ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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決着編

 

 

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・グラナ浮遊砦魔獣迎撃作戦記録映像』

 

 新型砲から放たれた凝縮輝力弾が、選抜された弓騎士達が放った輝力の矢が、黒雲の狭間から下り来る巨大な球状の物体を襲う。

 心の臓腑の如く鳴動するそれに、次々と突き刺さる色とりどりの輝力弾。

 着弾し、弾け光と煙を撒き散らしながら―――しかしまるで、効果が無い。

 見上げる物全てを圧倒するような巨大な物体は、落下する速度を緩めぬまま、傷一つ無くそこに存在していた。

 

 ―――否。

 鳴動は次第にその勢いを増していく。

 まるで。いや正しく内側から殻を破るような勢いで、物体の中身(・・)の動きは激しさを増した。

 物体が元の形を維持できぬほど。

 内側に存在する何かの形を想起させてしまうほどに。

 

 目覚めようとしているのだ。

 拘束を引きちぎろうとしているのだ。

 

「思えば遠くへきたものだ……ってヤツなのかな」

 黒雲に紛れて身を隠していたシガレットもまた、その光景を見ていた。

 伝説に記される巨大な魔物がいよいよ目覚めようとしている、その様を。

 空の上で、雲に紛れ、独りで。

 

 独りではない。

 独りではない。

 

 復唱する声は、形を持たぬ、しかし確実に自らの傍にあるものとしてシガレットに届いた。

 そう、彼は一人ではない。

 握り締めた巨大な戦斧が、指に嵌められた青い宝玉を頂いた指輪が。

「頼りにしてるよ、本当に」

 輝力で固めた青い翼を踵の位置から生やして、シガレットは緊張を隠せぬ声でそう漏らした。

 案ずるな、とばかりに明滅をくれる二つの宝剣の、なんと心強いことだろう。

 

 ―――とは言え、安堵してばかりも居られないのだが。

 

「砲撃は予定通りたいして効果なし。―――強力な封印が、逆に攻撃を通らなくしちゃってるってことなんだろうなぁ」

 内側で激しく暴れる巨大な魔物を、未だに縛り続けている殻。

 二百年前の宝剣の所持者が作り上げた封印の紋章術の、その威力に畏敬すら覚えた。

 畏敬を感じながら―――しかして。

「宝剣の力には、宝剣の……」

 海を割り、嵐を断つと伝えられるガレットの宝剣、魔戦斧グランヴェールをきつく握り締める。

 意思を持つ巨大なハルバードは、自らの現状の(・・・)握り手の意思を的確に解釈して、己が姿を変形させた。

 

 蝙蝠の羽の如く、凶々(まがまが)しい武器としての姿を隠そうともしない二振りの刃を縮め、替わりに、先端に備えられた鉾部分を肥大化させる。形状は、鏃の姿を連想させる、鋭く尖ったものだ。

 加えて、長柄を二倍の長さに伸長させてしまえば、その姿は最早斧とは言えなかった。

 

 ()だ。そして同時に、()でもあった。

 つまりは明らかに、投擲に適した形状である。

 

 そして変化は、グランヴェールだけには留まらない。

 指輪の形を保ったままだった神剣エクスマキナが、その青い宝玉を煌めかせた。

 光はシガレットを空に支える踵から広がる二枚の翼と絡み着き、凝縮された輝力の塊に過ぎなかったそれに、遂に確かな姿を与えた。

 幾枚もの薄い鋼の羽根を重ね合わせた、巨大な翼。

 天空を制する者だけが持つことが許された真の翼を、シガレットは此処に手に入れたのだ。

 

「遠くへ、来たものだよ……ホント」

 感慨の呟きと共に、長大な投槍を振り被る。

 鋼の翼をはためかせ、まるで黒雲の狭間に確かな大地があるかのごとき振る舞いで膝に、腰に力を溜めてゆく。

 視線の先には唯一つ、視界一杯を覆うほどの巨大な姿を曝す、殻に束縛された魔物の影。

 

 影。

 未来を閉ざす黒い影。

 

 ―――必ず、振り払うのだ。

 

「~~~~ぁあっっ!」

 音にすらならない裂ぱくの気合の声を吐きながら、シガレットは渾身の力を振り絞りグランヴェールを投擲する。

 音を切り裂く速度。巻き起こした衝撃波だけで、黒雲が容易く切り裂かれていく。

 それは一直線に、一秒の間すら掛からずに魔物と、それを束縛する封印の紋章術によって作られた殻に到達する。

 到達し、そして貫く。

 

 ――――――――――――ッッッ!!

 

 国境地帯全域に響き渡るようなその音は、魔物の吼え声か、或いは神速に至った宝剣の激突音だったのだろうか。

 それ自体が圧力を伴うような凄まじい音が鳴り響く中で、投擲を終えたシガレットは、既に次の動作に移っていた。

 翼をはためかせ、体を構えなおす。

 視線の先は一点。

 殻を打ち貫き魔物の肉を抉った、自らの得物、僅かに覗くその石突の部分。

星天烈光(スターライト)……」

 必然の如く漏れた声に従い、鋼の翼がに青の煌めきが宿る。

 生命の光が、雄々しく滾り、迸る。

 翼は青を宿したまま一度だけシガレットの身体を包むように姿を閉ざし―――そして。

 

撃滅破(ブレイカー)ぁあああああああっっっっッ!!」

 

 彗星が尾を引き、空を切り裂く。

 先触の流星の一矢が暗雲を抉り貫き作り出した道を、青い光弾が一直線に進む。

 音など、最早遠く。

 光すら置き去りにする速さで、シガレットの渾身の一撃が、今、魔物へと突き刺さる―――!

 鋼の翼を宿した足刀が、宝剣の石突を違えることなく打ち貫く。

 翼に宿った青い光が魔物を抉る槍に伝わり、それを相乗する。

 黒雲よりも尚黒い、そして巨大に過ぎる影が、揺れる。

 一直線に浮遊砦を目指して落下を続けていた巨体が、その進路を歪め、ずらす。

 人の身では到底動かすことが叶わぬであろう巨大な岩山が、遂に、揺れ動いたのだ。

 砦の屋上にてその光景を見上げていた騎士達の脇を抜けて、谷底の深い森めがけて、魔物は青い光の尾を引いて落下していく。

 最早間違えようも無い、巨大な魔物の苦悶の呻きと共に、大地へと崩れ落ちていく。

 

 崩れて落ちて―――だが、まだ。

 

 狂乱する魔物の暴走によってか。

 二つの宝剣の威力によって相乗されたシガレットの奥義の尋常ならざる威力が故か。

 或いは、ただ時が来たと言うそれだけの意味なのか。

 

