴァンネットに。

「僕が?」

「先日顔をあわせていたのなら当然気付いていると思うが、最近の閣下はご心労を抱えていらっしゃるようでね。シガレット、君が戻ってきてくれれば……」

「俺、ビスコッティの人間なんですけどって、一応言っておくべきなのかな?」

「アシガレ卿がミルヒオーレ姫様のことを心配なさっていることは承知しています。ですが、このままではレオ様が」

 ルージュの言葉は依頼や懇願と言う単語よりも、いっそ『追求』とでも言うべき意味が多分に含まれていた。

 『レオンミシェリとミルヒオーレと、お前はどっちを優先するつもりだ』と、そんな風に問い詰めているに違いない。

「とは言え、フィアンノンに居るってのは約束だし」

 あっさりと首を横に振るシガレットの態度に、ルージュは声を大にして詰め寄る。

「そんな! アッシュ様はレオ様のことが……、っ」

 強すぎておっかない態度のそれを、シガレットは途中で遮った。

「レオ様か、ミル姫かって言えばね」

 その後で、曖昧な顔を浮かべながら、穏やかな口調で続ける。

 

「俺が優先するのはレオ様ですよ。そんなの一々答える必要もないでしょう」

 

「……でしたら」

「真面目な顔で尋ね返しながらボイスレコーダー確認するのやめてくれないかなぁ? ―――いや、まぁ良いけど。俺はあの人にとってはホラ、『最後の一線』みたいなものですからね」

「最後の一線、とはまた大言を噴くね」

 心底感心したとバナードが言う。シガレットは鼻で笑って応じた。

「勝手に誤解して自惚れてるだけで、本当はハブられてるだけってんなら笑いますけどね。―――でもホラ、バナードさんがわざわざ尋ねてきてくれる程度には、既定の事実らしいじゃない。こんな服も押し付けられるし」

「そのお心を、レオ様本人に直接お伝えすることは叶いませんか?」

「あと五年くらい経ったらね。ミル姫が一人前になる前にこんなこと言っても、ぶっ飛ばされるだけで終わるってば」

 あの人シスコンだしと、シガレットは笑ってルージュの言葉に返した。

「何を迷い恐れても、最後の最後に支えてくれる人間が居ると信じられれば、なるほど。平気か」

「ですから返って、アシガレ卿はフィアンノンを動けない、と言うことですね」

「そういう約束なんで。だから、約束は守りますのでご心配なく―――って、コレ昨日伝えたから、良いか」

「何度でも、女性と言うのはそう言う言葉を求める物ですよ。常に殿方のお心が自身に向いているのかどうか、不安で仕方ないのですから」

 説教染みたルージュの言葉に、シガレットは苦笑するよりなかった。

「どっちかって言うと、不安なのは俺の方なんだけどなぁ」

「あれだけ強気な発言をしていた男の言葉とは思えない発言だね、シガレット」

「デカい事を口にしてないと不安なだけですってば。未来なんてものは、約束とかに縋って想像してみたところで、実際のところは未来そのものにたどり着いて見ないと解らないものですし。夢や希望なんてものは所詮夢で希望でしかないってことは、弁えないと……とも、簡単に実践できないくせに言うことでもないか」

「いや、中々身になる話だったよ」

 何処を見ての言葉なのかわからない、シガレットの自嘲気味の言にバナードは謝意を述べる。

 シガレットも何も言わずに肩を竦めるだけで応じた。

 それで一先ず、語り合うべき事を語ったと言う形になったのだろう。

 

「最後の一線にまで下がらなくていいように、我々も最大限努力しよう」

「期待します」

「アシガレ卿も、ご無理はなさらないで下さいましね?」

 

 それは、勿論と頷いて。

 それで、彼等は各々の国へと引き上げる事となった。

 

 

・輝暦2911年・珊瑚の月『二日目・ビスコッティ騎士団隠密部隊日報より抜粋』

 

「平和だ……」

「で、ござるなぁ」

 

 カコーンと言う鹿脅しの鳴らす響きが、竹林の中に消えていく。

 風月庵。

 王都フィアンノンの片隅に有る、所謂純和風の屋敷の縁側に、シガレットは居た。

 だらけた姿勢で柱に身を預けるシガレットの傍には、ブリオッシュ・ダルキアンの姿もある。

 どちらも寛いだ着物姿。茶器も全て和風の拵えだった上に周囲は竹林、果ては庭を駆け回る犬はどう見ても柴犬か何かの犬種に見えて仕方なかったから、はて、ここは一対何処の世界だろうと誤解してしまいそうな風情だった。

 時刻は夕刻前。

 そろそろ太陽が朱色に変わりそうな時間帯に、ミオン砦から王都フィアンノンに帰還したシガレットだったが、登城もせずにこの風月庵に引っ込んで甚平に着替えて寛いでいるありさまだった。

「良いのでござるか? 今頃お城では論功行賞の行われている頃だろうに」

 騎士団副団長ともあろう者が国事行為に参加しなくても良いのかと、ブリオッシュは尋ねているのだ。

 戦が勝利で終わったのなら、それを祝し、そして勝利を齎した勇士達を称えて褒賞を与えるのは領主の勤めである。

 今頃謁見の大広間では、整列した騎士達が領主ミルヒオーレから手ずから報奨金を渡されていることだろう。 昨日までの苦しい戦を乗り越えて、漸く掴んだ勝利なのだから、苦戦に耐えた騎士達全てが賞賛されて然るべきだ。

「謹慎蟄居ってことで一つ」

 自宅で反省してろ、と言う話である。

 因みにシガレットはマルティノッジ家の食客を辞めた後、主不在のこの風月庵を勝手に間借りしていた。

 無論、茶碗も甚平も彼の私物である。家主が帰ってきたというのに、まるで撤収する気も無いらしい。

 尤も、ブリオッシュも特に気にしていないようだから問題は無さそうだが。

「蟄居とはまた、何かしでかしたでござるか?」

「ござるかって、ダルキアン卿も昨日その場にいらしたでしょうに」

「昨日? 昨日……おお、そういえば。某の知らぬ間に祝言を挙げておったでござるな。遅ればせながら祝いの言葉を……」

「いいから、そういうボケ良いから! 昨日の今日で散々色々言われてますから!」

 いかにもわざとらしい言い回しのダルキアンの言葉を遮って、シガレットは辟易したように息を吐く。

 疲れた様子のシガレットに、ブリオッシュは呵呵と笑う。

「お主がガレットの領主面していたところで、今更誰も一々気にしたりはせぬだろうに」

 むしろ、自然なこと過ぎて誰も気にも留めないだろうとブリオッシュは言う。

「いやですよね、既成事実って。いや、俺が迂闊だったせいなんでしょうけど」

「旅の途上の拙者でも噂に聞くような事柄でござるからな。男らしく堂々としていればよいでござろう」

「最近、自重しろって言ってくれるのがエクレ嬢だけになってきたんですよね……。ガレットの脳筋どもは今更ですけど、ミル姫ですら微妙に扱いが……」

 ついでに、エクレールにしたって最近はもう諦め気味だったりもする。

「だからまぁ、自主自重って感じで一つ」

「むしろ、自重するというのであれば国事に確り参加するべきではござらぬか……?」

「だって面倒じゃないですか、立ちっぱなしで二時間以上も」

 しかも最前列でカメラに映るから気が抜けないしと、結局シガレットはまるで自重していなかった。

 酷く大人びているようで、やることなすことは子供の時分から至って変わらぬヤンチャに過ぎる。

 結果だけは出すから、イマイチ文句も言いづらく―――いかにもこれが、アシガレ・ココットだなとブリオッシュは久しぶりの再会において改めて感じていた。

 

「平和、でござるな」

「ですねぇ」

 

 変わらない日常が続いているのは良い事だと、朱に染まった空を眺めながら、二人でのんびりと頷きあう。

 温厚なビスコッティ人の中では類を見ない戦好きと思われている―――現実、ブリオッシュはそうなのだが―――二人だったが、その戦好きが二人揃うと、言い知れぬのんびりとした空気が形成される。

