ビスコッティ共和国興亡記・HA Edition   作:中西 矢塚

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色々忙しくってダラダラ間が空いてます。
 まぁ、先の展開を調べるためにも丁度良いよね

 因みに、嫁は信頼しているけど妹は心配している、という心理。
 いざというときに優先するのはどちらかといえば……


4-4

「うん、まぁ丁度……うん、丁度ね。勇者様達も居るみたいだしさ。さっと片付けてぱっと帰るよ。ああ、ガウルのアホも帰りに拾っていくから。―――それじゃ」

 画面に手を振った後で妻へ向けた通信を切る。

 そして、一つ息を吐いた後で、もう一度通信を繋ぐ。

「ゴドウィン将軍、聞こえますね?」

「はっ」

 がっしりとした体格―――という言葉一つでは言い表せない益荒男が、見た目ふさわしい野太い声で頷いた。

「既に捜索に出ているガウルへの応援と言う名目で、完全編成の騎士大隊をこちらに向かわせてください」

「了解しました閣下。私の独断で既に殿下への応援に出してしまった(・・・・・・・・・・)と言う形で宜しいのですね?」

「助かります。それから、南部国境付近の警備体制を強化。駐屯騎士達には対魔物用装備を徹底させること。あ、あとビオレさんに二小隊分くらい人をよこすように伝えておいて下さい」

「至急、取り掛かります。派遣部隊の指揮官は私が勤める形で問題ないでしょうか」

「……まぁ、先生が来てくれた方が助かるかな。腹芸もバナードさんのが得意だろうし……じゃあ、そんな感じでバナードさんに伝えておいて下さい」

「は、ではこれにて」

「はい、お願いします」

 通信が終わる。

「良いでござるか、レオ閣下に何も伝えなくって」

「良くは無いけど、まぁ、ホラ。自分が来るとか言い出されても困るしさ」

 魔物の瘴気とか、いかにも体に悪そうだし、と黙って通信を聞いていたユキカゼに応じる。

「過保護でござ……らなくもないでござるな」

「……実際。本当にヤバそうだからね」

 

 森の手前で、既にセルクルからは降りている。

 地に足をつけて―――だからこそ、感覚的に伝わってきていた。

 巨大な自然の力を感じる深い森。

 だが、本来ならこんなものではないだろう。

 自然の化身が具象化した者たちが住まう場所であるなら、そこらの山林程度の力しか感じられないのはいかにもおかしいのだから。

 竜の森。

 森から伝わってくる空気は、その名前に反して、弱い。か細い。

 森に満ちているはずの本来の力は―――。

 

「下だな。蟲か、土竜か穴熊か……」

「植物かなにかの線もあるでござるな」

 地面に手を付いていたユキカゼも頷く。

 周囲の隠密犬たちも、警戒した顔立ちだ。

 確実に存在する魔物の気配を、確りと感じ取っている。

「ま、ここまできたら後は、実地調査しかないか」

「ござる。シンクたちも見つけなきゃでござるからな」

「あと、森の巫女様にお伺いを立てないと……ユッキーってここの巫女とは面識無いの?」

 森の中へと踏み入りながら尋ねると、ユキカゼは首を横に振った。

「拙者と親方様の旅は、凶太刀の気配を追う旅路でござるからな」

「神聖な竜の住処に、来る理由なんて無いか。禁足地に魔物が出たなんて話、少なくとも生まれてから今日まで、聞いたこと無いからな」

「力の収束点であるからして、稀に魔物も出現しては居るんでござろうが、そういう時は普通、」

「守役の巫女が居る訳だもんね。ワタリが救援を要請するような魔物か……嫌な予感しかしないわ、やっぱ」

 

 そして嫌な予感は的中した。

 

「竜たちが怖い気配(・・・・)が森へ入ってきたと怯えている。―――何者だ、お前」

「ぉぉ、シガレット個人指名でござるよ」

「女の子に話しかけられるのは悪い気はしないけどさ……中ったら痛そうだな、アレ」

 

 早い話。

 木の上から見知らぬ少女に弓に番えた矢を向けられている。

 彼女は唐突に現れた。

 気配察知に優れたユキカゼ達にも気づかれることなく、木の上からこちらを見下ろしていたのだ。

 露出度の極めて高い軽装で、口元をマフラーで隠している。額には宝石状の―――角、だろうか。

 耳の形は恐らく馬系統のそれだろう。

 神聖な森に住まう一角獣―――と、創造すると、その正体を察するのは容易い。

 

「アレが、この森の巫女様でござるか」

「だろうね。……想像して頼り随分若い。リコとかノワとかと同年代なんじゃないのか」

 

 巫女と思わしき少女は、若いを通り越して幼かった。

 離れたい地から見ても解るほどに、気を張っている。

 口元を隠しているのは、緊張を悟られないためだろうか。

「もう一度聞く、お前は、何者だ」

 余裕の態度で観察を続けるこちらにじれてきたのだろう。

 弓を撓らせながら、少女はもう一度尋ねてきた。

 別に、返事を渋っているわけではない。

 ただ、迷っているだけだ。

 

 なんと答えれば納得していただけるのか―――いや、そもそも。

 何ゆえファーストコンタクトから弓と矢で対話が始まってしまったのか。

 例えば現状の正式な身分を話してみたとして、若干未開人めいた貫頭衣スタイルの少女に外の世界の身分が通じるかどうか。

 ならば、親から引きついだっぽい、一応由緒正しい感じがしないでもない身分を話してみたら―――とも思うが。

 

「あの、質問なんですが」

「―――?」

 そろりと手を上げて尋ねると、少女は話せ、という態度を返した。

 いきなり矢が跳んでこないあたり、やはり、善良な少女が気を張っているだけなのだろう。

 話せば通じるということに、安堵を覚えた。

 安堵を覚えたので、思い切って尋ねてみた。

 

渡りの巫女(・・・・・)が、以前、この森に何かしたんでしょうか」

「!!」

 

 少女の肩が震える。

 それにあわせて、ざわり、と。

 森そのもの(・・・・・)が震えた。

「森が、怯えてる……!? 竜たちに、一体何が」

 森を守る少女にすら理解できぬ状況らしい。

 

 だが、なんとなく、と言うか大体、解った。

 

「何したんだろうね、ウチの母親」

「何かしたんでござろうなぁ、きっと」

 ユキカゼと顔を見合わせて、ため息を吐いた。

 




 何気に主題歌のCMでナナミのアレがネタバレしてるんだよなぁ。
 今週出てくるのかね。

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