 二百年の時を超えて魔物を縛り続けてきた固い封印の殻、そこにくまなく皹が走り、目で追うのも侭ならぬ速度で片端から砕け散っていく。

 腹の位置を抉り貫かれた魔物の巨体が、地に叩きつけられ未だ尚、狂乱の瞳を轟々と燃やし続けるその姿が、遂にあらわとなった。

 背から腹にかけて、内腑を剥き出しにするほどに身体を抉られて尚、四つの脚で大地を踏みしめる巨体。

 五本の尾を怪しく揺らめかしながら、犬歯をむき出しににして吼え声を上げる。

 口から、零れ落ちた臓腑から、或いは揺らめく五尾の内から、瘴気があふれ出しやがて哀れな虜囚の魂を形作る。

 かつて魔物に食い荒らされた土地神達の成れの果て、今や、未だ存在し続ける我が身の不幸を呪い続ける怨霊の類に他ならなかった。

 狂気の瞳を隠そうとはしない魔物は、血肉を大地に零れ落としながらも尚、活動を止める気配は無い。

 四つの脚で森を踏み荒らし、巨木を蹴倒しながらゆっくりと身を返して、浮遊する砦を睨みつけ、吼える。

 

 ―――その内側にある、自らを封じた宝剣を食い千切らんとして。

 

 そう、戦いは終わった訳ではない。

 むしろ此処からこそが始まりなのだ。

 魔物を魔物足らしめる、憎悪、負の想念の元となる核を破壊するまでは、戦いは終わらない。

 終わらせる方法を、知らない―――ならば、そうするだけのこと。

 一足早く魔物の背中に足をつけたシガレットに続き、砦の屋上で待ち構えていた騎士が、そして勇者が飛び出していく。

 魔物めがけて、迫り来る怨霊たちを切り払いながら。鞭の様に撓る尾の上を駆け抜けながら。

 当然、魔物の足元でも戦いは始まっている。

 角度を直した砲門が次々と火を噴き、放たれた矢の雨が降り注ぐ。

 それを掻い潜るように小さな影が腕に滾らせた輝力の爪を振るう。渾身の力を込めた鉄球を、炸裂させる。

 巌のようなこれほどの巨体である。

 脚の一本でも砕いてしまえば、歩くことはおろか、自重を支えることすら侭なるまいとして。

 

 それぞれの場所で、それぞれが。

 唯一つの目標を目指して、戦いを始める。

 魔物を倒すため。

 魔物を打ち滅ぼすため。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・ミルヒオーレ・F・ビスコッティ著〈回顧録〉より抜粋』

 

 ―――そして、彼女達は目を覚ました。

 

「……ミルヒ? 何故」

 自らをまどろみの底より揺り起こしたその姿を認識して、レオンミシェリは目を見張る。

「レオ様、良かった……」

 伏せた姿勢のレオンミシェリの傍で膝をついていたミルヒオーレは、彼女の覚醒を理解して安堵の息を漏らす。

 身を起こしたレオンミシェリは、状況の把握に努めようと周囲に視線を送った。

「此処は……」

「解りません、目を覚ましたら此処に。レオ様が倒れていらっしゃるのを見つけて……」

 呆然と呟くレオンミシェリの言葉に、傍に寄り添っていたミルヒオーレもまた、戸惑いを隠せない声で応じた。

 

 空には暗雲が満ち。

 見渡す限り、かつて森であったと思われる荒廃した大地が広がっていた。

 

「何故、我等はこのような場所へ。ワシは確か……」

 重たい身体を引きずるように立ち上がりながら、レオンミシェリは記憶の底を漁る。

 過去。此処に居る前の自分。一番最初に見えた姿。

「シガレット……あやつ」

 その男に抱きとめられた感触を思い起こしてしまい、必然、頬に熱が宿るのを感じた。

「これ、シガレットの仕業なのでしょうか? レオ様が血まみれで倒れていらっしゃったのも」

「ワシが、血……? いや待て、ミルヒ。そもそも何故お前は……っ!?」

 突然、レオンミシェリはミルヒオーレを抱き寄せる。

 何かから守るように、青いマントの内側へと。

「レオ様?」

 かつてと変わらぬ温もり安堵しつつも、そればかりに気をとられて入られない。

 ミルヒオーレはレオンミシェリが厳しい視線を向ける先に、自らも顔を向けて―――そして、見た。

「……どなた、ですか?」

 

 白い姿。

 彩る金の文様が、その存在を神聖なものだと伝えていた。 

 

『お願いしたき儀があり、失礼ながら及び立て申し上げました。―――宝剣の姫君達よ』

 

 小さく、薄く、か弱き、しかし美しい一体の狐。

 ゆっくりと、ミルヒオーレたちに頭を下げた。

 頭を下げながら、言った。

 

『どうか、我が子をお救いください。この苦しみから、解き放ってください』

 

 子を想う母の気持ちを、伝えたのだ。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ著〈戒め〉より抜粋』

 

 

 そこは、深い森の中だった。

 生命力に満ち溢れている筈のそこは、しかし実際にはただの幻影に過ぎない。

 今や記憶の彼方へと通り過ぎた、過去の再現。虚構の舞台だった。

 

 舞台の中央には、倒れ付す子狐の姿が在った。

 その腹には、瘴気を纏わりつかせた妖刀が突き立っていた。

 その光景を、三つの女が見ていた。

 

 母だった存在と、少女だった存在、そして今尚少女である筈の存在が。

 

「ご母堂、そなたの仰りようは理解した」

 

 語り終え、頭を下げる白い狐―――かつて、人の踏み入れぬような深い山奥に存在した原生林の土地神だった存在に、レオンミシェリは神妙な態度で頷いた。

 

 神話として語り継がれてもおかしくないような、古い時代の話だった。

 

 平穏に暮らしている者達が折り、ふとしたきっかけでその平穏は打ち破られて、悲しみが大地を満たす。

 母の嘆きは最早届かず、禍々しき妖刀に臓腑を穿たれた幼い子狐は魔獣へと姿を変えて大地を蹂躙し、生命の営みを汚していく。

 自らの行いに涙しながら。

 自らを穿ち続ける痛みに涙しながら。

 いずれ、どこかの国の王様が、それを大地へと封印するまで。

 

 だが、目覚めてしまった。

 否、そもそも眠ってなど居なかったのだ。

 禍つものは自らが貫き傀儡とした存在に安穏たる眠りなど一片たりとも与えたりはしない。

 大地に縛り付けられてからの二百と余年。

 かつて無垢な子狐だったものは、その間ずっと、ずっと妖刀が放ち続ける怨嗟の声に傷みつけられていたのである。

 涙を流し、苦しんでもがいて。

 そして遂に、封印に綻びを与えるほどに。

 

 最初に子狐だったものに食い殺されたのは、その母狐たる土地神だった。

 母狐は愛しき子の内に閉じ込められて尚、自らを失うことは無かった。

 他の、食い殺され腹に収められた土地神達が怨嗟に魘され我を無くして行くのとは対照的に、母狐は母狐のまま、子狐の内で自らを保ち続けていた。

 

 全ては、母の愛が故。

 いずれきっと、この子を妖刀の呪縛から解き放ってあげるのだと、その一心で。

 最早身体も朽ちて存在すら曖昧になりかかっていながら、それでも今日この日までそこにあり続けた。

 