 精神年齢が近いせいなのだろうか、それとも二人とも裏方で周囲をサポートするのが自分の役割としているせいなのか、案外と気の合う関係らしかった。

 二人だけで放っておけば、このまま日が沈むまで縁側で語らっていそうな塩梅だった。

 ひざの上で子犬が欠伸をして、盆の上に添えられた茶菓子を、子狐が啄ばむ。

 そんな平穏に過ぎる空気を打ち破ろうとするやからは、少なくともこの二人ではありえなかった。

 

「うわぁ、日本屋敷だぁ!」

「お館様~! ……と、あ!」

「シガレット! 此処にいたでありますか!」

 

 トットットとあぜ道を駆けるセルクルの足音。

 数は二つ。声は三つ。

 庭の仕切りの柵越しに通りを見れば、二人にとっては見知った顔があった。

「や、ユッキーにリコたん。論功行賞は終わったのかな?」

「終わったのかな? じゃないでありますよ。どうしてこんなところで油を売っているでありますか!」

「姫様、しょんぼりしてましたよ」

「徹夜の後に長時間立ったままなんて、無理だってば」

 二人乗りしていたセルクルから降りてぷんすかと言ってくるユキカゼとリコッタに、シガレットはさらっと流して応じる。

 それから、視線を門扉の辺りに向ける。

「そんなところでぼうっとしてないで、中へどうぞ、勇者殿」

「あ……はい!」

 金色の髪に赤い服の、快活そうな少年を手招きする。

「……何か、シガレットがこの庵の主人みたいですね」

「実際二年間住んでたらしいでござるよ」

「ぇえ!? か、勝手に私の部屋に入ったりしてませんよね!?」

「たま~に思うんだけど、ユッキーの俺に対するイメージって色々と間違ってると思うんだよね」

 と言いながら、詰め寄ってくるユキカゼの実に福与かな胸部に注視しているのだから、シガレットも何か色々と間違っていた。

「男なら仕方ないよねぇ?」

「え?」

「勇者様に何を聞いているでありますか!」

 同性の少年勇者に同意を求めてみたら、リコッタにぷんすかと怒られた。

 どうやら、彼女の胸元を見てため息を吐いてしまったのが拙かったらしい。

「仕事には無駄に真面目なのに、どーしてそう、すけべぇなのかなぁ」

「シガレットは女性に対するマナーがなってないであります。ノワの手紙にもよく書いてありましたですよ!」

「ちびっ子め、余計なことを……。いやね、ホラ。アホウサギの無駄に良いスタイルでも見てないと、脳筋集団の中で仕事なんてしてらんないって話で……」

「そう言う事、思っても口に出すの止めるべきだよね、シガレットは」

「であります!」

 

「え~……っと」

 二人と一緒に風月庵に遊びに来たシンクは、唐突に始まったお説教と言うかじゃれ合いのようなものに圧倒されて、苦笑を浮かべるより無かった。

 手持ち無沙汰な姿を見かねたブリオッシュが、手招きをする。

「まぁまぁ勇者殿。放っておけばそのうち済むでござるよ」

「皆、仲良いんですね」

「姫様を支える目だった地位に就いている若者達は、古くからの友人関係が多いでござるからな」

「幼馴染ってヤツですね」

 自分にも居る、とシンクは納得した態度で頷く。

「古くからって言うほど、年取ってる訳じゃないけどね」

「何で私を見ながら言うでありますか!」

「いやぁ、リコたんは幾つになっても可愛いなってね~って、そういえば勇者殿ってお幾つ?」

 不意に口を挟んできたシガレットに尋ねられて、シンクは一瞬目を瞬かせた。

 まともに会話をするのはこれが初めてだなと気付いたのだ。

「えっと、十三歳です」

 昨晩から今日に至るシガレットに対するイメージが、シンクの中では『よく解らない人』で固定されていたため、必然丁寧な口調になった。 

「十三歳って言うと……中二? いや、中一かな。なんにしても一人で異世界修学旅行なんてまた、チャレンジャーな」

「中……え? 修学旅行?」

 微妙に聞き覚えのある単語に、シンクは目を丸くする―――が、シガレットは口元に手を当ててあさっての方向を見ながら何かを考えているようで、彼の疑問には応じてくれない。

「シガレットが変なことを口走るのはよくあることでありますよ」

「ござるなぁ」

「ですです」

「お前等ちょっとそこに直れ。人のイメージを勝手に変な方に決め付けるんじゃない。勇者殿が誤解するじゃないか」

「誤解……なのかなぁ?」

 シンクも概ね、この青髪の少年のことが理解でき始めていた。

 基本的に突っ込みどころの塊だから、突っ込んだら負けなタイプなんだろうと。

「にしても、リコたんと同い年なのか。どうせ一個しか違わないし、体育会系の部活とかとも違うんだから、別に敬語とか使わないでも良いよ」

 騎士なんて職業は明らかに体育会系が幅を利かせていそうな職種に思えたが、恐らく突っ込んだら負けだ。

「じゃあ、えっと……シガレット?」

「うん、宜しく勇者殿。―――そういえば、自己紹介とかしてなかったっけ?」

 躊躇いがちに呼びかけられて、今更な事実にシガレットは気付いたようだった。

 思えば、昨晩の初対面の折にはガウルたちに折檻をすることに気が行き過ぎていて、シンクとは殆ど会話を交わしていなかったのだ。

「昨日は忙しかったしねぇ。―――あんだけ輝力だしまくってた割りに、元気そうで羨ましいや」

「二年前とは距離が違うでありますよ」

 

 二年前。

 シガレットは輝力を全開で振り絞り続けて、一晩で国から国へと駆け抜けた事がある。

 いや、正確に言えば一晩掛からず。

 ビスコッティ領主崩御の知らせがガレット王都ヴァンネットに届いてから、その後僅か二時間後にはフィアンノン城の領主の間の窓ガラスを蹴破っていたのだ。

 余りにも無茶が過ぎて、その後一月ほど輝力を練り上げることが出来なかった。

 

「流石に無茶しすぎですよ、シガレット」

「ま、ねー。ついでに昨日とは抱えてた荷物(・・)の重……ゴメン冗談。だから聞かなかったことにして」

 危うく危険な単語を口走りそうになって、女性陣に睨みつけられてシガレットは冷や汗を流す。

 わざとらしい咳払いをした後、改めてシンクに向き直った。

「アシガレ・ココットです。宜しく勇者殿」

「あ、うん。シンク・イズミです……って、アシガレ?」

 シガレットと呼ばれていなかったかと、シンクは握手を返しながら首を捻った。

「皆はシガレットと呼ぶでありますから、勇者様もそうすると良いでありますよ」

煙草(シガレット)なんて、半分イジメみたいな気もするんだけどねぇ」

「何故、名前をもじった渾名がイジメになるでござるか?」

「こっちの話ですよ。繋げてココアシガレットなら、お菓子ですから良いっちゃ良いんですけど。―――まぁ、アシガレでもシガレットでも、なんなら鈴木栄作でも、好きに呼んでよ(イズミ)君」

「すず、き? ―――まぁ良いや、きっと突っ込んだら負けだ。えっと、うん。よろしくシガレット」

 よく解らないけどとりあえず悪い人ではないらしい。

 だから、余り深く突っ込まない方がいいかなーと、君主な気分でシンクは判断した。

 覗いても居ない薮から、さっきからしきりに蛇が顔を出しているイメージが、何故か脳裏にちらついているのだ。

 

「結局、皆そう呼ぶんだよなぁ。まぁ良いけど……ところで泉君って、何処中? と言うか、今日って西暦で言うと何年くらい?」」

「えっと、紀乃川インターナショナスクール……ってちょっと待って! 西暦とか中学とか、え!? シガレット、キミ、ちょっと絶対こっち(地球)のこと知って……え?」

「ハハハ、何のことやら。にしても、紀乃川かぁ。あそこも坂ばっかりで暮らすの体力要りそうだよねぇ。あ、ところで桜待坂って知ってる? 海鳴の方に駅三つくらい下ると有るやっぱり坂ばっかりの町なんだけど、大学の頃そこで家庭教師のバイトをしてたんだけどさ、東桜丘商店街の、ほら、あのスーパーニシムラの二階に学習塾があるじゃない。あそこのイケメン先生が―――」

「大学!? バイト!? イケメン!? ちょっと、え? ちょっとちょっとー!?」

 

 その日、シンクの疑問が解決したかどうかは、神のみぞ知る。

 ただ、後日シンクが突飛な行動をしでかしているシガレットを目撃したとき、『シガレットなら仕方ないか』と周囲と全く同様の感想を浮かべていたことだけは、明記しておく。

 

 

・輝暦2911年・珊瑚の月『三日目・アシガレ・ココットの手記より抜粋』

 

 平和って良いよね、と久しぶりに帰ってきたお家でのんびりお茶を飲んでいたら、眼鏡秘書さんに王宮に拉致られた。

 何コレ、イジメ? 

