ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition 作:中西 矢塚
◆◇◆
「……飛び道具の必要性を実感したね」
「派手に登場した割には、逃げ回ってるばっかで何も出来ねーでやんのな。なっさけ……わっぷ!?」
情けない、と言おうとした義弟―――の予定―――に、水鉄砲を放つ。
「いやでも、凄かったよシガレット! ベッキーの攻撃を無茶苦茶避けまくってたし! 僕なんか一発で落とされちゃったよ」
「イズミ君の場合は仕方なかったって。なんつーか、初見殺しだったし」
「兄貴の場合は確り敵の戦法を理解してから飛び出してきたのに、いっぱ……ぷゎっ!?」
キシシ、と笑みを浮べて割って入ってきたガウルを、シガレットは容赦なく湯の中に沈めた。
戦も終わり、その後のイベントも終わり、夜も更け。
三領の主要人物の集ったフィリアンノン城にて、今は、のんびりと親交を暖める時間だ。
シガレット、ガウル、そしてシンク。
王城内では極めてヒエラルキーの低い位置に居る男子三名は、揃って城内の露天風呂へ湯に浸かりに着ていた。
熱い湯で昼間の興奮を洗い流しながらも、やはり、男ばかりだからだろうか。
交わされる会話の内容は、世界を隔てて会えなかった頃の互いの話ではなく、昼間の戦いの話が主となった。
「いや、うん。超高速で飛び回る人間大の物体を、パンチとキックで狙い打とうってのが、そもそも間違いだった気がする」
攻撃が当たらないと、シガレットは投げやりに結論を述べた。
砦に構えるミルヒオーレを目指すレベッカの前に、シガレットは颯爽と立ちふさがって戦いを挑んだ。
そして始まる、世界観がおかしくなるような空中格闘戦《ドッグファイト》。
雨あられと、空を彩るスペルカードの乱舞。
空を水平に裂く青い稲妻。
実況カメラの捉えられる速度を当に超えた、超速で繰り広げられる空の激突。
結論を言うと、千日手だった。
何しろ、両者共に、相手に攻撃を当てられないのだ。
シガレットは、速度のために防御力を犠牲にしていた。
だが、だからこそ回避能力に掛けては、ブリオッシュ・ダルキアンをして一級品と言わしめる程に卓越している。
パスティヤージュの秘法たる晶術を刻まれた、千差万別、変幻自在の働きを示すスペルカードの乱舞と言えど、早々捉えきれるものではない。
しかし、如何に敵の攻撃を避けられたとして、自分の攻撃を相手に当てなければ、戦いに勝つことは出来ない。
「アニキ、紋章砲が使えりゃもうちょっと話が変わったんじゃねーの?」
「……むぅ」
義弟の容赦の無い言葉に、シガレットは言葉に詰まる。
「そーいえば、シガレットが紋章砲を使ってるのって、見たこと無いや」
シンクが、邪気のない質問を投げかけた。
顔を顰めるシガレット。ニヤリ、と意地悪げにガウルが笑う。
「そらオメー、当然よ。だってこのバカ、紋章砲使えねーもん」
「へ?」
意外な言葉に、シンクは目を丸くする。
シガレットに視線を送るが、彼は苦い顔であさっての方向を見ていた。
ガウルの言は、どうやら事実らしい。
紋章砲とは、紋章に収束させた輝力を光線として放つ、単純にして威力は絶大の、基礎の基礎の紋章術だ。
遠距離を裂く輝力刃も、誘導追尾する輝力光弾も、全てはこの紋章砲から発展していったものだ。
輝力武装さえも、そうだ。
紋章砲は紋章術―――輝力制御技法の基礎の基礎、最初の一段階目である。
「放出系ってのかな、輝力を遠くへ飛ばすとか、昔からどーもその辺が苦手でね」
もう半分諦めている、とシガレットは投げやりに言った。
「……そうなんだ」
シンクは意外な心持だった。
空を自在に飛ぶなどと言う、およそ人外の域に足を踏み入れているような高度な紋章術を使いこなすと言うのに、あろう事か基礎の基礎たる紋章砲が使えない、と来た。
これを、意外と言わず何と言うのか。
「あ、でも、普通出来ないことが出来るくせに、普通は出来ることが出来ないのは、すっごいシガレットっぽいかも」
「言うね、イズミ君」