 全ては、この時のため。

 遂に見つけた、自らの子を解放する手段。

 自らの子を憎悪の呪怨から解き放ってくれる存在に託すために。

 母狐は、当の昔に失われた力を振り絞って、その存在を自らの傍へと呼んだ。

 夢の中の、曖昧なカタチで。最早それ以上の力が無かったから。

 

「ご母堂、そなたの仰りようは理解した」

 

 そして全ての話を聞き終えた宝剣の姫君の一人が、遂に決然たる頷きを示した。

 妖刀に取り込まれ魔物と化した子狐を解き放つ手段は一つしかないと理解していながら。

 彼女は、母狐の想いに頷いてくれたのだ。

 

「ミルヒ、エクセリードをワシに」

 

 レオンミシェリは傍で共に魔物の真実を見ていたミルヒオーレに、手を差し出す。

 心優しき、愛しい妹姫に。

 優しい彼女に、痛みを背負わせないために。

 自らの手で妖刀ともども哀れな子狐を切り捨てるために―――そのために、彼女の持つ宝剣を求めた。

 彼女の宝剣はこの場に存在しない。

 魔戦斧グランヴェールは、如何なる理由かはレオンミシェリとて窺い知れぬが、彼女以外の誰かを今は主と定めているらしかったから。

 故に、この夢とも現とも図れぬ空間に唯一存在する宝剣、ビスコッティの領主の証たる聖剣エクセリードの貸与を求めた。

 だが。

 

「いいえ、レオ様」

 

 それは出来ません。

 強い口調で、今尚優しき少女である筈の女は言った。

 決然たる眼差し。

 自らの行いを確信した者だけが持つことが出来る瞳の光をそこに見て、レオンミシェリは戦慄の念を覚えた。

 

 ミルヒオーレ・F・ビスコッティ。

 

 愛しき、幼き少女。

 愛すべき、守るべき。守りたい。

 だがそこに居たのは。レオンミシェリの目の前に居るのは。

 

「悲しみの上に悲しみを積み上げるような結末を……私は、ビスコッティが領主ミルヒオーレ・フィアンノン・ビスコッティは、絶対に認められません!」

 

 眩しいほどの輝きを、レオンミシェリは見た。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・グラナ浮遊砦魔獣迎撃作戦記録映像』

 

 

 手詰まり。

 

 少なくともシガレットの周囲の状況においては、その一言が的確だった。

 山のような巨体の魔物の背の上であるならば、そこはちょっとした平原程の開けた空間が存在しているのが当然だ。

 自らが抉りぬいたその一部、まるで砂丘か汚泥のようなおぼつかない足元の感触に難儀を覚えながら、シガレットの戦いは続いている。

 宝剣を振るい切り結ぶのは、無数の霊魂の軍団。

 意思の欠片も統一性すら感じられぬ、しかし視界を埋め尽くすほどに飛び交うその数の威だけで充分な脅威である。

 加えて、どういった原理か全く窺い知れぬが、五本の巨大な尾のうちの一本が魔物の本体から分かれて、眷属とでも言うのだろうか、見上げるのには充分な巨体を持つバケモノを完成させていた。

 それらが、間断なく襲いかかってくるのだ。

 

 魔物の核を目指して侵攻している―――筈の―――シンクたちをサポートするための囮となっていると考えれば、満足すべき状況なのかもしれない。

 彼等の状況が全く見えない故に、どれだけ役に立っているかは甚だ疑問だったが。

 可能な限り早くどうにかしてくれと、シガレットは願わずにはいられない。

 避けてかわしては彼の得意とするところだったが、幾らなんでも限度と言う物がある。

 最初の一撃で輝力を振り絞ってしまったのも痛い。大技など、早々連発できる筈が無く、一撃必殺での状況改善など、最早望むべくも無い。

 そもそもこれほどの規模の魔物の集団との戦闘経験などシガレットにあるはずも無く、故に先ほどから、予想外の方向から不意を撃たれて傷ばかりが増えていく一方だ。

 ついでに言えば、脚を振り回して空を舞うのは得意だったが、鈍重な得物を遠心力で叩きつけるような戦い方は、彼の好みからは到底外れていた。

 そもそも、小生意気に飛び回る怨霊の群れを振り払うには、この馬鹿でかい斧は取り回しが悪すぎる。

 宝剣であるならば形状を変化させれば良いではないかと誰もが思うのだろうが、如何せんそれが出来ない事情がシガレットにはあった。

 できれば、斧の形のままにしておきたいのだ。

 

 既に足元に流血が溜まるような、見たまま生命の危機と言って過言で無い状況に陥っていながら、それでも尚シガレットはグランヴェールの形状を変化させることは無かった。

 

「ある意味予定通りっ、なんだろう、けどぉっとぉお!? ―――疲れたし痛いし恐いしで、あーもうどうしてこうなっちゃうかなぁ、もぉ!」

 

 弱音を冗談に紛れ込ませて精神を奮い立たせながら、シガレットは頼りない汚泥の足場の上で斧を振るう。

 息が切れるのが明らかに普段より早い。

 それが勘違いである筈が無く、即ち、大地の加護の力の低下と、魔物のハラワタを足場にしているが故に、身に直接降りかかってきているであろう呪詛の仕業に違いなかった。

 

 足がふらつく。

 飛び上がることなど考え付かないほどに、疲れが溜まっていた。

 斧の一振りと共に血霞を振りまきながら、次第に思考がおぼつかなくなってくる。

 ―――それでも尚、動くことを止めない。

 どのみち最終的には自身の望んだカタチに事が収まるだろうことが解っているという安堵があったから、ただ、力の続く限り身体を動かすのみだった。

 

 それでいい。

 何も間違っていない。

 血に塗れて倒れ付す魔戦斧グランヴェールの主。

 確率七分の七の極めて現実味の高い未来予想図の完成は、今や目前と言えた。

 

「っ! がぁっ!?」

 

 そして、遂に。

 ぐらりと揺れる身体。

 支えが効かないまま、魔物の眷属になぎ払われて魔物の臓腑の中に突き倒されそうになって。

 そして、遂に。

 

「人の得物を阿呆のように振り回しよってからに。戦場で何を遊んでおるのじゃ、阿呆が」

 

 自らを抱きとめる柔らかな感触、香る女の匂いの淵で、シガレットは意識を手放した。

 事態の途中で、恥の一片も抱かぬまま。

 終わりを見届けることなく、安堵を抱いて。

 

 シガレットはそこで、意識を手放した。

 

 そして、暫らくの後。

 

 次に彼が目を覚ました時には、何もかもが全て問題の一つも無く万事安泰の元に解決されていた。

 彼の望んだとおり。

 彼にとって優先するべき一つが、彼の望んだカタチを保ったまま。

 

 全ては無事、解決したのだった。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・アシガレ・ココットの手記より抜粋』

 

 

 目を覚ましたら姐さんにぶっ飛ばされました。

 そのまま何も言わずに部屋から出て行くもんだから、とりあえず言わなきゃいけないのかなぁと思って『ツンデレ乙』とか口走ってみたら、閉じられた扉の向こうで何かが粉砕される音が聞こえました。

 ……天井から埃が零れ落ちてきたのは、何も考えるなと言うことなんでしょうか。

 

 え? 何よ二十台フリルメイド。

 

 むしろ考えろ?