 領主閣下の執務室でメイド隊長に思いっきりランス突きつけられてるんですけど、どういう状況よ。

 あれか、しょんぼりさんはそんなに私のことをお怒りですか。

 ハハハ、うん。外交上の問題を双方の許可無く強引に纏めすぎちゃったよねーとかは、反省しないでもない。

 いや、ヴァンネットの爺様はGOサイン出してくれたんだけど。

 そーねー。

 あのままやってたら流浪人無双でビスコッティが完勝って感じだったもんねー。

 うん、それを判定勝ちに変えちゃったら怒るわフツー。

 

 ……え? 怒ってないの?

 うわぁ、此処の領主フツーじゃねぇ。

 もうちょっとガッツり国益重視の姿勢で行こうよそこは。

 そんなだから国土の半分を制圧されるような事態に……いや、うん。

 ゴメン事務方の皆。頼りない騎士団で……。反省はしている。謁見はしないけど。

 

 おおっと、槍を突きつけるのはやめるんだメイド隊長!

 アンタ何気に隠密連中とタメ張れる位に強いんだから、迂闊に暴力はいけない。

 防弾仕様のフリルのメイド服のアナタと違って、甚平一丁の私は装甲紙だから。死ぬ、いやマジで。

 今朝も大変だったのよ?

 朝っぱらから流浪人さんの訓練に付き合わされるし。

 ヤベーヤベー。木刀だから平気とかのたまってんだけど、それ木刀じゃなくて門柱用の丸太だから!

 つーかどうなってんだよあの人の膂力はマジで。

 丸太を平手で掴んで片手で振り回して川原の地形を変えるとか、人間ワザじゃねえっつーかその暴力を容赦なくか弱い私に向けてくるとか、人間のやることじゃねえ!

 あれか、留守にしてる間に勝手に蔵にしまってあった酒樽を開けたのが拙かったか!?

 良いじゃねーか、旅先で散々好き勝手に飲み散らかして、しかもそれを経費で落としてるんだから!

 請求書が送られてくるたびにイケメンが頭抱えてるっつーの。

 せめて土産くらいは送ってくれればまだ機密費で処理してやろうっていう気分にもなれるってのに……あ、ゴメン。コレ聞かなかったことにしてくれる?

 バレるとしょんぼりさんに怒られるから。

 ホラ、あの人あんなだけど、一応あれで国防の要だしさ。

 日頃殺伐とした日常を送っている人たちだし、ちょっとは目を外すくらいはまぁ可愛気があって良いってことで。

 どーせイケメンの財布が軽くなるだけだしさ!

 

 で、だ。

 そろそろ一応聞くべき場面かなと思うんだけど。

 

 ―――しょんぼりさんは何処?

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『三日目・領主執務室日報より抜粋』

 

「だからって、俺に仕事を代理させるってのもどうなのよ」

「将来のためのお勉強と言うことで」

「幸せ家族計画か何かですか? 生憎、勉強なら六年ほどやってますから」

「では、その成果を見せるということで」

「―――年上の女って、やり辛くて嫌だなぁ」

 

 可愛気が無ぇ、と命知らずなことを口走りながら、シガレットは領主の机の脇に特設された席で羊皮紙に書かれた文章を次々と速読していく。

 本来は領主本人が確認しなければならない類の書類ばかりだったが、何故だか領主は執務室には不在であり、着の身着のままで風月庵から呼び寄せられたシガレットが、リゼルとアメリタ、他領主付きのメイド達に囲まれて代理審査している状況だった。

 作業机が領主の物ではない辺りが、まだガレットよりは自重が聞いているかもしれない。何の慰めにもならない話だが。

「第三期武器増産計画終了って、一歩遅いよ。こっちは南部城砦群再整備計画の進行状況……って、せめて整備なら東部の砦をだな。つーかガレットとの国境線に万里の長城築こうぜ、もう。いや、それだと連中嬉々として攻め込んできそうだな……って、ところでこれ、一応後でちゃんと、ミル姫が決済印押すんですよね?」

「勿論です。―――とは言え、それでは二度手間にとなってしまいますので、アナタには是非、全ての書類を確認の後必要最小量に要約の方を」

「自分等でやれば良いじゃない。つーか、それが仕事でしょうに」

 アメリタの言葉に、シガレットはぞんざいに返す。

 と言うか、アメリタを相手にぞんざいに言葉を返さないといけない程に、思考の大部分を書類審査と整理に使っていたりする。

 一つの書類の要約を書き出しながら、同時に別の書類を読む。

 四十八時間戦場に立ち続けることが可能な、かつて世界をまたにかけて活躍していた企業戦士だった頃の真価を発揮していた。

「のんびり中世獣耳スローライフは何処へ行ったのやら……」

「口ではそんな風に言う割りに、シガレット君って結構仕事人間ですよね」

「仕事押し付けてきてる人には言われたくないですよ! つーか、頑張ってる娘を助けたりアホの小娘どもを面倒見るのは結構なんだけどさ! お前等大人なんだから自分でやれっつーのホント!」

「姫様のためです」

 だから黙って仕事しろ、と空いた机の隅にドカドカと追加の書類を持ってくるリゼル達。

 戦時体制が解消されれば後回しにされていた民事関連の業務に即急に取り掛からなければならず、ならば国家の首長たるもののお役目が簡単に終わる筈が無かった。

「……俺としては、甘やかさずに厳しく躾けて成長を促したいかなぁ、とか思うんだけど。―――遊びに行かせるために、仕事を替わりにするって」

「貴方の気持ちも理解できますけどね、シガレット。ですが無理にでもこの辺りで一度、息を抜いてもらわないと。姫様は、ご自身を苛めすぎてしまうきらいがありますから」

「基本、真面目な娘だからねぇ」

「それに、呼んだままこれ以上、勇者殿をお待たせすると言うのも些か外聞が悪うございますし」

 頷くシガレットに、リゼルは言い添える。

 

 本日夜。

 ビスコッティ領主ミルヒオーレは勇者シンクを夕食の席に招待する。

 召喚してから早二晩も過ぎ、しかし戦後の始末も忙しく時間の取れなかったミルヒオーレが、コレは申し訳ないとお誘いをかけたと言う形だ。

 

「夕飯デートって所ですか。ついでに、城下町の高級ホテルのスイートでも予約しておきますか?」

「必要とあれば、奥の支度を整えますので」

「……そう返すか」

 あくまで冗談めかした言葉には、意外と真実味の有る言葉が返ってきてしまった。

「あり得ない話でもない、かと」

「―――まぁ、このまま泉君が地球に帰れなかったら、そうだねぇ」

 眼鏡を光らせて表情を隠すアメリタに、シガレットも同意を示す。

 

 後で聞いた話なのだが、シンク・イズミはどうやら自分の意思でフロニャルドに召喚された訳ではないらしい。

 召喚の先触として地球へと向かったタツマキが、割りと詐欺臭いやり方で無理やり引っ張ってきたのだとか。

 その割りには随分と登場した瞬間からフロニャルドのノリに溶け込んでいたよなぁと突っ込みを入れたくもなるのだが。

 ともあれ、召喚が本意ではなかったのであれば何とか帰還したいと思うのが人情であり、これで呼び出した側まで勇者召喚が一方通行で帰還方法は不明と言う事実を知らないとくればもう大惨事である。

 国の威信にかけて期間方法を探すのも当然ならば、領主自らが歓待を示すのも必然かもしれなかった。

 