否定は出来ないけど、とシガレットも自覚があるのか、苦笑して頷いた。
「でも、そっかぁ。だからシガレットの必殺技って、パンチとかキックだったんだね」
納得した、とシンクは頷いた。
紋章術は、それを操る各騎士の個性が強く反映される。
理論化され汎用性を手にした晶術と違って、まだまだ先天的な素養に作用される面が大きいから、形が一定としないのは止むを得ないことだろう。
だが、往々にして、各人が頼みとする奥義クラスの紋章術の形は、一定している。
即ちそれは、極大の輝力を己が武器に込め、最適なタイミングで解き放ち、目標とする敵と、その周囲ごと纏めて吹き飛ばすという、広範囲に威力を及ぼす技だということだ。
形を変えて、発展させた紋章砲と言ってしまっても良い。
打撃。斬撃。刺突。
炎。氷。雷。
形は変われど、原理は変わらない。
「けど、まあオレの攻撃は基本的に、輝力の篭らない単純な物理現象だからね」
硬くして、重くして、速くして、ぶつける―――ぶつかる。
直撃と同時に発生する周囲への破壊は、あくまで自然界の法則に従った物理現象が引き起こすそれだ。
輝力の放射による広域破壊とは、些か原理が違う。
先ずは物理的に強度を増したシガレット自身が対象に接触しなければ、威力は発揮できない。
「ファルカくらいの速度なら、まだ捉えきれたんだけど」
「アレだけ早く飛ばれちまうとなぁ」
「ベッキー、凄かったもんね」
推進力に物を言わせた変則的な機動は、直線的な攻撃では掠りもしない。
突撃の余波で発生した音速の衝撃波に巻き込もうとしても、それに勝る速度で飛ばれてしまえばどうしようもない。
とはいえ、戦闘慣れしていないレベッカの攻撃を避けることも、シガレットにとっては難しいことではなく―――結果。
「何が悲しくて、嫁入り前の娘の尻を追っかけ続けて日が暮れないとならんのか……」
酷い目にあった、とシガレットはため息を吐く。その横で、ガウルが顔を顰めた。
「いや、オメー等が空でドンパチやってた余波のせいで、下の俺様達のが酷い目にあってんだけどな」
ばら撒かれるスペルカード。
地面すれすれで放たれる必殺の蹴り技の巻き起こすソニックブーム。
その余波で、戦場の被害は所属を選ばず甚大だった。
―――お陰で、最終集計の結果、三国の獲得ポイントの開きはそれ程なかったりする。
「次までに、対策を練っておかないとなぁ……」
「僕も、次はナナミとベッキーに勝てるようにならないと」
「ハン! その前に俺様のことを忘れてもらっちゃ困るぜシンク!」
「勿論、ガウルとも決着をつけないとね!」
気勢を上げる少年たちの頭上で、二つの月が煌々と輝いていた。
◆◇◆
明けて翌日―――から、更にまた日を置いて。
戦場の気配は既に遠くへと消え去り、幾日彼の日常の中で交流を重ねた三国の首脳達は、いよいよ今日、一時の別れの時を迎えた。
「……そっか。シガレットもガレットに帰るんだよね」
「一緒に轡を並べた戦友から、当たり前のように敵国人扱いされてる件」
「いや、だって……」
せめて、日頃の言動を考えて発言してくれと、見送りに来ていたシンクは、声を大にして言ってやりたかった。
フィリアンノン城の城門前。
獅子団領国領主レオンミシェリと、それに付き従っていた僅かな騎士たち―――そして、従姉妹にして新たな領国の勇者ナナミ・タカツキ。
彼等は皆、既にセルクルに跨り、帰途への道へつこうとしている。
その一段の中に、自称ビスコッティ人の、何処からどう見てもガレットの人間にしか見えない格好をした、アシガレ・ココットの姿もあった。
「そのまま、結婚しちゃうんじゃないの?」
事情を知っている―――最早、二国の民の中で、事情を知らぬ物など居らぬだろうが―――者であれば、シガレットとレオンミシェリ、婚約者である二人が並んで領都ヴァンネットへ向かうと言う状況を鑑みれば、それは当然の質問であろう。
だが、シガレットは苦笑して首を横に振った。
「
「……んん?」
シンクにとっては首の捻りどころである。
結婚式をやるから、帰ってくる―――ビスコッティに?