 ははは、ご冗談を。考えると欝になるんだから冗談に逃げるしか無いじゃないですか。

 つーかもう、やだホント。

 私今回は結構真面目に頑張ったつもりなんだけどなぁ。

 なんだろうねー、このガッカリな終わり方。

 目が覚めたら全部解決してました、とかちょっと無いわ。

 聞けば、結局最後はヒーロー&プリンセスが力技で全部持って言っちゃうっていう馬鹿馬鹿しいにも程がある現実が待ち受けてるなんて。

 何さこれ、ホントに努力した意味が果たしてあったのかどうかっての。

 あーもう、マジやってらんねー……って、メイドさん、何よこの紙束。

 

 ……報告書?

 

 あーそーねー。

 私の責任で好き勝手にやったんだから、事が終わった後はとっとと書面に纏めろって話ですよね。

 時間が無かったから事後承諾でって感じで現場の判断優先で強引に事を進めてたし。

 そりゃ、正式な書類なんて今から用意しないと存在しねーわ。

 つーか予算とかどっから引っ張ってきたの? S資金使った? 

 ……ほぅ、デ・ロワ家のポケットマネーですかってお前それ大問題じゃねーか!

 関係商会から書類取り戻して全部書き直せ! 今すぐに……って、私がそれをやるのかー。

 

 片足皹が入って全身傷だらけの人間に厳しい話だこと。

 

 うん?

 しょんぼりさんのコンサートが夜から……はぁ、今回の戦の中断に関しての慰撫を篭めて、ですか。

 S席取ってあるからそれまでに終わらせろと。

 今何時よ? うわ、もう直ぐ日が沈むじゃねーか。

 ああもう、はいはい。やりますから、うん。

 やるから、その前にコーヒー入れてもらえる? 

 お得意の睡眠薬は抜きで良いから。

 つーか今更だけど、ワインの年代指定しただけで睡眠薬入りのブツが出てくるとか、ここのメイドの教育ってどうなってんの?

 え? 嗜み? ははは、嘘付けー。お前等の趣味だろ、それ。

 

 ―――はぁ。にしても、なんだかなぁ。

 結局、こういう不真面目な感じが私には似合ってるんだろうなぁ。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・アシガレ・ココットの手記より抜粋』

 

 

 結果を一言で語ってしまえば、『宝剣マジパネェ』とでも言えばいいのか。

 むしろパネェのはウチのしょんぼりさんだったような気もするけど。

 いやもう、しょんぼりさんとか言ってられないね。しょんぼり様だわ。

 ありがたや、ああありがたや、ありがたや。拝み倒したい気分です、しょんぼり様。

 さっき本当に拝んでやったら緑の人に殴り倒されたけど。

 おま、ちょっと待てよ、私怪我人だっつーの。自分は勇者殿に守られてたから怪我してないから良いけどさぁ……いや、正味な話、女の子だから肌に傷とかつかなくて良かったよね、マジで。

 フロニャ力が減少してたから加護での回復とか出来なかっただろうし。

 

 ……この怪我の傷、残っちゃうんだろうなぁ。

 

 閑話休題。

 

 具体的に書き出すと、魔物の事情を聞いてブチ切れモードのしょんぼりさんがエクセリードの本気を引き出してオーガニック的な現象で何とかしたらしい。

 不思議な話しだよねぇ、砦の中枢で眠っていた筈のしょんぼりさんと姐さんが、次の瞬間魔物の背中の上に颯爽登場してくれるんだから。

 具体的に説明するとか、ほぼ不可能なファンタジーな世界に首を突っ込んでますし。

 いや、元々フロニャルドはファンタジー丸出しでしたっけ。

 ええと、兎も角。

 私は丁度、そのタイミングでダウンしてしまった訳ですが、その後はノリの良い勇者殿が何時ものノリの良さを発揮してしょんぼりさんと一緒に魔物の核となっていた土地神の子供を救出したらしい。

 因みに土地神を魔物に変えていた原因の妖刀に関しては、年中行事の一環として流浪人さんが封印してくれたそうです。

 核を失った魔物は取り込んでいた怨霊化していた土地神達の魂を解放して砂に変わって崩壊して、皆も誰一人欠けることなく魔物の傍から脱出して、これにて一件落着、だとさ。

 魔物の足元で暴れてた白髪とか鉄球おじさんとか虎とかチビとかも、皆無事。

 あ、新型砲を作るためにちょっと忙しかったリコたんがお疲れ様でばたんきゅーだったらしいですけど、それも夜には復活しそうだしなぁ。

 遠距離攻撃しかしてないエロウサギに傷なんてついてるわけねーし、来るなって言ってるのに勝手に近づいて危険な位置からカメラ回してた兄ちゃん達も普通に無事だったし。

 愛しの紫の人は突然消えた姫様方を探して大慌てだったらしいけど、その辺の文句を言われても知りませんとしか私には言えんわ。

 宝剣のやることなんか私には理解できませんので。

 イケメンとハンサムは無事に兵隊さんたちを一人も欠けることなく無事に退避させることに成功したらしいし、いや本当に、あんなバケモノが出てきたってのに死者ゼロ名とか、奇跡としか言いようが無い。

 

 ……しょんぼりさんマジパネェ。

 

 借り物の力ではしゃいでいた私がおろかだったとは思いたくは無いけど、同じ得物を使ってこうまで見事な結果を出されちゃうと、私としては立つ瀬が無いと言うか。

 いやね、さっき見舞いに来た流浪人さんたちとも話したんだけど、どうもあの魔物、あの人のチートパワーを以ってしても正面からぶつかりたいような相手では無かったそうな。

 じゃ無きゃ二百年前も封印なんて処理で終わらせたりしねーよ、とか言われてしまえばそりゃそうだって頷くしかない。

 うん、私も薄々気付いてはいた。

 宝剣二つでブースト掛けた必殺キックが貫通しなかった時に、これは拙いわと、解ってはいた。

 無事に終わったあとだから言える事だけど、ホントにアレだね。

 見積もりの甘さを痛感しました。

 何時ものちょっとした憑き物程度とは違うと理解していた筈なのに、まだまだ考えが甘かった。

 案外最初の一撃だけで倒せるんじゃねーかなとか思っていたあの時の私を、背後から全力で蹴り飛ばしてやりたい気分です。

 いやいや、きつかった。

 下手すりゃマジで星読みの通りに血の海に沈んでたんだなーと、今考えるとぞっとします。

 

 ―――それにしても、だ。

 結果論で語ってしまうと今回の件って、私の存在意義まるで無かったんだろうなぁとか本気で思うわ。

 私が勢い余って首を突っ込まなくても、結局しょんぼりさんがなんとかしちゃった気配がビンビンしてくるし。

 さっき勇者殿にちょろっと聞いたけど、宝剣が真の力を解放した時に怪我を治してくれたとかチート染みた発言をしていたし……冷静に思い返すと、『血の海に沈む』って未来は別に『死ぬ』って未来と同義語では無いって考えも出来るんだよね。

 そう考えると、あの時焦ってしまった自分が恥ずかしい気も……いや、しないわ。

 次に似たようなことがあっても、多分私はもう一度同じ風に動くね。

 そういうもんだよ、人間って。

 今語ってることなんて全部結果論から来る都合の良い想像に過ぎないし、実際その場で動いて見ない限りどうなるかは解らないんだから。

 

 IFの話は後世の歴史家にでもやらせればいいや。

 公式記録として私の一次的なガレットの王権の簒奪とかも記録されちゃってる訳だし、きっと色々意見も飛び出てくるに違いない……いや、なんか報道部が既に工作活動を始めてるのが実に気になるんだけどさ。

 つーかさぁ、兄ちゃん。

 『愛に全てを』とかあること無い事勝手に新聞に書き散らすんじゃないよ。

 私はこんなインタビューを受けた記憶ねーから! 