「帰還の方法については、リコたん脅威の技術力に期待って感じになるのかなぁ」

 勇者の帰還方法を探すついでに、地球との永続的なゲートなんてのも作ってくれない物かなと、シガレットはかつての故郷を懐かしみながらひとりごちた。

 リゼルがその横で、悪戯めかした笑みをみせる。

「お義兄(にい)さまとしては、気が気ではないって感じですか、シガレット君的に」

 同い年ではあるが、シガレットは常に年長者の目線でミルヒオーレを見守っている、それは王城に勤めている者であれば誰でも知っていることだった。

 領主の兄気取りなんてなんとも恐れ多い話だ、なんて思っている人が本人含めて誰も居ない辺りが、いかにもシガレットのキャラクターである。

 現に、問われてシガレットは、否定もせずに当然のように笑って応じるのだった。

「いや、ミル姫も泉君もエクレ嬢も、その辺の恋愛ごとは節度を守ってれば好きにやってくれて良いんだけどね、俺としては。見てる分には楽しいし。―――ただ、お義姉(ねえ)さまがそれを知ったときにどんな反応をすることやらと思うと」

 遠く山の向こうに視線をやって、シガレットは苦笑を浮かべる。

 その辺りのネタで釣って見れば、案外あの人あっさりとでて来るんじゃねーのとか、くだらない想像もしてしまう。

「レオンミシェリ閣下は……」

「ノーコメントで」

 言い切られる前にバッサリと切り捨てて書類に視線を戻す。

 大人たちがどんな顔をしているかなど、見たくも無かった。

「兎も角、泉君にはこっちに居る間は最大限の歓待をして当たろうって言うご意見には賛成ですよ。そのために領主様が直々にご招待ってのも、まぁアリだよ。―――二人きりとはまた思い切ったねとは思うけど」

「あら、毎晩私室で晩酌をともにしていらっしゃった方とはとても思えないお言葉」

「だからノーコメントだっつってんだろうが!」

 引き合いに出されると突っ込みどころしかない自分の行動が、割りと恨めしいシガレットだった。

「つーか子供の恋愛をお世話してる前に先ず二十台中盤の自分た、ち……」

 

「何か?」

「言いましたか?」

 

 首筋にランス。耳に万年筆。

 大人の女性とは実に恐ろしい生き物だった。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『四日目・騎士団訓練日報』

 

「珍しいね、エクレ嬢が朝錬に参加しないなんて」

 

 早朝、王宮内錬兵場。

 槍に見立てた木の棒を構えた騎士団長ロランと無手で向かい合っていたシガレットは、思いついたように呟く。

 視線を周囲で同様に訓練を行っている騎士達に向けながら、ロランから目を逸らして。

「親衛隊は、姫様の、護衛、だっ」

「護、衛です、かっと」

 攻撃するのはロランのみ。シガレットは避ける一方だ。

 勿論訓練であるから実戦ほどの本気は込められていない筈だが、それでも相手の攻撃を確認することも無く回避を連続していると姿は、やはり器用と言う他無かった。

「こんな朝早くから、ご公務ですか?」

 トンと突き上げられた棒の先端に足をかけて、曲芸のように空中で三回転身を捻る。

「いや、勇者殿と遠乗りに参られ―――たっ!」

「―――っ、ふっ!」

 着地点に突き出された棒を刹那の見切りで掴み取り、それを支点に鉄棒競技のように一回転して着地。

「……そりゃ、エクレ嬢は気が気では無いでしょうね」

「迂闊な事はしてくれないと、信じるしかないね」

 後が恐そうだと、構えあったまま阿呆な言葉を交わす。

 二人の一連の技の応酬に、周囲で見守っていた若い騎士達から拍手が飛んだ。

 手を上げて応じてしまえば、最早何の訓練だか解らない光景だった。

「……流水でも相手にしている気分になるね、毎度のことながら」

「毎度のことですけど装甲紙なんでね、俺。直撃したら即死ですもの」

 必死に避けたりもしますと、棒を肩に担いで一旦中断の姿勢を取ったロランに応じる。

 実際問題、騎士達の中でもシガレットは取り分け軽装で行動していたから、武器を向けられたら装甲の破損と引き換えに防げば良い、と言う騎士の戦い方の普遍的なやり方がまるでかみ合わない。

 滞空時間を長くするためになるべく軽装にして、精々ブーツに鉄板を仕込んでいる程度だったから、二の腕むき出しの上半身に攻撃を当てられたら下手すれば一発でけものだまである。

「ロランさんみたいに重装甲なら、打ち合ってみるのも良いんでしょうけど」

「打ち合いたいのなら、先ず武器を持ちたまえよ」

 因みに、無手である。

「どーも剣を振り回す自分ってイメージが浮かばないんですよねぇ」

「それ、昔から言っているな、シガレット」

「まぁ、昔に比べりゃアリかなって気分にはなってきましたけど、今更戦法変えるってのもね」

 お陰で、防衛戦に適さない人間になってしまいましたがと苦笑する。

 

 例えば陣地防衛戦が発生した場合、ルール上突破されたら即敗北の最終防衛ラインと言うものが発生してしまう。

 陣地であれば文字通り何処か適当なラインなどが、或いは城砦であれば内部のどこかに立てられたフラッグなどが。

 防衛側は事前に定めた一定時間、攻め手をそこに近づかせないことが勝利条件である。

 で、あれば。

 攻め寄せてくる敵は基本的に、正面から受け止めて端から叩きのめしていかなければならないのは当然で、シガレットのように『攻められたら避ける』と言う論法は大いに拙い。

 何故なら、攻撃を避けて後方に受け流してしまえば、その敵は防衛ラインへと一直線に向かっていってしまうのだから。

 シガレットが防衛戦を苦手とする理由は、そう言う事だった。

 

「お陰で最近は、敗戦処理請負人なんて渾名がつく有様……。そりゃ、登城も禁止されて蟄居もしますって」

「いや、誰も登城の禁止なんてしていないが。論功行賞にでなかったのは、ただのサボりだろう」

 ロランの言葉に、周りに居た騎士達も頷く。

 シガレットの味方は居なかった。

 そりゃ、しょんぼりとした領主の顔を見ていれば、誰でもそうなるだろう。

「折角の戦勝祝いに嫌な事思い出させるのも拙いかなって思って自重してみた兄心は、伝わらないかぁ」

「兄って、相変わらずフリーダムだな、お前は……しかし、拙いこと? って、ああ、そうか」

 シガレットとミルヒオーレの組み合わせ。

 確かに互いが互いの背後に、同様の誰かの存在を意識しているところはあるだろう。

「負かした相手の事思い浮かべて気もそぞろになる論功会ってのも、ね」

「気にしすぎ……とも、言えんか。ともあれ、戦もコレで片が付いたわけだし、姫様方も……」

「だと、良いんですけどねー」

 前向きなロランの言葉に、シガレットは何とも言えない微妙な顔を浮かべる。

「―――何か、疑念でも?」

「疑念、と言うか……」

 そこで、欠伸を一つ。

 シガレットは言葉を切って空を眺めた。

「シガレット?」

 早朝の青空、ゆったりとした速度で流れる雲を視界にとどめたままのシガレットに、ロランは疑問符を浮かべる。

 シガレットは応じず、

「昼間でも星が見える空ってのは、何時まで経っても慣れないですよね」

 そんな、フロニャルドの人間にはあり得ない言葉を呟くのみだった。

 

 星空。

 フロニャルドの空は、日が差して青に染まっていても、チラチラと白い光の粒が舞っている幻想的なものだ。

 夜の闇の中でしか星明りを望むことが叶わない地球の人間達よりも、フロニャルド人達はよほど星と言うものを身近に感じている。

 願いや希望を込めたり、あるいは、明日を占ったり。

 足元の大地すら、目に見える()、加護を有すると言うのだから、天空に煌く星粒たちもまた、大なる力を秘めているに違いないと信じており―――そして、真実フロニャルドの星空は力を持っているのだ。

 

「姫様方じゃあるまいし、読める訳無いか」

「星読みか何かか? 透写盤を用意すれば、お前なら像を結べそうな気もするが」

 何せアシガレ・ココットだし、とロランは冗談めかして言う。

「昔、ヴァンネットの星読み塔で試したことありますけど、ノイズしか出ませんでしたよ」

 隣で鮮明な未来予想図を描き出して勝ち誇っている人の顔は忘れられないと、シガレットは苦笑気味に首を横に振った。

 

 因みに映し出された未来の情景の内容に関しては、未来永劫秘密にしておこうと示談が成立している。

 何でも、メイド衆が狂喜乱舞するようなものが見えてしまったらしい。

 