「結婚式は、こっちでやるってこと? レオ閣下は」
ガレットの領主なのに、と。
当然のシンクの疑問に対して、シガレットは実に意地の悪い笑みを浮べて、禅問答のような答えを返すのだった。
「こっちでやる、と言うか、
「……ごめん、意味が解らないや」
「直ぐに解るよ。―――まぁ、兎も角」
慣れた手つきで手綱を操り、セルクルに跨ったシガレットは、疑問符を顔中に貼り付けたシンクの傍まで歩み寄った。
そして、手を伸ばして、騎上からシンクの肩に、手を置く。
無駄に厳かな仕草で。
「イズミ君の働きには、大いに期待している」
◆◇◆
数時間後。
セルクルに跨ったガレットの一団は、国境を越えた平原の中にあった。
潮風を感じるにはまだ遠い、と言う位置だ。
フィリアンノンからヴァンネットへの距離は、騎乗にて四半日。
このままのんびりとセルクルの脚に任せていれば、夕刻前には到着するだろうが―――今しばらくは、騎上にて手持ち無沙汰を味わい続けるしかない。
必然、身体を動かせないならば、口を動かすしかない、と言う状況だった。
「あ、タカツキさんは頑張らなくても良いから」
むしろ手を抜いてくれ、とぞんざいな口調でのたまうシガレットに、ナナミは大いに顔を顰めた。
「ナナミで良いって言ってるじゃん」
総勢百名を超える一団の、中腹。
最前列で兵を率いるのがレオンミシェリであり、最後尾を締めるのがガウルであれば、中央で監督をする役目は、必然、残る最上位者である、シガレットの役目となる。
今、彼は、仲良くしようよーとセルクルを傍に寄せてきたナナミと、アンバランスなコミュニケーションを繰り広げていた。
直線的な元気一発娘のナナミと、人を喰った斜めの態度がデフォルトのシガレットとの会話である。
会話の内容は、先ほどから何度もあさっての方向へ進み続けていた。
「いやいや、女子高生を親しげに呼び捨てにするとか、三十路のオッサン的に辛くて」
「私まだ、ジュニアスクール……って、何でジョシコウセーなんて単語しってるかな、シガレット」
「前世の記憶あるから」
「マジ!?」
「大マジ」
素直に驚き目を見開くナナミに、シガレットは、紀ノ川の隣の桜坂街の出身ですし、とさらりとのたまう。
尚、周囲のガレットの連中たちは、またシガレットが何時ものネタをやってる、というレベルの興味の無さを示していた。
既に周知の事実らしい―――真偽の程は不明だが。
「ほへぇ~~~。ゼンセかぁ。そうだよね、こんな異世界とかあるんだもん、そーいうのもあるよね」
「他人の言葉をあっさりと信じるその素直さ。キミ、間違いなくイズミ君の親戚だわ」
「え、嘘なの?」
「いや、ホントだけど?」
「なんだ、じゃあ良いんじゃん!」
私、なんにも間違ってない。
現代の女子―――中学生らしい擦れた部分などまるで感じさせない、ニカっとした笑顔をナナミは浮べた。
シガレットとナナミ。
二人が並んでいると、何故か犬耳のシガレットの方が現代日本人に見えてくる、むしろナナミの方がよっぽど生粋のフロニャルド人に見えてくるという、不思議な光景だった。
「―――って、そんな後でたっぷりと聞くからどうでもいいんだよ! それより、私は頑張らなくて良いってどういうこと!? と言うか、結婚式で頑張るとか頑張らないとか、何?」
好きな言葉は努力。嫌いな言葉は怠惰。
まるで、そんな風にでも言わんばかりに、思いっきり身を乗り出してくるナナミに、シガレットは苦笑しながら応じた。
「いや、タカツキさんに全力で頑張られちゃうと、幾ら俺が突破戦が得意と言っても、流石に無事に結婚できるかどうかって不安が出てくるんで……いや、ホントはタカツキさんだけじゃなくて、この周りに居る連中全員に頑張るなって言いたいんだけどね、本当は」
シガレットがぼやいた、途端。
周囲の気配が『断る』という一致したものに変わった。