 何時やったんだよ、この王権の委譲に関する緊急議会とか!

 そんな会議無いし、全会一致で採択されたとか支持率百パーセントとかそういうの無いから!

 

 ああヤダヤダ。

 きっとこうやって、歴史って捻じ曲げられていくんだぜ。

 ま、良いんだけどね私としては、姐さんの経歴に瑕がつかないでくれれば、なんでも。

 いやもう、手遅れなんだけどさ。

 今、生中継で姐さんが緊急会見中だったりするし。

 今回の件の発生の経緯をなんつーか適当に誤魔化しつつ、『思い上がった私が悪かったですごめんなさい』的な。

 

 ……ヤベェ、ちょっと苛っときた。

 へー、ふーん、そう。

 この期に及んでそういう態度取るんだ、姐さん。

 ははは、相変わらず責任は一人で取りますよってか? 

 オーケー、よく解った。私もまだまだ甘かったらしい。

 うん? ああ、兄ちゃん。うん。もうある事無い事好き勝手に書いちゃっていいよ。

 ああそれと、この後しょんぼりさんのコンサートやるんだろ?

 うん。そうそう、プログラムの管理の人呼んできてくれる?

 後そこの二十台のフリル。何時も盗撮してる子連れてきて。

 

 うん。お陰で決心がついたわ。

 ははは、任せなさい。

 あんな、もう二度と一人で孤高気取って終わらせようなんて思えない状況にしてみせる。

 そう、そうだよね。初めからそうして於けば良かったのに、私ってヤツは。

 そもそもそこが一番の失敗だったわ。今更気付いたけど。

 

 おっけーおっけー、もう何か、全部任せなさいって!

 血溜まりに滑り込むのは全然気が乗らなかったけど、今回は別よ。

 

 ええもう、喜び勇んで墓穴に飛び込んで見せますとも!

 覚悟しとけよチクショウ!

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十一日目・披露宴余興人気投票一位作品〈その時歴史が動いた〉より抜粋』

 

 

 一難去って、夜。

 空は晴れ渡り、星々が眩いばかりの輝きで夜空を彩る。

 ビスコッティ、ガレット両国国境。

 チャパル湖沼地帯の一角に設けられた特設コンサート会場には、その開演を今や遅しと待ちわびる大勢の市民の姿が在った。

 空恐ろしい出来事も、過ぎ去ってしまえば最早遠く。

 呑んで、食って、笑って騒げば日常が戻ってくる。

 戻ってきてしまうのが、この穏やかでなるフロニャルドと言う世界だった。

 

 ―――その、少し遠く。

 

 ちょっとした林を抜けた先に広がるチャパル湖の湖畔に、足を引きずりながら歩く一人の男の姿が在った。

 ある意味、今日の主役とも言える男である。

 何しろこの男は、本人も気付かぬうちに全国紙の号外の一面を飾っていたのだ。

 

 曰く、両国の騎士達の架け橋と成って魔物退治に奔走したと。

 一人の被害も出すことなく今を迎えることが出来たのは、彼の先見の妙があってこそだと。

 事後の両国首脳による共同会見でも、そのことは肯定されていた。

 人々は当然、彼の偉業を唱えるのだった。

 

 流石は天空の聖騎士。

 勇者と並び劣らぬ英雄ぶりよ。

 

 ―――結果論で言えば何も間違っていない。

 何も間違っていないことが、逆に男としては胸に痛かったりもするらしい。

 なぜなら、彼の行動の一切合財は全て、人道的な意味を持っての行動など存在していなかったからだ。

 

 全ては一つのこと。

 優先すべき一を守りきるために。

 それだけのことである。

 

「思えば遠くへ来た物だ、と」

 足元に落ちていた小石を拾って、サイドスローで湖面へ放る。

 数度湖面をはねた後、音もなく、小石は湖の底へと消えた。

 その光景を、何となくの態度で眺める。

 星空の元、星明りを反射して淡く輝く湖を。

「……遠くへ行き過ぎて、見えづらくなってたって事なのかなぁ」

 

「―――何がじゃ?」

 

 じゃり、と湖畔の砂場を踏みしめる足音。

 振り返れば青い影が、見える。

 男は―――アシガレ・ココットはその姿を認めて、薄く笑った。

「色々と……いやそんな事より、レオ様。良いんですかこんなところに居て。そろそろコンサートも始まるでしょうに」

 毒にも薬にもなれない言葉に、レオンミシェリは鼻を鳴らせた。

「お前とて、立場は同じじゃろう。何を一人で油を売っておる」

「はは、ちょっと向こうの空気には馴染みづらくって」

 肩を竦めたシガレット。レオンミシェリは彼の傍に歩み寄りながら、表情を曇らせる。

「……何か、ミルヒに思うところでも?」

 

 ―――それとも、ワシに。

 

 声にならない疑問の言葉に、シガレットは苦笑を浮かべて首を横に振った。

「まぁ、思うところはあるんだけどね。でもそれは、どちらかと言えば自分に対してって感じで……眩しすぎて見てられないって言うかさ」

 あれだけ派手に動いておいて碌な成果を出せず、あまつさえ守ろうとしていた少女達に救われる形となったのだ。

 男のプライドなど、粉みじんで欠片も見つかりそうに無いほど粉砕されていた。

「―――それは、ワシとて同じじゃ」

 慰めていると言うよりは、いっそ自嘲気味の言葉だった。

「今回の一件で心底思い知ったよ。―――占いなど、当てにする物ではないと」

「同感です」

 目上の気分であれやこれやと世話を焼いていたつもりが、結果を見れば自分たちが救われた立場で。

 ため息を吐いてから笑いをする程度しか、二人に出来ることはなかった。

 

『――――――♪』

 

 林の向こうにあるはずのコンサート会場から、メロディが届く。

 顔を見合わせた後で、視線をそちらに向ける。

 アップテンポなメロディと併せて、愛らしい歌声が耳を撫でた。

「……行かなくても?」

「お主はどうする」

 尋ね返され、シガレットは黙る。

 真意を測ろうと視線を重ねてみても、重なっている筈なのに何処かずれているような気分を覚えて、落ち着かない。

 元々絡んでいなかった視線を逸らして、結局、逃げるように一言呟くに留めた。

 