「大体、俺に星が読めるんだったら馬鹿ガウにだって見えることになっちゃいますね」

 ありえん、と他国の王子に実にひどい言い草だった。

「毎度のことだが、もう少し自重したまえよ……ところで、何故突然星読みなんだ?」

「え? ああ……いやね、ちょっと今日、寝覚めが悪くって」

「また寝不足かい? 戦明けなのだから、少しは休んだらどうだね……いや、アメリタにお前を貸し出した私が言えた事でも無い気もするが」

「アンタか、原因は……いや、書類仕事は慣れてるから良いんですけど。三馬鹿どもとかと違って、こっちの人たちは真面目に仕事してくれますし。徹夜も、ついでに慣れてるしね。―――だからまぁ、ちょっとそれとは関係ない話が一つ」

 冗談めかした言葉を並べ立てた後で、シガレットは唐突に顔を真面目な表情に作り変えた。

 基本的にノリと勢いだけで全てを突破する彼の、滅多にないカオである。

 ロランは、嫌な予感を覚えた。

「星は読めないし、当然未来視なんて出来る筈もないけど―――それでも、ね。何の因果か土地神の足音や渡り神の羽音程度のものなら聞き分けられるんですよ」

 前に言いましたっけ、と尋ねるシガレットに、ロランは曖昧に頷いた。

「領主家の血の成せる業、と言うヤツだったか」

「髪の色どころか耳の形すら違うほどの末端の小僧の何処に、血が残っているのやらって話ではあるんですがね。兎も角、聞こえる物は聞こえるのが事実として―――最近でも、さっぱり聞こえない(・・・・・・・・・)んですよね」 

 

 フロニャの加護。守護の力が満ちる土地には、土地神が宿る。

 それは、大地の力の結晶。正しき土地の恵みを知らせる存在だ。

 渡り神というのは、文字通りの存在である。

 加護の有る土地から土地を、守護の力の流れに沿って渡り行く神の一種。

 

「……土地神の足音が、聞こえない」

「ええ。普段なら子守唄みたいな優しいリズムを夢の中で奏でてくれてる筈のそれが、最近何故か、ね。お陰でどうも、寝つきが悪くって」

 情けないと言う冗談めかした態度に見えて、目だけは本気そのものだった。

「そして、渡り神の去った後の土地と言うのは、ご存知のように加護力の局所的な変動によってよくないもの(・・・・・・)が沸き出し易い。―――そのお陰で、ウチの石潰しの隠密さんたちの居場所を把握できるって話ではあるんですが」

「待て、シガレット。渡り神は今、ビスコッティに居ないというのか?」

「ええ」

「……羽音がさっぱり聞こえない(・・・・・・・・・)と言ったな。まさか、一羽も?」

 渡り鳥などと違って、渡り神は群れで移動するような習性は持っておらず、本当に単純に守護力の流れに乗って気まぐれに移り行くイキモノだったから、例え一羽が居なくなったとしても他の渡り神はその土地に居座っている―――或いは、別の土地から渡ってくる、と言うケースは多々有る。

 というより、それが当然の話だ。

 

 なのに、シガレットの言い分では。

 

「一羽も、渡り神が居ない……?」

「みたいですね。気のせいなら良かったんですけど、どうも半年くらい前から減り続けてたみたいで」

 最近では本当に一羽残らずビスコッティ近隣から居なくなってしまったらしいと、シガレットは苦い表情で頷いた。

「加護力が低下している……?」

「土地神自体は残ってますから、安易に危険な状況って結びつけるのも判断に迷う感じではあるんですけどね。ただ、少し様子を見ようかななんて考えてたら、ユッキー達が帰ってきちゃいましたからね」

 よくないもの(・・・・・・)が発生する場所を流転している人たちが、このタイミングでビスコッティに帰還したのだ。

「挙句、勇者ですよ? もう嫌な予感しかしないですってば」

「むぅ……」

 かつてなかった伝説的存在まで出現してしまえば、何か無いほうがおかしいのだと、シガレットは言い切る。

 ロランも流石に、そんな馬鹿なと割り切れる自信は無かった。  

「まさか、ガレットの侵攻の理由は……」

「どうなんでしょうね、その辺。そもそも土地神にせよ渡り神にせよ、人間には把握しきれない習性を持った生き物ですから。案外皆で物見遊山にでも出かけたって可能性も無いではないですし」

「おいおい。私は真面目に受け取れば良いのか、冗談とあしらえば良いのかどちらなんだ」

「どちらでも、お好きに。星読みにしろ夢見にしろ、所詮見えるものは可能性の未来程度のものですから。何処まで現実に反映されるかは、それこそ」

「神のみぞ知る、といったところか」

 気構えだけはしておいて欲しいという弟分の言葉を、ロランは確りと理解して頷く。

「ま、ウチの姫様がまだ余裕そうな顔をしてますし、そこまで深刻にならんでもって感じもあるんですけどね」

「―――と、言うと?」

「ああ、前に聞いたんですけどね。ビスコッティ領主家の読める星と、ガレットの領主家の読める星ってのは違うらしいんですよ」

 

 曰く。

 ガレットの星読みの姫が見る未来図は、抗うべき災厄を知らせるもの。

 ビスコッティの星読みの姫が見る未来図は、目指すべき希望を告げるもの。

 

「二人とも、努力してますから」

「災厄に抗い、良き未来を目指して、か。なるほど。確かに」

 

 努力は、成果を実らせるに違いないと、彼等にとってはそれが真実だった。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『四日目・アシガレ・ココットの手記より抜粋』

 

 宣戦布告文章。

 公的に認知された特定組織が特定組織に対して発することが可能な、戦興行の開催の是非を問う文章を指す。

 今朝早くのことだ。

 

 ガレット獅子団領国より、我がビスコッティ共和国に対して、宣戦布告文章が提議された。

 

 興行形式未定。

 興行期間未定。

 正確に言えばそれらの部分は空白となっており、ビスコッティ側が任意で指定して良い、とされている。

 布告文章内で必須とされている項目は少ない。

 一つは、開催は一週間後。

 もう一つは、国家間の勝利懸賞として両国が所有する宝剣を指定すること。

 尚、興行規模は可能な限り大規模な物を希望する。

 

 宣戦布告文章の主だった部分を要約すれば、そのような物となる。

 お前等先日撤収したばかりじゃねーかと突っ込みたい話なのだが、この性急さがある意味脳筋の国らしくて解りやすいとも……いや、うん。

 

 ―――雰囲気が暗いなぁ、皆。

 

 えー、とっとと戦争のお時間に突入してくれれば何も考える必要が無くて楽なんだけどなーと個人的には思うのですが、残念。

 楽しい楽しい会議のお時間です。

 因みに面子はしょんぼりさんプラス眼鏡秘書と元老の爺様方、イケメン、流浪人、おまけで私でお送りします。

 ようするに政戦両面で一番影響力の有る人たち集めましたと言うことなんですが、騎士団長のイケメンに裏番の流浪人さんまで居るなら、ぶっちゃけ私要らなくねー?

 つーかさぁ、気まずいんだよ、窓からの光しか差し込まない微妙に薄暗い部屋で、皆してシリアスな顔してさぁ。

 たま~にこう、チラチラと私の方に視線送ってくるし。

 いや、そんな気遣わしげな視線向けられても知らんから! 

 そういう視線はしょんぼりさんだけに向けてなさいよ。折角ホレ、朝は勇者殿とデートでご機嫌だったのに、今じゃこんなにしょんぼりさんなんだから。

 ―――いや、しょんぼりさんまでこっち見てくるからもうなんつーか私がしょんぼりですが!

 会議室に来る前に一緒にメシ食ってた巨乳とリコたん達まで何か言いたそうな顔してるし、ガレットの大使の人はわざわざ人目があるところで私に向かって土下座かましてくれるし。

 やめようぜそういうの! 新手のイジメか!?

 

 ……ふぅ。

 ええっと、事態の推移を改めて並べてみよう。

 

 朝飯を食ってたら緊急生中継でヴァンネットの謁見の間が映りました。

 一昨日だかその前だかに顔を見たばかりの姐さんが、更に顔色を悪くしてるのを無理やり化粧で誤魔化してました。

 で、相変わらず似合わない徴発的な宣言で宣戦布告してきました。

 挙句に恫喝紛いに宝剣賭けろとか抜かしてくれやがりました―――って、横でしれっとした顔で黙ってるけど何で止めないんだよハンサム! 仕事しろ仕事! 

