ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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記念カキコ的なノリです。
短い上に続くかどうかは、正直ネタ次第としか……


第四部
第三期


 

 その日も何時もと変わらず。

 朝起きて、妻が寝台に居ることに(・・・・・)安堵し。

 手早く着替え、その件で問い詰め交じりの視線を向けてくるメイドを黙殺し、早朝の訓練を行うために部屋を出る。

 無論、後ろへ続くポニーテールのメイドが通り過ぎた後の扉に、閂を掛けた上に巨大な南京錠で施錠することも忘れない。ちなみに寝室の窓には当たり前のように逃走防止用の鉄格子が嵌っていたりする。

 早朝の廊下を進む。人影は少ない。

 静かなものだ―――だが。

 

 やはりどこか。

 何時もより城の空気が浮き足立ってきているような、気がする。

 

「いや……」

 気分が浮き足立っているのはひょっとしたら、城の方ではなく、自分のほうなのか。

「お祭り好きって訳でもないつもりだけど」

「嘘おっしゃいます事」

「嫌いじゃないけどな、勿論。準備と片付けの手間を思えば、さて、平穏な日常とどっちが楽しいか」

「どちらであれ、楽しそうにしていらっしゃると思いますが」

「……まぁ」

 楽しいからね、毎日とは、とてもではないが気恥ずかしくて口に出来なかった。

「明日、か」

 変わりに、呟く。

 はい、と後ろでメイドが頷いた。

 

 明日。

 このフロニャルドの大地に。

 勇者達が帰還する。

 

 ―――などと言えば大げさな話で。

 実際のところ、前回の来訪からわずか二ヶ月足らずでの帰還であるというのだから、そろそろ有り難味も失せてくる、と言うものだ。

「そろそろお客さん扱いはやめて、公務でも押し付けてやろうかね?」

「あの、シンク君はともかく、我が国の勇者ナナミさんは、まだ二度目の召喚なのですが……」

「二度目があるって時点でおかしな話なんだけどな、実際」

 苦笑いのメイドに、こちらも苦笑いで応じる。

「昔はさ、本気で魔獣退治のための最後の切り札として呼び出していたそうだよ?」

「そのお話は、アデル様から?」

「今でこそ、魔物なんてどこかの天狐様とかが歴史の裏側で必殺仕事人しているような秘された存在だけど、まぁ、あの人が現役の頃は結構それなりに、大変だったみたいだね。人の手には余る、人どころかフロニャの大地に害をなす魔物の集団」 

「遠く異世界の勇者のお力でもなければ、抗うことすら出来ませんでしょうか」

「さて、その辺の実際は……」

 どうだろうか、と口を濁す。

 メイドの言うとおり、真の意味で勇者が必要とされていた時代の勇者から、触りだけは聞いている。

 触り、と言うよりも、正確に言えば耳障りの良い(・・・・・・)部分と言ったほうが正しいかもしれないが。

「あの人らにとっちゃ、俺なんて友達の子供みたいなものだもの。オトナの深い話なんて、聞かせてくれないって」

「何か、後ろ暗いことがあるとお考えで?」

 歴史ミステリーでも期待している体のメイドに、肩をすくめる。

「ん~……どっちかと言えば、暗いと言うか、辛いって言うか。今と違って死が身近な時代だっただろうし、ね」

「それは、そう……でしょうね」 

「エロ魔王の方に聞けば、あっさり話してくれそうではあるんだけど、あのエロ親父、御代代わりに変身しろとか言い出すからな……」

「それは……」

 頬を引きつらせるメイド。

「何が悲しくて妻帯者が女に変身しなきゃならんのだっつーんだ」

「あら、意外と楽しんでいらしたような……いえ、何でもありません」

「所謂トランス状態に入るからね、アレ。うん。いや、忘れよう」

 

 廊下を進み、階段を下り、中庭に出る。

 尚武の獅子団領国らしい、訓練場をかねたあぜ土がむき出しの広場である。

 花咲き誇る庭園などと言う洒落た場所ではない。

「うーす兄貴」

「朝の挨拶くらいちゃんとしろや、愚弟」

 同い年の弟が、既に側近達と共に汗を流していた。

 因みに愚弟―――この国の跡継ぎである筈の彼の側近は三名とも女性である。バカだけど。

 能力があるのは事実だが、どうにも容姿で選んだんじゃないか、と言う疑問が尽きない美少女ばかりだ。アホだけど。

 だが、壁に寄りかかり地面に突っ伏し芝生で猫のように背を逸らせているその姿には、色気の欠片も存在しなかった。

「バカでアホだもんなー」

「うわ、朝一で酷いこと言ってるよこの人」

「バカっていうほうがバカなんだぞーばかアニキー」

「エロい目で見てたくせに」

 一人、心を読んできてるような気もするが、きっと気のせいだろう。

「愚弟はともかく、エロウサギ辺りはそろそろ適齢期だろうに、このノリで良いのかねぇ」

「シガレットの結婚が早すぎるだけじゃない。ナナミちゃんたちの世界では、だんな様を見つけるのは二十歳過ぎてからが普通って」

「そりゃ向こうはなぁ。いやでも、知人に八歳で就職して十三歳くらいで左遷した挙句、嫁と愛人を囲って自堕落に密貿易をやってる聖職者とかも居たっけ。そう考えると、やっぱ向こうでも二十歳過ぎってのは……」

「それ、絶対その人が特殊なんだと思う」

「まーな」

 くだらない雑談の応酬も、実は、脚と拳と刃と輝力が飛び交う中で行われている。

 全く以って日常的な話である。

 

「そーいや兄貴、姉上はどうした?」

「あん? まだ寝てるぞ。最近眠りが深いからな」

「はーん。わっかんねーけど大変そうだよな。あの姉上が、なぁ……」

「しばらく大人しくしててくれなきゃ困るっての。また窓から飛び降りて訓練場へ走り出したら心労で死ぬわ。鉄球親父に殴りかかるのは適度な運動とはちげーからな」

「だからって鉄格子はねーだろうに」

「明日以降のお祭り騒ぎを考えれば、正直アレでも足りないと思うわ、俺は」

「そりゃ、せっかくシンク達が帰ってくるってのに、自分だけ不参加確定じゃ、なぁ」

「んなこと言ったって仕方ないだろ、流石に」

「まーな。姉上に何かあったら、国の大事だもんな」

「いや、国はお前とお前の子供が継げよ、マジで……」

 訓練と言う名の割と真剣な殴り合いは続く。

 

 勇者達の帰還の前日。

 シガレットこと、アッシュ・ガレット・デ・ロワの日常は、何時もどおり平穏無事に始まった。 

 

 





 多少予想していたけど、今年に入って感想の書き込みが増えてたので、まぁ、一応って感じの。
 コイツを主役にしてやることってもう無いよなぁ、これ以上とか思わんでもないですが、まぁ、気が向いたら続きます。
 まぁ、マンネリのまま続けるのが逆にドッグデイズっぽいかもしれませんが。

 しかし、久しぶりに文章を書いたなぁ……。

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