 ―――もう少し、此処へ。

 

 そうか。と、レオンミシェリは頷く。

 それから目ざとく座るのに適した大きさの岩を見つけて、歩を向けた。

 片足を引きずりつつ、シガレットも彼女に続く。岩は、二人が座るに充分な大きさだったからだ。

 

 座り、黙る。

 黙った後で、口を開いた。

 

「色々考えたんですけどね」

「何をじゃ」

「色々です。今回の事も含めて」

 そうか。と、レオンミシェリは頷いた。

 それが神妙な態度に見えたのは、きっと彼女自身も、事が済んでから多くのことを考えていたからだろう。

「何が失敗だったのかなぁとか、やっぱり思うじゃないですか」

「そうか。―――そうじゃな」

「占いを真に受けすぎて道を閉ざすのもアホらしいとか、レオ様も行ってましたけど」

「そうじゃな。ワシもおぬしも、互いに些か、一見便利に見えるものに頼りすぎた」

「思い返すと、何処までが予知の通りなのかって話になりますしね。点の一つが見えたからって、線の流れが解る訳じゃないのに―――まぁそれも、失敗だったんですけど」

 他にもある、と言う態度でシガレットは苦笑する。

 

「ほかに、何が一番、結局間違いだったんだろうなって」

 

 遠くを見上げる。星明りの、きっともっと遠くだろう場所を。

 ひょっとすればその先に未来が見えるのかもしれないが―――それで、見えない場所もあるのだ。

 一つ息を吐いて、隣にある場所に視線を戻す。

 金色の瞳と、今度は違うことなく視線が絡んだ。

「……なんじゃ」

 急激に朱に染まる頬を隠すように、レオンミシェリは顔を背ける。

 可愛いなぁと、心底からの気分でシガレットは笑ってしまった。

「なんなんじゃ、本当に」

「いや、結構簡単なことですよ」

 言いながら、シガレットは自身の襟首に手を入れて、チェーンに絡んだエクスマキナを取り出した。

 首からチェーンを外し、チェーンを解き指輪を手に取る。

「それは……」

 レオンミシェリは青色に輝くその指輪に、一瞬の恐れを覚えた。

 突き返されるのだろうか。

 約束の証を。約束の証、なのに。

 

 しかして現実は。

 

 何も気負いの無い動作で、シガレットはレオンミシェリの手を取った。

 レオンミシェリが反応するよりも早く、エクスマキナを彼女の指に通す。

 

 左手の薬指。

 きっと意味は伝わらないだろうから、顔を上げて視線を合わせた。

 手を取られて、指輪を嵌められ、意味も理解できぬまま、目の前の男を見つめる少女の姿。

 微笑みながら、シガレットは言った。

 

「愛しています。私の妻になって下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空白。

 空恐ろしいほどの空白が、二人の間を過ぎ去った。

 ついでその隙間を埋めるようにあふれ出した圧倒的な熱量は、果たして何処に存在していたのだろうか。

「本当は、二年前にちゃんと言っておくべきだったんだと思うんです。言葉にしなくても伝わる関係とか自惚れてないで」

 呼吸のために吐いた息が、思いの外、熱を有していたことに衝撃を受けながらも、シガレットは言葉を舌に載せた。

「そうすれば、貴女は俺に気兼ねする必要が無かったし、俺も貴女に気兼ねしなくて済んだ。少なくとも、二人してヘコんで、無様な苦笑いなんて浮かべなくて済んだ筈なんだから」

 

 だから。遅くなったけど。改めて。

 

「結婚してください」

 シガレットは、レオンミシェリにそう伝えた。

「……」

 レオンミシェリはしばし固まったままだった。

 言葉が確りと認識できているのかも疑問なほど、目を丸く、丸く見開いている。 

 手を取られたまま瞬き一つすることなく身を固めて―――ただ不思議なことに、尻尾の毛だけが見て解るほどに逆立っていた。

 

 そして、

 

「あ」 

 

 漸く。

 

「え……え?」

 何度も何度も瞬きを繰り返して、手を見下ろして、辺りを見回して、視線を前に戻して。

「お……あ、え? ミルヒ……じゃない、えと、シガレット、助け……え? あ、いや」

 言ってることは滅茶苦茶で、表情はわやくちゃだ。ついでに半分涙目ですらあった。

 シガレットはその様子を、じっと見詰めるのみだ。

 確りと記憶にとどめておこうと思っているのかもしれない。

 笑顔で、だからひょっとしたらからかわれているのかとすら、レオンミシェリは一瞬だけ逃げの思考を思い浮かべてしまったが―――。

 

 重なった掌を通して伝わる熱。

 

 故にレオンミシェリは、緊張感を隠せずに意気を飲んだ後で、恐る恐る尋ねるよりなかった。

「本気か、お主……」 

私は(・・)貴女を(・・・)妻に(・・)したいんです(・・・・・・)」 

 どう頑張っても間違えようの無い、それは、言葉だった。

 だから否定などと言う恐ろしい真似が出来る筈がなく、冗談だと笑い飛ばすなどと言う絶望感すら思い浮かべる状況も思い浮かべられず。

 

 だから、結局。

 

「ぁ……頼む」

 

 震える姿でゆっくりと頷くくらいが、関の山だった。

 当然だが、後日死ぬほど後悔するような態度で、である。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします……レオンミシェリ」

 重ね合わせた掌の上に、更に自分の掌を重ねながら、レオンミシェリの手を包むように握って、シガレットは笑って言った。

 レオンミシェリは張り詰めたような吐息を漏らす。

 漸く、言われたこと、応じた言葉、その結果を理解できたのだ。

 その時背筋を走りぬけたものは、果たしてなんなのだろう。恐れか、戦慄か、或いは快感だったのか。

 

 ―――それを呑気に確かめている暇などなく。

 

『みなさ~ん、楽しんでくれてますかぁ~? ライブの途中ですが、私の話を聞いてください』

 

 林の向こうから、とても、とてもとてもとてもとても楽しそうなミルヒオーレの声が、二人の下にまではっきりと届いた。

 きっとスピーカーのボリュームが、確実に拡大されているに違いない。

 

『丁度今さっき、とっても素敵なお知らせが届きました。ガレット獅子団領国領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ閣下と、我がビスコッティ共和国副騎士団長アシガレ・ココットとの間に……婚約が成立したそうです! おめでとうございます!』

 

 歓声。悲鳴のように轟く歓喜の渦。

 

「な、なぁぁあ!?」

「―――っと」

 レオンミシェリは頭を真っ白にしながら立ち上がって、足をもつれさせて転びそうになってシガレットにしがみ付いた。

 自分がどんな体勢であるかも知れぬまま、しかし混乱で茹で上がった思考をどうにかしようとシガレットを間近に見上げる。

「し、シガ……こ、これ? え? 何?」

「さて、なんでしょうねぇ。俺としてはどっちかと言えば、上に浮かんでいるモニターに映っている映像のが気になりますけど」

「上……? ―――――――――ッ!!?」

 