 上から下までこぞって脳筋どもの無茶を押さえるのがアンタの仕事だろうが!

 

 ……話が逸れた。

 

 とにかくそんな感じで、宣戦布告をされたならビスコッティとしても対応を協議しなければいけない訳で、私の個人的な意見としては『どのみちやるしかねぇんだろうなぁ』と言う理解で固まっていたので―――いやホレ、脳筋どもが一度宣言した戦を取り下げる訳がねーし。

 宣戦に対する案件の甲斐性については文官の人たちの仕事でしょーって、何かそれでもイライラしてたんで不貞寝でもしようかなって思って風月庵に引っ込もうとしたら、丁度入れ違いで登城しようとしてた流浪人さんに捕まってしまいましたって感じ。

 もう、道すがら皆して深刻な顔で、きっとアホみたいに盛り上がってる脳筋の国とは対照的に、なんつーか生真面目すぎるよな、この国は。

 流浪人さんまでシリアスモードとか、誰得なんだマジ。

 

 ―――あ、で。

 脳筋が戦争し掛けてくるなんて、何打日常茶飯事じゃね?

 とか冷静に考えるとその筈なんですが、今回ちょっと事情が違うんですよね。

 

 ずばり、宝剣。

 

 これが問題。

 国家の象徴、領主家の証。

 日ノ本的な風に言えば『三種の神器』辺りを賭け札として載せろと言っているような物で、負けて奪われるようなことがあったら国体に瑕が―――って、瑕だけじゃすまない話。

 ヘタすりゃ、国が無くなる。

 なにせ王権が物理的な形となったようなものだからね。

 中々おいそれと、手を出せるような物では無いのです。

 ―――とは言え。

 例えそれほど貴重なものだったとしても所詮『物は物』。

 両国間で同意が成立していれば友好の証として貸し借り等も有って無い話ではないらしく、うん、ビスコッティとガレットは両国共に認める友好国であるから、―――実際、宣戦布告文章にも完全な移管ではなく期間限定での貸与と言う形式だとは明記されてる訳だから、実はそれほど心配する必要も……はぁ。

 

 なんかねぇ、貸与された宝剣の使用法に関する部分がまるで記されていないんだと。

 お国の大事な宝を指して、『賭けろ、そして何も言わず、理由も聞かずに渡せ』などと暴論のたまってくれてる訳ですよ、あの脳筋国家。

 しかも、事前の根回し、調整の類は一切無く、マスメディアを通して一方的な宣言をして宝剣を懸賞にすることを既成事実化しやがるという。

 お前は国の宝を何と心得てるんだ。

 取られた後で、それを盾に国家の解体でもするつもりかと思われても仕方ない所業だっつーの。

 とても友好国のやることではありません。どうみても敵性国家のやることです。本当にありがとうございました。

 

 はい、つー訳で相手にしないで無視しましょう、無視。

 解散解散……駄目ですか。そうですか。ですよねー。

 

 そりゃそーだ。

 あんなにハデに国際ネットでハデに中継されてしまえば―――しかも、傍目には『先に自分たちが宝剣を提示する』と言うパフォーマンスを使って正々堂々とした態度を示している。

 オマケに、宣戦理由がこっちに勇者やら大陸最強やらのツワモノが居るから、これは武門の獅子団領国としては見過ごすわけにはいかぬ、と言う大衆受けするカバーストーリーを用意して。

 コレを断ったら、ビスコッティが空気を読めないヘタレ国家になってしまって、今後の外交関係で足を引っ張る問題になりかねない話になってしまった。

 

 裏側の事情とかの推察を諦めると、そのまんま歪曲的な嫌がらせだとしか思えない辺りが、どうもなぁ。

 つーかマジ、どうなんだよこういうやり方。参謀役のハンサムも、もうちょっと手段をえらべっつーの。

 これで姐さんの評判に傷ついて、嫁の貰い手がいなくなったらどうするんだ。

 それともアレか?

 マジで手段を選んでいられる状況じゃねーっつう話なのかね、やっぱり。

 一旦兵を引いたって段階から色々あれだったところに、今度は性急に、こんなだもんなぁ。

 コレはマジで、なんつーか本気と書いてマジな感じに、ヤバい事起こるかもねー。

 

 尤も、何が起こったところで私がやることなんて今までどおりで何も変わりはしないんだけど。

 約束は守る人間ですもの、私。

 

 ―――まぁ、そう言う訳なんで。

 いい加減、私の発言待ちって態度やめてくださいよね、皆様方。

 宣戦の受諾ってのはあくまで代表領主の役目なんだから、私に判断を求められても困るわ。

 受けるにせよ断るにせよ、しょんぼりさんが自分で考えてくれ、自分で。

 

 ん? ―――ああ、うん。断れるよ。

 あはは、大丈夫大丈夫。

 ちゃんと向こうに責任をおっ被せて、こっちに風評被害が来ないような断り方があるから。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『四日目・緊急御前会議議事録』

 

「結局さ、あんな恫喝紛いのやり方が大衆に受け入れられてる理由ってのは、さっき言ったとおり先ず自分たちが(・・・・・・・)宝剣を出して示してみせたってパフォーマンスにあるんだよね」

 

 会議室の末席から、シガレットは良く通る声で語る。

 楽しげですらある、つまりは、何時もどおりの態度で。

 そこには、ミルヒオーレをはじめフィアンノン城内の全ての人が思っているような、想い人の狂行に心を痛めていると言う雰囲気は微塵も存在しなかった。

 

 事実として、彼は心の痛みなど一片たりとも感じてはいない。

 

「でも、そこに嘘があったらどうだろう?」

「……嘘?」

「宣戦布告文章に穴があるという話しなら……」

「ああいや、そう言う事ではなく、もっと単純な話でね」

 首を捻るロランたちに苦笑して、シガレットは襟首を撫でて苦笑を浮かべる。

 まるで、子供の悪戯を仕方なしに笑っているかのような態度に、誰もが戸惑った。

 

「レオンミシェリ閣下は、会見場に本物の宝剣(・・・・・)を持ち出し、披露することによって正当性を演出した。コレを賭ける、その覚悟があると―――じゃあ、あの宝剣が(・・・・・)偽物だったら(・・・・・・)、どうなるだろう」

 

「なんと……」

「グランヴェールとエクスマキナが、偽物?」

 シガレットの言葉に、誰もが目を見張る。

 当然だろう。

 あれほど威風堂々とした態度でカメラの前に立ち、大言を吐いて見せたその証明が―――偽物。

 彼等の知るレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワのやるような事では、無い。

 だがシガレットは、自分の言葉がまるで真実であるかのように言葉を続ける。

「元々事前の調整も無く、一方的に恫喝紛いのやり方で宝剣を懸賞に賭けたんだ。そのくせ、自分たちが初めに出した物が偽物だなんてバレた日には、非難轟々じゃすまない問題になるよ。その辺を突っついてやれば、確実にこの戦争はお流れに出来る」

 

 ―――と言うか、してみせるけど。

 

 どうかな、と視線を向けられたミルヒオーレは戸惑った。

 宝剣が偽物。

 想像もしていなかった話である。そして、とても信じられるような話ではない。

 彼女の知る、あの気高いレオンミシェリが、会見の場に偽物を用意するなど。

 いや、他の誰かのやることであれば会見の場だからこそ(・・・・・)レプリカを用意するという事も考えられるが―――しかし、レオンミシェリである。

 正々堂々を好む、あの敬愛する姫君が、レプリカを置いて場を濁す等と―――。

 

「本当に、シガレット……?」

 

 だが、自分の言葉に確信を秘めているらしいシガレットの態度を見れば、ミルヒオーレも問うてしまいもする。

 何しろシガレットは、ミルヒオーレ以上にレオンミシェリを良く知っているかもしれない殿方だったから。

 ひょっとしたら―――否、確実に。

 彼はそもそも、レオンミシェリのここ半年以上の行動の意味を理解しているに違いなかった。

 変わってしまったレオンミシェリ。

 報道機関越しにしか、声を聞かせてくれないその態度。

 自身の知るレオンミシェリとはかけ離れた、冷たい態度の真の意味―――本来のレオンミシェリの、あの心優しい姿を知っていれば、誰だって何故と問いたくなる筈で。

 シガレットは、精々苛立ちを覚える程度で、でも、レオンミシェリが変わってしまった理由を思って胸を痛めているような様子は、一度も見せなかった。

 