「おぉう?」
見渡せば、どいつもこいつもニヤニヤとシガレットを笑っている。
皆、実に楽しそう―――いや、
「あの、ホントに、何するの? 結婚式だよね?」
「……ああ、結婚式さ。俺と、レオンミシェリの、ね」
それに相応しい内容の、と。
シガレットは忌々しげな口調で付け足した。
そんな彼の態度に、周囲の騎士たちは、一斉にゲラゲラと笑い出す。
「お前等、覚えてろよ!? 絶対、全員纏めてケモノ玉にして海に流してやるからな!!」
怒鳴るシガレット。更に広がる笑い。
ナナミは、周囲をひとしきり見渡した後で、重々とした態度で一つ、頷いた。
「うん。何かきっと、楽しいことをやるんだね!」
今から盛り上がってきた、と胸を高鳴らせるナナミ。
「……そりゃ、タカツキさんにとっては、楽しいだろうねきっと」
「任せて! 私、全力頑張るから!」
「いや、俺、頑張らないでって言った筈なんだけど……」
「頑張るから!」
「……さいですか」
もうどうにでもなぁれ、とでも言いたげな態度で、シガレットはため息を吐いた。
「あ、そういえばさ、シガレット」
全力で疲れた態度を示すシガレットを、まるで意に介さず。
ナナミは思い出した、と胸の前でぽん、と両手を叩いた。
何? と、シガレットは首だけ向けてナナミに先を促す。
ナナミは、大きな瞳でシガレットの顔を覗き込みながら、はっきりと、聞いた。
「シガレットって、レオ様のどんなところが好きなの?」
空気が凍る瞬間。
周囲から、一瞬で、笑い声が吹き飛ぶように消える。
途端湧き上がる、ひりつくような緊張感の中心で、ナナミだけが、まるで―――いや、真実そのものなのだが―――年頃の乙女のような態度で、シガレットの返事を待っていた。
わくわく、と。
背後から擬音が聞こえてきそうな態度だ。
「どんな?」
「うん、どんな。だって、結婚するんでしょ?」
気になるじゃない、と。
ナナミは同意を求めるように周囲を見渡した。
セルクルに騎乗した屈強なガレット騎士たちは、一斉に勇者から顔を背ける。
彼等は全身で、流石にこんなところでケモノ玉になりたくねーよ、とアピールしていた。
勇気と無謀は違うと、歴戦の戦士達は何よりもよく理解しているらしい。只のチキンとか、きっと言うだけ野暮だろう。
「あ、ウチも気になる」
「わたしも~」
だが、無謀極まりない蛮勇を発揮する猛者も、居るには居る。
少し先に見える丘の上で小休止を行うとの伝令を伝えるためにやってきた、ジョーヌとベールの二人がそれだ。
騎士たちは少女達の哀れな末路を予感した。
―――だが。
「どんな、か。まぁ、女の子だし、そういうの気になるものか」
困った物を見るかのような穏やかな態度で、シガレットは苦笑した。
犬歯をむき出しにして暗い笑みでも浮べると思っていた周囲の騎士たちも、この態度には驚きだ。
「お前等、後で締めるからな」
ギロリ、と周囲のざわついた空気を締めるシガレット。
頭にきているのは事実らしい。
「で、で? どんなとこ? やっぱり顔!? それとも、あのボン、キュッ、ボン! なないすばでぃ!?」
「発言がオッサンくさいぞ、女子中学生」
空気を読まずに尋ねてくるナナミを、シガレットは流石に嗜める。だがナナミは、流石勇者と言うべきか、まるで堪えていなかった。
「だって気になるじゃん! お城で見ていたときも、二人ともあんまりベタベタしてなかったし。もーすぐ結婚するんだから、なんかこう、ほら、もっとこう~」
むちゅ~って。
唇を蛸のソレの形に変えるナナミを、流石にシガレットはぶっ飛ばしてやりたくなった。
「いやいやナナミはん、アニキたちはな、そーいうのは絶対周りにみつからんトコで……あたっ!?」
代わりに、余計なことを口にしそうになったジョーヌの頭を容赦なくはたく。
「そういうのは、お城のメイド達に聞くといいわよ?」