 湖のほとりで抱き合う二人の男女。

 星明りに照らされて、雰囲気たっぷりである。

 なんと恐るべきことに、背後に花火まで上がりだした。

 

「何じゃこれはぁあ!?」

「さぁ? そんな事より、そろそろコンサート会場の方に行きましょうよ。折角取ってもらったS席が勿体無いですし」

「お主なんでそんなに落ち着いて―――落ち、お、お前! まさかっ!」

「瑣末なことなんてどうでも良いじゃないですか。今くらいは婚約者のことだけを考えていてくださいって」

「考えられなくしておるのは貴様じゃろうがぁ!」

 

 引きずられるように―――振りほどこうにも、相手は半分怪我人で、足を引きずって歩くような有様だったから、下手に振りほどくことも出来ない。

 だから、仲良く寄り添って支えあいながらゆっくりと歩みを進めるのが精々で。

 何処からカメラが回っているのかは遂に見つけられなかったけれど。

 きっと二つの国の全ての人に見守られながら。

 二人は、共に歩いていくのだった。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十二日目・風月庵日報』

 

「へぇ。じゃ、泉君は帰れる当てがついたんだ」

「ええ。リコが頑張ってくれたみたい」

「それは良いことでござるな……しかし、それにしては」

 

 各々膝の上に小動物を乗せたまま、腕を組んで唸る。

 柵の辺りまで駆けて行った子犬が、反転して縁側に戻ってくる程度の時間が過ぎ去った後、漸く、先ずはシガレットが口を開いた。

「まぁ元々、地球から人間一人を連れてくるってのがそもそも無茶な話しだし」

「勇者召喚のシステムは、百年程度では収まらぬほど古代から存在しているシステムでござるが……その全容は、依然として知れぬであるしな」

「簡単な話にも思えるんですけどね……あのリコの、消沈具合を見ちゃうと」

 子狐―――妖刀に囚われていた土地神の仔を撫で付けながら、表情を曇らせるユキカゼ。

「中々簡単にハッピーエンドを迎えられないのが、如何にも異世界召喚物っぽい感じではあるけど。地球に帰さずに残ってもらうって訳にもいかないしなぁ」

 どうしたものかねと、シガレットはお茶を口に含んで空を見上げる。

 

 天気は快晴。

 昨日のある一時まで、黒雲に覆われていたのが嘘のようだ。

 何一つ問題の無い、星々をちりばめた明るいフロニャルドの青空。

 魔物の脅威も過ぎ去って、二人の姫君も仲直り。

 ならば、今日からはまた順風満帆と、そういう話になる筈、だったんだけど―――。

 

 

 ・輝暦2911年・珊瑚の月『十四日目・勇者シンクの覚え書きより抜粋』

 

「記憶と来たか」

「うっへぇ~きつい話だなそりゃ。なぁシンク、記憶を無くすくらいならずっとこっちに居りゃ良いじゃねぇか! まだ決着もついて無いし!」

 誰かの邪魔が入ったしと、ソファから身を乗り出して言ったガウルだったが、後ろ頭を思い切り引っぱたかれてテーブルに突っ伏す格好となった。

「アホで馬鹿か、お前は」

「痛ぇだろうが、馬鹿アニキ! つーかなんでこんなところで油売ってるんだよアンタは! とっとと姉上のところに行けば良いだろ!」

「自分から地雷原に突っ込むつもりはねーっつの。と言うか、今は多分ミル姫とじゃれあっていて男が見ていいような状況じゃ無いだろうからな」

 どうせ後で好きな時に会えるんだしと、弱点を突いたつもりのガウルが言葉に詰まるくらい、シガレットの態度は堂々とした物だった。

  

 つい先日戦争したばかりだというのに―――と言うか、二ヶ月くらい遠征をして国をあけていた筈だというのに、ガレットの姉弟は揃ってビスコッティ王都フィアンノンに遊びに来ていた。

 無論、護衛と言うかお供と言うか、レオンミシェリには傍付きのメイド兼親衛隊が、ガウルにはジェノワーズ(三馬鹿)が、何時もの通り随伴していた。 

 今は、男女に分かれて雑談に興じている。

 貸し出された貴賓室の中には、シンクとガウル、そしてシガレットしか居ない。

 無論のこと、世話役を任されたルージュの姿も在ったが、彼女は良く出来たメイドだったため、主たちの会話の無いように口を挟むことは無かった。外に漏らすことも無いだろう。

 

 ―――という訳で、事情を知らない女たちが聞いたら大騒ぎをするに間違い無い話題を、彼等は語り合っていた。

 内容は実に単純である。

「勇者が帰還すると、フロニャルドの記憶を無くす、ねぇ。ついでに二度とフロニャルドへは戻れない。―――都合が良いやら悪いやら。誰が考えたシステムなんだか」

「安全装置みたいなものなんじゃねーの? 呼ばれた勇者全員が、直ぐにフロニャルドに馴染めるって訳でも無いだろうしな」

「……うん」

 事情を二人に説明した―――と言うか、強制的に吐かされたシンクの声は沈んでいた。

 自分でその事実を口にしてしまえば、それが当然の物となってしまったかのように重くのしかかってくるから。

「リコたん脅威の技術力に期待する……ってのもなぁ。最近ちょっと、無駄なことで負担かけすぎちゃったし」

「おま、ちょ、主催者が無駄って断言するの止めろよ……」

「いや、失敗は失敗だって認めるべきだろ? 実際大砲とか何の足止めの役にも立たなかったらしいじゃないか」

「碌に傷もつかねーし勝手に修復するしで、あんなもの足止めするの俺とゴドウィンとジェノワーズとバナードを全員揃えても無理だっつーの」

「思えば無茶なことに挑戦したよな、俺等」

 はぁ、と近未来に真面目な意味で義兄弟になる二人が、揃って大きなため息を吐く。

 何しろ魔物退治は僅か三日前の話なのだから、まだまだ確りと記憶に残っていた。

「戦争して戦争してミル姫を調教してまた戦争したと思ったら魔物退治に狩り出されて。挙句に今度は記憶を無くす、ね。―――泉君も若いなりに忙しい人生送ってるよね」

 気軽に過ぎる物言いに、シンクも漸く突っ込みを入れる気力が戻ったらしい。

「十四歳で結婚を決めるシガレットには言われたくないけど……」

「いや、フロニャルドだと珍しい話じゃないから」

「俺はぜってー結婚なんて考えられないけどな」

 肩を竦めるシガレットの横で、ガウルが吐き出すような声で言う。この男、一応王子である。

「どーせ馬鹿アニキと姉上の子供が領主を継ぐんだろうから、俺は好きにやらせてもらうぜ」

「うわぁ、子供かぁ。そうだよねぇ。結婚するんだもんね」

「あのねキミ達。鬼が笑う暇も無いような未来の話してるんじゃないよ。その前にそもそも、結婚自体、なぁ」

 何時出来るのやらと、二人から視線を逸らしながらシガレットは言った。

 視界に入ってしまったルージュがあからさまにニマニマしていて、凄くとても殴りたい気分も覚えたが。

「そういや、式を挙げるのって何時ごろになるんだ?」

 ガウルが思い出したように尋ねる。

 姉と兄―――と言うか正確には親友な訳だが―――が婚約するのは良い。元々そういうものだと思っていたことだし。

 ただそれが現実として一つ形を結んでしまえば、どういう風に動いて行くのかには興味があった。

「そうだなぁ……何か先代の爺様もミル姫も乗り気だし、ついでにヴァンネットの連中もアホみたいにノリノリだったりするからなぁ。なんなら明日にでも、とかアホなこといってるヤツも居たけど」