「本当に。あの宝剣は、偽物だ」

 

 それは、まるで。

 まるで、レオンミシェリは何一つ変わっていないという事を、ミルヒオーレのあずかり知らぬ事情から、確信しているかのようでもあった。

 

「だって」

「だって……?」

 再度問い返すミルヒオーレに、シガレットは悪戯めかした態度で笑う。

 騎士服の襟首に手を回し、そして。

「それは、シガレット―――まさかっ!」

 ミルヒオーレは信じられない事実を前に、目を見開いた。

 

 チェーンに吊るされた、宝石をはめ込まれた指輪が、一つ。

 

「本物の神剣エクスマキナは、此処にあるもの」

 

 それは、レオンミシェリ自身から預かった、彼女とシガレットとの約束の証に違いなかった。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『四日目・緊急御前会議書記官覚え書き(機密文章指定)』

 

「エクス、マキナ……」

 

 窓から差し込む僅かな陽光を受けて煌く、大振りの宝石をはめ込まれた白銀の指輪。

 首に掛かっていたチェーンから外され、改めて右手の薬指嵌められていくそれを、会議にいる全ての者達が驚愕の面持ちで見守った。

 この場(ビスコッティ)にある筈のないものが、確かに目の前に存在しているのだから、当然と言える。

 一人シガレットだけが、取って置きの手品を成功させたマジシャンのような得意気な顔をしていた。

 指輪を嵌めた手を掲げながら、言う。

 

「そう。ガレット獅子団領国領主の証たる『魔戦斧グランヴェール』と対を成す、ガレットの(・・・・・)勇者の武器(・・・・・)『神剣エクスマキナ』」

 

 堂々たる態度で、秘めたる宝具を披露した。

「本当に、本物でござるのか……?」

「もう一度同じこと聞いたら、喧嘩売ってるって取りますけど」

 躊躇いがちに尋ねるブリオッシュに、シガレットは笑いながら返した。

「失礼仕った」

 ブリオッシュをして、謝罪の言葉は早かった。

 そうせざるを得ないだけの威を、一瞬とは言え確かにシガレットの中から感じたのだ。

 だからきっと、それは彼にとっての誇りというべきものなのだろうと感じて―――そして、彼以外の誰かの祈りなのだと、理解した。

「ま、良いんですけどね。見てくれはホント、ただの指輪だし―――でも」

 自身の態度に思う部分があったのだろうか、シガレットは気分を切り替えるように首を数度振り払った後で、掲げた指を開く動作を示した。

 

 光が集う。青い光だ。

 

「……おお」

 感嘆の声は、果たして誰の物か。

 目を見張るような閃光が一瞬、そしてそこには、会議用の長机の上で広げられたシガレットの手の中には。

「まさしく、勇者の武器……」

 受ける印象は、パラティオン(ビスコッティの勇者の武器)と通ずるものがあったが、やはりお国柄と言うことなのだろうか、含まれた装飾が何処か攻撃的な部分を強く感じる。

 身の丈程の長さのある長尺の棒―――勇者シンクが好んで使用する形状と似たそれを、シガレットは作り出していた。

「他にも」

 シガレットが言うに従い、装飾棒が光に帰り、そして形状を変化させて出現する。

 剣の形。弓の形。或いは、盾の形。

 輝力感応型の特殊金属を用いた武器は数あれど、これほど多彩な変化を見せる武器など数えるほどしかない。

 秘宝、或いは宝剣と呼ばれる類の武器と考えて間違いなかった。

 で、あるならば。

 所有者たるシガレットの来歴を鑑みれば、それがガレットの勇者の武器、神剣エクスマキナ以外の物である筈が無いだろう。

「使える……のだな。―――ああ、いや。変な意味ではなく」

 思わず言ってしまった後で慌てて他意はないと弁解するロランに、シガレットは苦笑して頷く。

「言いたい事は解りますって。エクスマキナは勇者の武器(・・・・・)ですからね。勇者じゃない俺が使えるってのは、どーにもってのは真っ当な疑問ですよ。ただ……」

「ただ?」

 チラと、シガレットはミルヒオーレに視線を送る。

 ミルヒオーレは戸惑った表情で、胸の前で両手を抱いていた。

 その右手には、ビスコッティ共和国の領主の証たる、『宝剣エクセリード』が赤い煌きを放っている。

 

「宝剣には意思がある」

 

 先ず、シガレットはそんな風に言った。

「意思……」

 思うところがあるのか、ブリオッシュが目を細めて呟く。

 『禍太刀《まがたち》狩り』を自らの責務として、常に国から国を渡り歩いている女性の言葉だったから、ただの呟きの中にも様々な、複雑な思いが垣間見えた。

 とは言え、今は質問をする側ではないかと、シガレットは改めて口を開く。

「そう、意思がね。特に喋ったりとかはしないけど、持ち主になんとな~く伝わるような感じで、ね。まぁ、勇者の武器が勇者以外使えないとか、領主の証が領主の証としての意味を持つ理由なんかは、その辺から来る訳で。だから本来なら勇者じゃない俺がエクスマキナを使えるはずなんてないんだけど……」

 何処で見たのかフリスビー状に変形させていたエクスマキナを指輪に戻して、シガレットは続ける。

 苦笑を浮かべながら。

 

「コイツはね、レオ様のことが好きなんですよ」

 

 蒼い宝玉を煌かせる指輪を、揶揄するように言葉を紡いだ。

 だから自分はエクスマキナを使えるのだと。

「好き、だから……」

「そう。大好きだから、助けてあげたいとか思ってるんだね」

 ミルヒオーレの漏らした言葉に、頷く。労わりのある声で。

「コイツが俺に力を貸してくれるのは、レオ様の頼みだから―――いや、俺がレオ様との約束をちゃんと守れているからだ」

「約束?」

「うん。大事な約束があるんだ。―――二年前にね。その時にコイツを、その証として受け取った」

 それで一旦話は終わりだとばかりに、シガレットは口を閉じた。

 ただ、ミルヒオーレと視線を合わせたまま、じっと待つ。

 他の物も、各々思うところはあるのだろうが、今は上座に座る主の言葉を待っていた。

 

 やがて。

 

「私には、解らないんです、シガレット。……レオ様は、何故」

 

 何故。

 年若い領主の疑問は、結局そこに帰結する。

 戦の興行を行うのも、良い。

 宝剣を賭ける―――無い話ではないだろう。

 でも。

 

「―――何故。何故レオ様は、私には何も。私にはレオ様が何をお考えなのか、解らない」

 

 それが辛い。

 瞳を揺らしながら、彼女は言った。

 シガレットを真っ直ぐに見据えて―――そこに、答えがあるに違いないとは、気付いていたから。

 何度も尋ねたことがある。そして、一度も答えは帰ってきたことがない。

 意地を悪くしている訳ではなく、それは実は単純な理由で。

 

「キミかレオ様か、と言われたら、俺が優先するのはレオ様だ。―――前にも言ったと思うけど。ただ、なぁ……」

 

 いや一面真実では、確かに意地でもあった。

 だがそれはシガレット自身の意地があったから、何も言わなかった訳ではない。

 ミルヒオーレに何も告げなかった訳ではない。

 義理堅いと褒めるべきか、一途と笑うべきか、腕を組んで悩む彼の態度に、周囲の者達が思ったことは様々だったことは事実だろう。

 惚気話として呆れられなかっただけ幸運なのかなとは、後日どこかで呟かれた言葉だとか。

 兎角。

「質問されているのはシガレット、お主でござろう。―――ならば、お主の考えを語れば良いではござらぬか」

「同感だね。姫様の今のお姿を御覧になって何も思わないと言うのであれば、私も流石に黙ってはいられない」

「……他人事だと思って、大人ってのはこれだから」

 要約すれば『良いから手っ取り早く話せ』、とこれのみである。

 ブリオッシュとロランのあけすけな物言いに、シガレットは苦い顔を浮かべた―――尤も、表情を苦くすれば、それに比例するようにミルヒオーレの顔も曇っていくわけだから、そればかりでもいられなかったのだが。