「おいまてやめろウサギ」
いっぱい話してくれるから、とのたまうベールを、慌てて引き止める。
「あ、イチャイチャはしてるんだ」
「……余計な知恵を付けさせたか」
納得顔のナナミに、シガレットは大げさに頭を抱えた。
これ以上、周囲から余計な発言が飛び出す前に、ナナミの疑問を解決した方が早いのかな、と思う。
「まぁ、何て言うか」
前置きをしながら、言いたいことを纏めて行く。
「ぼん、きゅ、ぼんがどうのって言い出すと、俺の周り、美人も美少女もより取り見取りだし。ホレ、スタイルだけならそこのエロウサギも負けてない」
「……確かに」
「ナナミちゃ~ん? ちょぉ~っと、目が怖いんだけどぉ……」
上から下までじっくりと見つめてくるナナミに、ベールが若干頬を引きつらせる。
実際彼女は、レオンミシェリのようなしなやかで活動的な美形とはまた違った、色艶を感じさせる柔らかそうな肢体を有していた。
「……ん?」
ナナミにつられて、一緒になってベールを視姦していたシガレットは、何度か首を捻りながら、躊躇いつつ、ベールに尋ねた。
「ベル、お前……、春先に比べて、少し、肉がついてないか?」
何かこう、全体的に。
―――こうかはばつぐんだ。
「シガレット君、いきなりヒドっ!?」
「あ~……アニキの言うとおりだぜ、それ。南方との貿易が拡大して、砂糖菓子が大量にヴァンネットの店やに並ぶようになってから、こう、前よりぽっちゃ……」
「ジョーも止めて! わたしだって気にしてるんだから!」
乙女の秘密的なアレを衆目のあるところで暴露しようとしたジョーヌに、ベールは涙目で悲鳴を上げた。
「肉がついたせいで前より更にエロくなってる辺り、まぁ、流石にエロウサギの名に恥じぬと言うか……」
「そんな風に呼ぶのシガレット君だけでしょ!?」
「―――まぁ、コイツを始めとして、割りとマジで見飽きるレベルで、オレの周りはぼん、きゅ、ぼんとやらで溢れてる訳だよ」
「なるほど。つまり、この際スタイルとかは、判断材料としては低い位置にあるってことだね」
「聞いてよ二人とも!」
無視して話を続けるナナミとシガレットに、ベールは半泣きだった。
「う~ん……じゃあ、やっぱり性格とか?」
「アレで意外と面倒な性格してるんだぜ、あの人。そりゃ、たいていの場合は可愛くはあるけど、たまにイラっと来ない訳じゃない」
尤も、それはレオンミシェリも同様だろうけど。
シガレットは、ナナミの第二の質問に肩を竦めて応じた。
「結構、はっきり言っちゃうんだね」
これから結婚をしようという相手に、ある意味、はっきりと『嫌いな部分もある』と公言しているようなものである。
ナナミの態度が若干恐れ混じりになるのも、当然だった。
「まぁ、年齢一桁の頃からの付き合いだから。百年の恋が冷めるようなハナシだって、普通に覚えてる訳だよ」
「ん~……でも、恋は冷めても結婚はするんだよね?」
首を傾げるナナミに、シガレットは、そりゃあねと、苦笑しながら頷いた。
好きではない部分も在り、恋が冷める瞬間も知って尚。
「愛してるから」
それは、尋ねたナナミの方が赤面してしまうような、シンプルで絶対的な言葉だった。
◆◇◆
設定は後付ける物。
まぁ、一期の時もビーム撃ってる描写が偶然無かったので、多分きっと、後付けではないような気がしないでもなくもない。
お風呂サービス回だけで終わろうかと思ったら、尺的な都合でその後まで。
このSSのタイトルは『ガレット獅子団領国奮闘記』ですので、ビスコッティの合宿には参加しません。
―――で、まぁそれはさておき、遂に勇者王……じゃなかった、英雄王と魔王様が登場してしまいましたね。
ホント、パスティヤージュは濃いヤツしか居ねぇ……。
あとミルヒオーレ姫様。親衛隊長くらいちゃんと連れてきてください。
案の定、伝説の魔王復活レベルの大災害だったよ!