 ミルヒオーレのことだったりするが。

 シンクが帰る前に披露宴をやってしまえば良いと、本気で考えていたらしい。

 チョップで黙らせたけど。

「最速で三、四ヵ月後……ああいや、ゴールデンウィークがあるんだっけ?」

「へ?」

「でも事前連絡が無いと無理があるからねぇ。いや、一週間で万単位動員して戦争できたんだから……他国の人間も呼ばなきゃいけないから無理か。―――と言うか待て。何故俺は自分の式を自分で指揮しなくちゃいけないんだ……」

 そのままブツブツとどこかに向かって愚痴を呟き始める。因みに視線の先にはあさっての方向を見たまま気をつけをしているルージュが居たが。

 それは兎も角、シガレットの言葉に気になる点を発見したシンクが、そっと手を上げる。

「……ねぇ、シガレット?」

「何かな、泉君」

「さっき、ゴールデンウィークって聞こえたんだけど」

「ああ、うん。次にこっちに来るのその辺りなんだろ?」

「え?」

「え? 違うの? いやまぁ、日付が合わないと飛び飛びの休みとかになっちゃうか、学生だと」

「いやいやいや、そうじゃなくて、次って……」

 認識の相違があったらしいことに、シガレットは気付く。そして、苦笑して口を開いた。

 

「あのねぇ、泉君。流石に友達が戻って来ない間に式を挙げようとか、酷い話は無いさ」

 

 それを、当然の事のように彼は言うのだった。

 ガウルもそれはそうだと、頷いている。

 シンクは目を見張った。

 

「いや、でも……」

 

 でも、である。

 リコッタに涙ながらに告げられた、勇者の帰還に関する術式が真実であるなら、シンクは。

「泉君さ、フロニャルドのこと、どう思う?」

「は?」

 唐突に、シガレットは関係の無いような話題をシンクに振った。

「好きか嫌いか、単純な話でね」

「えっと……好きだけど」

「だよねぇ。俺も好きなんだよね、この世界」

 肯定するシンクに頷き返して、シガレットは何かを懐かしむ顔で語る。

「呑気で穏やかで、暖かくて楽しくて。まぁたまには辛いこともあるけど、皆で頑張ってそれを乗り越えていこうって言う優しい心で満ちている」

「……うん」

「フロニャルドって言うのはつまりそういう世界で……皆が笑顔で居られるように、此処に暮らす人たちが、この世界そのものが、一生懸命頑張っているところなんだ」

 

 ―――だから。

 

「泉君。キミがミル姫と涙ながらにお別れして、それで全部お終いとか、そんなことは絶対に有り得ない。一度お別れすることがあっても、必ず笑顔で再会できる」

 

 此処は、そういう世界なんだから。

 

 シンクは今度こそ本当に、大きく目を見開いた。

 それから漸く笑顔を見せる。

 その後は、男三人で、どうでも良いような馬鹿話や、肉体言語を交えたコミュニケーションに終始するだけで、笑顔のまま時間は過ぎていった。

 

 勇者シンクは二日後に、召喚の台座から再び地球へと帰還した。

 

 

 ◆◆◇◇◆◆

 

 

「なんつー羞恥プレイをさせるんだよ、まったく……」

 

 酷い目にあった、とはき捨てて、シガレットは受話器を置いた。

 婚約者と言う間柄になって、既に二ヶ月以上過ぎているんだから、そろそろ愛のささやき―――自分で言うのは非常にアレな気分になる表現だが―――の一つ程度で、一々ショートしないで貰えないかな、というのが率直な感想だった。

 可愛らしいとは思うのだが、周囲の茶化しがウザいことこの上ないのだ。

 

「まぁ、後で振り返れば、こういうのも『幸せでした』の一言で語れちゃうのかも知らんけど」

 

 寝室に戻り、ベッドサイドのテーブルに投げ出しておいた古びたノートを手に取り、パラパラとめくる。

 くだらないことばかりが、書かれていた。

 苦労話の一つすらない―――いや、思い返せば苦労する事ばかりの十四年だったはずなのだが、何故だろう。

 書かれていることは、きっと、確かに楽しいと言える事ばかりに思える。

 

「百年以上生きてる爺さん婆さんじゃあるまいし、過去を懐かしむには早いか」

 

 湧き上がる郷愁の念を、シガレットは笑い飛ばした。

 今が楽しい―――今も、楽しい。

 きっと明日も、明後日も、これからも楽しい日々は続く―――続ける。

 日々を生きる中では、とりとめの無いと感じられるような、でも振り返れば、楽しく、輝かしい日々を。

 

「……久しぶりに、日記でも書こうかな」

 

 ふと思い返すきっかけに、なるかもしれないし。

 シガレットは思い立ったが、とばかりに白紙のページまでまくり、ペンを手に取り……。

 

「うぉーい、馬鹿兄貴! 食堂でさっきよぉ!」

「アニキアニキ! これ見て、スッゲーんだよ!」

「もう、伝話(でんわ)は終わったかしら~?」

「話し声は、聞こえない」

「あの、ごめんなさいシガレット、夜分遅くに……」

「おいシガレット、居ないのか? 折角姫様が……!」

 

 パタン、と。

 開いたばかりのノートを閉じて、ペン立てに万年筆を戻す。

「そろそろ寝るかなって思ってたのに……ま、ミル姫まで来てるんなら、仕方ないか」

 誰に向かっての言い訳の言葉なのか。

 口元に笑みを浮かべたまま、シガレットは居間()へと続く扉を開く。

 

 日記はそこへ、置き去りに。

 きっとまた、ずっと忘れされれたまま。

 アシガレ・ココットの日常は、続く。

 

 

 






 え~、『小説家になろう』様への投稿分は以上となります。
 毎週の放映を見ながらその場のノリと勢いだけで文章を連ねていって、後から後から出てくる新事実に強引につじつまを合わせていって、なんていう突飛な方法で書いてたSSですが、まぁ、よくオチまで持っていけたなぁと、自分でも思わないでもないです。

 因みに今回の移植版の書き下ろし文章も、本編宜しく投稿のたびにその場のノリで書き加えて言ったものだったりします。
 なんとなく、総集編っぽい空気になってたりしますかね、多分。

 さて、次回の更新からいよいよ、現在放映中の第二シーズンの時間軸での話しになります。
 本舗初公開、と言う感じで、どうぞよろしくお願いします。 





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