 それでも最後の意地とばかりに暫らくの間腕を組んで唸り続けて―――少し間をおいて、漸く。

 

「ま、良いか」

 

 一つ頷く。

 

「『解らない』と君は言うし、『解らなくて良い』とあの人は言う訳だ。どちらかといえばあの人の気持ちを俺は優先してあげたいとは思うんだけど―――うん。実のところ本当に俺個人的な考えとしては、ミル姫、キミには『解ってもらいたい』と思っていたりもする」

 

 だから話そうかと、そこから先はいっそ気楽に過ぎる口調だった。

 投げやり、とも言えたが。

「レオ様が何を考えているか解らない。どうしてあんなふうにお変わりなさってしまったのか。あのお優しいレオ様は何処へいってしまったのか―――しょんぼりさんや、キミが聞きたいのはこんなところだろ?」

「あ、えっと……うん」

 唐突に子供の頃のあだ名で尋ねられて、ミルヒオーレは戸惑いながらも素直に頷いてしまった。子供のような返事で。

「なら、答えは簡単だ。『何も変わってない』し、『何処にも行っていない』。何を考えているかなんて考えるまでもない。シンプルだよ、あの姐さんは。それはコイツが此処にある事が証明している」

「エクスマキナ……」

「うん、エクスマキナ。俺とあの人の約束の証だ。―――あ、ところで勇者の武器って物が本来何のために存在しているか、ちゃんと解ってるよね?」

「え? えっと、その……それは勿論、召喚された勇者様がお使いになるため、に」

 戸惑いながら答えるミルヒオーレに、シガレットは然りと頷く。

 そして、次の質問を投げかけた。

 

「じゃあ、勇者ってのは何のために存在している?」

 

「―――何の?」

「キミは何のために勇者シンクを召喚したんだ? ミルヒオーレ・F・ビスコッティ領主閣下」

 尋ねられて、それはミルヒオーレにとり、考える必要も無い質問だった。

「ビスコッティの民に笑顔を取り戻すため、です」

 真っ直ぐに。

 召喚に応じてくれた勇者に恥じない態度で、ミルヒオーレははっきりと意思を示した。

 シガレットはそれに、満足そうに頷く。

「そう、勇者は民のために呼び出される。民を笑顔にするため、民を守るため、民に希望を与えるため―――つまり、勇者は、勇者の力というのは本来、民のために振るわれなければいけないものだ、とも言える。勇者の武器はその民のための力(・・・・・・)の象徴だ」

 指に嵌めたエクスマキナ―――勇者の武器を示しながら、シガレットは語った。

 

「なのにそれが此処にあるんだ。俺とレオ様の約束の証として。解るか、ミル姫。民を守るために振るわれるべき力が、此処にある(・・・・・)んだ」

 

「……何故」

 何故。 

 何故、レオンミシェリは、ガレットの気高き領主は、何故自らの民を守るための力を手放したのか。

 シガレットは言った。

 レオンミシェリとの約束の証として、エクスマキナを、勇者の武器を受け取ったと。

 民のために振るわれなければならない力を預けてまで果たしたい約束とは、何のか。

 

 答えは明白だ。

 だからこそ、ミルヒオーレには解らなかった。

 逆に言えば、きっと今のミルヒオーレの懊悩の度合いも、レオンミシェリには解らない(・・・・)に違いない。

 

 だから、シガレットは困った風に笑って、言うよりなかった。

 

「『あの娘を、頼む』。『どうか頼む』。あの人はね、本来ガレット全ての民のために振るわれるべき力の全てを賭けてでも、守りたいんだよ。―――キミを」

 目を見開くミルヒオーレ。

 シガレットは、それに構わず、続けた。

「そして二年前から今日まで、あの人は未だに『コレを返せ』と口にした事は無かった。だから、あの人は『何も変わってない』し、『何処にも行っていない』。何を考えているかなんて単純だ。―――大切な妹分を守りたいんだって、それ以外に何かあるかってんだ」

 言い切って、そのまま。

「あ、おい……」

「シガレット?」

 他人の気持ちを代弁するなんてもうこりごりだとばかりに、シガレットは戸惑う周囲を無視して席を立った。

「レオ様の考えはそんなで、ついでに俺はレオ様との約束を果たす。それは今後も絶対に揺るがないことだから、……だから後は、キミが自分でやりたいようにやりなさい。―――それが、あの人と俺の希望だよ」

 言いながら、答えを聞かずに扉に手をかける。

 誰もが呼びかけるタイミングを失う軽やかな動作で、廊下の向こうへと歩み去って行く。

 

 かくして、ミルヒオーレは一つの答えを得た。

 得られた答えは一つだけで、だからこそ『何故』と言う言葉が次から次へと湧き上がってくるのは変わらない。

 しかしこれ以上、この場で答えを得られるはずもなく―――ならば、答えが欲しければ自らの足で踏み出さなければならないのだろう。

 一つ確かな答えがある。

 だから、彼女は決意を固めた。

 

 だから、つまりはそう。

 

 ―――賽は投げられた。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

「帰れ」

 

 出会いがしら、一瞬で間合いを詰め、容赦なく土足で踏み潰す。

 紙一重で背をのけぞらせそのまま両手を床に着き、倒立の要領で顎をめがけて両足を蹴り上げる。

 頬を擦る足首を掴み、間接を外し兼ねない勢いで捻り上げた。

 だが捻る動きに逆らわずに身を任せ、回転運動で勢いをつけて竹とんぼのように大きく足を振り回して、身を起こす。

 漸くそれで、両者の距離はゼロ距離から若干広くなった。

 

「いきなりご挨拶じゃねーか、馬鹿兄貴」

「不法侵入者には充分な態度だろ、愚弟」

「あ、アニキ。冷蔵庫に入ってた饅頭食べて良い?」

「ベールにお茶を入れさせるから、正座して待ってなさい」

「あ、はーい。ちょっとまってねー」

「おい、何で俺様のことはいきなり蹴っ飛ばしてくるのに、ジョーとベルにはいきなり甘い態度なんだよ!」 

「そらオメー、男兄弟と女兄妹なら、扱い変わって当然だろーが」

 

 やれやれ、とシガレットは構えを解く。

 因みに、会話中も拳を使った話し合いは平行して行われていたりする。

 

「つーか、何のよう……てか、何時こっち着てたの、お前等」

「ん? ああ、次の興行の運営をどうするかって、こっちの連中と話し合いがな」

「聞いてよアニキ! 今回の戦はガウ様が運営本部長なんだぜー!」

 スゲーだろ、と誇らしげに腕を振り上げるジョーヌ。

 シガレットは逆に、大げさに顔を顰めた。

「……それ、大丈夫なのかよ。ウチ、そんな人手不足だったか?」

「みんな、レオ様とシガレットの結婚式の準備で忙しいのよ」

 べールが微苦笑交じりに答えた。

 お茶の入ったティーカップを受け取りながら、ガウルがニヤリと笑って続ける。

「だな。姉貴は勿論、バナードもビオレもフランも……ルージュは兄貴にべったりだし」

「運営会議にはルージュさんも絶対参加させるからな。あの人の言う事よく聞いておけよ、脳筋」

 

 実際に戦場で活躍する事にかけては、ガウルの実力を疑う事などありえない。

 だが、戦興行の運営側の仕事と言うのは、主に事務的な能力が必要とされる。

 シガレットは、この分野でのガウルの能力は、まるっきり信用していなかった。

 

「お前さんは、座ってガハハって笑ってるだけで良いんだけどなぁ……実務なんかに手を出すなよ」

 カリスマだけはあるんだから、と深々とため息を吐くシガレット。

「テメ、みてろよ……。前の宝剣争奪戦が遊びに思えるような、デカい戦にしてやるからな……!」

「おお、頑張れガウ様ー! あたしも手伝うぜー!」

「……こいつら確り見張っとけよ、エロウサギ」

「ん~~~……そこまで心配しないでも、大丈夫じゃないかなぁ………………多分」 

「…………不安だ」

 

 後始末的な意味で。

 シガレットは、天井を仰いで嘆息した。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

 

 


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